2001年4月8日 NHK教養番組部長吉岡民夫殿 カリフォルニア大学サンディエゴ校 拝復、 去る3月15日、360名もの研究者・批評家たちからNHK会長に宛てて送られた「抗議および要望」書について、署名者代表宛てではなく、私共に宛ててお返事をいただきました件につき、お便りをさしあげます。 お返事では、「一連の番組制作過程で関係をもたなかった方々に返答する理由が理解できません。まして、それを公開するといわれると、ますます意味を汲み取ることができません」とあります。この点について、いくつかご不明な点がおありだとお察しいたしますので、繰り返しご説明申し上げます。 お返事のなかで、「抗議および要望」書に「360名の署名が添付されておりました」と述べておられます。しかしこれには誤解があると存じます。私は、たしかに郵便の代表送付者および問題提起者として、「抗議および要望」に私なりの要約文を「添付」し、NHK会長海老沢氏宛てにこれを送付いたしました。しかし、この「抗議および要望」は、あくまで私個人からではなく、ここに署名された360名の方々から送られたものです。それは、1月30日に放送された「ETV2001」シリーズ「戦争をどう裁くか」の第二夜「戦時性暴力」が、(1)高橋氏や私をはじめ出演者が本来出演依頼および/もしくは再収録に応じた企画内容を大きく逸脱し、(2)シリーズ全体の意図であったはずの「人道に対する罪をどう裁くか」というテーマをも回避し、(3)しかも番組のなかで題材として扱われた「女性国際戦犯法廷」についてはきわめて不自然で不当で歪曲された内容となって放送された、という事実について、間接的にではなく、直接に貴社の態度を問いただすことを目的に送付されたものです。また、「戦争をどう裁くか」という、日本と世界の人々との諸関係のなかでももっとも困難で生々しく痛ましい歴史を扱う番組内容の性格上、「番組制作過程で関係をもたなかった」からということで、深い関心をお寄せになっている諸外国の方々に返答できない、あるいはその返答を公開できないというのは、納得のゆく理由だとは申せません。また、外部からの圧力があったのではないかという疑惑を打ち消し、あくまで貴社の独自のご判断で番組内容を変更されたことを明らかにされるうえでも、ETV2001の責任者として、360名の方々に対して直接にお返事いただくのが礼節の基本であると存じます。 以下、もう一度、360名の方々からの要望をくり返します。 (1) To explain in detail the incidents and the decision-making processes which led to each of the revisions to the original plans for the program. (番組がどのように当初の企画から改変されていったのか、その具体的な経緯と意志決定の過程をつぶさに説明してください。) (2) To acknowledge NHK's responsibility for the damages it caused through its failure to accurately report on the Tribunal. (NHKが女性国際戦犯法廷について精確な報道をしなかったことによって引き起こした様々な損傷について責任を認めてください。) (3) To broadcast a program that will report on the Women's International War Crimes Tribunal in a full, accurate and positive manner. (女性国際戦犯法廷について精確で事実に即した番組を放映していただけますようお願いします。) 返答先は、先にお送りした英文の書面にあるとおりです。また、ご返答は公開されることを前提に英文でお願い申し上げます。今度こそ、360名の海外の研究者・批評家の方々に対して、誠意あるご返答をいただけますことを期待しております。 なお、最後になりましたが、番組制作に直接に関わったものとして、私個人に対して特別のお気遣いをいただいておりますことにつきまして、深くお礼を申し上げます。 20世紀の終わり近くになって「人道に対する罪」という概念が大きく変化し、これまで対象とされなかったさまざまな暴力や戦争の罪がようやく国際社会において広く裁かれるようになった、その思想的潮流を正面からとりあげようとされたご姿勢に、これまで戦争の記憶と政治について研究してきた者として心から共感し、素晴らしい企画に参加させていただけたことに感謝しておりました。半世紀にわたって放置されてきた日本軍による性暴力が、女性国際戦犯法廷という画期的な取り組みによってどのように裁かれうるのか、世界各地の諸例や試みとならべて取り上げようとされた当初の番組制作のご姿勢、知的一貫性、先見的視野について、高く評価申し上げていることは今も変わりありません。この点はぜひとも、永田チーフプロデューサーにもお伝え願いたいと存じます。 しかしながら、1月30日に放映されたシリーズ第二夜は、私ばかりでなく、取材協力者である法廷主催者、法廷で証言する姿や声をビデオにおさめられた生存者の方々、そしてシリーズ4回を通じて参加された高橋氏の意図や期待を、それぞれ大きく裏切るものでした。第二夜が「裁き」や「責任者処罰」といったテーマを十分にとりあげなかったために、第四夜の内容もまた誤解を生む結果となってしまったことも伝えられています。「申し入れ書」にも述べましたように、私のスタジオでの発言に対してはとりわけ意味をなさないような編集が施され、誤解も生じていることから、私の研究者としての評価を大きく損なう結果となりました。また、高橋氏にいたっては、ご自分ではとうてい責任を負いきれないほどの変更が番組に対してなされてしまったために、人間的な信用さえも損なわれるという深刻な結果を招いています。これらの点につきましては、何らかのかたちで正式に謝罪と補償を求めてゆくべく、今後も出演協力者として、貴社とは質問、抗議、要望を今後も続けてゆく所存でおります。 どうぞ、今後とも、よろしくお願い申し上げます。
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