京大ユニセフクラブ2002年度11月祭研究発表
「水家族」

2 「質」について

第1章 私たちが日々使っている水(文責:金)


 汚れた海、川や湖を実際私たちはよく目にします。家の近くを流れる川、車を1時間走らせて行く家から一番近い海水浴場が汚れている、ということはよくあることだと思います。河川などが「汚れている」というのは、水中に有機物が多く、その濃度が高い状態を指します。ここではまず、どのような水の汚染があり、それにともなった被害があるのか、またその原因を見ていきましょう。 

・どのような水の汚染、被害があるか

@富栄養化
 
 富栄養化とは、湾や湖といった閉じた水域に窒素やリンなどの栄養塩類が多く流入し、それを栄養とする植物プランクトンが異常発生する現象です。アオコ、赤潮といったものです。このような富栄養化は漁業被害、農業被害、浄水障害を引き起こします。身近な例としては琵琶湖や瀬戸内海、大阪湾があります。瀬戸内海ではかつて養殖が盛んだったのですが、大きな被害を受けました。ところで、富栄養化の原因となる「窒素やリン」といった栄養塩類と呼ばれるものはどこから流入してくるのでしょうか。以下のグラフを見てみましょう。

 グラフを見ると、1/4以上を占めるのが「家庭系」の排水です。「家庭系」には台所、トイレ、風呂などの排水が含まれます。この中でも便所と台所の汚水には高い濃度で窒素やリンが含まれています。 

 ただし、それらの排水は無処理で流されているということではありません。一部は無処理の汚水もありますが、大部分は現在下水処理がなされています。(下水道普及率:滋賀69.5%、京都82.3%、大阪84.4%) しかし、窒素やリンは現在主流の下水処理技術では除かれにくい物質なのです。最近では「高度処理」という新しい技術(窒素やリンをよく取り除くらしい)が導入され始めています。しかし、現段階ではその普及率は日本の全人口の5%の普及率に留まっています。家庭排水に含まれる窒素やリンが原因で、琵琶湖などにおける富栄養化は改善されていないということから、水を「使う」(排水として流す)ことが川や海を汚染するということになっています。 

 Aエチゼンクラゲ 

 11/12放送のニューステーション(ABCテレビ)で「エチゼンクラゲの異常発生」というのが採り上げられました。大きなエチゼンクラゲによって定置網が破れたり、クラゲが網に入り漁獲高が半分に落ち込んだりと、日本海では深刻な漁業被害がでている、というものでした。原因は1)温暖化による海水温の上昇、2)海水の有機汚濁、というものです。ここでは2)の原因に注目します。「有機汚濁」とありますが、それを引き起こすのはひとつの要素だけではありません。土壌の海への流入や、農業排水などが考えられますが、やはり家庭排水も無視できません。

このように@Aのどちらの現象にも家庭排水は有機汚濁にかかわっています。つまり「使う」=「汚す」ことになります。それではなぜ多くの人の意識には「水を使う=水を汚す」ということは当たり前なことではなのでしょうか。 

・下水道の存在 

 「水を使う=川や海を汚す」と結論付けると、多くの人から次のような反論を出でくると思います。「下水道の整備がなされているのだから、問題はなく、むしろ無処理の排水がいち早く対策を講じられるべきだ」という反論です。たしかに下水道の整備が行き届くほど、水中の有機物質の量をあらわすBOD(*1)濃度は減ります。つまり有機汚濁はましになります。そのことは下水道の成果です。また、たしかに無処理で汚水が放流される地域もあり、無処理の汚水が水の有機汚濁を進めるのは明らかです。では無処理の汚水を処理されるようにすれば、問題はすべて解決するのでしょうか。つまり、下水処理された水なら川や海の有機汚濁には関係ないのでしょうか。 

・考慮すべきこと

 ここで少し「処理水」についてしらべてみます。次の三点について考えます(@〜B)。 
 @どれくらい「きれい」になったのか 
  ―「基準」のはなし 
    下水処理上に流れてくる汚水は処理を通じて一定のBOD濃度にまで浄化されます。下水道法により定められている放流水(下水道から河川や海域へ流される水のこと)の基準はBOD濃度20mg/リットルというものです。ここで、BOD濃度5mg/リットルを超えると魚のすむ環境にはなりにくく、10mg/リットル以上ではすでに「どぶ川」の水質です。そうみると法で定められたほう流水の基準は甘いのではないかと思えてきます。
  ―「物質」のはなし
 BOD、窒素、リンだけが汚濁物質ではありません。先ほどあったように、窒素とリンは下水処理では処理されにくいのですが、同じく下水処理では除去が難しいのがCOD(*2)ですが、これはし尿や化学物質が多く流入するほど高い数値を示します。最近では特に目にはみえない化学物質による水質汚染が懸念されています。  
A処理量にも限界があります。
それぞれの処理場には処理能力(処理できる汚水の量)が決まっていて、それを超える水量の汚水が処理場に運ばれてくると、あふれた分はそのまま処理はなされず、放流されます。
B自然の浄化能力の限界
現在すでに河川や海に放流される水量が多いため、自然の浄化能力に期待はできないそうです。多くの河川では処理場で処理された水の割合が大きくなっています。そうなると今度は水道に水を供給する際にさらなる技術の向上が求められてきます。
・求められるのは 

 このように下水処理がなされたということですべて解決するわけではないようです。 ただし、高度処理のような下水道の技術の進歩や放流水などの基準の厳格化は行われており、改善の策がとられています。しかしここに欠如しているのは水を「使う」ひとの意識ではないでしょうか。「使う=汚す」という意識が求められているように思います。 
用語説明
(*1)BOD〜生物化学的酸素要求量、微生物が有機物を分解するのに必要な酸素の量をあらわしている。汚濁されているほど、数値が高い。
(*2)COD〜化学的酸素要求量、水中の有機物を酸化剤で参加するのに必要とされる酸素の量をあらわす。汚濁がひどいほど数値が高い。

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