Subject: [reg-easttimor 144] 東ティモールから
From: Koshida Kiyokazu <koshida@jca.apc.org>
Date: Sun, 22 Oct 2000 23:45:38 +0900 (JST)
Seq: 144

東ティモールから NO.1
10月10日(火)
 BNU(ポルトガルの銀行)に銀行口座を開きに行く。銀行の前には長い人の列ができていて、両替を待っている。銀行口座を持っている人の列はそれと比べると短いが、それでも30分ほど待たされてから中へ入ることができた。証明書やパスポートを出して用紙に記入すると、預金として25ドル必要だといわれ、オーストラリア・ドルを両替する。東ティモールの人たちを見ていると、多くは米ドルからインドネシア・ルピアへの両替だ。
 UNICEFへ行き口座番号を知らせる。午後にもう一度UNICEFに行き,振り込み依頼のレターを渡す。
 夜は、インドネシアから来ていたスタッフ、ケメルのお別れパーティ(Supar Wokにて)。PARCスタッフ以外に、高橋茂人さん、ADRAの泉谷さん・亀山さん、トメさんのつれあいが参加。Super Wokは8月頃にオープンした中華料理のレストランで、おいしいと評判のところ。スープ,鶏肉料理、蒸し魚、焼き飯、飲み物(ビールなど)を頼んで、総額98ドル。一人あたま9ドル(1000円)といったところ。PARCスタッフの日給より高いのだから、やはり東ティモール人向けではなく、外国人(UNTAETやNGO)専用のレストランということになる。
 10月10日のTimor Post紙の「Free but jobless」という記事では、「たしかに東ティモールは廃墟から立ちあがり、電気や水道も復旧し、学校や病院も再開した。しかし失業率は依然として70%を超えており、しかもディリの人口は昨年8万人だったのに今は14万人に増えている」と、失業問題の深刻さと東ティモール人のUNTAETへの失望を伝えている。
 
10月11日(水)
8時30分からミーティング
トメとマリトはリキサ県の教育委員会と話し合いに行く。教育委員会に頼んでいる資材置き場の管理がずさんになってきているらしいので、その問題を話しあうとのこと。ベンディトとロザは、明日レボレマ小学校に持っていく古着の仕分け。勝谷君が食あたりでダウン。早朝に吐いたらしい。越田はオフィスの整理と古着整理の手伝い。午後3時まで停電。
 昨日の朝、トメさんが学校修理用の木材の件でUNICEFの担当者に電話したら、「明日の昼に着くから、その頃電話する」という返事だったので、電話を待っていたが、結局連絡が来なかった。こちらから電話すると担当者はダーウィンにいた。そこで紹介された別の人間に電話すると、今度は上司を紹介される。木材を積んだ船は着いているらしいのだが、荷揚げがいつになるかはっきりしない。結局、金曜日に再度電話することになった。こうしたことがこれまで何度もあったため、UNICEFに対して不信感がつのっている。たしかにUNICEFも含めた国連機関は「官僚主義」なのだが、それについて陰で文句を言っているだけというのはまずい。相手にきちんとこちらの考えを伝えないと、何も変わっていかない。しかしそのためには、「英語」で話さなければならないという問題がある。それもあって、ますますUNTAETに不満が集中するのだろう。

10月12日(木)
 トメさん・マリトさんと、レボレマ小学校に古着の体操着を届けに行く。レボレマはかなり山深いところで、一度エルメラ県に入り、そこからもう一度山に入っていったところにある。この山道が崖に沿って切り開いただけの危ない道で、崖下に落ちたトラックを一台見かけた。かなりの高度なので風は涼しく、ディリ市内と比べると雲泥の差だ。
 小学校に着いたのは、11時過ぎ。近くには大きい集落も見当たらず、なぜここに学校を建てたのか、よくわからない。この小学校は生徒数が393人、ただし1年生が151人と圧倒的に多い。あとの学年は50人前後。同じ1年生といってもかなり身長が違うので、何度も1年生に入りなおす子が多いのだろう。以前は1教室しかなかったのだが、今回修理するのをきっかけに4教室に増やした。竹を編んで壁を造った後者で、窓はない。しかも10月から新学年が始まっているのに、黒板も机も椅子もない。世界銀行の予算で準備するはずだったのが、何も進んでいないようだ。とりあえず、子どもたちは毎日きているのだが、算数とポルトガル語の初歩を教えるしかないらしい。
 帰り道、ローマ法王が10年前にミサをした記念の礼拝所に人が大勢集まり、ミサの準備をしているのに出会う。民族衣装のタイスを身にまとった女性たちも多い。何かと思って尋ねてみたら、今日は10年前にローマ法王が来た記念日だそうだ。
 夕方になると雷が鳴り、1時間弱雨が降るようになった。雨期が近くなってきた。おかげで、日中はかなり蒸し暑い。事務所の冷房は全くきかず、部屋の中はムーッとしている。
 UNTAETがcivic education (来年の選挙に向けて民主主義とは何かを教えるというもの)のプログラムを作っている。総予算が770万ドル(約8億円)という一大プロジェクトだ。ところが、この予算の大半が国連職員や外国人講師の人件費に充てられるということもあって、東ティモールNGOが抗議文を出している。この批判はきわめてまっとうなもので、このプロジェクトは東ティモール人の求めに応じたものなのか、また東ティモールにある民主主義についての知見をUNTAETは学んでいるのか、そしてこれだけの巨額の予算を使う必要があるのか、などを指摘している。
 私たちも、東ティモールの人たちが自分たちの憲法や民主主義について話し合うセミナーをリキサ県などで開きたいと考え、スタッフとも話している。「上から」しかも外国人が民主主義を教え込むのではない、「民衆教育」ができないものか。

10月13日(金)
 朝はスタッフ・ミーティング。
 UNICEFスタッフとようやく電話が通じ、角材を取りに行く。もう2ヶ月近く待たされてきたので、今日がダメなら自分たちで買おうということになっていた。
 午後一杯かかって、ようやくメールがつながるようになったのだが、サーバーから削除するようにしていなかったため4,000通以上のメールを取りこむはめとなった。頭も目もフラフラしてくる。
 夜は、日本政府連絡事務所での情報交換会。UNTAETのスタッフによると、これまで6,000人いた小学校教員を5000人に減らすことになったため、教員採用をやり直しているのだが、これをめぐってのいざこざが絶えず、デモまで行われているらしい。小学校の黒板、机・椅子についての目途を質問したが、全く目途が立っていないという。これには驚いた。黒板などは世界銀行が資金を出して準備することになったいるのだが、UNTAETは、その進行を全くチエックしていないのだろうか。その一方で「国家づくり」(中村尚司さんのいうママゴト国家)は進み、ぜいたく品税(酒・自動車など)の導入、東ティモール人知事の採用(13県中3県が決定)、国民議会(33人)の開催などが決まっている。ということは、今1万2000ルピアのビールはもっと高くなるのだな!
 東ティモールで出ている新聞は、ミリシアのリーダーだったエウリコ・グテレスの動向を取り上げている(とは言っても独自取材ではなく、インドネシア各紙や外信をそのまま載せているだけだが)。しかし「もし私が逮捕され東ティモールに引き渡されることになったら、部下たちが国境を超えて攻め込むだろう」という彼の脅しは、「この問題はインドネシアの内政なのだから、外圧に屈するな」というインドネシア政治家たちの声を強く意識してのものだろう。結局、インドネシア軍および政治家と東ティモール民兵組織の癒着が、東ティモールの「国家づくり」にとっても社会づくりにとっても、大きな問題となって残っているのだ。
 「JICA」の鈴木さん(今年の1月まではPPRPの現地駐在員)などと一緒に夕食。名前を忘れたが、「東ティモールの叶姉妹(久保康之氏の命名らしい)」のいるレストランに行く。魚やエビがおいしい。たしかに三人姉妹が店を切り盛りしている。その後、SHAREの事務所兼宿舎に行く。SHAREの事務所に泥棒が入って(正確には車からモノが盗まれた)以来、鈴木さんはガードマンとして、ここに泊まっている。SHAREのディリ事務所には蜂須賀さんという女性が一人しかいないので、できれば何人かでローテーションを組んで泊まれれば良いのだが、いまは鈴木さんがその役割を一人で担っている。数日前、ぼくが電話で「よりによって一番危険な人が泊まっているんですね」と蜂須賀さんに言ったのを、横で聞いていた鈴木さんは「越田は何という間違ったことを言うのか」と思い、「自分はいかに危険ではないか」をみんなに証明するために、この夜、SHAREに我々を連れていったのだな、きっと。


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