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「戦災孤児」関係の本を読む



 

 

1)『浮浪児 1945-/戦争が生んだ子供たち』

石井光太

 石井光太著『浮浪児 1945-/戦争が生んだ子供たち』(新潮社)を読んだ。この本を読むにはある動機があった。1958年の「靖国文集」(1950年代に戦争遺児を靖国神社に参拝させる大規模な動員があった。その参加児童の書いた『靖国の父を訪ねて』という名の文集である。)のなかに遺児参拝に参加した中学3年生の私の感想がある。そこには解散時の大阪市の天王寺公園での「靴磨き」の少年への「上から目線」が記録されている。今そのことが気になっている。
「しばらく行くと、僕達と同じ年頃の男の子が、この暑い中で靴をみがいている。そうだ、僕には母もいる、父も(注:靖国神社で)見守っていてくれる。もっともっと強くなり、鍛え、みがき、立派な社会人となり、母を連れて再び靖国神社を訪ねよう。君達もガンバレと気持を新たにしてその場を去った。」(『靖国の父を訪ねて 第十二集』)
 それで当時空襲と戦争によって「浮浪児」となった子供たちのルポルタージュを読むことにした。敗戦直後、12万以上の戦災孤児が生まれた日本。その中心は東京。上野の闇市、地下道と上野公園に溢れた浮浪児たち。生きるか死ぬかの生存の闘い、浮浪児の刈り込み(浄化作戦)、列島流浪、孤児院収容、そして六十四年後の老人となった元浮浪児たちの語りと辿るドキュメンタリー。浮浪児たちはどのようにして生まれ、どこへ“消えた”のかを解き明かしてくれる、「浮浪児」について何も知っていなかったと思わせてくれる中味の濃い、そして深い本だった。

(2014・12・9)

2)『戦争孤児/「駅の子」たちの思い』

本庄豊

 本庄豊著『戦争孤児/「駅の子」たちの思い』(新日本出版)を読んだ。ある関心があって、何冊かの「戦災孤児」関係の本を読み次ぐ予定だ。図書館のリストで昨年出版されたこの本を見つけた。戦災孤児に関する著者の取り組みについては、NHKのテレビ番組で見たことがあり、詳しい内容が知りたかった。京都府は全国で4番目に戦災孤児が多く(広島県、兵庫県、東京都、京都府、大阪府の順)、京都駅周辺に戦災孤児が食べ物や寝る場所を求め集まったとのことだ。この本では、具体的に戦災孤児(著者は「戦争孤児」という)の実態とどのように生きていったかを個別の聞き取りで再現させる。第1章の「駅の子たち」、第2章の「ある姉弟の歩み」、第4章の「障害をかかえて」がその胸に迫るドキュメントだ。また戦後に戦災孤児たち収容、保護した戦争孤児施設について詳しい実態が、第3章の「伏見寮の人々」で叙述される。この孤児施設のほとんどが子どもをネグレクトや虐待から保護する現在の児童養護施設になっているとのことだ。

(2017・1・24)

3)『手塚治虫と戦災孤児』

菅富士夫

 菅富士夫著「手塚治虫と戦災孤児」(中井書店)を読んだ。大阪に於ける戦災孤児関係の本で、手塚治虫と空襲・戦争体験及び戦災孤児への関心・作品への反映を検討した本だった。大阪における戦災孤児については「大阪における敗戦後の浮浪児・孤児と全国孤児調査」(第2章)で詳しく検討されていて、興味深かった。この章の裏扉には、「アポリア」(難問)という言葉が辞典より引用されており、戦災孤児についての解けない難問があることが提示されている。戦災孤児・浮浪児などの定義と呼称について、戦災孤児の実数について、男女比のアンバランスの原因、全国孤児実態調査の意義と限界等詳しく批判的検討される。戦災孤児について知りたいと思ったことが一定この本で見えてきた。それは1950年代に戦争孤児を取り巻く環境が大きく変化したことである。1948年に児童福祉法が施行され、一般の児童福祉施策のなかに浮浪児・孤児への対応が解消されたこと、1950年以降に孤児たちは青年に達し、生業を得て、街頭から姿を消したこと、経済復興とともに浮浪児・孤児への関心が喪失したこと等の変化がそれだ。ということは、私が1958年当時に天王寺公園で見かけた「靴磨きの少年たち」は「戦災孤児」でないことになる。この本でこれが確認できたことだ。だとすれば、あの少年たちはだれか?考えられるのは、釜ヶ先が近接するのでスラムとの関係、被差別部落あるいは在日朝鮮人との関係、ひいては戦後の都市の貧困の問題ではないかと想像される。だれかこの時期のことに詳しい方はおられないかと思った。また手塚治虫と空襲体験と作品への反映については「手塚治虫の戦争と空襲」(第1章)、手塚の孤児への関心・作品分析については「手塚治虫と戦災孤児たち」(第3章)に詳しく展開される。私は手塚の講談社版「漫画全集」を持っていいるので、読み直してみようと思った。引く続き東京、沖縄、広島における戦災孤児関係の本を読んでいくつもりだ。

(2017・2・7)

<今後の読書予定>
 今すぐには読めないが、戦災孤児関係の以下の本を読み続けていこうと思っている。
1)藤井常文著『戦災孤児と戦後児童保護の歴史/台場、八丈島に「島流し」にされた子どもたち』(明石書店)
2)浅井春夫著『沖縄と孤児院』(吉川弘文館)
3)平井美律子著『原爆孤児/「しあわせのうた」が聞える』(新日本出版)
4)佐野美津男著『浮浪児の栄光 戦後無宿』(辺境社) 

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