初出はFSHIMIN
|029/030 SDI00625 福島 誠 「インターネット市民革命」紹介文
|(16) 96/06/09 08:38 016へのコメント

『インターネット市民革命 〜 情報化社会・アメリカ編』
岡部一明(おかべ・かずあき)著
(御茶の水書房 税込み2884円)

明日10日、札幌で講演会をやる岡部さんの実像は、ちょっとフシギな人です。

1)岡部さんは優秀なアジテーターである
 岡部さんの本を読んでいると、フシギな元気がでてきます。私がパソコン通信
にはまり、シスオペにまでなってしまったのも、その元気がきっかけなのですが、
たぶん、岡部さんの根底にある楽天的な考えかたによるものなのだと思います。
 わたしだけじゃなくて、初期の「市民運動のコンピュータネットワーク」には
岡部さんの本に影響を受けた人が多かったことを記憶しています。声高に叫ぶわ
けではなく、淡々と書いているのですが、それでも動かされてしまった身からす
ると、岡部さんは天才的なアジテーターである、ということになります。

2)岡部さんはローテクの信奉者である
 インターネットの本を書くくらいだから、自宅にワークステーションと専用線
を引いている・・・と思いきや、今や日本でも使っている人が珍しい、PC9801UV
なんぞでインターネットしているのですね。(2年前まではハードディスクもな
く、フロッピーベースで動かしていた)
 十年前に本を出した時には、当時すでにPC98の天下が始まっていたのです
が、PC6001かなんぞで海外のネットにつないでいたのでした。このクラスの達人
になると新機種なんぞを追いかけることは問題ではないのかもしれません。日本
でインターネットの本を出した著者の中では、まちがいなく一番低機能の機種を
使っているのでありましょう。「貧乏人にとってのインターネット」という題名
で講演ができる数すくない人でもあります。ま、その分、実務にはむいてない人
かもしれません。
 岡部さんはローテクの機械を使って、ハイテク社会の未来をも見通す、米国
桑港中国人街に居をかまえる現代の仙人なのであります。

3)岡部さんの本はナガモチする
 パソコンの本といえば半年で古くなってしまうのが運命ですが、岡部さんが
86年に書いた「パソコン市民ネットワーク」は10年たっても、やはり面白い
本でありつづけています。(すでに版元の技術と人間社では品切れ)
 個別の機械だのソフトウェアだの技術だのにとらわれずに、ネットワークを使
うということの本質をズバリと書くので、内容が古くならないのでしょう。

 今度の本も、本当なら1年くらい前に出るはずだったらしいのですが、念入り
に取材をしていたためか、あるいは岡部さんの生来のズボラさによるものかこの
時期の発売となりました(あと半年早ければ、もうすこし売りやすかったでしょ
うね)
 岡部さんが10年ぶりに書いたパソコン通信の本「インターネット市民革命」
は、前書と同じように、低く、小さな声で語りかけていながら、しかし、強力な
アジテーションの書でもあります。ウィンドウズもネットスケープも使わないで
書いた、インターネットの本。「車なしでは歩けない」シリコン・バレーを列車
とバスを乗り継いでスニーカーで取材する岡部さんだからこそ書ける「今後10
年間読み続けるパソコンの本」になったのだろうと思います。

                           福島 誠