秋の谷津田の斜面林を散策する楽しみの一つは、様々なキノコのなかまに出会う事です。これは、必ずしも食菌(食べられるキノコのなかま)が見つかるからと言う訳ではありません。食菌か毒キノコかさえ判らないものまで含めると、斜面林では実に様々なキノコに巡り会います。今回は木更津周辺の丘陵地で見つかる少数の食菌と、それと間違われやすい毒菌、さらに食菌以外に興味の無い方には足で蹴飛ばしたくなるようなキノコのなかま(菌類)の概略を紹介します。
食 菌:何事にもなにがしかのリワード(報酬)があった方が、労働は長続きします。木更津周辺では秋のキノコ狩りのシーズンは、ヤブカの大群に襲われる事を覚悟して出かけなければなりません。その上、食菌など見つからないかも知れません。自前で食菌を見つけられるようになるまでは、出来ればキノコに詳しい土地の方と連れだって出かける事をお奨めします。ただし、キノコのいわゆる”しろ”は、親兄弟でも教えないとも言われていますから、先ずどんな場所に生えるのか覚える(察知する)事が肝心でしょう。でも、次の食菌が見つかれば、ヤブカの襲撃や自前で食菌を見つけるまでの苦労に見合う、十分なリワードになります。
タマゴタケ(写真1,2)は大抵のキノコ・ガイドブックに紹介されている有名な食菌で、うま味の強いスープがとれます。味と歯切れの良さではコムラサキシメジ(写真3,4)もタマゴタケに引けを取りません。ウラベニホテイシメジ(写真5,6)はこの辺りでは”イッポンシメジ”の名で呼ばれている食菌ですが、しばしば毒菌のクサウラベニタケ(写真26,27)と見誤られて、食中毒の騒動が毎年何処かで起きています。味は豚肉などと大変良い相性を示す食材で、また、大量に採れれば塩漬けにして冷蔵庫で長期保存し冬季にも利用できます。
木更津周辺ではこの3種は一般に利用されていません。最も普通に利用されている食菌はアカハツやハツタケ(写真7,8)で、マツが混じっている林や、特に後者は海岸の防砂林に植林された若いクロマツ林などに出ます。また、この2種は傘や柄を傷つけると乳液が出て来てやがて青緑色のしみに変わるので見誤る事は無いと思いますが、この仲間(ベニタケ科)には毒菌も含まれているので食べる際には十分気を付けて下さい。
この地区で見つかる比較的美味しい食菌として、ハタケシメジ(写真9,10)、キイロイグチ(写真11,12)、アカヤマドリ(写真13,14)を挙げておきます。これらを食べる時は、誤認しない様十分気を付けて下さい。
毒 菌:食菌を楽しむためには毒菌を良く覚えておく事が大切でしょう。テングタケ科には多くの毒菌が属しています。このなかまの特徴は、柄の根本に”つぼ”と呼ばれるやや肉厚の袋状物があります。これは幼菌の時傘と柄を包んでいた名残です。また、多くのものには柄に”つば”と呼ばれる柔らかいフリル状の膜状物が残っています。種によっては、傘の上や傘の縁にもこのフリル状膜の切れ端が残っているのが見られるかも知れません。テングタケ(写真15)、ウスキテングタケ(写真16)はこの特徴を良く備えています。ヨーロッパでは「死の天使(Destroying Angel)」の異名を持つドクツルタケ(写真18,19)やシロタマゴテングタケ(写真20,21)は見かけによらず猛毒物質を持つそうです。また、シロテングタケ(写真22,23)、シロオニタケ(写真24)やハイカグラテングタケ(写真25)は有毒かどうかは知られていませんが、試食は避けた方が良いでしょう。食菌のタマゴタケの亜種として取り扱われているキタマゴタケ(写真17)と毒菌のタマゴタケモドキ、やはりタマゴタケのもう1つの亜種とされている食菌のチャタマゴタケと毒菌のタマゴテングタケモドキの場合の様になかなか見分けがつかないものもあります。こんな場合には「君子危うきに近寄らず」が最良策です。イッポンシメジの呼称で食用に供されているウラベニホテイシメジと毒菌のクサウラベニタケの見分け方は独立したページに書いてあります(→ウラベニホテイシメジとクサウラベニタケへ)。
イグチ科に属するキノコには毒菌がないと言うのは俗説です。ある特定の地域に限れば正しいのかも知れません。木更津周辺ではニガイグチモドキの様に大量に生えているのだが食用に不適なキノコも、また場所によっては毒菌のイグチの仲間も生えています。この他キシメジ科のドクササコの様に、長い間風土病と誤認されていたキノコ中毒も有ります。一般的には、「所変われば品変わる」、つまり地域変異がキノコの場合にも見られます。従って、図鑑やガイドブックの記載や写真にぴったり合わない場合もある事を忘れないで下さい。
その他のキノコ:カビやキノコは厳密な分類群を指した表現ではありませんが、この二つを含む分類群が菌類です。ここでは菌類全体を概観してみましょう。以前は植物界に含めていたのですが、現在では独立の界(Kingdom)、菌界として取り扱われています。私たちが普通に目にする傘と柄を持ったいわゆるキノコ(例えばシイタケやマツタケ)の多くはハラタケ類(真菌門担子菌亜門真正担子菌綱帽菌亜綱ハラタケ目)に属します。
この門(亜門)、綱(亜綱)、目は以下、科、属、種へと順次分類群の大きさが小さくなります。丁度、住居表示に(都道府)県、市(郡)、町(村)、丁目(字)を用いるのに似ています。しばしば、この大きさの異なる分類群は大きさの異なる生物単位だと表現されますが、これは誤解を招く表現だと思います。例えば、地理的にはそれぞれの境界が明確であっても、異なる(都道府)県、(郡)市あるいは町(村)の面積や人口が一定では無いのと同じように、門、綱、目、科、属、種の水準が同じでも、それぞれの分類群を構成する個体の全遺伝的変異(あるいは情報量)や全個体数が等しい訳では有りません。さらに、この両者は「人為的な集合単位」であって「自然な集合単位」では無い事も共通しています。言い方を換えれば、人が便宜的にしかしルールに従って区切った異なる大きさの集合です。
さて、マイタケやサルノコシカケはヒダナシタケ類(真菌門担子菌亜門真正担子菌綱帽菌亜綱ヒダナシタケ目)のキノコで、傘の裏側の子実層が平滑、管孔あるいはスパインと呼ばれる突起になり、ハラタケ類の様な”ひだ”になりません。また、キノコの形にならず、樹木や木材の表面に平たく蔓延っている(腐朽)菌の仲間も含まれます。
ホコリタケ(キツネノチャブクロ)やショウロは次の腹菌類(真菌門担子菌亜門真正担子菌綱腹菌亜綱)に含まれ、胞子を形成するグレバと呼ばれる組織が殻皮に包まれていて、胞子が成熟するとこれが破れて胞子を放出する作りになっています。
キクラゲ類(真菌門担子菌亜門異型担子菌亜綱)に属するキクラゲやシロキクラゲの仲間のキノコは、次の子嚢菌類の仲間の一部のものに外見が似ています。しかし、顕微鏡で胞子を作る構造を見ると特徴的な担子器があるので、担子菌の仲間ではあるが、今までの仲間とはやや異なる分類群(亜門)として特別扱いするのが普通です。
次の仲間は子嚢と呼ばれる独特の構造の中で減数分裂を行って胞子(子嚢胞子)をつくるので、子嚢菌類(真菌門子嚢菌亜門)として取り扱われています。チャワンタケやアミガサタケの仲間は林の中で案外良く見つかるのですが、一般の方には馴染みが薄いかも知れません。また、セミタケなどの冬虫夏草と言う(名前だけは聞いた事があるかも知れませんが)不思議な生態を示すものもこの仲間です。