夏の生きものver.1.02

関東地方の梅雨明けは例年7月20日頃だそうです。今年の梅雨入りは6月3日、空梅雨型が予測されています(昨年は98/08/02になって明けました)。暦の上の夏は、立夏(今年は5月6日)から立秋(8月8日)までです。しかし、関東地方では多くの方の感覚的な夏の終わりは、ススキの開花やハヤシノウマオイの「スイーチョン」の鳴き声によるのではないでしょうか。これは処暑(今年は8月23日)の少し前になります。あるいは、残り少なくなった夏休みに比べ、やり残した宿題の山を前にして、ヒグラシの「カナカナカナカナ…」の鳴き声が恨めしく聞こえた昔を想い起こされる方も多い、あの時期と言った方が良いかも知れません。ここでは、この間の植物と小動物の活動の移り変わりを綴ってみようと思います。

木更津周辺の田植えの時期が年々早まって、4月下旬にあっと言う間に終わってしまいます。谷津田の斜面林でフジが新緑にアクセントをつけている頃です。しかし、私の故郷(富山)では子供の頃の田植えは5月下旬、ヤマツツジやササユリが咲く季節でしたから、ほぼ1ヶ月早いことになります。以前は木更津周辺でも二毛作で、オオムギやコムギの収穫を終えて6月上旬に田植えが行われたそうですから、「卯の花の匂う垣根にホトトギス早も来鳴きて、…」で始まる小学校唱歌「夏は来ぬ」の歌詞にぴったり合った時期だったのです。この卯の花はウツギ写真1)の花で、この時季斜面林の林縁でガマズミ、ミツバウツギ写真2)、エゴノキ、イボタノキ、ネズミモチ写真3)、ノイバラ写真4)などが相前後して次々に咲き進みます。また、今年のホトトギスの初鳴は5月16日でした。

芒種(今年は6月6日)から梅雨入りの頃になると、道ばたに生えるホソムギなどのイネ科の外来雑草が黄色く色づき、麦を栽培しなくなった今日でもわずかに「麦秋」を教えてくれます。また、古い竹の葉が落葉し新たな葉と入れ替わる時期で、竹林は黄金色から淡緑色に変わります。斜面林でもシイやカシの仲間(初夏落葉広葉樹の表現が妥当かも知れません)の古い葉が落葉し、枝先に新葉と花序が伸び出て林全体の彩りが変わります。そして、やや遅れて開花するクリが雨上がりの谷津田に独特の香りを漂わせます。続いて林縁に低木のシモツケ写真5)やムラサキシキブ写真6)がピンクの花を咲かすのですが、林全体の濃い緑に打ち負かされて遠目にはほとんど目立ちません。

やはり目立たないものに、田圃の土手のチガヤに混じって咲き出すモジズリ(ネジバナ)があります。このモジズリには、夏至前後に咲く個体群と、初秋ツルボが開花する頃に咲く個体群が知られていて、両者をそれぞれ独立の種として取り扱っても良いのではないかとの見解もあります。この二つの個体群の関係は、前回の特集「春の花」で紹介したヒガンマムシグサとユモトマムシグサとの関係に似ているかも知れません。田圃の”くろ”や谷津田の林縁でヤブカンゾウ、ノカンゾウ写真7)、ヤマユリ写真8)が咲き出すのは小暑(今年は7月7日)の前後です。蓮田で栽培されているハスも同じ頃咲きだし、これまで緑一色だった田圃や斜面林にカンゾウの花の朱色やハスの花のピンクや白色が、突然鳴り出した時計の鐘のように季節の時を知らせます。やがて、早稲の出穂が始まり、青海原の様な田圃は黄緑色に変わり、次第に黄金色になってやがて刈り取りを迎えます。

木更津周辺の田圃の畦草は、田植えから刈り取りまでに少なくとも2ー3回の草刈りが行われているようです。それでも小川のほとりや用水溝などに刈り残されたドクダミ写真9)、ホタルブクロ写真10)、オカトラノオ写真11)、アキカラマツ写真12)は白色で目立たないのですが、一つ一つの花は繊細で可憐です。やや遅れて咲くツリガネニンジン写真13)やヨメナ写真14)もなかなかの逸品です。これらの他にツリフネソウ写真15)やミゾソバ写真16)が湿地などの水分の多い場所で一面に咲き出すと、間もなく稲刈りが始まります。

一方、やや内陸の林では立夏の頃のミズキ、小満の頃のトネリコの仲間(写真17)やホオノキ写真18)、芒種の頃のクリ写真19)、夏至の頃のアカメガシハ写真20)へと節気を追って樹木が次々開花しているのですが、一般の方はクリ以外これらの開花をほとんど気づいていらっしゃらないのではないでしょうか。林床の植物もこの時季案外貴重な種が開花します。ラン科のムヨウラン、コクラン、アキザキヤツシロランなどです。これらについては稿を改めて紹介したいと思います。

ポピュラーなものではオオバノトンボソウ、ツチアケビ写真21)、ギボウシの1種(写真22)、ヒメヤブラン写真23)、ジャノヒゲ写真24)などが林床で、ムラサキニガナ写真25)、クサアジサイ写真26)、フシグロセンノウ写真27)、カワラナデシコ写真28)などが林縁で見つかるでしょう。しかし以前、平地の道ばたや小川のほとりにツユクサ写真29)、コマツナギ写真30)などと共に極めて普通に見られたウツボグサ写真31)は、今では人里離れた山道でしか見られなくなりました。また、水田用水の溝などにごく普通だったタコノアシ写真32)は、今では絶滅危惧種になりそうです。平地での宅地造成や水稲栽培の乾田化と機械化のための基盤整備が重機を用いて進められ、生育環境が急速に失われた性だと考えられています。

植物編