子どもの権利

1997.6.4

京大ユニセフクラブ新歓学習会

「子どもの権利」

　（担当：下向智子、田岡直博）

１．はじめに－なぜ今子どもか？

1.1）子どもの権利条約の成立

１９８９年１１月２０日、第４４回国連総会で「子どもの権利条約（児童の権利に関する条約）」が採択された。
日本は１９９４年４月２２日に批准、５月２２日に発効。（世界で１５８番目）
現在まで批准した国は１８８ヶ国にものぼり（あと５ヶ国）、過去に類を見ない国際人権条約となっている。（【資料集２－１】参照）

1. 2）子どもという存在

０～１６才人口は世界の全人口の３４％（１９８８年）。その８２％は発展途上国。
子どもは社会の中でつねに最大の弱者であり、その社会の持つ矛盾が最も凝縮されてあらわれる。
子ども期はだれもが一度は通過する時期であり、人格形成のための非常に重要な時期。
子どもは未来の大人世代であり、現在人類は有史以来の厳しい現実（環境破壊、南北問題、先進国の人間精神の退廃、核戦争etc.）に直面している。

２．子どもの権利とは？

子どもの権利条約でいう「子ども」とは０歳から１８歳までを指す。
これまでは子どもは未成熟だから大人が保護あるいは監視しなくてはならないという名目で、大人が都合のいいように子どもの活動を管理・禁止してきた。
法律では子どもの呼び方さえ不統一。子どもは「処置する」「取り締まる」対象。（【資料集２―２】参照）
権利とは「right＝人と人（大人と子ども、男と女、南と北etc.）の関わりあいにおいて正当性に基づく要求（＝あたりまえのこと）」　（大田堯）
子どもも人権主体である。それと同時に子ども特有の権利というものも存在する。
子どもは弱い、それゆえ特別な保護を必要とする。
子どもは未来の大人世代である。発達可能態として捉える。
子どもの生命には「誰とも違った遺伝子」「誰とも違った環境」をいう少なくとも２つの子どもではまったく選べない要因を含んでいる。

「大人たちは子どものうちに大人をもとめ、大人になる前に子どもがどういうものであるかを考えない。」

（『エミール（序）』）

「おとなは、だれでも、はじめはみんな子どもだったはずなのに」

（サン＝テグジュペリ）

３．子どもの権利成立の歴史的背景

年代	宣言・条約等	成立の経緯／条約・宣言の内容
１９２４	ジュネーブ宣言	W.W.1の反省から国際連盟設立。戦争からの救済手段として子どもを保護する必要性。
１９４８	世界人権宣言	W.W.2の反省から国際連合設立。
１９５９	子どもの権利宣言	子どもを人権主体として明確に位置づける。しかし法的拘束力なし。
１９６６	国際人権規約A・B	世界人権宣言の条約化。子どもを人権享有・行使の主体として初めて法的に承認した画期的な条約。（Ｂ規約２４条）
１９７９	国際児童年	ポーランドが２度目の条約草案を提出。
１９８９	子どもの権利条約	１回目の草案提出から審議に１２年をかけてようやく成立。翌年発効。

ジュネーブ宣言で、「最悪のもの」である戦争を与えてしまった反省から、「子どもに最善のものを与える義務」を負うと宣言したのが出発点。
子どもを保護しようという消極的な目的から、国際的な人権保障という積極的な目的へ。
宣言から、法的拘束力のある条約へ。

４．世界の子どもは今

地球汚染と内面汚染（①物理化学的次元②人間関係・南北問題③内面汚染）
３つの不公平（①人間と自然②南と北③大人と子供）とくに③は「世代間の不公平」。
２つの氷山（【資料集２－３】参照）…２つの氷山を海の上に浮かぶ流氷としか見ていない。２つの氷山は海の深い部分で相互に依存度を高めながらつながっていった。

「核時代の不幸な苦境を克服しようとする現代人の改革の努力を成功させるために、さらに、このわたしたちの大人の大事業にかかわって、極端な貧困と極端な消費という第３世界と先進国の両者が、それぞれの子どもたちに与えている精神的・身体的インパクトというものを視野に入れておく必要がある。」

（１９８９年１１月１６日人権委員会・カメルーン代表）

「日本の子どもたちが抱えている様々な困難な問題と開発途上国の子どもの飢え・貧困・病気・飢餓・戦乱・暴力といった問題とは、この世界の構造の中では、表裏一体の関係の関係にあり、同時並行的にしか解決できないのでは」

（「南と北の子どもたち」楠原彰）

4.1）世界全体で

年間１３００万人以上の子ども（５才未満）が死亡…１日４万人、２秒に１人。
５歳未満児死亡率（５才になるまでに死亡する子どもの数／１０００人）

ニジェール…３２０
アフガニスタン…２５７
日本…６
スウェーデン…５
後発発展途上国…１７３
開発途上国…９９
先進工業国…８
世界…９０

（１９９５年データ／「世界子供白書」１９９７）

ほとんどの国で軍事支出が保健支出を上回る。（逆は４４ヶ国のみ）

4.2）発展途上国で

ＪＦＣ、ストリート・チルドレン、商業的性搾取（子ども買春）、児童労働、少年兵、エイズ、マイノリティー・先住民族、麻薬・覚醒剤、難民の子どもetc.

4.3）日本・先進国で

いじめ、不登校、体罰、自殺、児童虐待、麻薬・覚醒剤、内申書、教科書検定、校則、非行、校内暴力、ＡＣ（Adult Children）、援助交際etc.

4.4）日本の特に困難な状況にある子どもたち

◇在日朝鮮人、外国人の子ども・ＪＦＣ、難民の子ども、障害児、非差別部落、婚外子etc.

５．子どもの権利条約とは？

子どもの権利の包括的なカタログ。（【資料集２－５】参照）
基本原則：「あらゆる差別の禁止（２条）」「子どもの最善の利益（３条）」「子どもの生命、生存、および発育に関する権利（６条）」「子どもの意見の尊重（１２条）」
３つのＰ（付与＜Provision＞、保護＜Protection＞、参加＜Participation＞）
親・子ども・国家の３者関係。（【資料集２－６】参照）
国際協力の必要性（特に前文と４条において強調されている。）
起草段階からユニセフと５０近くのＮＧＯが関わる。
国連子どもの権利委員会（ＣＲＣ）
所詮各国の妥協の産物。あちこちに限定を加える言葉があり、むしろ課題として示すだけにとどまっている。だからこそ１８８ヶ国もが批准。罰則規定なし。

「社会がその子どもをどう扱うかが、その社会の同情や保護の質だけでなく、その社会の正義意識や未来に対するコミットメント（約束）、今後の世代のために人間の条約を強化しようとする意欲の強さを反映することになる。このことは個々の国についてだけでなく、国際社会に対しても、議論の余地なくあてはまる。」

（国連デクエヤル事務総長）

６．条約のもたらした効果

6. 1)実施のための一般的措置

すでにある法律の改正と新たな法律の制定
実行に移したり、その実施状況を監視する機関の設置（以上４条）
条約を大人にも子どもにも広く知らせる取り組み（４２条）
政府報告書を広く公開し、議論をまきおこすための取り組み（４４条６項）

6.2)日本政府の対応

２つの解釈宣言（９条１項、１０条１項）と１つの留保（３７条（Ｃ）項第２文）
５・２０文部事務次官通知／外務省「児童の権利に関する条約の説明書」
条約の政府訳の問題点
第１回政府報告書（１９９７年５月３０日提出）
「開発途上国向け」「一部団体の拡大解釈」「新たな法・制度の整備／改正は不要」
子どもの人権専門委員会

6.３）世界では

憲法改正（コロンビア、南アフリカ、ブラジル、ユーゴスラビア、ナミビアetc.）
家族法改正、性的搾取に対する罰則強化、意見表明権重視の法制定etc.　（ベトナム、中国、ネパール、チュニジア、ホンジュラスetc.）

７．これから期待される効果、及び今後の課題

直接条約を使って国内問題の改善・解決
法律・制度改正・整備、運用を改める。（【資料集２－６】参照）
国際協力の取り組み（ＯＤＡの２０％を子どものために。ＮＧＯの支援）
基盤の強化・拡大。世論を高める。
人権という視点の確立

８．子どもの権利条約から見えてくるもの

「日本の戦後において《パックス・エコノミカ（人間が経済に従属することによって得られる平和）》は、日本と第３世界の《サブシステンス（民衆が自分たちに特有の文化・生活を維持していくために必要な自律的で最低限の物質的・精神的基盤）》を破壊していく過程であった。

（イヴァン.イリイチ）

「私たち現代の世代は、地球のエコシステムを根底から覆し、祖先が残した地球とはまるで異なる地球を子孫に引き渡そうとしている最初の世代なのである。」

（『子どもたちにどんな地球を残しますか』ＵＮＩＣＥＦ・ＵＮＥＰ）

これまで豊かな国々が追求した「繁栄」への道を、人間の本質（＝子ども性）への反省から、振り出しに戻って考える必要があるのでは？
「かわいそう」ではなく「人権」という視点
３つの不公平→自然と人間、南と北、大人と子どもの共生・共存を
「世代間の平等」と「持続可能な開発」という考え方
「持続可能な開発」…未来の世代の生存の見通しを損なわずに、現代の世代のニーズを満たす手段。
教育だけじゃなくそもそもこの社会を変える必要性。国家・コミュニティー・家族…
「大人自身の自己変革」＆「子どもが条約・条文を知ること」
自分の権利を主張するだけでなく、他人の権利も尊重する義務もある。

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