[5]私たちの生活から


 ブキメラ村でARE社が作ったレアアース、そしてレイテ島でパサールが作った銅はともに、日本で生活している私たちが実際に毎日使っているものです。しかし、そこには日本にいては見えてこない事実...日本の企業が公害をまき散らす工場に出資をし、その利益の大部分を占めるという事実、そして、日本政府が住民のためでなく、自国の企業が利潤をあげられるために「援助」をしているという事実があります。私たちはそれに目を向けてゆかねばなりません。

 日本はこれまで、国内で様々な公害を経験してきました。そして大変な犠牲を払ってその対策を学んできたにもかかわらず、今も海外で同じことを繰り返しています。身近にあふれる工業製品、ますます需要の伸びているハイテク製品...それらがどこでどんなふうに作られ、また使用された後にどうなるかをあまり知らずに利用している私たち。その一方では、土地を奪われ、公害による健康被害に苦しみ、それでもなお外貨獲得のために資源を売り渡し多国籍企業を受け入れ、低賃金で働かざるを得ない低開発国の人々の状況があるのです。

 先進国は貧しい国を“発展途上国”と呼び、その発展に力を貸すかのように援助を繰り返していますが、その裏では、その援助を使って多国籍企業のような“利益吸収装置”を世界中に広め、ますます富を増やしていくという構図があります。これが、低開発国をいつまでも“発展途上”たらしめているの理由です。

 

 ではこうした事態を改善するために、私たちには何ができるのでしょうか。まず第一は、こういった見えにくい部分の実態をできるだけ正確に知ろうとすることです。日頃伝えられるニュースでも、その裏に隠れている事実を探ってゆくと、思いがけない社会の歪みが見えてきます。

 今回見えてきたことは、私たちの今の生活が海外から不当に資源や労働力を奪うことによって築き上げられたものであり、貧しい人々の苦しみの上にあぐらをかいた浪費文明であるということ。銅とレア・アースの例では、工業製品がさらに便利になった結果、新しいタイプの原料が必要になりましたが、その生産の方法論はまったく同じであり、同じような公害をその結果として発生させているということがわかりました。技術は進んでも、その裏側で起きていることはまったく変わっていないのです。技術への過度の信仰からくるこのような消費文明を、まず私たちの生活から問い直していかなければなりません。

 そして、同時にやらなければいけないことが、世界一の経済大国として我がもの顔で振る舞っている日本という国がしていることをきちんと監視し、間違った部分を正してゆくよう働きかけることです。特にODAについては問題が多く、政府が行っているプロジェクトにも関わらず情報がほとんど公開されておらず、適切な計画なのかどうかが、税金を払っている国民にすら分からない仕組みになっています。すべての情報を公開した上で、国民全体できちんと議論できるよう体制を整えていく働きかけをしてゆく必要があるでしょう。

 また、企業に対しても監視が必要です。公害輸出や人権侵害を行った企業に対しては、不買運動をするなどの働きかけが考えられます。問題を起こした製品を売ること自体批判されるべきですが、それを買う消費者にも責任があると言えます。

 例えば日本弁護士連合会は、公害輸出防止のための法的提言として次のようなことを挙げています。

  1. 環境アセスメントの義務付け
  2. 情報公開と住民参加
  3. 公害防止対策の義務付け
  4. 企業責任と訴訟管轄の明示
  5. 行政審査・指導の強化

 それから、草の根レベルの市民運動に参加し、歪んだ構造について理解を深めてゆくこともできます。ARE事件に関しては、被害者のブキメラ村住民を支援し交流しようという動きがあります。ここでは

  1. AREの親会社、三菱化成への抗議ハガキ
  2. 運動被害者のための医療基金へのカンパ

などを行っています。被害者から直接話を聞くことで、利潤追求のしわよせを受けた苦しみを実感することもできるでしょう。

 その他、まだまだできることはたくさんあります。大変な熱意と労力を必要とする行動もありますが、これからの社会をまさに作ってゆこうとしている私たちに、そこに働きかけていく意識は不可欠なものではないでしょうか。

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1992年11月祭研究発表 「公害輸出と多国籍企業の進出」のページへ