春 の 花ver.1.02

春は、様々な植物が葉や枝を伸ばし花をつけ、昆虫の幼虫は餌としてこの若葉や花粉を利用し、更にこの幼虫を餌にして小鳥は子育をします。こんな生き物たちの営みが見られる谷津田の畦や斜面林の植物の特集です。

サクラの仲間は、房総台地に限らず日本の春を代表する植物です。谷津田の斜面林の木々の芽が膨らみ、キブシが咲くのを追ってマメザクラの仲間が咲きます。マメザクラの仲間は低木のうえに花はまばらに着くので普通余り目立ちません写真。木更津周辺では、葉柄に毛があって萼筒のやや短い、ヤブザクラとして独立に取り扱われる個体群が時には見つかります。栽培系統の エドヒガンソメイヨシノが終わる頃、斜面林はヤマザクラ系のサクラで彩られます写真。時には、オオシマザクラ写真が見つかるかも知れませんが、通常は栽培系統の逸出品との区別は困難です。続いて開花するのは、白いブラッシ状の花序を着けるウワミズザクラ写真です。そして最後に人里では様々な栽培系統のサトザクラが開花します。なお内陸部には、これより2週間ほど遅れて咲くカスミザクラが自生するそうですが、私はまだ見ていません。また、ウワミズザクラに似たイヌザクラも未だ出会っていません。

スミレタンポポレンゲソウは、多くの方には馴染みの春の花の名前ではないでしょうか。ここで使われているスミレタンポポは、スミレの仲間、タンポポの仲間を意味していると考えられます。なぜならば、この二つの分類群には沢山のが知られていて、スミレと言う名前(和名)の種はありますが、タンポポと言う和名の種はありません。
さて、「冬の陽だまりに咲く植物」(→)で紹介しましたように、スミレノジスミレは木更津周辺では冬の陽だまりで咲いています。3月になるとタチツボスミレニオイタチツボスミレが咲き出します(写真ヤマザクラの仲間が咲く頃、伐採された斜面林を一面に覆って、この2種が咲き競っているのに出会うことがあります。また時には、この2種に混じってアカネスミレ写真が咲いています。4月下旬になるとこれらはほとんど花期を終え、代わってツボスミレニョイスミレ)やマルバスミレ写真がやや湿った山陰で咲き出します。時にはよく似た環境でアオイスミレヒナブキ)が見つかるかも知れません。この種は木更津周辺では、普通花が終わるとすぐ閉鎖花を着け始める事が多い様です。しかし葉は径3−4センチ程のフキの葉に似た形になるので容易に見分けることが出来ます。

田圃のあぜ道や田の”くろ”でオオジシバリカントウタンポポシロバナタンポポ写真があちこちで咲き出す頃には、農作業が忙しくなります。昭和30年代初頭までのこの時季は、田圃を耕す農耕馬の鈴の響きが聞こえる光景が何処にでも見られました。私には、田圃一面に咲いたレンゲソウ写真の花絨毯の上を転げ回って遊び、大人達から叱られて雲を霞と逃げて歩いた、昔日を思い起す季節です。

やがて季節はカラスノエンドウスズメノエンドウカスマグサ写真が咲く時季へと移り、ニガナノアザミチガヤノビル写真が咲き出すと春も終わりです。昭和30年初頭までは、この時季になっても田植えが終わっていないのでまだまだ農作業の忙しい時期でした。

谷津田と斜面林との境2メートル程の”くろ”は普通、農閑期か春先にきれいに刈り取られます。乾いた場所ならばノジスミレニオイタチツボスミレミツバツチグリ等に混じってフデリンドウホタルカズラヒメハギキランソウ写真等が咲きます。また、山陰でやや湿った場所ならばムラサキケマンクサノオウウマノアシガタカキドオシナツトウダイ写真等が見つかります。春の七草を集めた頃区別のつけ難かった、コオニタビラコオニタビラコ写真の花序がこの時季上がってきていて、両者の違いを花序や生育場所で見比べるのに良いでしょう。

一方林床では、3月中旬に咲き出すマムシグサの一群で、ヒガンマムシグサとして独立な分類群に取り扱われる事もある個体群は、仏炎ほうが赤褐色ないし紫褐色写真を示すことが圧倒的に多いのに対し、4月中旬に咲く多くの個体の仏炎ほうの色は黄緑色写真です。しかし、この仲間を研究しているスペシャリストの一人Mさんは、両者を区別せずユモトマムシグサ写真として取り扱うのが妥当だろうとの見解をとっています。この仲間のウラシマソウ写真は花序の先端付属物が長くひも状に伸びているので見誤る事はないでしょう。
しばしば山野草の盆栽仕立てに用いられているヒトリシズカフタリシズカ写真イカリソウホウチャクソウ写真などは斜面林の春の林床に咲く可憐な野草です。可憐な仲間の「春の妖精(スプリング・エフェメラルズ)」と呼ばれている植物は、房総台地ではどちらかと言うと貴重種です。これらは稿を改めて紹介しようと思います。
ランの仲間のシュンランエビネ写真は、この地方の谷津田の斜面林に足の踏み場もないほど豊富に生育していた場所もあったそうですが、栽培しやすい事も手伝って、乱獲の結果今では探さなければ見つからない程に減っています。初夏に咲くキンランギンラン写真は、群生しないのですが周辺の新緑に囲まれて咲いていると、一段と引き立って見えます。やや内陸に入った北向きの竹林ではクマガイソウ写真の群落に出会うことがあるかも知れません。やはり内陸に入ったやや湿っているが水はけの良い崖などに、シラン写真の群落があります。この2種は、生育環境の変化(竹林は人手が入らないので荒れ、谷津田は放棄され崖や”くろ”の植生が変わってしまった)と乱獲で、この地方からの絶滅が危惧されます。

谷津田の斜面林にはいわゆるドングリの仲間が多く生えています。しかし春先の芽吹きの色彩にうち負かされて、コナラアベマキ写真など秋期落葉性のドングリの花(尾状花序)は見過ごされ勝ちの様です。ひっそりと咲く林内のアケビミツバアケビ写真の花も、やはり見過ごされ勝ちな仲間ではないかと思います。低木ではサンショウハナイカダなども目立たない花を着けます。しかし低木でも、コバノガマズミガマズミミツバウツギの花序には、昆虫が吸密や花粉集めにたくさんやって来る事も手伝って良く目立ちます。遠目にはヤマフジフジか見分けられませんが、この仲間の花序写真にもマルハナバチの仲間が吸密や花粉集めに沢山やって来ます。

春先から谷津田の周りや斜面林を次々に彩っていた植物のうち、秋の実りの時季に向けて成長し続けるドングリの仲間やアケビの仲間のような植物もありますが、ホトトギスが南方から渡ってくる5月20日過ぎには、ナガバノモミジイチゴクサイチゴヤマグワなどはそろそろ果実が熟します。一方、「春の妖精」の仲間のアマナはこの頃になると、すっかり葉を枯らして夏眠状態に入ります。この仲間は夏の間活発な活動を止め、秋口から初冬にかけて翌年の花芽形成の為の活動を地中で再開します。

次ページ

特集リスト
トップページ