東 大 職 連 の 準 備 書 面 (1)

原文は縦書きです。そのため一部表記が変わっています。


 平成一〇年(ワ)第一八九八三号損害賠償請求事件

準   備   書   面  (一)



                             原  告   郡  司   篤  晃
                             被  告   N  氏   氏  名
    一九九八年一二月七日
                             被告訴訟代理人

                             弁 護 士  新  美      隆
                             同       虎  頭   昭  夫
                             同       藤  田   正  人
                             同       保  田   行  雄

 東京地方裁判所
   民事第三六部合議係  御  中



一、はじめに

  薬害エイズ被害についての立看板、及び、立看板に貼付されたビラの各記載内容は、薬害 エイズ被害についての原告の責任に関する東大職連としての意見ないし論評の表明であり、 被告個人が責任を問われるべきものではない。仮に、立看板掲出について被告にも責任があ るとしても、右記載内容は意見ないし論評の表明であって、不法行為としての違法性はない。 仮に、事実を摘示する部分があったとしても、違法性ないし故意・過失がなく不法行為は成 立しない。

二、最高裁判例について

 1、名誉毀損による不法行為に関しては多くの判例があるが、本件において参考となるのは次の二つの最高裁判例である。


 2、平成元年一二月二一日第一小法廷判決(判例時報一三五四号八八頁)

  本件は、ビラの作成配布による教育活動の批判、論評と名誉毀損などが争われた事案で ある。
  第一審長崎地裁は、「組合所属の教師である原告ら(=被上告人ら)を専ら揶揄誹謗し これに対する反感ないし敵意の表出であって、主として公益を図る目的の下にされた公正 な論評ないし真摯な意見の陳述とは言えない。」として、不法行為の成立を認めた。
  第二審福岡高裁は、「本件ビラの内容は公共の利害に関するものであるが、被控訴人(=被上告人ら)が組合員であるとの一事からその人格攻撃まで及び、架空の団体名義を用い、組合所属の教師に対する反感ないし敵意の表出として専ら揶揄誹謗するもので、被上告人らと立場を異にする側からの非難攻撃を期待していたのであるから、専らまたは主として公益を図る目的に出たものとは言えない。」等として、控訴を棄却した。
  これに対して、最高裁は、次のように判示して、名誉毀損による不法行為の成立を否定 した(破棄自判)。

  「公共の利害に関する事項について自由に批判、論評を行うことは、もとより表現の自由 の行使として尊重されるべきものであり、その対象が公務員の地位における行動である場 合には、右批判などにより当然公務員の社会的評価が低下することがあっても、その目的 が専ら公益を図るものであり、かつ、その前提としている事実が主要な点において、真実 であることの証明があったときは、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したもので ない限り、名誉侵害の不法行為の違法性を欠くものというべきである。」
  「本件ビラの内容からすれば、本件配布行為は、被上告人らの社会的評価を低下させるこ とがあっても、被上告人らが有害無能な教職員でその教育内容が粗末であることを読者に 訴え続けることに主眼があるとはにわかには解し難く、むしろ右行為の当時長崎市内の教 育関係者のみならず一般市民の間でも大きな関心事になっていた小学校における通知表 の交付をめぐる混乱という公共の利害に関する事項についての批判、論評を主題とする意 見表明というべきである。」

 3、平成九年九月九日第三小法廷判決(判例時報一六一八号五二頁)


  本件はいわゆるロス疑惑に関連する一連の名誉毀損事件の一つである。
  第一審東京地裁は原告の請求を一部認容したが、第二審東京高裁は原告の請求を棄却し たため、原告が上告したものである。
  最高裁は、以下のように判示して、破棄差し戻しにした。

  「ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が 公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、 右意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分において真実であることの証明が あったときは、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、 右行為は違法性を欠くものというべきである。」
  「仮に、右意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、 事実を摘示しての名誉毀損の場合と対比すると、行為者において右事実を真実と信じるに ついて相当の理由があれば、その故意または過失は否定されると解するのが相当であ る。」
  「ある者が犯罪を犯したとの嫌疑につき、これが新聞等により繰り返し報道されたために 社会的に広く知れ渡っていたとしても、このことから、直ちに、右嫌疑に係る犯罪の事実 が存在したと公表した者において、右事実を真実であると信ずるにつき相当の理由があっ たということはできない。」

三、薬害エイズ被害についての立看板の記載内容

 1、立看板1−10 の記載内容は、以下のとおりである。

   @ 郡司戒告教授は血友病患者1800人「殺人政策」の責任を取れ
   A 郡司氏は薬害エイズ死者400人に責任を取れ
   B 郡司「殺人政策・ワイロ」教授に続き「臓器売買」講師
     腐り果てた医学部教授会の惨状
   C 厚生省から出向中の郡司医教授は死者400名に謝罪し責任を取れ
   D 厚生省出向教授郡司氏は薬害エイズ死者430名に謝罪し責任を取れ
   E 郡司「殺人政策・ワイロ」教授に続き「臓器売買」講師
     腐り果てた医学部教授会の惨状
   F 郡司[出向教授]は薬害エイズ死者400/2000に責任を取れ
   G 厚生省出向教授郡司篤晃氏は薬害エイズ死者400名に謝罪し責任を取れ
   H 郡司出向医教授は薬害エイズ死者400名に責任を取れ
   I 郡司篤晃医学部教授の薬害エイズ・ワイロ隠しに抗議する

 2、本件立看板の記載内容は、以下の三つに大別できる

  (イ)郡司氏(厚生省出向教授郡司氏、郡司出向医教授など若干の表現の違いはある)は薬害エイズ死者に謝罪し責任を取れ(たんに「責任を取れ」という表現のものもある)(立看板1,2,4,5,7,8,9)
  (ロ)郡司篤晃医学部教授の薬害エイズ隠しに抗議する(立看板10)
  (ハ)腐り果てた医学部教授会の惨状(立看板3,6)

 3、(イ)は、原告が薬害エイズ被害の発生について責任があり、被害者(死者を含む)に謝罪し責任をとるべきであるというものであって、意見ないし論評の表明であることは明らかである。
  (ロ)は、「抗議する」という言葉が端的に示しているように、意見ないし論評の表明であることは明らかである。
  (ハ)の主題は、原告ではなく医学部教授会であり、医学部教授会が腐り果てているという批判ないし論評の表明であることは明らかである。

 4、右に述べたように、薬害エイズに関する立看板の記載内容は、意見ないし論評の表明であることは明らかであるが、これが前記最高裁判例に照らして不法行為としての違法性があるかが、次の検討課題となる。

  @ 公務員の地位における行動か?
   原告が厚生省薬務局生物製剤課長在任中の行動に関するものであり、公務員の地位における行動であることは言うまでもない。

  A 公共の利害に関する事実か?
   薬害エイズ被害が公共の利害に関する事実であることは明らかである。

   B 目的が専ら公益を図るものか?
   被告と原告との共通点は、本件立看板が掲出された時点でいずれも東大教職員であったというだけのことであり、それ以外は何もない。被告には、原告に対する個人的な怨恨などは何もないし、ましてや、原告を攻撃することにより何らかの利益を得るという関係も全くない。原告を揶揄したり誹謗中傷したりする記載も全くない。
   立看板掲出の目的は、第一に、薬害エイズ被害の真相を明らかにして、責任者(原告もその一人である)に謝罪させ責任を取らせることであり、第二に、かかる原告が真理探究の場である大学で教授として学生に教えることの是非を学内に問うことであり、公益目的であったことは明らかである(「専ら」ではなく、「一〇〇%」公益目的である)。

  C 前提としている事実が主要な点において真実であることの証明があったか?
   (イ)答弁書で指摘したように、薬害エイズ訴訟における東京地裁の「和解勧告に当たっての所見」(乙九、以下「所見」という)は、「当時の厚生省は、血液製剤を介して伝播されるウイルスにより国内の血友病患者がエイズに罹患する危険性やエイズの重篤性についての認識が十分でなく、前記のような有効な方策を講 ずることがなかったのであり、かかる対策の遅れが我が国における血友病患者のエイズ感染という悲惨な被害拡大につながったことは否定し難いというべきである。」旨述べていた(六〜七頁)。所見要旨は新聞等で報道されており(乙一一〜一三)、遅くとも一九九六年四月には所見全文がインターネット(ホームページの主催者は「HIV訴訟を支える会」)で公表されていた(乙一〇)。
   厚生省は、一九九六年二月二一日、従来見つからないと言っていた薬害エイズ関連資料が発見されたことを発表し(乙二七、二八)、同年二月二九日から公開を開始したが、その中にはいわゆる郡司ファイル等も含まれていた(乙二六)。右資料のコピーは誰でも入手可能であり、東大職連も入手した(乙二一〜二五はその一部である)。
   厚生省の「血液製剤によるHIV感染に関する調査プロジェクトチーム」は、一九九六年四月二八日、調査報告書(乙一四の一)を発表したが、その中には右チームからの質問(乙一四の三)に対する原告の回答(乙一四の四)も含まれていた。右調査報告書も公開され、コピーは誰でも入手可能であり、東大職連も入手した。
   当時の菅厚生大臣は、同年二月一六日、薬害エイズ訴訟原告・被害者に厚生省を代表して謝罪し(乙一五)、厚生大臣退任後、薬害エイズ被害については原告にも責任があると考え、退任直前まで国家公務員法に基づく懲戒処分を検討していたことを明らかにしていた(乙一六〜一九)。また、小泉厚生大臣も懲戒処分の可能性を示唆した(乙二〇)。

  (ロ)本件立看板・ビラ作成にあたって、東大職連が主として使用した資料は「所見」「公開資料」「調査報告書」「厚生大臣発言」の四つである。
   「所見」は、原告を含む多くの証人尋問等の証拠調べを経た上での裁判所の公式見解であり、「公開資料」にはエイズ研究班設置当時の資料も含まれており、「調査報告書」には原告の回答が含まれており、「厚生大臣発言」は厚生省責任者としての発言であり、その証拠価値はいずれも極めて高く、「前提としている事実が主要な点において真実であることの証明があった」と言うべきである。

  (ハ)東大職連は、右の四つ以外に新聞記事なども参考にした。ところで、前記平成九年九月九日第三小法廷判決の「新聞等により繰り返し報道されたために社会的に広く知れ渡っていたとしても、このことから、直ちに、右嫌疑に係る犯罪の事実が存在したと公表した者において、右事実を真実と信ずるにつき相当の理由 があったということはできない。」との判示部分は、被告としても一般論としては正当なものと考えている。しかし、薬害エイズ報道とロス疑惑報道とではその質が根本的に異なっており、同列に考えることは誤りである。ロス疑惑報道では、被疑者が逮捕される以前はマスコミが被疑者の行動などを推測も含めて書き立てていたし、起訴後も真犯人と決めつけた上での報道であり、人身攻撃に及ぶものの少なくなかったのであって、どこまで真実を報道しているのか分からないというものが多かった(だからこそ、名誉毀損による損害賠償訴訟の多くの場合にマスコミ側が敗訴している)。
   これに対し、薬害エイズ問題では、損害賠償訴訟が進行して関係者の証人尋問などが行われていたし、厚生省も郡司ファイルなどの資料やプロジェクトチームの調査報告書を公開していたのであり、衆議院厚生委員会ないし参議院厚生委員会では、原告(乙四三〜四七、五五〜五八)、安部英・元エイズ研究班班長 (乙四二、四七、四九)、元班員の松田重三・帝京大助教授(乙四二、五〇〜五三)、塩川優一・順天堂大名誉教授(乙五〇)、芦沢正見・元国立公衆衛生院理論疫学室長(乙五五〜五八)などが参考人として呼ばれて質疑応答が行われており、公にされた資料・証言などに基づく報道が多かった。一九九六年七月二三日には衆議院厚生委員会で原告の証人喚問が行われている(乙六六)。新聞などの取材に応じた関係者も少なくないが、その発言は実名で報道されるものが多かった(乙三一の西岡久寿弥・元エイズ研究班員、乙三七の国行昌頼・元日本製薬専務、乙三九の小池欣一・元日赤副社長など)。その意味では、薬害エイズについての報道内容は、その取材源などが明確であり、ロス疑惑報道に比べればはるかに信頼性の高いものであ った。

  (ニ)本件立看板・ビラ作成にあたって基礎となった資料は、いずれも公開・報道されたものばかりであり、しかも信頼性の極めて高いものであって、被告としては、真実であることの証明があったと確信している。
   百歩譲って、仮に、意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がされていないとしても、基礎となった資料を考えれば、東大職連ないし被告が真実であると信じたのは当然のことであり、真実であると信じるについて相当の理由があったことは明らかである。

  D 人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したか?
  本件立看板は、生物製剤課長としての原告の政策判断の誤りを指摘し、原告に対し、被害者に謝罪するとともに責任を取ることを求めているのであり、論評の域を逸脱した人身攻撃などは全くないことは明らかである。

 5、以上述べたように、前記二つの最高裁判例に照らして、本件立看板の記載内容に不法行為としての違法性ないし故意過失がないことは明らかである。

四、薬害エイズ被害についてのビラの記載内容


 1、原告が問題としている薬害エイズ被害に関するビラは、立看板B及び同Eに貼付されたビラである。立看板Bのビラは一九九七年一月一六日付である。立看板Eのビラは甲第六号証からは必ずしもはっきりしないが、立看板Bと同一のものと思われる。
 以下、同一であることを前提に反論する。

 2、右ビラの大見出しは「殺人政策を選択・執行した郡司戒告教授」となっているが、副見出しは「1・7総長補佐交渉報告」となっており、総長補佐交渉の経過についての報告を前提とした上での東大当局ないし医学部教授会、東大病院に対する意見の表明である。
 即ち、ビラが主として訴えているのは、@ 東大当局は「郡司調査委員会」の調査方法・内容、処分の基準・手続などを明らかにすべきである、A 医学部・東大ぐるみで郡司氏の薬害エイズ責任を隠蔽し、郡司氏に教授を続けさせている自分達の責任も逃れようとしている、B 医学部教授会は、血友病患者に対する見殺し・「保安処分」政策を選択し執行した郡司氏をかばい続けている、C 東大病院の「投与患者把握済み」はまったく信用できない、D 東大病院は感染性廃棄物処理体制を根本的に再点検して抜本的な対策を取るべきである、の五点であり、全体として見れば、これらが意見の表明であることは明らかであり、しかも、その対象となっているのは、東大当局ないし医学部教授会、東大病院であって原告ではない。
 そもそも、ビラには原告の名誉を毀損する部分はないと言うべきである。

 3、しかるところ、原告はビラの中に原告の名誉を毀損する部分がある旨主張するので、念のため、以下反論する。
 原告が問題としているのは、「郡司氏は『殺人政策』の責任をとれ」という見出しに続く本文の一部である。本文全体は、原告が薬害エイズ被害の拡大に責任があり被害者に謝罪し責任を取るべきであるという意見を前提とした上で、更に東大当局、東大医学部などに対し意見を表明しているものであることは明らかである。
 以下、本文全文を明らかにした上で反論する(原告が訴状で問題としているのはゴチックのABEGである。)。

 @ 今回の「戒告」処分は、郡司氏の薬害エイズ責任にはまったく触れていない。医学部、東大がらみで郡司氏の薬害エイズ責任を隠蔽し、郡司氏に教授を続けさせている自分たちの責任も逃れようとしているのだ。
 A 郡司氏は、自ら繰り返し語っているように、厚生省生物製剤課長として82年の暮れか83年の極めて早い時期に非加熱血液製剤によるエイズ感染の危険性を十分承知していた。
 B しかし、氏は、終始一貫して、非加熱製剤の使用を推進した。
 C 83年当時、アメリカでは供血者のチェックが行われていたが、それでもエイズ感染者から採血され、血液製剤が作られていた。
 D これは83年6月、トラベノール社のエイズ汚染製剤の輸入で明らかであった。
 E しかし、郡司氏は、エイズ汚染製剤が輸入された事実をあえて公表せず、輸入禁止措置もとらなかった。
 F 83年6月にすでにアメリカでトラベノール社の加熱製剤が認可されていたが、郡司氏は日本での使用を認可せず、臨床試験が必要だとした。
 G 郡司氏は血液製剤の危険性を熟知し、死に至る病・エイズの感染を防ぐ方法があったにもかかわらず、当の血友病患者には危険性を一切知らせず囲い込んで、1800人以上もの血友病患者を死に至らしめる道をあえて選択し執行した。
 H 83年5月25日付の生物製剤課文書は「現時点ではわが国における血液製剤の輸入禁止措置は行わない」とし、その「理由」の一つとして「血友病患者の日常の管理を強化することにより他者への感染の危険は極めて少ないと考えられる」と記している。
 I 血友病患者は日本全体で約5000人であり、郡司氏にとっては「マイナー」な存在だった。
 J 郡司氏は血友病患者のエイズ感染を予想し見殺しにし、例え血友病患者全員を感染させたとしても、「日常の管理を強化」すれば、すなわち“隔離政策”を取れば、「他者への感染の危険」はないと判断したのだ。
 K これは「多数者の安全」「社会防衛」のために「少数者」・社会的「弱者」を隔離しようとするものであり、刑法改「正」により導入しようとして果たせない「保安処分」にほかならない。
 L かつて医学部精神科の台(うてな)教授が「精神病者」の脳の一部を切除するロボトミー手術を行い、告発されたとき、医学部教授会はこれを人体実験と認め、社会的「弱者」を「社会一般多数」あるいは「人類」の名のもとに犠牲にするものとして反省を表明した。
 M しかし、血友病患者に対する見殺し・「保安処分」政策を選択し執行した郡司氏を、医学部教授会はかばい続けている。
 N その医学部・病院で、生命に関わる重大事件が次々と露見している。

 4、前記最高裁判決の判断基準のうち、「公務員の地位における行動か」「公共の利害に関する事実か」「目的が専ら公益を図るものか」「人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したか」の四点については、先に立看板の記載内容について主張したとおりである。
 残る基準は「前提としている事実が主要な点において真実であることの証明があったか」であるので、以下論述する。

 5、ビラの内容は主要な点において真実であることの証明があったか?


 Aは、原告が従前から主張していることであり、そもそも原告の名誉を毀損する内容ではない。本件訴訟でも、原告は「早い時期から危機感を持ち、行政的対応を図ろうとしてエイズ班を組織するなどした」と主張している。

 Bは、C〜Fの結論である。原告は、八三年六月にトラベノール社がエイズ汚染製剤を自主的に回収した旨厚生省に報告したことは認めており(乙一四の四・八頁、乙二二がトラベノール社の報告書である)、Dは真実である。従って、Cが真実であることも明らかである。Eのうち、エイズ汚染製剤が輸入された事実をエイズ研究班にも報告しなかったことは原告も認めており(乙一四の四・九頁)、輸入禁止措置を取ったという事実もないのであって、Eも真実である。原告は、トラベノール社の加熱製剤について治験(臨床実験)が必要であるという見解をトラベノール社に伝えたことは認めており(乙一四の四・一〇頁)、Fも真実である。
  原告が直ちに非加熱製剤から加熱製剤へ切り換える措置をとらず、加熱製剤の製造承認は第Q因子製剤が八五年七月に、第R因子製剤が八五年一二月になったこと(乙九の六頁)、この承認の遅れにより最大のメリットを受けたのはミドリ十字であったことなどを考えると、被告としては、原告が「終始一貫して、非加熱製剤の使用を推進した」と評価されて当然であると考えている。ちなみに、原告は「加熱製剤については当初はあまり積極的でなかった」ことを認めている(乙一四の四・五頁)。

 Eについては前述したとおりであって、真実である。

 Gのうち、「血液製剤の危険性を熟知し」ていたことは原告が本件訴訟でも認めているところである。
  「死に至る病・エイズの感染を防ぐ方法があった」部分は早期に非加熱製剤の使用を中止し、加熱製剤に切り換えていれば、薬害エイズ被害の拡大は最小限に食い止められたのであって、その意味ではエイズ感染を防止する方法があったことは明らかであり、所見も同様の見解を述べている。
  「血友病患者には危険性を一切知らせず」の部分は、所見で「血友病患者への十分な情報提供が期待されていたにもかかわらず、有効な方策を講じることがなかった」旨指摘されている(乙九の六〜七頁)。
  「血友病患者を囲い込んで」の部分は、J、Kの部分からその意味することは明らかである。
  「1800人以上もの血友病患者を死に至らしめる道をあえて選択し執行した」の部分は、原告の選択した政策に対する東大職連の評価であるが、所見も「(厚生省は)有効な方策を講ずることがなかったのであり、かかる対策の遅れが血友病患者のエイズ感染という悲惨な被害拡大につながったことは否定しがたい」旨指摘しているのであって(乙九の七頁)、被告としてはそのような評価をされて当然であると考えている。

 右に述べたように、意見ないし論評表明の前提としている事実が主要な点において真実であることの証明があったことは明らかであり、ビラについても違法性はない。

 6、被告としては本件ビラの内容は意見ないし論評の表明であると考えていることは前述したとおりであるが、仮に、事実摘示部分があるとしても、以下に述べるように不法行為には該当しない。


  前記平成九年九月九日第三小法廷判決は「事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利益に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、右行為には、違法性がなく、仮に右事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される。」と判示している。
  本件ビラに右判示部分を当てはめた場合、@ 公共の利益に関する事実に係ること、A 目的が公益を図ることにあったこと、B 摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったこと、は前述したとおりであり、本件ビラには違法性がない。
  仮に、真実であることの証明がないとしても、東大職連ないし被告には真実と信ずるについて相当の理由があったことは前述したとおりであり、故意・過失がなく不法行為は成立しない。


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