申し入れ書

NHK会長 海老沢勝二殿

高橋哲哉 米山リサ 内海愛子 鵜飼哲

 私たち4人は、今年の1月29日から2月1日までNHKで放映された4回シリーズのETV2001「戦争をどう裁くか」に出演させていただいた者です。私たちは日頃から、とかく視聴率競争に走り安易な番組制作に流れがちな日本のテレビ・メディアの中で、日本と世界にとって真に重要なテーマを取り上げ、質の高い問題提起をし続ける番組として、NHK・ETV特集を高く評価しておりました。今回も、高橋は4回連続出演、米山は第2回と第3回の出演、内海は第2回での意見表明、鵜飼は第4回の出演と、番組との関わり方は様々ですが、4人とも、シリーズ全体の趣旨に深く共感し、出演をお引き受けした点に変わりはありません。

 シリーズはおおむね、東西冷戦終結以後の世界で「人道に対する罪」への注目が高まり、戦時暴力の克服への努力が始まっていることを分かりやすく伝えたものとして、好意的な評価を得ているとも聞いております。しかし一方、第2回「問われる戦時性暴力」については、他の3回に比して明らかに不自然な構成となっており、制作過程で目指されていた番組内容を大きく改変させるような、何らかの「圧力」が加えられたのではないかという疑念も広がっています。この番組で中心的に取り上げられるはずだった「女性国際戦犯法廷」の関係者は、「法廷」について誤ったイメージを与える番組になったとして、強く抗議しているとも伝えられます。私たちの中でも、とくに高橋、米山は第2回の制作過程の一部を知る立場にあり、出演者として、なぜ最終的にあのような不自然な番組になったのかについて、視聴者に対し責任の一端を負っています。そこで以下、私たちが出演者・発言者として抱いているいくつかの疑問を率直に提起し、納得の得られる御説明を賜りたいと存じます。

1.  昨年12月27日のスタジオ撮りで高橋と米山がコメントした際のVTRには、「女性国際戦犯法廷」の内容が詳しく紹介されていました。1月28日に高橋が「新撮」に応じた際の台本でも、「法廷」の紹介部分はほぼ残っており、この台本ならば、他の3回の内容とも齟齬をきたさず、番組本来のメッセージは伝わると判断し、高橋は「新撮」に応じたのでした。ところが、実際に放映された第2回の内容からは、番組の核をなしていた「法廷」の紹介部分が大幅に削られ、その部分が、資料映像で構成した背景説明によって埋められているため、視聴者は、法廷で誰が「起訴」され、どんな結論が出たのかをまったく知ることができないという、きわめて不自然な番組になっています。44分の放映時間が第2回のみ40分しかなかったのも、「法廷」に関する内容紹介を大幅に削除した結果としか考えられません。

 なぜ、放送直前になってこのような不自然な編集が行なわれたのか、御説明願います。       

2. 「法廷」の内容紹介が大幅にカットされたのに伴い、高橋と米山のコメントからも「法廷」に直接係わる部分がカットされているため、二人が「法廷」のポイントに触れることを意図的に避けたのではないかとの誤解を与えています。高橋の発言の「ラッセル法廷」に続く部分、日本政府の論理が国際社会で斥けられてきている事実と理由を述べた部分、米山の発言の被害者証言に触れた部分など、1月28日の「新撮」段階では残っていた部分もカットされているため、法廷の意義が十分に伝わらず、逆に、法廷の「限界」に関する意見が強調される結果になっています。とくに、米山の発言はたびたび不自然にカットされているため、発言の意図に反する形で受け取られ、米山の立場に対する誤解も生まれています。発言そのものが視聴者に理解できなかった箇所さえありました。これだけ重大な改変があったにもかかわらず、米山には12月27日のスタジオ撮り以来、一度もこの点に関する御説明がありませんでした。

 これらの点について、なぜそのようなことが生じたのか、御説明願います。

3.日本国内に「女性国際戦犯法廷」に対する異論も存在する以上、反対意見を番組内で紹介すること自体には、私たちも異を唱えるものではありません。しかし、内海の発言とともに「二人の歴史家の意見」として紹介された秦郁彦氏の発言は、その長さからしても、内海の発言を挟む形で二度にわたって挿入された点からしても、内海の発言とのバランスを著しく欠くものでした。「法廷」をめぐる「争点」については、番組の冒頭でも町永アナウンサーが列挙しており、「法廷」の内容紹介を大幅に削ってまで、秦氏の発言をこれほど大きく取り上げる必要はまったくなかったはずです。

 なぜこのような不自然な挿入が行なわれたのか、御説明願います。

 以上、3点です。

 私たち出演者、とりわけ第2回の出演者である高橋、米山と意見表明をした内海は、第2回の制作に携わったNHKとドキュメンタリー・ジャパンのスタッフが、この回のテーマである「女性国際戦犯法廷」の内容と意義を視聴者に分かりやすく伝えたいという意思を、出演者と共有していたことをよく知っています。にもかかわらず、放映された番組が、上に述べたような理由で、「法廷」の内容と意義を正確に知ることが困難なものになってしまったとすれば、制作スタッフにとっても不本意な何らかの「圧力」が加えられたのではないかと疑われたとしても、決して不思議ではありません。そのような「圧力」がもしあったのだとすれば、「報道の自由」にも係わる由々しき問題であり、見過ごすことはできません。もしなかったのだとすれば、なぜ、直前になってこのような制作意図のはっきりしない番組に作り変えられたのか、作品として成り立っていないような番組を放送した責任はどこにあるのか、納得のいく御説明をぜひいただきたいと存じます。

 御説明は、直接面会の上お願いいたします。2月26日から3月3日までの間で面会可能な日時をいくつかお知らせいただければ、あらかじめご連絡の上、NHKまで伺います。

 日時のお知らせは、恐縮ですが、2月23日までに、高橋哲哉(tel/fax xxx-xxx-xxxx, e-mail, xxx@xxxx )へお願いいたします。

2001年2月16日