III ヤシの実洗剤とは?


(1)洗剤の定義

 そもそも洗剤とは何なのでしょうか?洗剤の裏に貼ってある成分表示を見ると、一番上に界面活性剤と書いてあります。これが洗剤の本体です。界面活性剤は、水と油(汚れ)の境界面を活性化させて分離させ、それによって汚れを落とすのです。界面活性剤には多くの種類のものがあります。その中には非常に毒性の強いものや、使用後に分解されにくいため環境に悪影響を与えるものがあります。(〔表1〕参照。)

  系別 表示名 略称 安全性 環境影響 洗浄力
陰イオン系界面活性剤 脂肪酸系 脂肪酸ナトリウム(純セッケン分)
脂肪酸カリウム( 〃 )
セッケン
直鎖アルキルベンゼン系 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム LAS × ×
高級アルコール系 アルキル硫酸エステルナトリウム AS
アルキルエーテル 硫酸エステルナトリウム AES
非イオン系界面活性剤 脂肪酸系 ショ糖脂肪酸エステル SE
脂肪酸アルカノールアミド DA
高級アルコール系 ポリオキシエチレンアルキルエーテル PoER
アルキルフェノール系 ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル ×

 〔表1〕主な界面活性剤(合成洗剤研究会編『よくわかる洗剤問題一問一答』)

 

(2)セッケンと合成洗剤

 ここでセッケンと合成洗剤の違いについて見てみましょう。

 つまり〔表1〕のセッケン以外の界面活性剤から作られる洗剤はすべて、合成洗剤だと言えます。

 

(3)「天然ヤシの実洗剤」

 あなたは台所で「ナテラ」や「チャーミーグリーン」や「ファミリーフレッシュ」を使っていませんか?また洗濯するとき「Hiトップ」や「スパーク」を使っていませんか? これらは皆、ココヤシから採れるヤシ油を原料とした、いわゆる「天然ヤシの実洗剤」です。 これらは“天然"“植物"を強調し、“手や環境にやさしい"ことを売り物にしています。「天然・植物→安全・クリーン」と、いかにも正しそうな図式ではありませんか。実際、これらの宣伝が消費者の意識と合致し、ヤシの実洗剤の需要は急速に伸びました。

 しかしこれは本当に正しいのでしょうか? ヤシの実洗剤は手肌にやさしく、環境にもよい。」というのは本当なのでしょうか? この真偽はちょと調べればすぐにわかります。ヤシの実洗剤の界面活性剤の成分を見てみましょう。次のページの〔表2〕を見てください。

 この表からもわかるように、ヤシの実洗剤がいずれも合成洗剤であることは明白です。そして合成洗剤がセッケンに比べて、手肌を痛め、水の汚染につながるというのも〔表1〕を見みればわかってもらえると思います。あなたは誤ったイメージを植え付けられていませんでしたか? ヤシの実洗剤の宣伝は明らかに誇大したものです。ヤシの実洗剤は手にも環境にもやさしくはないのです

原料 商品名 製造元 セッケン LAS AS  AES DA PoER その他
ヤシ油 ナテラ Lion        
チャーミーグリーン          
ファミリーフレッシュ 花王           アルキルアミンオキシド
ヤシの実洗剤 サラヤ          
ヤシの実マイルド ジャスコPB        
Kソフト CoopPB          
Kマイルド        
参考
トウモロコシ油 モア 花王         アルキルアミンオキシドなど
不明 手にやさしいお台所の洗剤 ジャスコ          
〔表1〕の安全性・環境評価・洗浄力   ◎◎◎ ××◎ △〇◎ △△◎ △△〇 △△〇  

〔表2〕 ヤシの実洗剤に使われている界面活性剤  (京大生協およびジャスコ東山二条店にて調査)

合成洗剤の問題点

◎人体への影響

  • 合成洗剤は食器などの油汚れを落とすと同時に手肌の脂肪も吸収し、さらに手の細胞のタンパク質と結合してこれを変性させる、という皮膚障害を引き起こす。
  • 発ガン性を促進する作用がある。
  • アレルギーの原因にもなりゆる。

◎環境への影響

  • 合成洗剤はセッケンよりも生分解性が悪いため、川に流れ込んでも毒性が長期間にわたって残ってしまう。
  • そのため、その毒に弱い生物が減少し、毒に強い生物のみが残ってしまう、という現象が起こり、水中での生態系のバランスが崩れる。
  • リン酸塩が助剤(洗浄力を上昇させるため合成洗剤に混入して使用される。)として使用されている合成洗剤を使うと、湖川が富栄養化し、水質が悪化する。

 

(4)パーム油のセッケン

 セッケンは〔表1〕に見る限り、手にも環境にもやさしい、最も理想的な洗剤(界面活性剤)のようです。しかしセッケンを使えば万事うまくいくのでしょうか?実はそうでもないようです。意外な所に問題があるようです。以下、そのことについて述べていこうと思います。

 最近、セッケンの原料として、密かに、そして非常に増加しているのがアブラヤシから採れるパーム油です。日本はそのパーム油のほとんどすべてをマレーシアから輸入しています。マレーシアのパーム油生産量は全世界の52.7%(92年)を占め、輸出量は世界の約6割のシェアを誇っています。

 ではこのパーム油大国マレーシアで、パーム油は一体どのようにして作られているのでしょうか。その実態を見てみましょう。

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