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(書評)小川正人著『教育改革のゆくえ/国から地方へ』 


 

 

 小川正人著『教育改革のゆくえ/国から地方へ』(筑摩新書)を読んだ。久しぶりにびっしりと傍線を引いて読んだ。小川正人氏は、2006年に行われた文部科学省の教員勤務実態調査の研究代表だった方で、調査に関する総括的な論文で給特法の教職調整額を廃止し、教員に超過勤務手当を支給するべきだという主張をされていて、大いに同感であった。(結局、その主張は文部科学省に取り入れられなかったが。)

 この本は、戦後の自民党政権時代の教育政策の仕組みの検討からはじめ、旧来型の教育政策の特徴を述べた上で、小泉内閣時代になって、その政策が「政治主導」の教育政策決定と大変動をとげたことを明らかにする。その時期に進行した「三位一体改革」は義務教育「格差」の拡大を進めたことを詳細に分析する。その義務教育「格差」の中味は、義務教育費国庫負担制度の縮減であり、具体的には教員給与削減と非常勤講師への切り替え、準要保護家庭への就学援助補助金廃止であった。当時、現職でこの削減・廃止攻撃に遭遇し、激しい怒りを覚えたが、このように構造的のものだったとは充分に認識していなかった。その重要な変化をあらためて認識した。さらにもうひとつ焦点となった教育委員会制度の改変問題についてもその問題点を整理される。また、この著書の執筆中に政権交代が起こったので、民主党の教育改革構想についても分析の俎上にのせられている。最後に小川氏の提案(義務教育費全額国庫負担の復活、教育委員会制度改革)で締めくくられていて、なかなか興味深い展開の本だった。一度、じっくりこの本の論点を私なりに考えてみたいと思った。

 なお、「現代思想」(2010年4月号)は「教育制度の大転換/現場はどう変わるか」が特集であり、参照したい。

<目次>
はじめに
第1章 自民党政権時代の教育政策
第2章 “政治主導”の教育政策決定/1990年代以降の大変動
第3章 三位一体改革と義務教育「格差」の拡大
第4章 揺れる教育委員会制度
第5章 新たな教育行政システムに向けて
終 章 期待と不安が交錯する教育政策のゆくえ
あとがき
参考文献一覧 

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