冬の陽だまりに咲く植物 ver.1.04

寒い季節でもあり、この時季の野外観察と言えば、ほとんどの方は野鳥の観察を想いおこされるのではないでしょうか。しかし、この時季に田圃の土手や谷津田の斜面林の陽だまりに花を咲かせている植物もあります。これは、こんな見過ごされ勝ちな仲間にスポットを当てた特集です。

房総半島の東京湾側では、JR内房線保田あたりまで南下すると冬の寒さはずいぶん和らぐようですが、木更津周辺の気温の変化は年間を通して大体横浜に似ています。また、都市型気候の東京都心より、この時季の日中の平均気温はやや低く推移するようです。しかし、冬の陽だまりでの気温は太陽の高度を反映した局所的な微気象ですから、木更津周辺が都心や横浜より南に位置しているため、やや高いようです。この事はそこに生えている植物の様子でも伺い知ることが出来ます。

木更津周辺では晩秋から外来雑草のセイヨウタンポポが咲き出します。日本固有の種、カントウタンポポがロゼット葉にうずくまる様にして花を咲かせ始める(花序の中の舌状花の花弁が伸びる)のは初冬です。この両種の違いを知る簡便な方法は、良く知られているように花期の花序の総ほう片を見比べることです(写真参照)。私は、この時季に咲いた花が両種とも発芽可能な種子を作ることが出来るかどうか、確かめたことはありません。カントウタンポポやこれに近縁な分類群(taxa)の染色体数が二倍性であるのに対し、セイヨウタンポポなどの外来種は三倍性であることが知られています。

最近、葉の遺伝子産物(アイソザイム)を調べて、セイヨウタンポポと考えられていたものの中に、二倍性の日本固有種とセイヨウタンポポとの間で出来た雑種個体が高い頻度で混在しているとの報告があるようです。セイヨウタンポポはパーセノジェネシス(単為生殖)と言う特殊なやり方で種子を結ぶことが知られているので、この様な雑種個体が出来たとすれば、セイヨウタンポポから二倍性の日本固有種への遺伝子流入が起こった可能性が最も高いように思います。しかし、標識遺伝子の遺伝性が検討されたかどうか(この場合は標識アイソザイムの遺伝性の検討が為されたかどうか)、また雑種個体の染色体の倍数性や異数性などの細胞遺伝学的な事実が明らかになっているかどうか、更にまた、可能な交雑型で人工的交雑実験の結果が予測されたように得られたかどうか等、雑種と考えられる個体のアイソザイムの電気泳動パターン以外にも慎重に結果を検討する余地があるように思います(その後、これらの疑問を明らかにするため、セイヨウタンポポと二倍性タンポポ間の人工交配によって得られた一代雑種のアイソザイム分析や、この二種にそれぞれ特有な葉緑体DNAの断片を標識子にした個体群の調査がなされています。興味のある方は雑誌「遺伝56巻2号p16−18「拡がる雑種タンポポ」をご覧ください)。

一見花が咲いていないようでいて、実は花冠を閉じたままで自家受粉をするホトケノザの閉鎖花をこの時季見ることが出来ます(写真参照)。時には晩秋に、小さなピンク色の普通花が陽だまりで咲き出している事もありますが、この時季の多くの花は閉鎖花です。ルーペがあれば、写真を参考に一度確かめてみて下さい。一個体での閉鎖花と普通花への花芽の切り替えには温度条件がスイッチになっているように思えるのですが、主動遺伝子による遺伝的背景が支配するとの古典遺伝学的な実験結果も得られていて、詳しいことは良く分かりません。

やはり晩秋から咲き出して、寒いこの時季一休みしているのは水田のタネツケバナ、土手のキュウリグサ写真参照)、畑の隅のオオイヌノフグリ写真参照)ではないでしょうか。この植物が再び活発に開花し始めるのは節分を過ぎてからで、この事から春の訪れを知ることができます。キュウリグサはその名の由来の通り、葉を指でもんで匂いを嗅いでみればキュウリに似た匂いがします。これが栽培種のワスレナグサ(forget-me-not)と近縁な仲間だと知ると、落胆する方がいらっしゃるかも知れません。

陽当たりの良い田圃や畑の土手でこの時季紫色の花を見つけたら、それはノジスミレ写真)の可能性があります。スミレ写真)はこの様な場所にも生育するのですが、この時季、スミレはむしろ陽当たりの良いコンクリート塀やブロック塀の割れ目か石垣の隙間で見つかるでしょう。スミレノジスミレの明確な違いは根生葉のパターンでも分かりますが(写真参照)、側弁に細かい毛が生えているかどうかです。ルーペがあれば確認しましょう。この時季咲いた花は受粉して朔果を結びます。また、両種とも初夏には目立たない閉鎖花をつけ朔果を結ぶので、突然朔果が出来たような錯覚に陥ります。機会があれば、朔果が弾けて種子を飛ばす様子を観察して下さい。

最近関東を中心にますますはびこり出している外来雑草のハルジオン写真)が、全草密生した毛に覆われて、短い花茎の先に花(花序)を咲かせているのが見つかるかも知れません。また、初夏になると咲き出すヒメジオン写真)としばしば見誤りますが、混在している場合は茎の断面が中空(ハルジオン)か中実(ヒメジオン)かどうか確かめて下さい。暖冬の年には、咲き残りのヒメジオンハルジオンの近辺で咲いていることがあります。

外来雑草のオニノゲシもこの時季陽だまりで咲き始める越年草です。やはり春になると咲きだすノゲシハルノノゲシ)とは、混生しているとつい見誤る植物です。しかしオニノゲシは全体が壮大で葉質はゴワゴワし葉の先端の棘も猛々しく、名前の由来が素直にうなずけます(写真参照)。一方、アキノノゲシは晩夏から咲きだし寒くなると枯れます。木更津周辺ではこの草が枯れ出すのと冬鳥のカモの仲間が飛来するのと相前後しています。

キク科のオオヂシバリヂシバリ)(写真)も陽だまりでこの時季咲き出します。田圃の畦がこの植物の花(花序)で黄色一色になるのは、春の終わりです。この仲間は、細胞遺伝学的には複雑な背景もあって分類が難しいグループのようです。子供の頃、なぜかこの花を花冠などに使わなかったのは、大人たちのニガナ(属)と言う発音がそうさせたのかも知れません。

花弁が小さく色も微紅色で目立たないので、一般の方にはヒメウズ写真)は気づかれ無い存在の植物ではないでしょうか? 高山植物のミヤマオダマキなどと近縁な東亜固有の植物ですが、乾燥に強いらしく木更津周辺では林縁などに良く生育しています。陽だまりの植物では少し異色なのは、以下の理由によります。

この時季陽だまりで花を咲かせている植物の多くは外来雑草です。外来雑草は人の移動について動き、この国へ渡来した年代もほぼわかっています。一見コスモポリタン(汎世界的)な分布圏をもつ植物のように思える、ホトケノザキュウリグサタネツケバナでも、有史以前から畑作や水田耕作の種子に混入したり、また農具に付着して移動し、耕作地の環境に適地を見つけて生き延びているのかも知れません。一方、カントウタンポポオオヂシバリスミレノジスミレは東亜に固有な多年草ですが、耕作地周辺の火入れや草刈り除草などによる定期的な人為的攪乱を受ける環境に生育圏を持っています。この様に見てくると、陽だまりに生活圏を持つ植物は農学で言う雑草か生物学で言う雑草性の高い植物の仲間である事がわかります。雑草性の高い植物で地上部にこの時季花を咲かせないものに、ヒガンバナノビルなどがあります。これらはこの時季緑葉をのばし盛んに光合成を行って地下の鱗茎に貯蔵炭水化物を蓄えているのです。そして夏の暑い時季に鱗茎は夏眠します。他方、ヒメウズは上の植物に比べれば雑草性の低い植物です。やや人手が及ぶ林縁のような環境に細々と生きながらえ続けるのか、それともいづれ突然変異によるチャンスを掴んで雑草性を高め、陽だまりの植物の住む環境へ躍り出て行こうとしているのか、興味あるところです。

陽だまりに生える植物たちの生物学的一面を紹介しました。さて、皆さんの目にはこれらの植物はどの様に映りますか?

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