【第四部】新しい市民社会の骨格づくりを検証する

A情報公開条例案−情報公開法案

三宅弘(自由人権協会事務局長)
●個人情報保護法


   昨年の12月に要綱案が総理大臣に意見具申されました。その後、どのような作業が進んでいるかというと、来年の通常国会、来年3月が事実上期限になっていますが、それまでに要綱案を法律案として取りまとめて、総務庁の方から内閣の法案、いわゆる閣法として提案したいということのようです。要綱案の中で関係法律との調整というのがあり、たとえば前回もお話したと思いますが、政治資金規制法には、収支報告の閲覧という規定がありますけれども、写しの交付というのがありません。そこで、情報公開法ができたら情報公開法では写しの交付、つまりコピーがもらえるのかどうかという問題になると、自治省など意見を述べている省庁は、「その法律の趣旨を尊重して欲しい」と言っております。この「法律の趣旨を尊重する」とは、政治資金規制法の趣旨を尊重すると、閲覧は認めるが、写しの交付は認めない、すなわち情報公開法からは、そうした規定を外して欲しいという話が出てくるわけです。実は水面下でそういうせめぎあいを今やっているようですが、なかなか外部にはその辺の話が出てこないため、これは本当にウォッチをしないといけません。そういう問題などについて、各省庁が何を言って情報公開法に抵抗しているのかということについては、今まであまりデータとして出てきませんでしたが、情報公開法に対する官僚の抵抗ということで奥津さんがコンパクトにまとめた本があります。
   結局は、官僚の抵抗をどう払いのけて、いい法律をつくるかが問題になるわけですが、与党は政府案の動向を見ている状況で、民主党が独自の情報公開法案を今国会に上程したいと作業を進めています。時々、民主党から意見を求められておりますので、アドバイスをしたりしています。情報公開法を求める市民運動や、私の所属している自由人権協会で、どういう法律にして欲しいのかということについて、修正案を出しています。たとえば@の第1目的のところには、傍線が横に引いてありますが、「知る権利を保障し」という言葉をそこに入れて欲しいというようなことです。
   第二の定義のところは「ホ」を追加して欲しい。「ホ」に追加というのがありますが、法律により直接設立された法人もしくは特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人のうち、総務庁設置法第4条第11号の規定の適用をうけない法人。つまり、この「ホ」は、いわゆる特殊法人の規定です。特殊法人には情報公開法を適用しないという今の政府律案では困るということで、「ホ」を追加して欲しいという話をしています。もう一点、今日のお話に関わるところでは、第6の所で「原則公開」があります。「原則公開」は第5にありますが、第3の二段目に「何人もこの法律により、行政機関の長に対して、行政文書の開示が請求できるものとすること」とあります。これは全国330を超える自治体の情報公開条例から一歩踏み込んで、「何人も」と規定して日本に住んでいる外国人だけではなく、外国に住んでいる外国人も、外国にいながら手紙で請求できることになります。われわれもアメリカに請求するときは英語で手紙を書きますので、外国人が請求する場合も、たぶん日本語でということになるのでしょうが、もし英語で請求がきたらどうするのかが、楽しみです。どうなるかはわかりませんが、そういう公開請求に対して、第5「行政機関の長は、行政文書の開示の請求があった場合は、開示請求したものに対し、当該行政文書を開示しなければならないものとすること」という、開示義務があります。ただ、但し書きをつけて下さいという要望はありますが、なぜそれをつけて下さいと言っ 
ているかについては、今日は時間がありませんので、今度出版された『どう生かす情報公開法要綱案』(情報公開法を求める市民運動=市民活動支援・東京ランポ編)を見てください。
   もう一つ今日のお話の中で、第6の1のところに「個人が識別され又は識別され得る情報は非開示とする」とありますが、その「ホ」に追加して欲しいことを入れました。「当該個人が開示することに同意していると認められる情報」という、これが自己情報の開示請求といわれるものです。プライバシー保護のために個人が識別されるものは非公開にするという形をとっていますが、自分で欲しいと政府に求める情報が自分に与えられることは、むしろプライバシーの保護につながるという意味で、自己情報の開示請求の規定を設けるべきだと思います。
   この点については、民主党案や新進党案にはありませんので、「個人情報保護法」と題した法案を自分で作ってきました。この個人情報保護法は、自己情報の開示請求が目的です。15条に(自己情報の開示請求)ということで「何人も、行政機関が保有する自己を本人とする個人情報の開示を請求することができる」とし、21条には「何人も、行政機関が保有する自己を本人とする個人情報について事実に誤りがあると認めるときは、その訂正を請求することができる」としました。こういう条文をきちんと盛り込んだ規定の法律を提案したいということで、急遽、神奈川県の個人情報保護条例や大阪府の個人情報保護条例等々、全国にすでに14,5ある自治体の条例をベースに3日ほどでつくりましたが、自治体で条例が大体できると、法律がつくりやすいという一つの例だと思います。もちろん、都道府県の条例の前に、自由人権協会では、モデル法案とモデル条例案を10年も前に提案しておりますので、それが反映されていますし、情報公開法については1979年に情報公開法要綱というものを出していますので、18年目にしてようやく政府の要綱案ができたことを考えると、私たちの運動が市民立法のはしりではなかったかと自負しております。そういう意味でも、個人情報保護法をとにかくつくってほしいと思います。これに関連して、役人は「1988年に制定した行政機関の保有する電子計算機処理にかかる個人情報の保護に関する法律があるから十分だと」言うかもしれませんが、これには全くの落とし穴があります。かつて、サミットに参加する先進7ヶ国の中で、この個人情報保護法のない国は日本だけだったために、急遽つくって「日本もつくった」と主張したわけですが、88年につくられたこの法律を皆さんお使いになったことがあるでしょうか。多分ないと思います。これは、官報に公示されるファイルだけが限定的に対象になるという規定のため、たとえば警察にある指紋ファイル、犯罪手口ファイルなどは官報で公示しないので制度の対象にそもそもなりません。本当は対象にして、非開示の処分を争う形にならなければならなわけですが、なっていません。法律ができたときに、5年後に見直すということを付帯決議したのですが、2年前に総務庁から、問題がないので見直しは不要であると言われました。誰も使っていない法律ですから、問題が起こらないのは当然だと思うのですが、これは国会の付帯決議が、役人が国民をごまかすための一つの手だてにしかなっていないことを証明している例だと思います。とにかく「個人情報保護法」をつくるべきだというのが一つの提案です。
   それから、またまた動燃のことで色々問題になっている特殊法人をどうするのかという話は要綱案にはありません。特殊法人をそもそもどうするかということ自体が議論になっているので、議論を踏まえてから検討したいと、法制上の措置をとることを義務づけて将来の課題にしています。しかし、法律ができた後で、情報公開法がこれでできたから問題はないという話になると困るので、非常にその点を懸念しています。この修正案では、とにかく入れて問題が多々あるのなら、法律の実施時期を2年ぐらい遅らせて、その間に検討したらいいのではないかという一つの提案をしています。最近の新進党の案や民主党の案でも特殊法人を入れるべきだという意見を尊重していただいて、案文の中に入っています。基本的には、どういう考え方で入れるべきかということで、少し4で書いておきましたが、特殊法人自体の見直しを口実にするのがよくないということで、民営化されない特殊法人は全部入れるという提案です。最近、役所の中の色々雑多な仕事を外庁に委ねるということが政府で検討されているようですが、この外庁を行政機関から外すということでは困るので、外庁も全部対象になるように注意していかなくてはいけません。完全に民営化された特殊法人については一般企業と同様に、原則として企業のディスクロージャーによる方法でいいと思いますが、完全に民営化されない残りの特殊法人については全て法律の適用を考えるべきだと思います。その時に、例えば、NHKは特殊法人として情報公開の制度の対象にしていいのかという議論がまことしやかに出てくるわけですが、これについては、本当に問題があるというのであれば、ここに示しましたように「開示することにより取材の自由又は報道の自由に著しい支障のあるもの」は、非公開にすることができるという形にして、経営の協議会の会議録などは公開するのが当たり前なので、NHKが問題になるので特殊法人のことは後回しにしましょうということは言うべきではありません。細かい問題はあるでしょうが、十分やっていけると思っております。

(司会)どうもありがとうございました。情報公開法ができつつあるようですが、いくつかの論点があります。以前から三宅さんがおっしゃっていることですが、一つは特殊法人の問題が完全に抜けている点です。それから個人情報の自己コントロール権、これは民主主義の基礎の問題で、情報公開と同じく自分の情報は自分で決定する、それがプライバシーの権利でもあるという話を私たちもずいぶん前から言っているわけですが、そういうことがしっかり反映されていない点です。そこの部分が抜けています。また、おそらく意思決定過程の話は前進したとしても、知る権利を正確にはうたっていないため、情報の有無に関する調査を請求することがどのくらいできるのかということもあるのかもしれません。まずこの要綱案の決定過程に、審議会の委員として参画をした後藤仁さん、いかがですか。
(後藤仁)まず個人情報保護の関係ですが、積み残しになっているのはその通りなので、なるべく早く国のレベルでも法律をつくるべきだと思います。そのポイントは今、三宅さんがおっしゃったように、個人情報の自己コントロールの権利をきちんと認めるということです。これは訂正権を含めてということです。私なら私についての情報がどのようになっていて、何に使われていて、間違っていないかどうか、間違っていれば直せるし、目的外使用がされているのならば、それについては目的外使用ををやめてもらう、そういうことを要求できることを認めてほしい。これはOECDその他できちんとした一つのスタンダードがあるわけですし、地方でもそういうことを考えて条例がいくつかできています。もちろん条例にも欠点はあると思いますが、それは補っていけばいいわけで、つくれないという話ではありません。ですから国のレベルでも私は情報公開法とは別に、個人情報保護法をつくるというのがいいのではないかと思っています。
   それから、特殊法人については、多少意見が違います。私は、特殊法人は原則全部無くすという考え方ですので、まず無くすべきです。そのうちのいくつかは普通の会社にして、ディスクロージャーする。それからどうしても行政がやらなくてはならないことは、普通の行政にして、情報公開法の対象にする。それぐらいの整理をすべきだという考え方です。国の予算を出資という形でどのように出せるのかという問題があって、特殊法人を工夫したとは思いますが、出資の問題と出来上がった法人の姿を少しすっきりさせる工夫をすればいいのではないかと思います。株式会社に出資するための特例法はつくっていいと思いますが、株式会社はあくまでも株式会社にすればいいのではないでしょうか。行政機関がそういうことをする必要はありません。行政機関が本来やるべきことは、行政の中で、外庁も行政ですから外庁も含めて行政としてやればいいわけで、それを全部公開法の対象にするという思い切った整理ができないだろうかと考えているところです。
(司会)ありがとうございました。情報公開というのはかなりわかっているような感じがしますが、意外とわかっていないところがあります。実際に使ってみないと、また色んな議論が出てこないのかもしれません。最後に一言だけお願いします。
(三宅)先ほどの話しから抜いてしまったのですが、民主党が今国会で独自に法案を提出することを是非やっていただきたいし、そういうことを求めていきたいと思います。そうすると、秋の臨時国会に向けて、政府も来年の3月までは待てない。行政改革といいながら、なかなか目玉になるものが国民にうったえることができない状況で、さしあたり要綱案もできている情報公開法を、手ごろだから早く出そうという話になりそうです。その時に、民主党やさきがけ、社民党の協議の中に自民党や新進党やその他色々な政党を巻き込んで修正をどんどん勝ち取るという戦略を練って市民サイドで具体的な提案をしていかなくてはいけないし、それはNPO法案と同じように緊急の課題でもありますので、市民立法機構でぜひこの辺についても風をつくってほしいと思います。
(司会)ありがとうございました。