東 京 地 裁 の 不 当 判 決
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平成12年11月13日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成10年(ワ)第18983号 損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日 平成12年9月4日
判 決
原 告 郡司篤晃
右訴訟代理人弁護士 弘中惇一郎 喜田村洋一 飯田正剛 坂井 眞 加城千波
被 告 東大職連N氏
右訴訟代理人弁護士 新美 隆 虎頭昭夫 藤田正人 保田 行雄
主 文
1 被告は、原告に対し、200万円及びこれに対する平成10年8月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告に対し、別紙謝罪文目録1記載の謝罪文を作成し交付せよ。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用はこれを10分し、その9を原告の、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
1 被告は、原告に対し、3000万円及びこれに対する平成10年8月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告に対し、別紙謝罪文目録2記載の謝罪文を作成し交付せよ。
第二 事案の概要
本件は、被告が、東大全学職員連絡会議(以下「東大職連」という)名義で「郡司戒告教授は血友病患者1800人『殺人政策』の責任を取れ!」、「郡司氏ユナム社からワイロ受け取り発覚」などと記載し、原告の顔写真を載せた立て看板を、東京都文京区本郷7丁目3番1号所在の東京大学(以下「東大」という)本郷キャンパス構内に掲示したことにより、原告の名誉及び名誉感情が毀損されたとして、原告が、被告に対し不法行為に基づき、損害賠償及び謝罪文の作成、交付を求めた事案である。
一 前提事実(証拠等によって認定した事実は末尾に当該証拠等を掲記する)
第三 争点に対する判断
一 争点1(本件各立て看板掲出についての被告個人の責任の有無)について
二 争点2(被告の本件各立て看板掲出行為の名誉毀損性)について
5 原告の顔写真掲載の名誉ないし名誉感情毀損性について
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(一) 本件立て看板1、3、6、8への原告の顔写真の掲載は、それ自体は事実の摘示であるとも論評であるともいえず、これをもって名誉毀損に当たるとはいえない。 (二) しかし、何人も自分の好まない所に自らの顔写真を公表されないという利益を有していると認められるのであって、このことは、掲載された顔写真が以前に公開されたものであるか否かは問わないというべきである。したがって、以前公表されたことがある顔写真についても公表の場所及び態様によっては、対象者の名誉感情を侵害する場合があるといわざるをえない。 (三) これを本件についてみてみるに、被告は、原告の顔写真を、前記2ないし4で認定したとおり、原告の名誉を毀損する文言とともに不特定多数人が見ることのでき、かつ原告が教鞭をとる東大キャンパス内に掲示しており、このような被告の行為は、原告の名誉感情を著しく毀損すると評価することができる。 (四) 以上によれば、立て看板1、3、6、8への原告の顔写真掲載行為は、原告の名誉感情を毀損していると認められ、右判断を左右するに足りる証拠は存在しない。 |
6 小括
以上によれば、被告は、本件各立て看板を掲出することにより、原告の名誉を毀損し、かつ名誉感情を侵害したと認められ、この点に関する原告の主張はいずれも理由がある。
三 争点3(名誉毀損の成立阻却要件の有無)について
1 前記二のとおり、被告の本件名立て看板掲出行為は、いずれも原告の名誉を毀損するといえる。しかし、本件各立て看板によって摘示した事実が、真実であるか、また、真実でないとしてもその主要な部分について真実と信じるについて相当な理由が存在するか、あるいは、論評の前提とした事実の主要な部分が真実であるか、また、真実でないとしてもその主要な部分について真実と信じるについて相当な理由が存在すれば名誉毀損は成立しないところ、被告は、本件には、そのような名誉毀損の成立阻却事由が存在すると主張する。そこで、以下、エイズ被害者に謝罪し責任を取れとの記載部分、殺人政策との記載部分、ワイロ受領との記載部分の3点に分けて検討することとする。
2 エイズ被害者に謝罪し責任を取れとの記載内容に対する名誉毀損の成立阻却要件の有無について
(一) 真実性について
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(1) 前記2(三)のとおり、本件記載内容(原告はエイズ被害者に謝罪し責任を取れ等)は、一般人に生物製剤課の課長であった原告が、不適切な政策の実行(非加熱製剤の使用中止の施策をとらなかったこと)により、薬害エイズを発生させたとの印象を与える。そうだとすると、問題は、原告が、生物製剤課の課長であったときに不適切な政策を実行したということが真実か否かという点が問題になってくる。 (2) これを本件について見るに、前記前提事実及び証拠(甲16、18、21の1、2、22、乙9、22、23、24、66、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。 |
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@ 昭和57年7月以降、米国政府機関の調査によって、米国において他に基礎疾患がなく、麻薬常用等の既往もない血友病患者にエイズと呼ばれる臨床症状を示す症例が発生していることが明らかになっていた。 原告も、昭和57年12月17日ごろ、村上省三から、米国で数百人のエイズ患者が出ているとの報告及び資料の送付を受けた。 A NHFは、昭和58年5月11日、ヘモフィリアニュースノートで、血友病の患者のエイズ発症率は極めて低いので、患者や治療者に不安を与えたり治療の変更をしないで、非加熱製剤あるいはクリオの使用を継続するように勧告した。 B トラベノール社は、昭和58年6月2日、エイズの疑いがある供血者から採取された血漿を原料とする製剤につき自主回収の措置を採った。 C 原告は、昭和58年当時、エイズと血友病の情報の収集に努めており、エイズの危険性を評価し、その上で血友病の治療方法を審議するため、原告が事務局となってエイズ研究班を組織した。 エイズ研究班は、安部英医師を班長として、昭和58年6月13日第1回会合が開催され、この会合において、原告は、トラベノール社が製剤を一部回収した事実を報告するとともに、当面の問題として、血漿の輸入をするかしないかに関連して、日本にエイズ患者がいるのかいないのか、対策が必要かどうかということと、国が安全であるとして許可している薬をどうするかということがあり、この結論を研究班で出して欲しい旨要望した。 D 昭和58年6月29日、世界血友病連盟の年次総会が、ストックホルムで開催され、現時点では、非加熱製剤を使用している治療方法の変更はせず、現在の治療を継続すべきであること、治療方法はリスクとベネフィットの比較で正しく決定すべきであることが決議がされた。 E エイズ研究班第2回会合が、昭和58年7月18日に開催され、第1回会合後に主だった医療施設に対して実施された、エイズ患者の有無に関する調査について、指摘された3例のうち帝京大学の患者一名が検討の対象となったが、エイズ患者とは認定されなかった。ここでは、原告は、エイズ対策として加熱血液製剤を国内における臨床試験等の手続を省略して緊急輸入しても良い旨の提案を行った。 F 昭和58年8月ころ、スピラ博士により、帝京大学の事例が米国ではエイズに当たるとの診断された。 G 第3回エイズ研究班の会合が、昭和58年8月19日に開催され、血液製剤小委員会の設置が決定された。 その後、第1回血液製剤小委員会が昭和58年9月14日に開催された。原告は、右小委員会で、血友病治療を実際に担当している血友病専門医から、「全血」、「血漿」、「クリオ」、「非加熱製剤」と血液製剤が変化してきたことは、血友病治療における進歩であり、止血効果や副作用の危険において格段の進歩をもたらした非加熱製剤が用いられている治療の状況からすれば、血液製剤の使用を中止し、クリオに戻ることはできない旨教授された。 H 昭和58年11月10日、厚生省は、加熱製剤の治験に関する説明会を開き、加熱製剤の治験に関する厚生省の意向及び必要性について説明した。 I 昭和59年2月以降、日本で加熱製剤の治験が開始された。 J 昭和59年7月15日、原告は、生物製剤課長を辞職し、東大医学部教授に就任した。 K 昭和60年3月22日、第1回エイズ調査検討委員会はエイズ患者の認定を行い、血友病患者143名中47名につき抗体陽性反応が出たことを報告した。 L 昭和60年5月30日、第2回エイズ調査検討委員会は、日本で3名の血友病患者のエイズを認定した。 |
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(3) 以上の事実によれば、血友病治療に関してエイズが問題とされてきた昭和58年ころから昭和59年当時、原告は、生物製剤課長として厚生省における血液関連問題を扱う実務上の責任者であったこと、原告は昭和57年暮れころにはエイズの危険性を認識し、エイズ研究班を組織するなど積極的に対応を取ろうとしたこと、昭和58年ころにはエイズの原因が血漿または血液製剤を介して伝播されるウイルスであるとの疑いを強めていたこと、他方、当時日本におけるエイズ患者の認定がされなかったこと、当時血友病の専門家の間では非加熱製剤の使用継続を求める意見が多数を占めていたこと、原告自身、非加熱製剤やクリオの使用経験がなく、血友病の専門家ではなかったことから、原告も右専門家から非加熱製剤の使用継続を教授されて同様の認識を持ったこと、右各事情から、非加熱製剤の輸入を継続する中で加熱製剤の治験を進める方法を採ったことを認めることができる。 そうであれば、原告が、生物製剤課の課長に在職当時、非加熱製剤の使用中止の施策を採らなかったことをもって、右施策が不適切な施策であったとまではいうことができず、したがって、真実性の証明は、いまだ十分ということができず、この点の被告の主張は採用することができない。 |
(二) 相当性について
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(1) 次に、エイズ被害者に謝罪し責任を取れとの旨の記載をするについて、被告に真実と信ずべき相当な理由があるかを検討する。この検討に当たっては、右記載内容の立て看板が設置されたのが平成8年11月ごろであることから、その当時、被告において、原告と薬害エイズとの関係について、どのような知識を有し、どのような認識のもとに右記載内容の立て看板を設置するに至ったかということに留意すべきである。そして、この点につき、被告は、東京地裁の所見、調査報告書、厚生大臣発言、新聞報道等を根拠に、原告がエイズ被害者に謝罪し責任を取るべきであると信じるにつき相当な理由があったと主張するので、以下、この点について判断する。 (2) 前記前提事実及び証拠(甲22、乙8ないし13、14の1ないし4、16ないし20、22、26ないし66)によれば以下の事実が認められる。 |
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@東京地裁の所見について 東京地方裁判所民事第15部は、平成7年10月6日、同部に係属中の薬害エイズ訴訟において、和解に当たっての所見を示し、翌10月7日、新聞紙上に所見の要旨が掲載され、同月15日には、インターネットを通じて所見の全文が閲覧できる状態となった。 東京地裁の所見には、次のような記載がある。 |
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ア 生物製剤課の課長であった原告は、昭和58年初めごろからエイズと血友病に関する情報の収集に努めており、アメリカにおいて血友病患者にエイズが発症しているという実情を知っていた。昭和58年6、7月にはエイズの疑いがある供血者から採取された血漿を原料とする製剤につき製剤会社が自主回収したとの報告により、原告は、そのころには、エイズの原因が血漿又は血液製剤を介して伝播されるウィルスであるとの疑いを強めていた。昭和58年8月当時には、血友病患者のエイズに関する限り、血液又は血液製剤を介して伝播されるウイルスによるものとみるのが科学者の常識的見解になりつつあったというべきである。 イ 厚生大臣は、右のような状況の下においては、血液製剤を介して伝播されるウイルスにより国内の血友病患者がエイズに罹患する危険があることを認識し得たというべきであり、米国由来の原料血漿による非加熱製剤の販売の一時停止などの措置をとることが期待されたというべきである。 ウ しかるに、当時の厚生省当局は、血液製剤を介し伝播されるウイルスにより国内の血友病患者がエイズに罹患する危険性やエイズの重篤性についての認識が十分でなく、対策の遅れが我が国における血友病患者のエイズ感染という悲惨な被害拡大につながったことは否定しがたいところというべきである。 |
| 平成8年3月29日の朝日新聞(夕刊)は、「エイズ問題で厚生省は1983年には危機意識を持ちながら84、85年も無策だった。83年にエイズ研究班を組織した郡司篤晃・元生物製剤課長は様々な情報を持ちながら、患者に被害を及ぼさないためにどうするかの視点がなかった。情報を組み合わせて危機に対応する感覚が同省には欠如していたといわざるをえない」と原告の薬害エイズに対する対応を批判した。更に、平成8年4月19日には、「郡司氏めぐる3つのナゼ」(朝日新聞朝刊)、「原告の疑惑一向に晴れず・・・」(毎日新聞夕刊)と題する記事、同年5月17日には、芦沢正見元国立公衆衛生院理論疫学室長が、外資系メーカーがHIV(エイズウィルス)混入の疑いがある製剤を出荷停止にしたことを、郡司氏が研究班に報告しなかったことを「全く不自然、報告されていれば当然結論は変わった」などと批判した記事(日本経済新聞朝刊)などが相次いで掲載され、原告の生物製剤課長時代の対応が厳しく批判された。 |
B 菅厚生大臣の発言等について
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ア 厚生大臣であった菅直人は、平成8年5月31目、行政の対応の遅れでエイズの被害が拡大したとして、厚生事務次官ら14名を減給処分とし、次いで、同年6月25日には、原告の後任の生物製剤課長であった松村明仁(処分時保健医療局長)に対し、薬害エイズ発生の責任を問い、国家公務員法上の減給処分(1か月10分の1)とした。 イ 菅厚生大臣は、平成8年6月17日の参議院厚生委員会で、昭和58年の段階でトラベノール社がエイズ症状の患者の血液が混入したとして、輸入非加熱製剤を自主回収したという情報を原告は入手していたのに、これをエイズ研究班等地の機関に知らせなかったことが不自然であるとして批判した。 ウ 平成8年11月8日の毎日新聞で、菅厚生大臣は、薬害エイズ問題に関連し、原告を処分するよう指示したが、官僚側の抵抗や原告は既に厚生省を退職しており、訓告処分にすることができない等の事情があり、実現しなかったとの報道がされた。同記事は、松村元課長を処分し、郡司元課長を処分しないという官僚の説明は理解できないとの菅厚生大臣の談話を載せている。 エ 菅厚生大臣は、平成8年11月30日号の週刊誌「週刊現代」誌上において、原告について、「83年、HIVに汚染された危険な非加熱製剤を輸入し続けることにした生物製剤課長の郡司さん・・・(中略)の方針が適切でなかったことは明らかです。」、「適切な対応ができなかったという行政責任があると思っている。」と述べている。 |
C 血友病患者のエイズ罹患について
| 我が国における血友病患者の非加熱製剤におけるエイズ感染者は、約1800名とも2000名ともいわれており、発症者の数は、年を追って増え、平成6年12月現在で確認された発症者が485名、そのうち死亡者が316名と甚大な被害が出ている。 |
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(3) 右認定事実によれば、本件各立て看板(2、4、5、7ないし10)が設置された平成8年11月ころまでに、東京地裁の所見、各社新聞報道、菅厚生大臣の発言等により、非加熱製剤によるエイズ感染の認識を有しながら、右対策を講じなかった原告の責任が厳しく追及されており、ことに、厚生省のトップである大臣自らが、原告を含む厚生省全体の責任を肯定している本件にあっては、平成8年11月当時、被告において、原告が、薬害エイズ発症に責任があり、患者に謝罪すべきであると信じることには相当な理由があったというべきである。よって、この点の被告の主張には理由がある。 なお、付言するに、平成8年11月ころ設置された各立て看板に名誉毀損成立阻却事由が存在する以上、その後設置された同様の内容の立て看板(1、3、6)についても、成立阻却事由が存在することはいうまでもないところである。 |
3 殺人政策との記載内容に対する名誉毀損の成立阻却要件の有無について
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原告が殺人政策を選択し、執行したとの事実が真実であると認められるためには、原告が、エイズ被害の発生を認識して、被害者が死亡することを表象、認容していたにもかかわらず、エイズに関する厚生省としての政策を実行したとの事実が存在する必要がある。しかし、本件全証拠を検討するも、原告において、血友病患者がエイズに感染する危険性があるにもかかわらず、それもやむを得ないとして、これを放置したとまでの事実があったと認めるに足りる証拠はなく、また、被告において、右事実が真実であると信じるにつき相当な理由があったと認めるに足りる証拠もない。 確かに、前記認定のとおり、血友病患者のエイズ被害の実態は悲惨なものである。しかし、だからといって、原告の行為をもって、殺人政策の執行ということは、やはり行き過ぎといわざるを得ず、これを正当化する事由が存在しない本件にあっては、原告に対する名誉毀損が成立するというべきである。 |
4 原告がユナム社からワイロを受領したとの記載内容に対する名誉毀損の成立阻却要件の有無について
(一) 「ワイロ」の意義
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被告は、本件立て看板のワイロの文言につき、東大の倫理綱領に反する不正な金員という意味で使用したと主張する。しかし、当該文言の名誉毀損性を判断するに際しては、それを見た一般人がどのような印象を受けるかという見地から判断すべきであり、ワイロという文言を見た一般人は職務に関して公務員が収受する違法な報酬との印象を受けると考えるのが自然である。 加えて、本件立て看板3、6及び証拠(甲24)によれば、当時収賄罪で起訴されていた岡光序治元厚生省事務次官との対比で、「便宜供与」といった表現も交えて金員授受をワイロと断じて非難していることが認められ、被告が、原告の金銭受領を、単純に倫理綱領に違反する行為と考えていたものでないことも明らかである。 したがって、本件各立て看板に記載されているワイロを受領したとの文言の名誉毀損成立阻却事由を考えるに当たっても、原告が職務に関連して違法な報酬を収受したという事実につき真実といえるかないしは真実と信じるにつき相当な理由があるかを検討するのが相当である。 |
(二) 真実性について
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(1) 以上の観点から、まず、真実性について見てみるに、当事者間に争いのない事実及び証拠(甲25、乙69、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 |
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@ ユナム社の本社医長は、平成5年末から、平成6年3月ころまでにかけて3回程度、原告から、日本の医療システム、社会保障、社会保険制度などについて講義を受けた。そこで、ユナム社は、平成6年4月、原告に対し、右謝礼として、100万円を支払った。 A ユナム社は、日本の保険業務のわかる医師を採用するに当たって、原告から、適当な人材であるか否かのアドバイスを受け、また、松村明仁労働基準局安全衛生部長を紹介してもらった。ユナム社は、平成6年7月から平成7年4月までの間、原告に対し、右謝礼として、毎月20万円を支払った。 B 原告とユナム社との間には継続的な労務提供契約はなく、ユナム社が税務署に提出した支払帳書には、右支払について、コンサルティング報酬と記載されていた。 |
| (2) 以上によれば、原告が東京大学医学部健康科学・看護学科保健管理学教室教授として、自己の職務に関連して違法な金銭を受け取ったとは評価できず、他に前記金銭受領をもって賄賂の収受と評価するに足りる証拠はない。よって、原告が賄賂を収受した旨の本件各立て看板記載内容は真実とは認められず、この点の被告の主張には理由がない。 |
(三) 相当性について
| (1) 次に、真実と信ずべき相当な理由があるか否かについてみてみるに、証拠(乙68ないし76)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。 |
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@ 新聞各社は、平成8年7月6日から16日にかけて、原告が、ユナム社から謝礼として、平成6年4月から合計300万円を受領しており、これが国家公務員法に抵触するおそれがあると報じた。また、平成8年10月30日の読売新聞夕刊は、原告が、ユナム社から受領した金銭の問題について、東大に調査委員会が設置され、同委員会では、原告の右行為が、兼職を制限する国家公務員法や東大倫理綱領に抵触するかどうかを調べ、問題がある場合には、必要な処分を決めるとの報道をした。 A 被告は、自らユナム社に対して、質問書を送付して原告との間での金銭の授受等について確認したところ、平成8年10月18日、ユナム社から回答を得た。右回答内容は、概ね前記(二)(1)の@ないしBで認定した事実が記載されており、職務に関連して収受した金員の記載はなかった。 B 東大の調査委員会は、調査の結果、原告のユナム社からの金銭受領は、兼業を禁止した国家公務員の服務規律に違反するとして、平成8年12月20日に、原告を戒告処分とした。右処分の内容は、平成8年12月20日に、東大総長談話として発表され、翌日の新聞にも報道された。 C 原告のユナム社からの金銭受領問題は、前記Bで一応の解決を見、この問題につき、原告が、収賄罪に当たるとして逮捕、勾留された事実はない。 |
| (2) 以上によれば、原告とユナム社との間で金銭の授受があったこと及び当該金銭の授受が国家公務員法に違反するとの事実は認められるものの、右事実だけでは、当該金銭の授受をもって、「ワイロ」の授受と評価することは困難である。したがって、本件においては、被告には、原告が、職務に関連して違法な報酬を収受したと信じるにつき相当な理由があったとはいえず、この点の被告の主張には理由がない。 |
5 小括
| 以上によれば、本件各立て看板のうち、原告が殺人政策を選択し、実行した旨及び原告がワイロを受け取った旨の内容の記載については名誉毀損の成立阻却事由は認められないものの、原告はエイズ被害者に謝罪し責任を取れとの内容の記載については名誉毀損の成立阻却事由が認められるということになる。 |
四 争点4(原告の損害額及び損害回復のために相当な措置内容)について
1 損害額について
| 被告は、本件各立て看板の掲出を2年以上の長期にわたって多数の場所で行っていること、本件各立て看板の掲出内容は、「殺人政策」などと原告に対する誹謗中傷の程度が強いものであることなどその他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告が本件各立て看板掲出行為によって被った精神的損害は200万円と評価するのが相当である。 |
2 謝罪文の作成、交付について
| 前記前提事実、証拠(甲16、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告の本件各立て看板掲出行為により、原告の社会的評価は金銭賠償のみでは回復できないほど著しく低下したと認められる。よって、原告が被った精神的苦痛を慰謝するには、被告が原告に対し、別紙謝罪文目録1記載の謝罪文を作成、交付する必要があると認められる。 |
よって、原告の被告に対する謝罪文の請求は、別紙謝罪文目録1記載の限度で理由がある。
第四 結論
以上のとおり、原告の被告に対する請求は、被告に対して200万円の支払いを求め、別紙謝罪文目録1記載の謝罪文の作成、交付を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとする。なお、謝罪文の作成、交付についての仮執行宣言については、本件事案の性質上相当でないので付さないこととする。
東京地方裁判所民事第36部
裁判長裁判官 難波孝一
裁判官 足立 正佳
裁判官 富澤賢一郎
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私は、平成8年11月ころから平成10年3月ころまでの長期間にわたり、東京大学本郷キャンパス構内の多数箇所において、郡司氏の名誉を毀損し、かつ、郡司氏を侮辱する内容の立て看板多数を「東大職連」の名義で掲出しましたことを、ここに謝罪いたします。 年 月 日 N氏氏名 郡司篤晃殿 前画面に戻るには、ブラウザの「戻る」ボタンをクリックしてください。 |
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私は、1996年11月ころから1998年3月ころまでの長期間にわたり、東京大学本郷キャンパス構内の多数箇所において、貴殿の名誉を毀損し、かつ、貴殿を侮辱する内容の立て看板多数を「東大職連」なる団体名義を用いて掲出しました。 右事実につき、私は貴殿に対し、心よりお詫びするとともに、今後二度とこのような行為を行わないことを約束いたします。 年 月 日 N氏氏名 郡司篤晃殿 前画面に戻るには、ブラウザの「戻る」ボタンをクリックしてください。 |