控 訴 断 念

松村さんへの手紙

古澤英樹(’00・4・20)



 三田高校事件で、4月12日判決が言い渡されましたが、それを不満としながらも、控訴を断念せざるを得なかった、松村高太郎さんへの私(古澤)の書簡を紹介させていただきます。


2000年4月20日
松村高太郎さんへ

 昨日(19日)の面会で、短い時間のため、充分な意見交換ができませんでしたので、手紙を書きました。
 裁判の件について。判決文がまだ弁護士の手に届いていないので、裁判所がプレス用に発表した判決要旨を入手し、また、その判決の問題点を批判した会報を、一緒に差し入れましたがお読みになりましたか。
 判決の主旨は、検察側の論調とほぼ同じでした。争点の、一、殺意の有無、二、爆発物の行使、そして動機について三、個人的なものか四、あり方検路線の阻止か、についての判断も、検察側と同様の見方をしています。その意味では、松村さんとしては、承服しがたいものだと思います。現在の裁判所全体の姿勢をみれば、控訴して、高裁で争って、どれだけ有利な判決を引き出せるのかを考えると、消極的になるのもわかります。
 判決のなかで、二に関連して、A松村さんが三田高校長の机上に爆発物を置いたことと、警視庁の爆発物処理班が「豊富な経験」をもとに、紙箱を切り開いて配線を切断するという方法を捨てて、B液体窒素で凍結処理したため、机上のビニールマットが化学変化して波をうちはじめて、C振動型爆発物が感応して爆発したことについて、Bの事実を認めながら、処理班がビニールマットに注意しなかったことを不問にして、A→Cという因果関係をたてているのは、論理的にも、事実関係のうえでも、間違いです。これで、爆発物取締罰則1条(爆発物使用、懲役7年以上)を適用するのですから、松村さんとしては無念でしょう。弁護側の主張する第2条(使用未遂)では懲役5年以上ですむのですから、これで2年違います。
 また動機について、判決は三、松村さんの個人的なものとして、四、あり方検路線の問題を度外視しています。しかし、現実には、松村さんが心配している以上のことが、広尾高校では生じています。99年度に校長・教頭・事務長が新しく着任して、その学校運営のしかたは、安食前校長が引いたレールのうえで、職員会議の軽視(教職員の賛成多数の事案でも、校長の意に添わないとひっくりかえす)、校長独断で組織を改変する(委員会を主任の下におきたいため、教務部や生徒部の管轄内とする、保健部の人員を2名にとどめ、生徒の需要を無視)、勤務時間の割り振りを分会と合意形成せずとも強行する、人事決定で大きなミス(例えば、生徒部に女性教員を配置しない)等々、「校長のリーダーシップ」を大いに発揮していました。教員の話は一応聞く態度を示すが、校長がいったん言い出したことは頑として変えません。こういう状態になるのを心配して、学校を守るため、生徒を守るため、松村さんは、直接行動をおこしたのではないのでしょうか。職員会議の補助機関化は、東京都にとどまらず、文部省が今年1月に学校教育法施行令を改定して、職員会議について次のように法的定義をしました「職員会議は校長が主宰し、…その補助機関とする」と。そして、これを今年4月から実施しました。文部省→教育委員会→校長→主任のタテ構造が全国規模で貫徹することになります。そして、今の政権与党は、憲法とならんで教育基本法の見直しをするとしています。二、あり方検路線の問題は今見たような文脈のなかで、教職員組合としては相当の力を持っている都高教(東京都高等学校教職員組合)を弱体化させ、時の政権に有利な公教育を推進するための一歩であったのです。その意味で、松村さんが直接行動という形で提起した問題は、日本の将来にかかわるものです。
 松村さんの行動に対する裁判所の判断には重要な問題があります。ひとり松村さんのみならず、日本の教育全般にかかわるものだけに、マスメディアが取り上げないにもかかわらず、支援者の輪が広がってきているのです。先日郵送した「教育裁判連絡会ニュース」でも三田高校事件をとりあげましたが、同会の幹部との話し合いのなかで、同会がバックアップするから「三田高校事件」問題の集会を開こうという提案を受けました。松村さんの行動を引き継いで、松村さん個人の問題をきっかけに、日本の教育の将来にかかわるものとして、運動を展開したい、というのがその意図するところです。今、この手紙を書いているときにも、都高教の活動家で、Hさんの友人のAさん(救援組織の会員)から、都高教の本部委員会に配布するので、判決に関する文章を送ってもらいたいとの依頼がありました。このように、松村さんの行動の意図することを理解し、それを日本の教育の将来にかかわるものとして、市民に働きかけていこうとする動きがあります。もし、松村さんが控訴するならば、この動きはさらに発展していくでしょうし、それはまた松村さんの控訴審にも強い影響をもたらすと思われます。
 松村さんとしては、控訴して、闘いをつづけていくことは大変なことと思います。しかし、理不尽な地裁判決に屈することは、松村さんの本意ではないでしょう。控訴審にかかる年月と刑期とを勘案され、一日もはやく、社会復帰しようという気持ちは痛いほどわかります。控訴審で、地裁判決の問題点を明らかにし、世に問うことは、松村さん個人にとっても、日本の教育界にとっても、意義の大きなことだとおもいますが、如何でしょうか。「あり方検路線の問題」を現実のこととして明らかにするために、この一年間、広尾高校で起きた事柄を、私が、職員会議録開示をもとに、証言してもいいです。控訴の問題について、熟慮してみて下さい。

 運動不足になりませぬよう、お体にはくれぐれもお気をつけください。また、私でお役に立つことがありましたら、遠慮なく、お申し出でください。


 古澤 英樹


この手紙に対して、松村さんは、現在の裁判所の姿勢は構造的(!)に、権力機構と合体していることを考慮して、高裁であらそっても無駄だと(無念ですが)判断して、控訴を断念しました。

なお、裁判記録については次のホームページを参照ください。 http:/www.jca.apc.org/~isao_m/