都立三田高校事件等弁護団側冒頭陳述

(資料編)


== 平成一〇年三月都立学校等あり方検討委員会報告書
     (校長のリーダーシップの確立に向けて)

第1 問題の概要とこれまでの経緯
 平成九年九月都立新宿高校の習熟度別授業で2名加配教員を受けながら、非常勤講師時数の水増し時間割表の虚偽報告をして、正規教員の持時間数を軽減して居た事で、平成九年一二月住民監査請求が出され、平成一〇年第一回都議会定例会でも取り上げられ、閉鎖的な都立高校の体質、職員会議のあり方、教育委員会としての指導責任が批判的に論じられたので、全都立高校に付いて実態調査を実施し、校長権限を制約する職員会議や校内内規の慣習、社会一般常識と乖離した教職員の意識、形骸化した主任制度、「希望と承諾」が強く残る人事異動のあり方、管理職任用制度、校長に対する支援の方策などの改善策を検討し、この都立学校の諸問題を解決する上で最も重要かつ緊急な課題は、「校長のリーダーシップの確立」である、との結論が真先に提示されるのである。都立学校を改革し、都民に信頼される魅力ある学校づくりを進める原動力は、校長のリーダーシップのもとに教職員の力を結集するところにあるからであるとされて居るが、その真意は都教委の意を体した校長が学校内に於てリーダーシップを発揮出来なければ、都教委の考える教育が教育の現場に於て行ない得ないとする所にある事が容易に透けて見えるものである。
 それにしても、教育界の重大問題を解決するキー・ワードが何んとも軽薄短小のリーダー・シップという外来語である点に付いては、第三者的に違和感を覚えるものである。

第2 開かれた学校の推進
 現在都立学校においては、不登校・中退対応、進路指導、個に応じた教育等多様な教育課題に直面しているので、これらの問題を解決するとともに魅力ある都立学校を創造していくためには、煎じ詰めれば授業の公開が必要である、然るに都立高校の現状は、管理職である校長・教頭でさえ教室(と表現されて居るが、この様に現象的・表面的に事を表現しているが、本質的・実体的にこれは授業を意味せんとしている事明らかであり、教育界に許されざる重大な欺瞞であろう)に入ることが難しい実態にあるから、これを可能にしろと言うのである。これは教育をつかさどる教諭の教育に対する侵害なのであるが、これは既に先に述べた松村教諭に稀少先例があるが、これを全教員に及ぼしたいとするのである。

第3  校内意思決定プロセスの明確化
1 校内「内規」が、職員会議を意思決定機関と定め、本来校長権限であるべき学校の管理運営事項に付いて職員会議の決定が校長を拘束し校長のリーダーシップを阻害して居る。特別昇給に付いても職員会議の議題にされ、校長権限を阻害しているので、職員会議を校長の補助機関とする、とする。
2 校長の方針に基づく人事・予算の決定
校長権限を阻害する人事、予算委員会を設けてはならない、とする。

第4 学校運営体制の強化
1 教頭は校長の単なる補佐役であるとする教職員の意識を打破する為にも、教頭の管理職機能の強化、指揮命令権の付与、副校長化を図る、とする。 
2 主任制度の改善
 主任制度が形骸化されて居るのであるが、それは主任の任命権を校長に与えて置くと、職員会議や職員組合の意向に押されてしまうので、教務主任、生徒指導主任並びに進路指導主任に付いては都教委が直接任命する。そして、その余の主任に付いては校長任命とするが、職員会議等の影響を受けてないか否か都教委が厳格なヒアリング実施し、更に主任の職制化を計り、給料表に等級設置し、主任手当のプール化を阻止すると共に、将来的には主任を履歴登載事項として、校長、教頭は主任経歴者から任命する、とするものである。
3 事務室機能の強化
 校長があまり関心を持たず、又、処理能力に欠ける校内予算を、事務室機能を強化して都教委との連携をとり、事案決定システムを定着させたい、とする。
4 校長不在時間の解消
校長がリーダーシップを発揮するためには、学校にいて、児童・生徒や教職員の日頃の様子を把握することが前提となるが、現状では不在時間が長いため、校内の状況把握に欠ける面がみられるので、これを解消して教職員の動静をよく把握せんとするものである。

第5 教員研修の活性化
1 校内研修の活性化
2 教員研修制度の見直し
  此処では要するに、校長、教頭並びに主任及び教員に対する 任命権者である都教委がそれぞれに対し、縦のライン化の目的の為にしっかり研修を実施する、と言って居る様なものである。

第6 人事任用制度の見直し
1 定数等管理体制の改善
  各教員の持時間数を早期、且つ、正確に把握して、教課や課程の兼持ちでもきちんと本来の持時間数を果させるべきである、と言うものである。
2 教員の人事配置の適正化
 「希望と承諾」という長年の慣行を打破し、在勤期間を短縮し、大規模な地域間、学校間の異動を実施する、というものである。
3 管理職任用制度の改革
 校長、教頭、指導主事の受験者、受験率が減少しているので、管理職候補者を増やし、早い内に学校の基幹要員や指導主事等の経験をさせるべきで、その為にも管理職手当、給与体系を見直せ、と言うものである。
4 教職員顕彰制度の改善
 教職員のモラルアップになる様な制度に改善すべし、と言うものである。

第7 都教委による学校支援体制の確立
1 学校に対する窓口組織の設置
 教育庁の細分化された縦割り部課制では、校長の相談窓口に不適当なので、学校に指針を示し、アドヴァイス出来る窓口組織を新設する、とする。
2 学校改革への人事・予算面での支援
 校長に協力する人材を校長の希望により配置したり、校長の特色ある学校づくりの為に重点的予算配付を行なう、と言うものである。
3 教育庁組織の見直し
 前記1の抜本化を計りたい、と言うものである。


== 平成一〇年七月一七日
  東京都公立学校の管理運営に関する規則の一部改正について(通達)

第1 教頭に関する事項
 校長の命を受け、所属職員を監督する旨を規則に明記することにより、教頭のラインの管理職としての位置づけを明確にし、都立学校の管理運営の適正化を図るとするものであるが、これも校長のリーダーシップ確立の一環として、都教委、校長、教頭の縦のラインの強化策である。

第2 主任に関する事項
 本来、主任の位置は、児童及び生徒の指導の充実を図るために、学校運営における指導組織を整備し、調和のとれた創意ある学校運営を目指すものであるが、多くの学校において、主任の人選に校長の意向が反映できないことや、命じた教員とは異なった教員を都教委に届けるなど、不適正な実態があることが明らかになったので、主任制度の適正な運用を図るためには、委員会としても責任を負う仕組みづくりが必要であることから、今回の改正により、教務、生徒、進路の三主任は、校長の具申により、委員会が直接命ずることとした、のである。

第3 職員会議に関する事項
 学校教育法第28条3項において「校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する。」と定められており、校長がすべての校務について決定権を持つことから、職員会議は従来多数の校内内規で規定されている様な最高意思決定機関ではなく、あくまでも校長の補助機関であり、このことを規則で確認的に規定することによって、職員会議の位置づけを明確にし、職員会議の運営の適正
化を図るとするのであるが、これでは教職員乃至職員会議の反発を受けること必至なので、校長には、日頃から所属職員との円滑なコミュニケーションが求められており、校長は、職員会議が補助機関であることを踏まえた上で、職員会議の場を活用することなどにより、所属職員の建設的な考え方や意見を聞き、それを学校運営に生かすよう努める必要がある、訓示規定を置くのである。


== 平成一〇年一〇月一日東京都立高等学校教員の定期異動実施要綱(改正)
 在職勤務年数を短縮し、且つ、「希望と承認」なしに全日制、定時制、通信制の課程を超え、島しょにある高等学校定時制高校と巾広く大規模な異動を実施する、と言うものである。松村教諭はこの要綱を強制異動要綱と捉え、その様に呼んで居る。


== 平成一〇年一〇月一六日 管理運営規程の策定に付いて(通達)

第1 「管理運営規程」策定の趣旨
 学校教育法第28条第3項において「校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する。」と定められており、校長はすべての校務について決定権を持つ筈の所、多くの学校において、本来、校長の権限である学校の管理運営に関する事項が、職員会議等の決定に基付き策定された校内「内規」により処理されているのは誠に不当なので、この校長の権限を不当に制約し、学校運営に係る
責任の所在を不明確にする「内規」に代わるものとして、新たに各学校において「管理運営規程」を定め、この規程に基づいてその他の校内規程を整備すること、とする。

第2 「管理運営規程」の内容。
 「管理運営規程」は、学校の管理運営に関する基本的事項を内容とし、 1 円滑かつ効果的な学校運営を推進するため、企画調整会議を設けること。
 == 企画調整会議は、校長の補助機関として、校長の学校運営方針に基づき、学校全体の業務に関する企画立案及び連絡調整、各分掌組織間の連絡調整、職員会議における議題の整理、その他校長が必要と認める事項を行い、円滑かつ効果的な学校運営を推進するものとするのであるが、これはこれ迄の職員会議の権限・機能を完全に移し代える為の受皿とされるものである。
== 企画調整会議の構成員は、校長、教頭、事務(室)長、主任、並びに校長が指定する事務室所属職員とするものであって、これは完全に都教委にライン化された職員のみで構成されるのである。

第3 「管理運営規程」の決定手続等につい
1 校長は、平成一〇年一二月末までに、「管理運営規程」を決定すること。
2 「管理運営規程」の決定に当たって、校長は、平成一〇年一二月末までに東京都教育委員会と協議すること。平成一一年一月一日から施行すること。

第4 留意事項
1 校長は、「管理運営規程」及びその他の校内規定を策定するに当たって、法令、東京都教育委員会規則等に抵触する事項を定めてはならない。例えば、人事委員会や校務分掌委員会のような人事の決定に関与する機関を設置したり、「東京都立学校の予算編成等に係る規程」によらずして、予算委員会や財務委員会のような予算の決定に関与する機関を設置するなど、校長の権限を阻害するような定めを設けることはできないとし、従前からの「教育をつかさどる」教職員の自治的・民主的人事、予算を否定し、実質的にも従前の運営が行なわれない様に釘を刺して居る。
2 校長は、校内予算編成等については、新たに制定された「東京都立学校の予算編成等に係る規程」にもとづき行うこと。


== 平成九年四月一日 指導力不足教員への対応
  身体的、精神的疾患及び障害のある教員以外の「指導力不足の教員」についての対応が十分でなかったので、最長三年の期間教育研究所等での課題研修等を実施すると言うものであるが、これは運用次第では校長或は都教委の意に添わない教員に「指導力不足教員」のレッテルを貼って長期強制隔離が可能となるのである。

第五、松村教諭の置かれた立場と行動

一、東京都高等学校教職員組合は、平成一〇年七月一〇日前記==の管理運営規則改悪反対を標榜して一時間の時間ストライキで抗議する外、都教委と交渉を持ったが、その効果は「主任の履歴登載」と「教頭の指揮・監督権」の内指揮権を外させる程度の枝葉是正に終り、広尾高校内では、平成一〇年一二月職員会議に於て賛成者ゼロであったにも拘わらず、同月二五日安食校長は教育委員会と協議の上と言うか、端的に言えば都教委の指示通りに東京都立広尾高等学校管理運営規程を決定し、平成一一年一月一日から施行される事になった。
 骨子は、従前校内の最高意思決定機関であった職員会議を校長の補助機関とし校長の方針の周知伝達機関化し、新たに校長、教頭並びに主任を構成員とした企画調整会議を設け、従前の職員会議の大部分の機能を移すと共に、教頭を単なる校長の補佐役から「校長の命を受け所属職員を監督」する立場に引上げるものであり、この「管理運営規定」とこれに基付く「校内内規」が本年一月二〇日の本年第一回職員会議で校長から説明が為されたのであるが、その説明は中途で終っていたにも拘わらず、安食校長はこれらに基付いてそれ迄の慣例及び校内内規にも反し職員との協議を経る事なく独断専行的に主任人事その他校務分掌を決定して行ったのである。
 そして、本年度の卒業式に於ける「日の丸」の掲揚時間も職員会議に諮る事なく、独断で昨年の二倍とする旨宣言するのであった。
二、「あり方検」報告書以来、広尾高校の教頭がいみじくも比喩的に「憲法が変わった」と謂った大変革が着々と実行されて、遂に松村教諭の在籍した都立広尾高校にその全てが押し寄せて来たのであるが、これらは全て、松村教諭が良しと考え、又、長年の間定着して来た「職員会議」を中心とした平等な関係にある教員の「ヨコ社会」としての教育現場が、都教委、校長、教頭、主任と
いう縦の権限系列の「タテ社会」化するものであって、これを迎える松村教諭は、個人的には既に平成九年と一〇年の二度に渡り特昇を外されて居る外、平成一二年には定期異動期が来るので、これは平成一〇年一〇月一日の人事異動要綱が異動対象者の「希望と承諾」を必要としない強制異動要綱化されて居り、更には前記==の指導力不足教員のレッテルを帖られ三年間の教育研究所に送られるか、或は東京都の緊縮財政と社会的少子化による教員の過剰定員問題に依り、リストラ解雇も有り得るとの懸念が念頭にあって、一個人としての不安と不満を解消すべく、又、教員全体の中の一員としての異議を何んらかの形で表わし、先述来の様々な耐え難き変革を少しでも押し止めたいとの焦りに似た想念に取り憑かれて行ったのである。 そして、一人で出来る効果的方法としては、爆発物の使用しか思い浮かばなかったのである。
三、右の如く、松村教諭の不満と反発は単に個人的なものではなく、「あり方検」報告書に基付く一教員を超えた教員全体、その機関としての職員会議、そして、教職員組合に対する抑圧乃至弾圧に対する各構成員の一人としてという、言うなれば公的地位に於ける義憤でもあったが故に、その第一対象は「あり方検」委員長であった教育次長であり、教育長と人事部長だったのであり、前
者に対しては平成一一年二月九日アルミダイキャストの容器入り爆発物設置であり、後者に対しては脅迫状の送附だったのである。 前者に於ては、被告人の思い至らなかった家人の一人に被害を与えてしまったのであるが、この爆発物の爆発を踏まえて出した脅迫状の方は、被告人からして見れば、表現は隠当を欠くかも知れぬが、不発だったのである。
 即ち、被告人からすれば、何等かの効果があると考えて居たにも拘わらず、対内外的に何も変わらず、内部的には同月一四日の職員会議では校長の主任人選、任命が一方的に決定、宣言され、これに反対して紛糾した職員会議はほぼ
全員の決議で閉会される一方、外部的には職員会議との協議を経ない主任人事に付いて、都教委側は校長に対し、それすら校長の意思に基づくか否か、即ち、職員会議や教職員組合の影響を受けてないか否かをチェックする為にヒアリングが実施された事を、一九九九年三月三日付都高教新聞(東京都高等学校教職員組合発行)で知らされるのであった
四、そこで、前記実力行使で効果を得られなかったので、引続き警告を発しなければと思い詰めた被告人は、第二の対象を教育委員会の指示通り行動し、教育現場に上下の権力関係を持ち込み、「タテ社会」化を強力に押し進めて居るとされる三田高校の校長としたものである。
五、そして、前回の反省から、校長以外に害を及ばさぬ為に、白昼、人目の多い学校の校長室に怪しげな身形(みなり)の男として立入ったのであるが、これが見咎められるのは当然である。そんな常識的な事にも思い至らず、サングラスを掛ければ発見されても人相は隠せるとの愚かしい単純な考えで犯行に及んだのではあるが、案の定、すぐさま女性職員に不審者として詰問を受け校門迄逃げ出したのであるが、此処で、隣の小学校前に駐車してある車迄走り寄り、この車で逃走する事も容易に出来たであろうにも拘わらず、自分がこのまま逃げたならば校長室に仕掛けた爆発物で前回と同じく目的外の校長以外の人間を傷付ける事になる、爆発物は自分で撤去乃至解除しなければと考え、この場から逃げ出す事が出来なくなり、右女性職員が呼んで来た男性職員に呼び戻される侭に校内に立ち戻り、「落し物をした」との口実を設け、校長室内の爆発物の撤去乃至解除を試みんとしたのであるが、その意図を解し得ぬ右職員らに取り押さえられて終わったものである。
六、然しながら、逮捕直後爆発物を仕掛けた事、その爆発物の構造・形式、解除方法を全て担当の警察官に自ら申出て、何んとしてでも実害の発生を未然に防止せんとしたものであるが、プロ中のプロである警視庁爆発物処理班が解体処理方法を誤まり、これを爆発させてしまった事は、罪状認否書の通りである。