肝がんを予防する

ウイルス対策しっかりと

2001年7月31日 日本経済新聞 夕刊


 毎年3万5千人の命を奪っている肝臓がん(肝がん)。よい治療法も登場しているが、ポイントは発がんの危険性がある人を減らすことだ。肝がんのほとんどはC型肝炎ウイルスによるから、「ウイルス対策をしっかり行うことが、肝がんの減少につながる」と、東京大学消化器内科の小俣政男教授は言う。

――肝がんの主な原因は肝炎ウイルスであり、自覚症状も少ないと聞きます。

 「患者の80%強がC型肝炎ウイルスに、10%弱がB型肝炎ウイルスに感染しています。自覚症状もほとんどありません。私たちのところでも黄疸(おうだん)や腹水がたまるといった症状を示すのは全体の10―20%ほどで、ほとんどの患者では外見上何の症状も見られません」

 「慢性肝炎から肝硬変、そして肝がんに至る道は連続的です。肝臓組織の線維化(F)の進展度を指標にしますが、F1(軽度の線維化)から段階を経てF4(肝硬変)になり、最終的に肝がんを発症します。F4から肝がんになる率は年間7―8%です。8年から10年で1段階上がりますので、ウイルス感染から30年ほど、長い場合は50年で肝がんになります。患者も60歳代から増えてきます」

血小板で危険度判定

――肝がん患者をこれ以上増やさないためには、危険度の高い人を見つけることが重要になりますね。

 「私たち日本肝臓学会では3月にC型ウイルスによる肝がんを撲滅するための指針をまとめました。この中で高危険群の患者の簡便な見分け方としてあげたのが血小板数を調べることです。線維化に伴い血小板数が減少していきます。正常な人では血液1マイクロ(1マイクロは百万分の1)リットルあたり18万個以上、F1では15万―18万個ですが、F4では10万個以下になります」

「富士登山に例えると、頂上に近づいた人たちが高危険度群の人です。血小板数が1マイクロリットルあたり14万個以下であったなら該当すると見てよい。高危険度群の人は肝臓の生検(針で組織をとり調べる)や超音波検査、腫瘍(しゅよう)マーカーという特殊なたんぱく質の有無を調べることなどを年に3、4回受け、必要ならインターフェロンによる治療をすべきでしょう」

ラジオ波治療に脚光

――肝がんになった場合、治療法はありますか。

 「外科手術、エタノール注入療法、がん細胞を兵糧攻めにする塞栓(そくせん)療法などがあります。エタノール注入法は細い針を通してがん病巣にエタノールを入れ、がん細胞を壊死(えし)させる方法で、かなり効果があります。エタノールを注入する代わりに針の先からラジオ波を照射する方法は革命的と言える治療法で、直径が5センチのがんに対しても可能です。患者の肉体的な負担も少なく、1週間ほどで退院できます」

 「かつては肝がんにかかったら半年の命、と言われましたが、現在は治る率は高くなってきています。私たちのところへは重症の患者が来院しますが、それでも5年生存率は42%。一般的には30―40%でしょう。治療法が進歩したとはいえ、肝がんはまだまだ難しい病気なのです。それはがん病巣を治療をしても、周囲の肝臓組織はほぼすべて肝硬変を起こしており、それらが再発のいわば予備軍になっているからです。肝がんは肝臓全体の病気としてとらえる必要があります」

――肝がんを減らすことはできますか。

 「C型肝炎ウイルスの感染源は輸血、入れ墨、覚せい剤です。新規の感染はほとんどありませんから、高危険度群の人を見つけ、徹底して治療をすれば確実に減ります。また、インターフェロンなどでウイルスを駆除できれば4年に1段階のはやさで肝臓の線維化度が改善でき、発がんリスクも下がります」

(聞き手は編集委員 中村雅美)

 肝がんの治療では、中波ラジオとほぼ同じ波長の電波の熱を利用するラジオ波焼灼(しゃく)法が高い成果を上げている。健康保険の適用外なので高度先進医療指定を受けた医療機関以外では、治療費は患者負担になるから、保険適用にすることが考えられてもよい。

 また、高危険度群を発見する検査を全国的に実施することや、C型肝炎ウイルスを駆除するためのインターフェロン療法をより広く、安価に行うことも肝がん撲滅につながるだろう。


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