連続講座「2000年会議へ向けて」―北京からニューヨークへ―

「政策としてのアンペイド・ワーク(UW)論 ―男女で担うとはどういうことか―」

講師 竹中恵美子(龍谷大学経済学部教授)  講座要約

アンペイド・ワークとは何かという定義付けは一般的に非賃金労働といえるが、厳密には線 引きしにくいものもある。家事や地域活動、自営業、農業労働など雇用契約関係にない非賃金 労働に対して、有償ボランティアの登録ヘルパーはどうなのか。最低賃金以下の低賃金労働な どグレイゾーンの部分が実態としてある。

なぜアンペイドワークが注目されるようになったのか。背景には働く女性が市場雇用とアン ペイドワークの二重役割を担わざるをえない現状から、結果として女性たちは市場での二流の 地位に追いやられていること。

また、家族を単位とする社会保障制度の枠組の中では、社会保険などへのアクセス権が従属的 な地位になっており、1970年代以降、「貧困」の問題は非婚・離婚・母子家庭・家族を持たない 女性の問題であることが明らかになってきたことがある。

国連を中心とした動きも大きい。「国連女性の10年」から1995年「北京世界女性会議」行動綱 領へと「アンペイドワーク」の問題が取り上げられてきた。1985年のナイロビ世界会議で採択 された「西暦2000年に向けての女性の地位向上のための将来戦略」では女性の無報酬の貢献 を測定するため具体的な措置が講じられるべきことをあげている。

新しい「時間使用調査」(time use survey)の提起も大きな意味を持ったといえる。1997年 カナダ統計局・女性の地位省「経済におけるジェンダー平等指標」、1997,98年 EU「統一生活 時間調査」では、従来の「時間使用調査」の「仕事」と「余暇」という男性発想の2分法か ら、ジェンダー 視点を導入した3分法あるいは4分法、すなわち、「仕事」、「余暇」、「アンペイ ドワーク」あるいは その3つに「地域活動」を加えたものが提起された。

ペイドワークとアンペイドワークの性別時間配分をみると、様々な制度、政策、収入のあり方と密接 な関係をもつことがわかる。制度や政策を是正する方向性が求められる。

各国のこの問題への取り組みをみてみよう。EU欧州議会、女性の権利委員会の「女性の非 賃金活動の評価に関する報告」(1993年6月)では、家庭のプライベートな部分に照準をあわせ、 具体的で抜本的な政策が提言されている。「労働時間の短縮」「フルタイム労働とパートタイム 労働の均一化」「社会補償制度の改革」「税政策の家族単位から個人単位の変更」など、「家庭労 働と職業労働の再分配を容易にするための措置」が盛り込まれている。

また、オランダ政府の「アンペイドワークの再分配に対するシナリオ(2010年まで)」報告(1994 年)でも、失業率を下げために仕事を分かち合うことと男性が主たる収入者という社会システ ムの変更を打ち出している。育児や介護のケアとして、有償労働と無償労働部分の割合を半分 に近づけ、その担い手の男女比も半々にしていくことを掲げたものである。

その具体化として1996年6月、労働時間法を改正し、フルタイムとパートタイマーの一切の差別 を禁止した。女性の67%、男性の17%がパートタイマーで働いているオランダでは、男女でアン ペイドワークの再分配を図る試みが進んでいる。

日本におけるペイドワークとアンペイドワークとの著しいジェンダー・ギャップはどうか。 現状を経企庁「無償労働の貨幣的評価」報告(1997年)からみてみると、総労働時間の男女比は、 半々に近いものの、労働を有償無償に分けてみた場合、ペイドワークの労働時間では、女性35.1%、 男性64・9%に対してアンペイドワークの労働時間では、女性90%、男性10%と数字の上にも著 しいジェンダー・ギャップは歴然としている。

ペイドワークとアンペイドワークとの著しいジェンダー・ギャップを生み出している理由は、次のような 点があげられよう。過労死を厭わぬ男性の長時間労働、家事・育児・介護を専ら女性役割とする社会規範、 専業主婦優遇の税制度 や社会補償制度、育児・介護の社会化にむけた社会サービスの立ち後れなど である。

これらを是正するための政策課題として、さまざまな政策が考えられる。

以上、当面する政策課題としてあげられる。

                         文責 松本和代