国立大、独立行政法人化に動き出す

  一昨年12月3日の行革会議「最終報告」で中央省庁の統合、政策実施機能の独立行政法人化などが打ち出された。国立大学の独立行政法人化については、東大・京大をはじめ国立大学協会(国大協)、文部省も強く反対し、今年1月26日の「中央省庁等改革に係る大綱」で「大学の自主性を尊重しつつ、大学改革の一環として検討し、2003年までに結論を得る」とされた。ところが最近、国立大の独立行政法人化問題が再浮上し、今秋にも大枠が決められようとしている。 

4月には水面下で動き出していた

 昨年度の総長補佐交渉では「国立大学の独立行政法人化に総長は公式に反対している」ことが繰り返し確認されてきた。ところが今年7月26日の総長補佐交渉では、打って変わって「独立行政法人について4月から検討を開始した」ことが明らかにされた。その理由として総長補佐が主に挙げたのは、次の2点だった。

 @2001年度からの新たな計画で10%の定員削減が決められている。「自自合意」でうたわれている15%の積み増しがどうなるかを別にしても、定員削減は非常に厳しい。(ちなみに、独立行政法人の職員は、定員法上は国家公務員の定員に含めないこととされている。すべての国立大学が独立行政法人化されると、形式的には12万5千人、22.8%の「定員削減」が達成されることになる。)

 A(1月26日の「大綱」を再確認し「国立大の独立行政法人化について2003年までに結論を得る」とした)4月27日の「中央省庁等改革の推進に関する方針」は、ほとんど独立行政法人化の決定に等しい。閣議決定で枠ができているときに国立大学がいつまでも「反対」に固執するのは、いかがなものか。

 こうした状況判断の下に4月、蓮實・国大協会長(東大総長)は、「公的立場を離れて」、独立行政法人化する際の問題点と対策について名古屋大学の松尾稔学長に検討を依頼した。松尾学長をはじめ5名の研究会が発足し、「松尾レポート」がまとめられた。

「条件闘争」への転換

 6月1日号の「ジュリスト」に、藤田宙靖・東北大学教授の論文「国立大学と独立行政法人制度」が掲載された。藤田教授は「国立大学の独立行政法人化に対する現下の政治的な圧力」は「国の行政機関の職員の中で国立学校関係者の数が、他に際立って多い」現状に支えられているとし、国会で審議中の「独立行政法人通則法案」に「そのままの形で大学に適用されるにはふさわしくないものがあるとするならば、どこをどう変えれば大学についてもこの制度を採用することが可能であるかを、検討する必要がある」と主張している。「行革会議において独立行政法人制度の導入に参画した者の一人であり、また、現在も中央省庁等改革推進本部の顧問として、この制度の導入につき、それなりの責任を負っている」と自称する藤田教授のこの「衝撃的な」論文のコピーは、瞬く間に国立大学関係者の間に広まったという。

 6月10日には独立行政法人通則法など中央省庁等改革法案が衆議院で可決されるという状況の中で、東大では6月7日、臨時評議会が開かれ、昨年11月に主要な部局長を網羅して設置された「東京大学の経営に関する懇談会」の「中間報告」が行われた。「中間報告」は、「独立行政法人制度は・・・数値的な中期目標の設定、中期計画の認可、成果の評価など大学の組織体制に相応しくない点を改め得るとの前提のもとで・・・検討に値する」と評価し、「藤田論文」と同様、「独立行政法人化反対」から、独立行政法人化の条件をめぐる「条件闘争」への転換を打ち出した。

 文部省は、定員削減計画立案との絡みで、国立大学の独立行政法人化について、来年夏までに結論を出す方針を国大協に伝えた。国大協は6月15、16日の総会で、独立行政法人化問題について第1常置委員会で検討することを決定し、蓮實・国大協会長(東大総長)は総会直後に各学長に「大学独立行政法人特例法」を提案する「松尾レポート」を送付した(東京新聞 8月5日朝刊)。

「松尾レポート」が言う独立行政法人の問題点

 「松尾レポート」は独立行政法人化による「規制緩和」(予算の「弾力的」運用、組織・定員の「自主的」運用など)に期待しつつ、「独立行政法人化の目的が・・・効率化にあり、・・・大学にはきわめてなじみにくい」と主張し、以下のような問題点を挙げている。

 (1) 独立行政法人制度では、効率化、研究教育の質の向上、財務内容の改善を図る3〜5年の「中期目標」が設定され、その達成度の評価によって国からの財源措置が左右される。

 (2)「定員削減と経費節減が最重点課題となり、教官の負担がさらに増大し、教育研究の質的低下を招きかねない。」

 (3) 「中期目標」の内容を決めるのは主務大臣(2001年以降は文部科学大臣)である。大学は、文部科学大臣が決めた「中期目標」を達成するために「中期計画」を作り、文部科学大臣の認可を受けなければならない。「中期目標」期間が終わると評価を受け、文部科学大臣が、その大学の業務を継続させる必要性、組織の在り方その他その組織および業務の全般にわたって検討し、「必要な措置」を講ずる。文部科学省の評価委員会は年度毎に大学の業務実績を評価し、業務運営の改善その他の勧告をすることができる。総務省の評価委員会(審議会)は、文部科学省の評価委員会が行った評価に対し意見を述べることができ、中期目標期間終了後には大学の「主要な事務及び事業の改廃」について文部科学大臣に勧告できる。学長、監事(業務の監査人)も文部科学大臣が任命する。

 (4) 効率化を図るため、外部の人材が経営者(役員)として乗り込むことが想定されている。私大と同様、経営者=理事会と教授会が分離し、「多大な弊害を生じかねない」。

「大学独立行政法人特例法」を提案

 国大協や文部省はこうした問題点を挙げて国立大学の独立行政法人化に反対してきたわけだが、「松尾レポート」は「(独立行政法人)『通則法』は大学を前提にしているとは思われないので、教育公務員特例法を定めている現行制度に類する形で『大学独立行政法人特例法』とも呼ぶべき法を定めて、(大学独立行政法人)個別法を大学に適したものとする」よう提案している。

「特例法」の内容は必ずしも明確でないが、

(1) 「第三者評価機関の権限を助言・勧告に留める」

(2) 「人事選考、教育について各大学の主体性・自律性が保障されるべきである」

(3) 「独立行政法人の単位は現在の各大学」とし、学長等を学内で選ぶ

(4) 「財政に関する提言・経営に限ってアドヴァイザリ・ボード(注:助言機関)を設けるにとどめ、経営と教学を一体化した現行体制を維持する」

(5) 「財政的基盤の保障」(少なくとも現在の予算額をつける)

(6) 「職員は国家公務員」とし、「教官は教育公務員特例法の適用」を継続

(7) 「必要な定員を維持するための措置を講ずる」

などを盛り込むとしている。実にムシのいい「提案」である。

 国大協は7月、第1常置委員会で「松尾レポート」の検討を開始した。同様に独立行政法人化についての結論を求められている国立の大学共同利用機関(遺伝研究所など国立研究所)とも連携を取りながら、遅くとも11月の総会までには結論を出す方針と伝えられている(東京新聞 8月5日朝刊)。

文部省も独立行政法人化案

 文部省も独立行政法人化の受け入れに動いている。7月に文部省が7大学学長に示した案と言われる「文部省原案」では、国立大学ごとに独立行政法人(仮称「国立大学法人」)を設置し、独立行政法人通則法の規定が「大学に相応しくない」部分について個別法で特例措置を設けるという(読売新聞 8月19日朝刊)。

 具体的には、@学長の任免権を事実上、大学側に認める A学長や教職員の身分は国家公務員のまま。教官には教育公務員特例法を適用し、教授会に教官の人事権を認める B中期目標は文部科学省が各法人に指示するが「大学の自主性を尊重する」 C教育研究にかかわる事項は、「大学評価機関」(仮称)が独自に行う評価の結果を踏まえて評価を行う、などが挙げられている。

 文部省はさる8月10日、吉川弘之・元東大総長など国立大学長経験者などで構成する「今後の国立大学の在り方に関する懇談会」の初会合を開いた(朝日新聞 8月9日朝刊ほか)が、この文部省案は「既に一部の国立大の学長に示されており、大学側もこれを基に独自に検討を始めている。文部省は今後、各大学のほか、国立大学協会や同省の『今後の国立大学の在り方に関する懇談会』などと意見調整し、早ければ9月中にも独立行政法人化の結論を導き出したい考え」と伝えられている(読売新聞 8月19日朝刊)。

 東大も7月1日、「理想形態ワーキンググループ」と「比較検討ワーキンググループ」からなる総長直轄の「東大の設置形態に関する検討会」を設置した。「理想形態ワーキンググループ」は各部局に対し「東京大学の設置形態に関する意見調査」を行っている。

 「国立大の独立行政法人化」の報道が相次ぐなかで8月11日、蓮實総長は急きょ記者会見し、大学の事情に配慮しない法人化には反対であることを改めて表明し「(経営)懇談会の報告は10月ごろ出るが、全学的に考える時間が必要だ。今年の暮れまでには方針が出る」と述べている(東京新聞 8月12日朝刊)。

 「大学(教官)の事情に配慮」した文部省原案により、国立大学の独立行政法人化が現実になろうとしている。職員にとって独立行政法人化はイバラの道である。職場の存廃が独立行政法人の評価によって左右され、「効率化」を旗印にスクラップ・アンド・ビルドが推進される。独立行政法人の経営状態が給与に反映され、「評価」は個々の職員にまで及ぶだろう。

 すでに今年の人事院勧告はボーナス0.3ヶ月分の削減を打ち出しているが、独立行政法人化の職員に対する影響は、ボーナス削減の比ではない。私たちは力を合わせ、独立行政法人化−民営化の動きに立ち向かっていかなければならない。


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