【第五部】市民社会をつくり変える仕組みについての提案
C浪費型社会から循環型社会へ
−容器を中心としたグリーンタックスの試み−
小塚尚男(コミュニティクラブ生協理事長)

  リターナブルびん普及化について報告いたします。このことを準備会で取り上げてきた経緯は、去年7月のブレインストーミングの時に、ときあたかも新聞でビールのシェアーでアサヒビールがキリンビールを抜いたと大きく報道されていた時期であり、「環境制約の受容」のレポートをされた細田氏が、リサイクルという視点から非常に大きな問題があるのではないかと報告されました。つまり、老舗のキリンビールは、ビールびんの極めて日本的なリサイクルシステムをもっていたチャンピオンだったからです。そのチャンピオンを破ったアサヒビールは、どうもカンで自動販売機を抑えていったのが大きいのではないか。したがって、アサヒビールがキリンビールを抜いたということを環境問題の点からいうと、かなり日本的な意味で酒屋さんまで進んでいたびんの回収システムがついに、自動販売機を中心とした缶によって抜かれたという意味もあり、あらためてデポジット制などを考えるべきではないかというのが話の発端でした。こうして市民立法機構準備会運営委員会の中でもデポジット制度について、少しプロジェクトを組もうということになりました。そしてデポジットをやるにあたっては、グリーンシステムというびんの回収システムをやっている生活クラブ生協が報告をすべきだということで、昨年11月の準備会の時に、生活クラブ川崎の奥村さんから報告をしてもらいました。そこまできた結果、デポジット制度をどうやって進めるべきかということで検討が始ったわけですが、私の友人でリサイクルについての専門的な研究者でもある佐野環境都市計画事務所の佐野敦彦氏より、「デポジット制よりもデンマーク方式を採用した方がいいのではないか」という提案がありました。その理由は、生活クラブがこれまでやってきたびんのリサイクルシステムのポストリサイクルシステムとして考えられるということ。もう一つ大きなファクターとしては、ご存知のように今年の4月1日から容器包装リサイクル法が施行されたことが挙げられます。このリサイクル法は10品目中、7品目についてとりあえずスタートしましたが、各自治体等々が頭を悩ましているとおり、実際にはリサイクルを促進していないのではないかというのが、一つの問題としてされるわけです。
  私たちはこれまで2回ほど集まり、今日何らかの素案を提案すべく、後藤敏彦さんを座長にプロジェクトをすすめてきました。しかし、とても2回の会合ででまとまる話ではなく、本日は正直に検討した内容と問題意識を皆さんにご報告して議論をし、プロジェクトとしてまとめるべく努力をしようということになりましたので、簡単にデンマーク方式を中心に検討した内容だけをかいつまんで説明します。
  これは一種のグリーンタックス、環境税を容器製造時に課税をしようということです。今リターナブルびんの使用が促進されない背景には、実際にワンウェイ容器を作るということが「逆優遇化」されているといえます。例えば、ここでは容器代、中味代、流通費用、再商品化費用が加算されて販売価格になっているのがワンウェイ容器です。これに対してリターナブルびんは、回収費用と洗浄費用が含まれて販売価格になっていますが、再商品化費用は外部化されて一部税負担されている、あるいは行政に任されているということです。したがって一部中小企業も免除されているということもあって、こういう視点からみるとワンウェイ容器の方が優遇されているというのが実態です。
   神奈川で2年間やっているびんの回収は、実際、外部のびん回収業者との共同作業としてスタートしましたが、生活クラブでは神奈川以外の東京、埼玉、千葉、北海道でも、このびんのリユースをやっています。ただ神奈川と北海道だけが、敢えて損益をはっきりさせようと外部の回収業者に回収を委託した結果が資料の36Pに出ています。そして、生活クラブの場合はガラスびんに、醤油、ソース、マヨネーズ等々、27品目を1l、750500350ccの4種類に統一して、27種類をやった結果が、この94年から95年です。この表で、実際には回収をして洗浄をして新品並みに醤油屋さんやソース屋さんに納めるというのが、(c)の洗浄、納品等の費用です。それからびん商の回収費というのが(b)、回収びんをその生産者に販売したのが(a)です。そうすると、94年の場合で、回収びんの本数が865,716本だったのに対して、実際には回収、洗浄して回収びんを生産者に売ると、マイナスとして11,372,370円ほどの赤字になるわけですが、これは生活クラブがびんの回収業者に払った費用になります。つまり、びん1本あたり13.1円マイナスになっているわけです。95年はこの不足分が950万円に減りましたが、むしろ回収 
びん本数は横ばいですから、びん回収に習熟した結果、びん商の(b)が合理化されたということだと思います。これは神奈川の数値のみで、他の東京、埼玉の場合は、共同購入で班に持っていった職員が、帰り便のトラックでびんを回収するので、費用が内部化されるわけです。神奈川だけ外部化した結果こうなっておりますから、神奈川の持ち出し価格の2.5倍ぐらいは、生活クラブ全体の実績となるということです。こうして数字が明らかになった結果、ある意味では職員の労働強化につながるわけですが、生活クラブ神奈川も9610月から共同購入の配送の帰り便でびんの回収を行うことで費用を内部化しました。こうしてグリーンシステムということで、びんを規格化し、使った組合員がまとめて出して回収をした結果、なんと毎年約1000万円ずつ払わなくてはいけないという極めて矛盾した現象がこの表からわかります。
   さらにこの35Pの表、ビール製造各社広報によるびんと缶の対比を見ますと、明らかにびんはマイナスになっているのに対して、缶は増えているし、大樽はもっと増えています。それからやはりキリンの推定でも、95年でびんを缶が抜いているということが数字としてはっきりしているという面白い現象です。
   さて、そういう前提にたって、デンマークシステムとは、容器を作った時に容器メーカーと中味メーカーに課税をするという方式です。すると、リターナブルの場合、その次からは課税されませんが、ワンウェイの場合、毎回課税されることになります。もともとデンマークには、缶メーカーがないため、ドイツの缶ビールが入って来て市場を席巻したのに対して、デンマークのビール会社が缶の回収義務化を提案し、デンマーク政府がこのいわゆる製造時課税法をいれて、リユースするものに関しては二度目以降の課税を免除するという方式をとったわけです。このデンマーク政府の措置に対して、ドイツのビールメーカーがEU裁判所に訴訟を起こして、裁判になりました。EU裁判所は、環境保持ということでデンマーク側に旗を上げた結果、実施されているというのがデンマーク方式です。
  初めに我々が考えたデポジット制度は、アメリカ・オレゴン州でも失敗をしておりますし、日本でも56年から58年に京都で実施しましたが、これも失敗しております。いくつかの市民団体のみなさんも欧米のように日本でもデポジットをということで今日でも活動していますが、これまでの事例を見てみるとデポジットが必ずしも成功していないのに対し、デンマーク方式というのは製造時に課税することで平等感を持てるという意味でリーズナブルな面を持っていると思います。
  ただ、デンマークが人口600万人という神奈川県の人口にも満たない国であるのに対し、人口1億2000万人の日本でそれができるのかどうかが一つの大きな問題としてあります。また、デンマーク方式の課税は、リサイクル費用とワンウェイ課税容器のバランスの問題だろうと思います。おそらくワンウェイ容器の方が、課税しても安いのであれば、ワンウェイ容器から離れることはないでしょう。だから、この課税をどこにするかということです。下手に課税すると、消費者にとっては値上げという問題になってくることもありますし、この辺をどうするかというのが検討項目の一つです。それから、税の負担を誰がどのように分担するのかということも問題です。さらに集めた税をどのように使うのか、我々とすればそれはリサイクル促進のための費用にすべきだろうと思いますが、それも検討すべき課題ですし、今、ドイツ対デンマークという話が出たように輸入品の場合はどうするのかということも一つの問題です。それから、容器メーカーと中味メーカーの問題で、例えば容器メーカーは納税義務だけになるのか。あるいは中味メーカーは再使用義務を課すのか、その必要があるのかないのか、このような問題も検討される必要があります。それから、肝心となる大きな問題は、今日本にできていない容器のリサイクルシステムをどうやってつくるのか。これは自治体がやるのか、あるいは第三者機関がやるのかも、これから検討すべきだと思います。
  しかし我々とすれば、この製造時課税方式は、強制デポジットより、ある意味では一つの合理性をもっているわけですから、これによって中味メーカー、あるいは容器メーカーさらには市民、行政にいたるまで賛成が得られればということで、34Pにいくつかの作業課題を残しつつ、ぜひみなさんにご検討いただき、かつ手を挙げる方は、プロジェクトに参加していただきたいとよびかけ、提案を終わらせていただきたいと思います。
 
(司会)どうもありがとうございました。
(高津)私たちも古紙で同じような問題に直面しておりまして、古紙の場合はデポジットというわけにはいかないので、製造段階か輸入段階に課徴金ないしグリーンタックスを考えています。しかし、問題点としても同じようなことが多々起きてくるので、今のその試みないしは手法がどういう風になっていくかを物凄く楽しみに見ております。
(小塚)前回の準備会運営委員会でも古紙が問題になって、早くこのリターナブルびんの問題を解決して、次は古紙に取り組もうという意見が出ていました。ところが、この問題は色々の案がありますが、中々議論が煮詰まらないのが現状で、ここに上げた調査項目等々も含めて、できるだけ早くまとめて提案をする、あるいは国会に提出をすることをやってみたいと思います。そのためには、我々も色いろな所の合意形成が必要だということで、自治労や市民グループの方(個人参加)にも参加していただいて検討をしました。 
   しかし各自治体では、10品目全部が対象となるリサイクル法本格施行の2000年から逆算して、自治体、自治労ともどもその準備で手一杯のようです。2000年に実施するということは、98年度予算でそれを計上しなくてはいけない。したがって、それは今年の7月までにある程度の調査および準備予算が必要であって、それの10品目を本格的に回収するためには、99年度中に施設を完備しなければ2000年までに準備ができません。したがって、自治労も自治体もデポジットだとかデンマーク方式ということを悠長に言っていられないという様子でした。よって自治労、自治体も大変だという気がしました。
(村山)ここに出ているのはびんのケースですが、私たちは地域の中で古着のリサイクルをしているボランティアグループです。今、日本の中で古着のリサイクルをしているところが少なく、全国から古着が送られてくるような状況なので、びんも古紙もそうですが、10品目といわず大きな目で考えてもらいたいと思います。また、デンマークに行ったときに、老人ホームでもどこでも缶が使われていなくて、びんがほとんどラベルをはがせば使えるという規格が統一されていましたので、その辺も検討していただければと思います。
(小塚)古着もできるだけ考えるようにしたいと思います。また、デンマークには缶メーカーがないそうですから、缶が使われていなかったのでしょう。日本はアルミ缶からスチール缶まで、世界に名だたる多様な缶があひとつの業界となっていますから、この合意をとらなくてはいけませんので、大変な問題だと思います。ぜひ、一緒に議論できたらと思います。
(司会)この問題は、最初、びん規格法の話から入りました。びんを統一した規格にしてリユースができないかということが、中々難しいということで、製造時課税のデンマーク方式に話がうつったわけですが、今の方のご意見は「またびん規格法を」というお話でした。
(原子)このデンマーク方式の課税はびんだけのようなお話でしたが、その他の容器への適用もお考えでしょうか。
(小塚)びん以外の容器も全部が対象です。デンマーク方式でも、実際ドイツから入ってくる缶に課税したいということで始まったわけです。そういう意味ではびん、缶、ペットボトルすべて製造時に課税するということです。ワンウェイでいってしまえば、びん、缶、ペット全てに課税されるが、ペットボトルでも自分のところで回収してリユースすれば、それは課税されないということです。リユースすればする方が有利となってリユースを促進することにならないかというのが、この提案の要点だと思います。
(原子)デンマークでも、そういう形でやられているのでしょうか。
(小塚)そうです。
(司会)このデンマーク方式では、輸入品はどうやってチェックするのでしょうか。例えばドイツから来たびんが、またドイツに戻った場合、デンマークにはドイツに対する課税権はないわけです。そして、輸入されたときに、それが新しいびんかどうかわかりませんが、その場合はどうするのでしょうか。
(小塚)ほとんどドイツから入ってくるのは缶ビールなので、輸入時にその缶に対して課税をしているそうです。缶というのは、リサイクルはできてもリユースはできませんから、その意味では合理的といえば、合理的だし、日本で逆にできるのかと唸らざるを得ないという気もします。
(司会)ぜひ面白そうだから自分もこのプロジェクトチームに参加したいという方がいらっしゃったらぜひ、どしどし参加していただきたいと思いますし、こういう問題は色んな方々が色んなことをされていますから、こういう人の意見も参考にしてはということがあればお教えいただきたいと思います。どうもありがとうございました。