「春の七草」は、セリ、ナズナ、ゴギョウ(ハハコグサ)、ハコベ、ホトケノザ(コオニタビラコ)、スズナ(カブ)、スズシロ(ダイコン)です。それぞれの植物を、この時期野外で見分ける時に助けになりそうな特徴と2,3の生物学的興味を加えたコラムを作ってみました。
稲を刈り終えた田圃へ行ってみると、様々な耕地雑草が見られます。11月下旬であれば、種子で越冬するアギナシやキクモなどは、急いで花を終え果実を結び種子を完成させているのに対し、タネツケバナやスズメノカタビラなどの越年草は草丈が伸びて、そろそろ花を着け始めている様子が観察できます。春の七草に数えられているセリ以外の植物はいずれも越年草としての性質を備えているので、発芽して根出葉をロゼット状に広げ、弱い冬の陽光を集めている様子が見られでしょう。
ナズナは湿った水田より畑の周りなどの乾いた環境に生えます。小さな白い花弁が4枚、十字形になるのでタネツケバナとナズナを見誤らない様に、生えている場所と葉の切れ込みにも注目しましょう。ロゼット葉の切れ込みのパターンは、ナズナとコオニタビラコ(ホトケノザ)でもやや似たところがありますが、コオニタビラコは一度パターンを記憶すると、水田のやや日陰になる場所に生えているので、普通には見誤ることはないでしょう。コオニタビラコとオニタビラコはしばしば見誤ります。しかし、写真に示すように両者のロゼット葉のパターンの違いは明らかです。最も誤り易いのは、コオニタビラコとヤブタビラコの違いでしょう。この両者の違いは花序を見ないとはっきりしませんが、この違いの程度は同一種の変異の範囲に収まるのかもしれません。良く知っているはずのハコベでも、すぐ側にウシハコベが生えていると見誤るかも知れません。ハコベの葉の上面には毛は生えていないのに対し、ウシハコベの葉には両面に毛が生えており、ややごわごわしています。もし花が咲いておれば、めしべの先端(花柱)を見比べてください。ハコベの花柱は3裂(まれに2−4裂)しているのに対し、ウシハコベの花柱では4−5裂しています。セリも水辺などに生える良く知られている草ですが、時には有毒植物のドクゼリ(写真はありません)と見誤る事があるようです。
最近、コオニタビラコが水田から次第に姿を消しています。理由は良くわかりませんが、水田の耕作法が違ってきた為、この様な人為的な攪乱がコオニタビラコの完結した生活史を阻むように働いているのかも知れません。コオニタビラコの場合とは反対に、ハハコグサ(ゴギョウ)に似た外来雑草のアメリカホオコが最近ずいぶん増えました。一般に、外来雑草は入って来た当時は旺盛に分布を広げます。オオマツヨイグサやセイタカアワダチソウの例で知られている通りです。ハハコグサとアメリカホオコの違いを、葉の表面に生えている絹毛に注目して確かめましょう。
カブ(スズナ)とダイコン(スズシロ)には数多くの栽培品種があり、古くから好んで食用にされた歴史を物語る状況証拠でしょう。これらの原種は日本には無く、中国経由で渡来したようです。また、海岸の草原やクロマツ林の林縁などで見かけるハマダイコンはダイコンが野生化したものと一般に考えられています。なお、この種の各地方集団は遺伝的多様性を保持していて、集団の遺伝的分化の機構を検証するのに都合のよいモデルを提供します。