旅の記憶

世界一胴体の長い動物は?(インドネシア) 

松岡勲(1992年7月25日~8月4日)



 

カリマンタンのオランウータン

 92年の夏にインドネシアを訪ねた。ジャカルタ、ジョグジャカルタ、スマランを回り、スマランから飛行機で赤道直下のカリマンタン(ボルネオ)島に着いた。 

 滞在したタンジュン・プティン自然保護区は、インドネシア政府指定の保護区で、動植物すべてが原生のままの姿をとどめている。海に面した広大な岬をふくむ30万ヘクタールのこの国立公園は、全く人の手がが入っていない熱帯雨林で、サゴヤシの茂る林を多くの川が流れている低湿地帯である。川水はタンニンと有機酸が多いので、泥炭地特有の黒みがかった茶色をしている。この川を上流に向かって、ボートで上った。川にはワニが住むというが、残念ながら見ることはできなかった。天狗ざるの群が反対側の岸に向かってジャンプする。見事な技だ。
 この自然保護区のオランウータンのリハビリセンターを訪ねた。オランウータンはボルネオとスマトラだけに生存し、総数3千頭と推定されているが、この保護区には約3百頭が生息している。捕獲や売買は法律で禁止されているが、赤ん坊の時に高価なペットとして密猟されることが多い。それが見つかると再び野生の森に帰すのであるが、そのためのリハビリセンターがここに2ヶ所あって、約50匹が野生に帰るための訓練を受けている。そのために長年にわたって努力してきたのが、人類学者のB・ガルディカ博士である。
 桟橋に上陸して驚いたのはオランウータンたちが迎えに出てきたことだ。それに手を差し出して、上に引っ張りあげてくれるものまでいる。センターの奥の森に入ると、樹上から彼らが下りてきて、親しげに近寄ってき、中にはカメラに向かって、大きなポーズをとるひょうきんものまでいる。餌づけはバナナを与えていたが、徐々に与える食料を減らし、森のなかで自分で獲物を捕れるようにしていき、やがて森林に帰していくのがリハビリの仕事になる。
 あまりにもかわいくて、親しげなオランたちを見ていて、彼らが自然に帰る困難さを思い、人間が自然を破壊することの残酷さを痛感した。 

夜更けのなぞなぞ 

 宿泊したホテルは前年に開設されてばかりの「リンバ・ロッジ」(ジャングル・ロッジ)で、熱帯雨林の自然のなかにあった。このホテルができるまでは、この自然保護区に入るにはボートの上で宿泊するしかなかったので、これまでほとんど外来者がなかった。
 熱帯の夜が更け、ロビーでガイドのサトゥルヌスさんと語りあっていた時のことである。彼が突然、なぞなぞをかけてきた。
 彼は「インドネシアには世界一長い胴体の動物がいる。それは何だろう?」と問う。一同、「・・・・」。「にしきへびかな」、「象・・?」と考えられることを出してみたが、「はずれ!」。その答えが何かというと、「えび」だった。「インドネシアで取れたエビはみんな日本に輸出されます」。そして、「身は日本に行き、日本人の口に入り、尻尾だけがインドネシアに残ります」。
 一瞬、みんなのなかで沈黙が走った。彼はそのような現実を日本の観光客に知っておいてほしいというメッセージ私たちに手渡した。日本とインドネシア、先進国と後進国との格差に気づいてほしいということだ。スマランの飛行場を離陸する時に、眼下に大きなえびの養殖池が広がっていた。もとは広大なマングローブの森であったはずだが、その跡形もなかった。そのような自然破壊を引き起こし、えびが日本人の口に入る。自然保護区の川を遡った時、まわりを取り巻くヤシの森が突然消えてなくなり、見晴らしのいい、広大な裸地が出現した。これは木を伐採した後だった。その木材も日本に輸入される。その後、エルニーニョ現象によるインドネシアの森林火災が報道されるたびに、今頃、あのオランウータンたち、インドネシアの自然はどうなっているんだろうかと心が痛む。 
 カリマンタンで「一度でいいから、地元の食事がしたい」と添乗員さんに頼みこみ、大衆食堂風の店で昼食が取れた。その時の焼き魚がとてもうまかった。台所まで入れてもらい、調理の様子を見せてもらったのが印象に残っている。
 楽しい思いでは、同室者のFさんが私と同じ酒飲みで、2人で酒を探し回り(インドネシアはイスラームの国のためなかなか手に入らず)、最後のカリマンタンのひなびた町のコンビニでジョニ赤があったことだ。店員さんがそっと新聞紙に隠して、奥の方から持ってきてくれた。その後、二人で祝杯をあげた。
 もう一つは、ボートで下ったカリマンタンの夜に、はじめて見た南十字星!あの輝きは今も忘れられないな。

(99・1・8) 

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