雪国で育った私にとっては、積雪期の動物への関心は雪の上に残されたキツネ、ウサギ、ヤマドリなどの足跡で、2月に入って雪面が堅くなるとスキーをはいて動物の足跡を辿るのが楽しみでした。木更津に移り住んでみると、このようなほとんど雪が積もらない地方では、動物の足跡を見つける機会は極めて少なく、足跡を辿る冬の楽しみはこの地方ではかなえられません。それでこの地方での私の関心は野鳥と虫の冬の活動へとシフトしました。しかし、野鳥と虫についての専門的な知識に乏しく、特に冬の虫たちの生活がなかなか見えて来ません。そこで、目についた虫の様子を写真にまとめ、皆様から「その名前は間違いです」、「こんな所を探したら…」、「それはどうなっていましたか」等々の地域のみなさんからの情報提供を願い、また自然への関心に役立てばと思い、この特集を作ってみました。お寄せ戴いた情報は次回掲載の折りに生かしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
もう一つの特集「陽だまりの植物」は、1997年12月下旬から1998年1月中旬にかけて撮影したものが主体になっています。この時季”陽だまり”で盛んに動き回っていた虫は、ナナホシテントウ、ジグモ、ハエ・アブの仲間でした(写真)。ナナホシテントウは交尾しているペアに出会い、持ち帰って産卵を観察しました(写真)。以前、枯れ木の樹皮の下にテントウムシの個体が多数寄り集まっているのを見たことがあります。冬のナナホシテントウのこんな活動は、暖冬と関係があるのかどうか、またテントウムシの場合は冬季にも活動するのが普通なのかさえ私にはよく分かりません。
この辺りの雑木林ではヤママユガの仲間の繭(まゆ)は3種類見られます(写真)。これらは双眼鏡で覗かなければ、遠目にはコナラやクヌギの枝でエサをあさっている小鳥かと錯覚します。特に、ウスタビガの繭は、鮮緑黄色かます形で風に揺られているとメジロの採餌しているところかと見誤るほどです。繭から出た成虫は繭の上やその近くで交尾・産卵し、卵で越冬するそうです。他の繭はコナラなどの梢に枯れ葉にくるまれて下がっている黄緑色のものです(写真)。蛾類生態図鑑などの説明文と照らし合わせて見るとヤママユガの繭ではないかと思います。このヤママユガの繭からは天蚕糸をとるのだそうです。この種もやはり卵で越冬するそうですから、これらの繭はいわば空の情報しか与えないように思えますが、卵のありかや春に幼虫が活動し始める場所の重要な情報になります。卵の大きさは2ー3ミリだそうですから、双眼鏡で直接発見できる可能性は極めて低いでしょう。
蛾類のミノガ科の仲間の蓑(みの)とイラガ科の仲間の越冬繭(”タマムシ”)は冬の間身近に観察できます(写真)。ウメやカキなどに着いているオオミノガの蓑の中には成長したうじ状虫が入っています。たくさん見つかれば、1個犠牲になってもらって蓑の中を覗いてみて下さい。もっとも、最近ではオオミノガヤドリバエ(仮称)の幼虫がオオミノガの幼虫を食べる事から激減しているとの情報があります(99/01/19;朝日新聞夕刊)。実際、写真を撮影したウメの樹に着いていたものは1999年暮れに全くいなくなりました。面白い事に、この場所から北へほぼ5キロメートル進んだ太田山下の道路に面したカキの樹に沢山着いています(Jan.2000)。ちょっとした状況の違いが、あるいはこの天敵の攻撃を防いで呉れているのかも知れません。なお、この仲間の成長した雌個体は羽根が無いか退化していて、蛆(うじ)状虫のまま一生を送るのだそうです。蓑の大きさも雄のものと雌のものでは違うそうです。一方、バラ科の果樹の枝に着いているイラガの繭は堅いキチン質で卵形をしており、中に丸々と太ったさなぎ(前蛹)(写真)が入っています。この蛹を魚を釣るときのエサにするのだそうです。繭には丸い蓋の部分があります。これから出た幼虫は果樹の葉を食べるので勿論害虫です。それより、成長した幼虫の毒針に触れて痛い目に遭わされないよう注意が必要です。
木更津のような冬季暖かいところでは、蝶類は卵、蛹のほかに成虫でも越冬する種がいます(写真)。しかし、越冬中のチョウを野外で見つけるのは容易な事ではありません。私が最初にスダジイの葉の裏にしがみついている越冬中のウラギンシジミを見た時は、スダジイの葉だと思いました。やはり木更津周辺でも成虫で越冬するヒメアカタテハ、ルリタテハは、翅を折り畳むと周りの風景にとけ込んで容易に見つからなくなります。この2種は動きも素早く、撮影するためマクロレンズに換えようとしていると、たいてい飛び去られてしまいます。
越冬中の蝶類が周りの風景にとけ込んでいても擬態とは言わない様ですが、トンボの仲間のオツネントンボが低木の小枝に止まって越冬している様子(写真)に、私はしばしば欺かれるので、これはモズなどの小鳥の捕食から逃れるための擬態ではないかと思っています。この仲間はまた若葉の頃になると体色にブルー色が混じり、この季節の風景にとけ込むような体色の変化が起こります(写真)。
卵で越冬するカマキリの仲間では、産卵場所や卵塊の色が周りの風景と保護色になる様自然の工夫がなされているのでしょう(写真)。しかし、小鳥のエサが少なくなる2月上旬には、雑木林の縁や時には普通には卵塊が見られない田圃にさえ、卵の無い空の卵塊の基質部分だけが落ちているのを目にします。恐らく、モズなどの小鳥に卵塊が発見されて、中の卵がエサとして食べられてしまったものと想像します。
最もしたたかに冬を過ごしているのはクモ類だと思いました(写真)。広葉樹の葉の上面に糸で密な小部屋を作って中に潜むもの、小さな葉を3枚糸で寄り合わせ、中に繭状の卵塊と自らの居室を作っているもの、最も驚いたのは葉面に取り付けたトックリ状の泥の小部屋に住んでいるものでした。これは自ら造ったのか、それともハチなどの他の虫が造ったものを拝借しているのか私には定かではありません。
節気の「啓蟄」は虫たちが活動し出すと言う意味合いだそうです。実際、この地域では積雪があっても晴れればシジミの仲間と思われる幼虫が枯れ草の上でうごめいているのに出会います(98/02/28)。虫たちの冬の季節は案外終わりが早いようです。