To:NHK視聴者のみなさま
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NHKに抗議を!

 二十世紀最後のクリスマス、VAWW−NET Japan(以下VAWW)は「女性国際戦犯法廷」を陰で支えたボランティアたちのために「法廷」記録上映会を開いた。記録チームが山場を選りすぐってまとめた映像で、私が初めて見る「法廷」のドアの中だ。被害者の克明な証言に照らされて「慰安婦」という言葉の鍍金が色を失う。地金の透けた過去を見た視線の先に、現在も続く加害者不処罰、そして、不処罰の鎖を絶ちきらなければ無い未来。一部しか用意できなかった判決文を裁判官たちが、代わるがわる、一段落づつ、読みあげている。歴史を変えたこの瞬間は、映像によって再現される度に現実を変えていくだろう。判決がくだされた――天皇有罪、国家責任。祝杯を上げ、二次会も終れば次は―― 一月三十日にNHK−ETVで「法廷」特集番組が放映される、と告げる事務局スタッフの声がまぜっかえされた。「NHKに天皇有罪なんて放送できるのぉ?」――NHKには、できなかった。私は今、「法廷」の全容に光があたらないことへの苛立ちと、右翼の影が日増しに大きくなることへの疑問を感じている。

 一月二九日、VAWWのML(メ―リング・リスト)に「NHKに激励が必要です」というメールが流れた。番組制作関係者からのSOSメールの転載。NHKに対する右翼の攻撃が予想以上に猛烈なこと、(二日目が天皇の戦争責任を扱うため)少数だが勇気と決断を持って臨む局員がいること、番組が良かったら放映後ぜひ局にエールの電話やFAXを送ってほしいことが記されていた。中止を心配した会員がNHKに「放送要請」、これを圧力と解したNHKからVAWW事務局にクレーム。(私的メールで窮状をうったえた制作会社社員は三日間の自宅謹慎処分を科されたことが、後日、週刊金曜日で報道された)

 三十日の夜、専従の荒井さん宅に四人の会員が集まり「法廷」特集を見つめた。放送中止の心配は番組が始まった途端に消えたが、放送後に落とし穴。天皇有罪が無い。判決の「は」の字も無いほどすっぽり抜け落ちているから「法廷」関係者と傍聴者にしかわからない。出演者の発言にも切り取られた跡が見えるが、何が削除されたのかは出演者にしかわからない。墨を塗るような無邪気さと違い、この検閲・改竄を制作過程から解明すること以上に厄介なのは、被害の大きさを視聴者が自覚できないこと。深夜、松井さんが痛烈な批判をVAWWのMLに流した。

 二月一日、いまだに激励要請メールが飛び交う。風向きを変えるため「NHKに質問を!」と題した抗議文をVAWWと「反ひのきみ」ネットのMLに投稿。問題点を四つ上げ(以下に転載)、判決は出たのか?どんな判決だったのか?何故それを報道しないのか?という質問をNHKに送って欲しいと要請。

【NHKに質問を!】

  鈴木香織@VAWW−NET Japanです。

 一月三十日NHK教育で放映されたETV2001「シリーズ 戦争をどう裁くか」第二夜「日本軍による戦時性暴力」に対して皆さんが行動を起こしてくださるようお願いします。この番組は以下の理由で、私には許しがたいものです。

一.判決について完黙
 タイトルからして番組の中心になるはずの「女性国際戦犯法廷」についてもっとも重要 な情報が完全に欠落しています。誰が起訴され、判決内容はどうだったかということが何もわからないのです。

二.「法廷」批判を強調
 導入部でいきなり司会者が、「法廷」には法的拘束力がない、弁護人がいない、死者を被告にしているとネガティヴな紹介をして番組は始まりました。さらに二人の歴史学者のコメントが紹介されましたが、秦郁彦氏の「法廷」批判には内海愛子氏のコメントの二倍近い時間が費やされました。

三.処罰について完黙
 河野洋平氏の謝罪の録画を流したり、アジア女性基金について言及しているのに処罰 に関しては何も言わないため、「戦争をどう裁くのか」という番組は現在の日本政府の戦後補償政策に対して何ら有効な政策批判となりえていません。

四.主催者について完黙
「法廷」を開催したのは誰なのか?何故なのか?「戦争をどう裁くのか」の"どう"の部分には「誰が」という意味をも込めなければなりません。「女性国際戦犯法廷」は民間の女性(男性もいますが、大部分が女性なので)が国境を超えた共同行動として開催したことに重大な意義があります。「民間団体によって開かれた」という一言の説明で済まされるものではありません。しかも、準備段階から取材を受けVAWW−NET代表の松井やより氏は長時間にわたるインタビューを受けているのですから。

 これに応えて、米山リサさんが台本とノートをもとに番組収録中の彼女の発言を「反ひのきみ」に公開。VAWWにも転載されたそれは改竄の初めての証拠。

 六日、VAWWがNHKに公開質問状送付。なのに「激励派」まだ健在。私の抗議文にも批判――少数の良心的局員が弾圧に抵抗したからこそ、曲がりなりにも慰安婦問題が放送されたのに、と。抵抗する少数者を激励するためにこそNHKを批判するのだ、と前半分に反論するも、どのくらい曲がってしまったのか見えなければ後半を覆すことは難しいのよね。「番組を見て慰安婦問題がよくわかった」と言われた。最後の肝心なところをやらなかったのに!歴史の授業みたい。第三夜放送の国際公聴会特集が好評なので憂さ晴らしに見たいが、我が家のビデオは故障中。久しぶりに会ったVAWW会員に感想を尋ねたら「沖縄なしッ」!改竄ドラマの舞台の下、深い奈落にひそむのは誰?

 一三日、NHK回答いわく、番組のテーマは「人道に対する罪」、編集方針は終始一貫、外部圧力の影響無し、日本とアジア諸国の和解の道を探るため判決に触れず。

 一五日、週刊新潮が報道「放送直前の一月二七日、二八日に右翼がNHKに抗議行動」「局内の噂では自民党大物議員から圧力」。右翼ホームページには「一月二七〜二八日にかけて行われた一般市民有志の方々からの直接抗議(両日計六十人強)等が功を相(ママ)し・・・反日プロパガンダとしてはいかにも骨抜きな物にすることができた」。

 一六日、出演者四人がNHK会長宛に申し入れ書を提出。

 二一日、VAWW、NHKに行く。面会に出た吉岡教養番組部部長が改竄を認める!
「制作会社が作った物はNHKが作ろうとした物と全く違ったので、直しました」。

 二四日、「女性国際戦犯法廷」国際実行委員会、NHKへの抗議声明を発し、番組制作過程の公開、謝罪、公正な「法廷」報道番組の制作・放映を要求。声明の中の次の一行をNHKの回答と比べて欲しい。「和解は被害者側が提案するものであり、被害事実さえ認めず、日本の責任さえ隠したままの正義のない和解をアジアの被害国、被害者が受け入れることはあり得ない」。

 三月一日、定例記者会見で海老沢勝二NHK会長は外部圧力による改竄疑惑を全否定。

 二日、朝日新聞が放映直前の大改変を報じる。週刊金曜日三月二日号も特集。

 八日、松井さんがニューヨークで記者会見。「法廷」を祝う集いに200人。さすが国連!

 海外メディアも報道を始めた(東亜日報、ハンギョレ、中央日報、JapanToday)。米山リサさん(カリフォルニア州在住)も抗議運動を開始、日本国外の研究者に呼びかけているという。

 右翼がたてた逆波に虚を突かれたのか大揺れのNHK。私たちが、元「慰安婦」たちが、「法廷」を支えたすべての人がNHKに託したメッセージは、放り出され水底に沈んだまま。あの映像を視聴者に返してほしい。国際公聴会で米兵の性暴力を告発した沖縄の女性の証言とともに。


From:鈴木香織
 (すずきかおり/VAWW-NET Japan)

(出典)『ピープルズ・プラン研究』第13号(Vol.4-1、2001年4月)