担当編集者のKさんから献本された義理もあったから近いうちにこのコーナーで紹介しようと思っていたのだけれど、肝腎の『みちくさ』の発行がずれこみにずれこんでしまい、気がついたら発行から1年が経ってしまっている。
さて本書。タイトルの通り、12人の部落出身者へのインタビュー集である。1960年代生まれが4人、1970年代生まれが7人、1980年生まれが1人。最年長が1961年生まれ、最年少が1980年生まれ。この『みちくさ』の第18号と第20号で「H2O(人権・部落解放を“熱く”語る全国若者交流集会)」の報告を書いてくれている川口泰司さんも、お姉さんと一緒に登場している。
こんな差別を受けました、だから差別と闘います、という話ではない。それどころか、「被差別体験はない」と言い切る語り手が何人も出てくる。インタビューの眼目は、彼ら彼女らの生い立ちや現在の生活に、あるいは将来の展望に、部落問題はどんなふうに入ってきているのか、にある。語り手たちはそんなゴリゴリの活動家ではない。組織に無縁の人もいるし、けっこう運動に批判的なことを口にする人もいる。真っ向から解放同盟に敵対する人は、さすがに本書では出てこないとはいえ。どちらかといえば、部落出身であることへの戸惑いこそが見え隠れするくらいである。その揺れ、揺らぎこそが今日における部落問題なのだ、と思う。
部落民と会ったことがないと言う人は結構多い。多くはたんに知ろうとしないからにすぎないのだが。「あなたの隣の部落出身者」を実感させる力も、本書は有している。
ルポルタージュでも手記でもなく、インタビューである点に、本書のユニークさがある。語りはもちろん本にするにあたって編集されてはいるが、それをどう読むのかはまったく読者にゆだねられている。かえってそのことによって、語りが、また次なる新たな語りを触発していく。そんな予感をさせる。
最近、部落の若者のアイデンティティについての本が、もう一冊出ている。松下一世(著)『18人の若者たちが語る部落のアイデンティティ』だ。
聞き取り調査に応じた大阪の部落青年のアイデンティティを分類して「部落アイデンティティ中心志向型」「多元的アイデンティティ志向型」「アイデンティティ葛藤型」「モラトリアム型」なんて括るあたりは「おやっ?」と首をかしげたりなんかもしてしまうのだが、引用されてくる語りは、やはりというべきか、迫力もの。地域の解放教育や解放子ども会の活動との葛藤なんかは、ひょっとすると大阪府という地域限定の課題なのかもしれないが、これまでそんなに表に出てくることのなかった声ではないだろうか、と思うのだ。提示されてくる分析に賛成するかどうかは読んでから考えるとして、一読の価値はあると、これまた思うのである。
ちなみにこの本は、部落解放・人権研究所が1995年から1997年にかけて大阪府下の部落で行なった生活史聞き取り調査の調査報告書、部落解放・人権研究所(編・発行)『部落の21家族――ライフヒストリーから見る生活の変化と課題――』(2001年5月)の中の1章を独立させて、ブックレットのサイズの本にしたもの。
角岡さんが阪大で部落問題論の授業を持っていた頃、毎年のように、部落の内臓食の紹介をした。ぼくらも、油かすを入れた「かすうどん」の炊き出しを手伝ったものだ。(それはいったいどんな食いもんやと。この本を読みたまえ、きみ)
そんな角岡さんが、部落はもとより、海外にまでその足をのばしてホルモン食の旅に出た。鍋奉行ならぬホルモン奉行ということで、カバー写真もお奉行さまの扮装。ちょっと悪乗りのような気もしなくはないが、それはそれで、部落問題にも遊び心、楽しもうという姿勢を持ちこもうという路線なのだ。
脊髄とか脳を、いつか口にしてみたいと思っていた。BSEのために危険部位に指定され、出回ることは当分ありえない。今や奉行のルポをかみしめながら解禁の日を待つしかないのが残念。(本書で紹介されている牛タンのお店には、行ってきた。)☆☆☆
(ひろおか・きよのぶ)