大腸がんは治る
手術こそ最大の治療法
2001年7月24日 日本経済新聞 夕刊
大腸がんの治療には手術が最も効果的であり、日本は世界でも手術の治療成績が一番よい。大腸がんは今や“治る”病気になっている。東京都立駒込病院の森武生副院長は、「排尿機能・性機能や、肛門(こうもん)を残すなど、患者の生活を考えた機能温存手術をもっと重視しなければならない」と言う。
――大腸がんは肺、胃に次いで死亡者数が多いがんで、治療の第1選択は手術になっていますね。
「脂肪が多く、繊維の摂取が少ないといった食生活の欧風化が進んだせいか、近年患者数が増加する傾向にあります。発生部位の違いによって肛門から20センチくらいまでの直腸がんと、それより奥の結腸がんに分けられますが、全体としては結腸がんがやや多いでしょう。現在の発病率は直腸がんでは横ばい、結腸がんでは1970年代の約2倍になっています。特に、結腸がんの中でもがん細胞の分化度が低くてリンパ節転移があるといった、いわば“たちの悪い”タイプが多くなっています」
「一方で、治癒率は着実に向上しています。以前は肝臓への転移があると治療は困難といわれましたが、現在では肝臓への血管から抗がん薬を入れる方法などによってこうしたものも治療が可能になりました」
「また、進行度から大腸がんの段階を分けたものにデュークス(DUKES)の分類がありますが、結腸がんの場合、5年生存率は最も軽度なDUKES―Aで90%以上、Bで約85%、リンパ節への転移があるCで65―75%です。これは欧米に比べて10―15%は高いでしょう。直腸がんの成績は、各段階でそれぞれ10%程度低くなっています。とにかく、大腸がんはきちんと治療すれば治ります」
人工肛門つけぬ配慮
――肛門に近いがんほど手術が難しいと言われます。
「おなかの中に臓器が収まっている結腸がんの手術は比較的やりやすい。直腸がんも軽度のものは肛門鏡を使って手術できます。しかし、ある程度進行した直腸がんの場合、切除すると人工肛門をつけなければならないといった問題もでてきます。今や、治るがんになったからこそ、治癒後の患者の生活を考えて手術をすることが必要なのです」
「直腸の近くには生殖器官や膀胱(ぼうこう)、骨盤などがあります。非常に込み入ったところなので、手術も難しいのです。骨盤の中には排尿機能や性機能に関係する自律神経がありますから、そうした機能を残すことに十分配慮しなければなりません。特に若い人では機能温存は重要ですから、がんを治療し再発を防ぐのと同じように、機能を残す配慮が求められているのです。私たちは人工肛門を極力つけないようにするなど、手術法に磨きをかけ実績を上げています」
排便注意で早期発見
――がん治療の基本は早期発見・早期治療にあります。大腸がんではどのような点に気を付ければよいでしょうか。
「大腸がんは比較的遺伝要因がある病気です。叔父・叔母といった親族や兄弟などに大腸がん患者がいる人は気を付けた方がよいでしょう。このほかに、自分の排便習慣の変化も見ることもよいでしょう。一日に一度であった排便が一日に二―三回になって元に戻らなくなった、といったことが早期発見につながることが多いのです」
「強調したいことは、一年に一度は潜血試験を行うことです。便の中に血液が混じっていないかを調べるのです。一日の便を調べるだけで60%の発見率があり、二日分を調べると大腸がんの95%近くが見つかります。今では二日法が行われていますが、40歳を過ぎたら一年に一回は潜血検査をすることを心がけるべきでしょう」
(聞き手は編集委員 中村雅美)
大腸がんの機能温存手術では医師に高い技能と根気が求められる。泌尿器や生殖器をつかさどっている自律神経は、骨盤内の薄い層の中を複雑に走っている。骨盤の両側から、神経を残しながらがん組織を切除しなければならないからだ。
また、一口に大腸がんといっても、治療の状態の善しあしや再発の危険度などは患者一人ひとりで異なる。遺伝子のタイプや血液中にある微量の生理活性物質を分析して、再発につながる危険因子などを詳しくチェックすることも近い将来行われるだろう。現在こうした研究が進んでいる。