増える膵臓がん
早期発見難しく治りにくい
2001年8月7日 日本経済新聞 夕刊
膵(すい)臓がんで亡くなった人は年間約1万9千人。肺がんや胃がんの約5万人に比べると少ないものの、1960年の10倍に増えた。女優の杉村春子さんや、ジャーナリストの黒田清さんの命を奪ったのも膵臓がんだった。大阪大学大学院医学系研究科の門田(もんでん)守人教授に診断・治療法を尋ねた。
――膵臓がんは、がんの中でも治りにくいと言われていますが。
「早期発見が難しいためです。がんが小さい段階ではほとんどのケースで症状が見られません。最初に見られる症状が黄疸(おうだん)のこともありますが、がんが膵臓の外に出てきて膵臓の裏にある神経に浸潤して初めて痛みが出てくる人が多い。つまり、がんがかなり進行してからでないと見つからないのです。痛みは腹部や背中に出ます」
「はっきりした統計はありませんが、膵臓がんと診断された人のうち、手術できるのは3割程度でしょう。がんは進行度によって4段階に分かれますが、切除手術を受けた人のうち8割弱が最も進行したステージIVの人たちです。このため、切除後の5年生存率が約13%と低いのです」
ほとんどが再発
――治療法について教えてください。
「血管を残して膵臓とその周辺にある神経やリンパ節などを全部取り除く拡大手術がほとんどです。手術では取りきれないがん細胞を殺すため、手術中に放射線を照射することもあります。ただ、病理検査でがんが取り切れたと判定されても、再発するケースがほとんどです」
――手術後に再発する人と治った人を見分ける方法はないのでしょうか。
「手術で取ったリンパ節などの組織のうち病理検査でがんの存在が認められなかった組織を調べて、K―rasという遺伝子を用いてがん細胞が検出されなければ、まず再発しないと言ってよいでしょう。これまでは、だれが再発するかわからないので、副作用の強い抗がん剤を使うべきか否か判断に悩むケースもありましたが、遺伝子診断によってがんを再発する患者が特定できるので、少々、副作用を覚悟しても抗がん剤を使えるようになりました」
早い段階は6割生存
――手術できない患者さんには、どのような治療法がありますか。
「放射線の照射と併せて抗がん剤を投与しています。がんに対して効くかどうかはわかりませんが、痛みを抑えることができるからです」
――がんが早い段階で見つかることもあるのでしょうか。
「わずかながらあります。早期とはがんの大きさが2センチ以下で、すい臓の中にがんがとどまっている状態のことをいいます。この段階で切除手術を受ければ、およそ6割の人は助かります。もっとも、これまで切除手術を受けた患者のうちで早期の人の割合は、わずか2.4%にすぎません」
「膵臓は胃の裏側にある細長い臓器で、頭部と体部と尾部の三つの部分に分かれています。このうち頭部にがんができると、膵頭部の中を通る胆管が詰まって黄疸が出ます。この場合は早期発見ができることもあります」
「膵臓の真ん中には膵管が通っており、その中を膵液が流れている。がんができると膵管が圧迫され、膵液が流れなくなる。すると膵管の内圧が高まって、急性膵炎と同じようにおなかが痛くなる。通常は病院でもらった薬を飲んで痛みが消えるので、安心するのですが、半年か1年たつと、膵がんの症状が出てくる。急性膵炎による痛みで患者さんが受診したときに、担当医の先生が、がんではないかと疑って超音波検査などで調べてくれれば、早期発見できる可能性はあります」
(聞き手は編集委員 西山彰彦)
40歳すぎたら注意を
膵臓がんは40―50歳ころから年齢とともに増え、特に70―80歳に多くみられる。このため、40歳を超えたら、無症状でも腹部の超音波検査とコンピューター断層撮影装置(CT)による検査を年に1回程度受けて、早期発見を心がけることが大切だ。異常が見つかれば、さらに磁気共鳴画像や膵管造影などの検査をして、がんの有無を確認する。
膵臓がんの原因は解明できていない。喫煙や飲酒、コーヒー、脂肪や肉類のとりすぎなどを指摘する報告もあるが、不明確な点が多い。逆に生野菜や果物が膵臓がんにかかる危険率を下げるという報告もある。