6.外国人と地方自治体・地方参政権


 地方自治とは、住民の意思とその手によって行われるものであり、この住民とは、言うまでもなく、ある地域に住んでいる者のことだ。実際、地方自治法第10条では住民を「市町村の区域内に住所を有する者」と定め、「住民は…その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う」としている。ところが、住民を記録するための住民基本台帳には、外国人は記載されない。そのため、外国人居住者は、往々にして自治体が提供するサービスを受けられないことになる。成人の日や敬老の日の集い、住民に対する窓口のサービスなどで、外国人住民をその対象から除外してしまう場合があり、そのつど外国人の苦情によって改められる。外国人には就学義務もないとされているが、1991年から、小学校や中学校への就学案内の通知は出されるようになった。それまでは、永住者にも通知がなかったのだ。また、この通知は外国人登録をもとにして行うため、登録していない子供には一般的に通知がいかない。栃木県宇都宮市では、自治体独自の取り組みとして、医師のカルテなどから分かる場合、出生届や外国人登録が出されていなくても通知を送り、保護者の希望があればその子供を受け入れている。アメリカやヨーロッパ諸国では、外国人の在留要件の最も重要なものの1つとして就学義務を課している。それに比べると、日本の対応はあまりにいいかげんだと言える。

 地方参政権についても少し考えよう。近年、日本社会に定住または永住する外国人(そのほとんどが在日朝鮮人)によって、地方レベルの参政権を求める運動が展開され始めている(一部には国政レベルも)。旧植民地の出身者について言えば、戦前は選挙権が与えられていた。彼らも帝国臣民だったからだ。戦後の選挙法の改定は、「戸籍法の適用を受けざる者」(旧植民地の出身者は日本国内に戸籍がなかった)の参政権を、「当分の内これを停止」し、そのまま今日に至っている。在日朝鮮人の側でも、以前は、祖国とのつながりを重視し、日本の政治に積極的に参加する意志を表さない人が多かった。しかし、近年、日本への定住化がますます明確になり、また住民として政治に参加すべきだという意識の高まりから地方参政権要求の主張が見られるようになってきた(表4参照)。住民として、住民税などの義務を負担し地域社会を形成している外国人が、自治体への政治参加を求めるのは当然のことだろう。

 しかし、憲法第15条には、公務員の選定を「国民固有の権利」としている。また、地方自治法・公職選挙法には、住民の選挙権に関して「日本国民たる住民」の規定があり、何年その地に住んでいようが外国人には選挙権・被選挙権がない。1990年現在、朝鮮人が密集している大阪市生野区の場合、総人口15万人の25%が定住外国人である。つまり、そこの市会議員(定数6人)は、4分の1の住民の意志を反映していない。

 1992年、神奈川県の湯河原町で英語塾を開いていた弦念丸呈(ツルネンマルティ)が、町議会へ出馬し当選して話題を集めた。彼はフィンランドの出身で、1979年に日本に帰化していた。もちろん、帰化していれば彼のように参政権を行使することができる。しかし、地方自治が住民自治である以上、外国籍のままでも参政権を行使できてしかるべきである。重要なのは、国籍ではなくむしろ居住要件だろう。スウェーデンやオランダなどのヨーロッパ諸国やカナダは、外国人に地方自治体レベルでの選挙権・被選挙権を、居住要件をもうけて認めている。居住期間は、アイルランドでは市町村レベルには6ヶ月、オランダでは国政以下の地方自治体レベルで5年などとなっている(表5参照)。日本でも95年の3月には、最高裁で「憲法は、国内永住者など自治体と密接な関係を持つ外国人に、法律で地方参政権を与えることを禁じているとはいえない」という見解が出されている。

 外国人の(選挙で選ばれる以外の)公務員就任についても簡単に紹介しよう。従来、日本政府は、公務員は全て「公権力の公使」や公的な意思の形成に関わるため、「当然の法理」として日本国籍を必要とする、としてきた(法律レベルの明文規定はなし)。公務員といえば役所の仕事というイメージが強いが、その仕事は実に様々である。地方公務員を挙げてみると、市役所の職員、市民病院で医師や看護婦、老人ホームなどの福祉施設で働く者、市営地下鉄の車掌や駅員、消防士、警察官、学校の教師などがある。これら全てを「公権力の公使」や公的な意思の形成をもちだして解釈するのには無理がある。

 70年代には、地方自治体の自由裁量によって、市町村での国籍条項の撤廃が相次ぎ、現在は、都道府県や政令指定都市が問題となっている。政令市である川崎市は、今年、独自に「当然の法理」を解釈して一定の職種に制限を加えるという方法で、国籍要件の緩和をはかっている。また、高知県も前向きな検討を重ねている。

 外に目を向ければ、北欧諸国など一部の国は、外国人も原則として地方公共団体の公務員として採用し、国レベルにおいては一定の制限を加えるという方法をとっている。日本も、大きな流れとしては、制限緩和の方向で進んでいきそうだ。

コラム 増える国際結婚

 1993年現在、日本人と外国人との結婚数は約26500組で結婚総数の3%をしめるに至っている。10年前の1983年には約1万組であったから、近年急速に増加しているといえる。26500組のうち夫が日本人のケースが約2万組、妻が日本人のケースが約6500組で、妻が外国人のケースでは、妻がフィリピン人の組が32%をしめ、朝鮮・韓国の25%、中国の23%、タイの10%を上まわった。夫が外国人のケースでは、夫が朝鮮・韓国の42%が最も多かった。

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1996年11月祭研究発表 「国籍って何だろう」のページへ