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部落問題と私【その2】

〜非出身者として部落出身者とどう向き合うか〜

福嶋 順

 解放研をやっていて、「自分も部落出身者だったら楽なのに」と思うことがしばしばありました。運動の中では、えてして被差別の立場にある人の発言力というのは大きくなりがちですし、運動の中での立場も得やすいように思います。けれど被差別の立場を願うという逆転した発想が生まれてくるのは、もっと深いところに理由があったように思います。それは「差別者となること、差別者と規定されることへの恐怖感」でした。

 差別をされる立場に置かれるのは常識的に考えても嫌なものです。けれど同じくらいに、自分が差別をする人間だと規定されることの恐ろしさを感じていました。差別者という言葉は、それを向けられた人の全人格を否定します。人間として「失格者」です。自分が活動をする動機の一番深いところで、差別者とならないための、差別者と呼ばれないための免罪符が欲しい、そのために活動をするという気持ちもありました。

 けれど実際はそうではありませんでした。結論からいえば、活動をすることは何の免罪符にもならなかったばかりか、むしろその反対のように思えました。いつも気になってしまう視線がありました。もちろん被差別の立場からの視線です。被差別の立場に立ち、差別を無くすためにともに活動するのが解放研のはずでした。そしてそのために常に考えなければならないことは、自分は本当に被差別の立場に立てているのだろうかということでした。「試されている」という意識があり、実際にそう言われたこともありました。そう言う意味では私は活動の中で、出身者をまさに出身者としてしかとらえられなかったのです。出身者の目を気にして優等生的な答をしようとしている自分に気づいた時、解放研をやっていて楽しめない根本にも気づいたような気がしました。

 ここに至って、自分は何のために活動をしているのか考えました。出身者に認められるために活動をやっていたのではない、自分のためのはずでしたし、そうでなくてはならないと思ってきました。けれどすでに運動の中に入ってしまった自分にとって、被差別の立場に立てない、被差別者から認められない、信用してもらえないということは、「差別者」と規定されることにも等しいように思えました。被差別の立場を持たない以上、差別者とならないために、運動の中にいる入間として、被差別の立場から認められるために、粉骨砕身して差別に取り組むことしかないように思えました。けれど私には他にもたくさんやりたいことがありました。結局のところ、差別と闘う者にもなりきれず、差別者となる恐怖感との間で、板ばさみになっていた、もう少し正確にいえば、自分を板ばさみにしていたのです。

 この時ほど強烈に、被差別の立場が欲しいと思ったことはありませんでした。それを手に入れることによって初めて、どこまでも続く板ばさみの状態から解放され、「運動に関わらない自由」が得られるのではないか、そう思っていました。被差別の立場を持たずに運動の中にいるからこそ、際限なく求められ、試されるような気がしていました。

 こうした問題はけして私だけのものではありませんでした。問題意識を共有できる本も読んだことがあり、解放研内でも話をしていくことはできたでしよう。けれど私には、それをしていくための動機がもうありませんでした。今、あらためて考えています。どうすればよかったのか。非出身者の立場として部落出身者に対してどう向き合うのか。はっきりしたものはまだ見つかりませんが、以下にいくつかあげてみようと思います。

 ひとつは、自分にとっての活動とはなにかということを、もう一度つきつめるということです。何がやりたいのか、なぜやりたいのか。被差別の立場にあるものを孤立させないためになどというように、自分以外のところにその理由を置くのではなく、あくまで自分の中からつかみ出したもので考えるということ。自分を大切にするということ。やりたくなくなったら休むということ。運動の中の、論理や対話、実践を離れたところの、個人としてのつながりを大切にできたらと思います。論理によって壁を「乗り越える」というやり方もあればじわじわつながりを作ってゆくうちに、気がついたら壁がなくなっていたなんてこともあるのではないでしょうか。活動全体としても被差別の立場の思いを絶対のものとするのではなく、被差別の立場を持たないものの「差別者となることへの恐怖感」を、もっと考えてみてもよいのではないかと思います。偏見、ねたみ、過度の一般化という言葉で片づけられてしまうことの多い、「部落は怖い、糾弾は怖い」という意識も、もしかしたらつきつめてゆけばここから始まっていることもあるのではないでしょうか。

 「部落間題と私」もう少し書きたいことは残つているような気がします。次回ももう少し書けたらと思いますが、個人的には忙しくなってしまうので、まだちょっとわかりません。下に私のE-mailのアドレスを記しておきます。もしこれを読んでのご意見などあれば、こちらに直接送っていただけたらうれしいです。

福嶋 順 f-jun@hus.osaka-u.ac.jp

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