徳島新聞 1999年5月7日

鎌田東二

世紀末の風景

武蔵丘短大助教授(宗教哲学)

若者が市議にトップ当選

「月山の水を守ろう」と訴え

楽しみな変化の兆し

統一地方選が終わり、社会の変化の兆しが見えてきた。東京都知事に石原慎太郎氏が当選し、女性市議会議員が憲政史上初めて千人を越えた。

現代社会の中での女性の役割と位置と力はますます重要で大きなものとなるだろう。地方選で、私の印象に残った一つの変化を報告したい。山形県鶴岡市議選のことである。全く無名の30代の若者がブッチギリのトップ当選をした。千3百票あれば市議に当選できるのだが、彼はその倍以上の3千票近くの票を集めて、ダントツの強さだった。

その人物、草島進一さんは、1995年1月17日、阪神淡路大震災が起こった時、すぐさま神戸に駆けつけ、そこに住み着いてボランティア活動に従事した。ボランティア仲間とともに「神戸元気村」を結成し、炊き出しから救出、介護、よろず相談、コンサートや各種イベントを引き受けた。代表の山田和尚さんを支えて、副代表として3年間、献身的な活動を行った。昨年の春、故郷の鶴岡市に帰った彼は、地元の環境問題に取り組んだ。彼がやろうとしたのは、鶴岡市に流れてくる水をきれいにするための運動である。

鶴岡市は、霊峰月山から流れ落ちてくる雪解け水が庄内平野を潤し、東北地方有数の米どころとして田畑を豊かに支え、海に注いで近海漁業を発展させてきた土地柄である。出羽三山と呼ばれる羽黒山、月山、湯殿山の三大修験霊場に囲まれ、篤い山岳信仰に守られて、森、川、海の自然の奥深い懐に抱かれた、特色のある地方文化を発展させてきた。しかし、その土地の暮らしの中心をなす月山の水に汚染の危機が迫ってきた。一つのダムが建設されることになり、河川の汚濁と森林の破壊、海の荒廃が現実のものになってきたのだ。草島さんは、そのダム建設に反対して、「月山の水を守ろう」と呼びかけた。立候補締め切り直前に立候補の届けを出し、選挙期間中、カヌーと自転車で鶴岡の町の隅々までくまなく巡って、「月山の水を守りましょう」と叫び続けた。そして、地盤もカバンも看板もない若者が一人、ボランタリーな社会奉仕の意識と環境問題を具体的に訴えてトップ当選を果たしたのだ。一度決議されたダム建設を中止するのは、さまざまな政治的、経済的利権がある中で大変な作業であろう。それを敢然として訴えて立候補した草島さんも勇気があるが、彼に一票を投じた鶴岡市民の心と期待にも、胸に熱いものを覚えずにはいられない。市民あっての市議であり、その市議の発言と行動によって市民生活が豊かに、また純化向上する。その相互関係が、信頼のきずなによって結ばれた、開かれたものであるならば、市民生活の充実と未来への創造的なビジョンと希望が生まれてくるだろう。

草島さんはまた、この8月14、15日に月山山嶺(さんろく)で、月山精霊まつりという市民の祭りを企画し、その実行委員長をつとめている。昔からある月山近郊のお盆の習俗を現代に引継ぎ、徳島ならば阿波踊りによって死者の魂を慰めお祭りするように、夜を徹した歌と踊りによって、死んだ祖先たちと現代に生きている子孫たちとの交流を生き生きとよみがえらせようとしているのである。

もちろんこれは、彼が市議に当選する前からの企画であったが、草島さんはほかにも、新しい仲間達とともに、今年から2001年までの3年間、20世紀と21世紀の橋私になるような「虹のまつり」をやろうと計画している。「虹の祭り」は、虹が7色の美しい調和ある姿を保ち、希望と吉祥の象徴であるように、この時代と世界に、多様な中での麗しい調和と秩序をつくりだしていこうとする市民運動である。

自然環境と人類の文明との調和ある関係、人間相互の調和ある社会的関係を築いていこうとする、この”レインボー・ムーブメント”がどのような盛り上がりを見せ、それが鶴岡市をはじめ、各地の地方文化とどのような創造的関係をつくっていくのか、楽しみでもあり、希望の持てる話でもある。(徳島市阿南市出身・埼玉県在中)


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