学生ＹＭＣＡ

世界YMCA・YWCAインターナショナルオブザーバー報告
NO. １７　（～続き）

●アブ・イサ---ガザＹＭＣＡの偉大な老人

ガザＹＭＣＡを描くのに、アブ・イサについて語らずにはすまされない。「アブ・イサ」とはイサの父と言う意味であり、彼は前の総主事であり、現在の総主事のイサ・サバの父である。誰もが彼をアブ・イサと呼ぶが、実際、私が彼の本名がムサ・サバであるということは偶然一度目にしただけだった。彼は１９５２年にガザＹＭＣＡが始められて以来の人物で、彼の存在ゆえに今日のガザＹＭＣＡがこのように立派でよく知られるようになったのである。

毎朝、週７日、彼は朝７時にＹＭＣＡに来る。午後には彼は昼寝のために帰宅し、午後４時にはまた夕方のプログラムのために戻ってくる。まるで、彼は全ての人を知っているかのようだ。初めて彼に会った時、私は混雑したガザ市内を彼と車で走っていて、ほとんどの人が彼に挨拶をするのに驚いた。前回、私たちはガザ市の南45ｋｍにあるラファまで出かけたが、同じことが起こった。老人が彼に挨拶をし、若者も彼に挨拶をし、彼はガザの有力者にも個人的な親しいつながりを持っている。

　私は、マドリードの中東和平プロセスでのパレスチナ交渉に参加し、現在はガザ地区のイスラム組織を率いているHaider M Abdel Shafiに会おうとした。彼は指導的なパレスチナの外交官である。「わかった。」とアブ・イサが言った。実はこの２人は何年ものテニス仲間であるということが判明した。また私はパレスチナ人権センターのディレクターであるＲａｊｉ　Ｓｕｒａｎｉにも会いたかった。「わかった。」と彼はまた言った。彼らは互いにとてもよく知っていて、Ｒａｊｉ　Ｓｕｒａｎｉの子どもたちはＹＭＣＡのプレルクールにいるということだった。この会見のどちらも、１日のうちに決まってしまった。私たちがパレスチナの司法相に会えなかったのは、たまたま彼がカイロにいたためだった。

　アブ・イサは７３才だが、ＹＭＣＡに来る若者たちは彼のまわりに始終たむろしている。彼と私がプレスクールに行った時には、子どもたちは彼のひざに座りたがった。

　彼の家族は元々ガザ出身だが、彼自身は現在はガザから２０ｋｍ離れたイスラエルの町となったＢｅｅｒ　Ｓｈｅｅｖａで育った。私たちは、一度、パレスチナの若者の石を投げるくせについて話したことがあるが、彼はこう言った。「それは彼らの祖父母から引き継いだものだ。Ｂｅｅｒ　Ｓｈｅｅｖａでは３０年代に、すきあらば英国人に向かって石を投げたものだ。私は電話線を切るために電柱にも攀じ登ったものだ。」１９４８年、一家はガザへ退去させられ、それ以来ガザに住んでいる。彼はエルサレムにも西岸にも旅行しているが、長い期間ガザを離れたのはただ一度だけで、カイロのエジプト刑務所で１年間勤務をした時のことだ。彼にはカイロに一人、チリに一人兄弟がいるし、娘がアメリカにいる。しかし、彼はパレスチナが占領下にある限り、それらを訪問することを拒んでいる。「私の祖国が自由でない限り、私はどこへも行かない。」

　アブ・イサは強い信念を持った男であり、とどまるところを知らない語り手であり、広い心の持ち主であり、ＹＭＣＡの指導者の第一人者である。私は彼のことが、大好きだ。

●テーマ：ガザの生活

経済状況

　インティファーダの開始以来、ガザでの生活はますます悪化した。ガザでは区域内には職を得る機会はほぼ皆無であるため、イスラエルへ出入りすることに労働力を完全に依存している。産業に資本が投資されることはほとんどないが、それは主としてイスラエルの閉鎖政策が資本投資をリスクの高いものにしているためである。人口の過密とイスラエルによる土地の接収のために農業で生計が成り立つ人はほとんどいない。海域もイスラエルに管理されているため、漁業で暮らせる人もいない。

　ガザでは、産業も農業も漁業もほぼ成り立っていないという経済状況である。第一および第二セクターの両方において、ガザの人々は、外国へのアクセスに100%依存している。既に1年以上におよび、この外国へのアクセスが阻害されている。さらに、ガザ地区は世界で最も人口密度の高い地域であるため（注４）、必要最小限の経済が存在しない。財政状態は1948年以来おおむね悪く、ほとんどの人々には貯金がほぼ全くない。ガザでは住宅が非常に高価であり、需要と供給の間に大きな隔たりがある。人々が非常に困難な状況で暮らしていることは明らかである。

パレスチナ中央統計局(注５)によれば、2001年8月のガザの状況は以下の通りである（注６）。

・3万8千世帯(21.9%)が、インティファーダの開始以降収入源を失っており、56.4%では収入が50%以上減少した。

・世帯あたりの平均収入は、459ドルから212ドルに減少した（注７，８）。

・ガザ人の81.5%が貧困線以下で暮らしている(世界銀行は、パレスチナの貧困線を、大人2人および子ども４人からなる世帯で月あたり388ドル、1人1日あたり2.1ドルと定義している)。

多くの家族はUNRWAの食料援助に依存しているが、UNRWAの財源は不充分である。飢餓の報告はないが、多くの世帯の食事がほぼパンとお茶だけの水準にまで低下しているため、栄養不良は明らかである。この状況が自然災害や不測の難民問題によるものではないことを留意しなければならない。それは、Eretz検問所の閉鎖によるものなのである。

●若年層と失業

一般の失業率は、インティファーダ以来、急上昇している。占領以前から若年層の状況は悪かった。イスラエルでの労働許可は、25歳以上の既婚男性にのみ与えられ、多くの場合、30歳以上（注９）でなければならなかった。1997年の統計によれば、ガザの人口の76%が30歳未満であり、25%が15歳から30歳であった（注１０）。それ以来、この年齢群の比率は上昇しており、ガザにおける15歳から30歳の若年男性数は15万人に近いと考えてよいであろう（注11）。これらの若年男性の多くは高校および大学に進学することを選択しており、それは関心があるため、あるいは他に選択肢がないためであった。大学院を卒業した、あるいは大学で好成績を残したガザの若者でさえ、仕事を見つけることはほとんど不可能である。

若い女性の状況はいっそう悪い。ガザはおおむね保守的なイスラム社会であり、男性だけで労働力が足りているため、女性の多くは早くに結婚し、自分の知的能力を使用することを忘れるよう強いられる。

●ユダヤ人入植者

ガザには6千人のユダヤ人の入植者（注１２）と116万7千３５９人のパレスチナ人（注１３）がいる。入植地は3ｶ所の主要な地域に集中している。

南部では、エジプト国境のすぐ内側に入植地がある。取り上げた地域はガザの海岸地帯の約33%を占め、ガザ地域で2番目に大きな町であるKhan Yunisのかなりの部分と接している。入植地からイスラエルへの道により、最も南に位置し、パレスチナの最貧困地域であり、イスラエルによる砲撃の最も深刻な影響を受けている町であるRafahが隔絶されている。私は、Abu Isaとともにお昼頃にこの町を訪れたのであるが、町には誰もいなかった。そのわけを彼にたずねたところ、彼は「寝ているんだ。ここの人々にとって夜は寝るには危険すぎる。彼らは、毎晩砲撃を受けている。」と答えた。

別の入植ブロックがイスラエルとの北部国境に沿って存在する。その入植地域はガザに非常に近く、そこを通過しなくてはEretzの検問所に行けない。

残りの1つの入植ブロックは、中心部にある。地域を中央で分断し、南北間の移動を危険にすることは別にして、この入植ブロックは、まさに地域全体で最も重要な水源に位置している。

これらの入植ブロックを全て合わせると、入植地、その道路、入植者の保護を目的としてガザに配置されている軍隊は、ガザの42%（注１４）を占めている。このことは、ガザが非常に小さく狭いことだけではなく(ほとんどの地域が幅8km未満である)、検問所、軍隊による管理、入植者の暴力によりガザが3つに分かれていることを意味している。

ガザは、何の補償もなくガザ市民から奪われており、デーツ、イチジク、オレンジ、オリーブなどの農園がさらに根こそぎにされていることが毎日報告されている。これは常に軍隊により、「安全確保」のために行われている。

さらに深刻な問題は、長期にわたり懸案となっている水の問題である。イスラエルは水を管理しており、入植者は1人あたり1日550リッターの水を使用すると推定されるのに対し、パレスチナ人は70リッター程度しか使用することができない。WHO（注15）によれば、人間の基本的な生活に必要な水の量は、100リッターである。ガザの自然の水源には、将来の需要を満たす能力がない。

ガザの大きさは365平方キロメートルであり（注16）、全般的な人口密度は1平方キロメートルあたり3214人である。イスラエルがガザの42％を支配していると考えると、パレスチナ人の地域の人口密度は1平方キロメートルあたり5514人であるのに対し、イスラエル人の地域の人口密度は39人である（注17）。約82万人のパレスチナ人、すなわちパレスチナ人の71%は難民である（注１８）。

●外部へのアクセス

イスラエルの入植者にはガザを分断してイスラエルに通じる数本の道路があるが、パレスチナ人には2本の道しかない。すなわち、インティファーダの開始以降、パレスチナ人の通行が禁じられているEretz検問所とエジプトおよびイスラエルにより管理されているエジプト・ガザ国境である。ガザの周囲では、エジプトとイスラエルの国境には全てフェンスがはり巡らされており、ガザでは人々は海岸から2kmしか海上へは入ることができない。（漁は狭い地域でしかできない）ガザの人々は東エルサレムおよびヨルダン西岸に行くことができない。ガザを離れる唯一の方法は、テルアビブの空港を使用する許可をイスラエルに申請し、外国に行くことである。西岸の人々とガザの人々が会いたい場合も、同様にして外国に行くしか方法がない。

引用

Mousa Saba、12歳、ガザYMCA（注19）（イギリスおよびアメリカによってまとめられたテロリスト組織のリストについてのコメント。そのリストにはいくつかのパレスチナ人の組織も含まれている。）

「私は、アメリカの外相代理が、パレスチナ人の組織をテロリストだと言ったことがとても頭に来る。私たちはテロリストじゃない。私たちは祖国を自由にするために戦っているのです。それから、私は、西側の国を喜ばせるためにパレスチナの自由の戦士を捕まえるパレスチナ人の権威者に対してもとても怒りを感じる。」

Dr.Haider M Abdel Shafi,、指導的なパレスチナの外交官（パレスチナの政治システム、および明らかにパレスチナ問題であることを世界が納得することに進展がみられないという点についてのコメント。）

「我々パレスチナ人にとって、主要な問題は我々が統一することが非常によくないこととみなされ続けてきた、ということである。平和への最大の障害は今や移住者であり、オスロ合意の最悪の害は、まるで問題が後の段階になれば解決するかのように思いこまされたことだ。」

Raji Sourani、パレスチナ人権センター（パレスチナの350万人の難民について）

「イスラエルはこの問題を作り出したことに対して道義的責任を認識する必要がある。まるで彼らが、自分たち自身をだまして、私たちは1948年以前にはここに存在していなかったかのように考えたいと思っているようだ。しかし、私たちは天から降って落ちてきたわけじゃない。」

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