依然多い胃がん

大阪府立成人病センター平塚正弘氏

2001年7月17日 日本経済新聞 夕刊


 胃がんによる死亡者数は年間約5万人と依然として多いが、医学の進歩で治癒率(治療後5年間生存している割合)は向上している。早期胃がんでは約9割、進行胃がんでも患部を取り切れれば約6割と高い。胃がん治療の最前線を大阪府立成人病センターの平塚正弘第一外科医長に聞いた。

――胃がんになりやすい年齢や男女差というのはあるのでしょうか。

 「60歳代の人に多く見られますが、若い人でも発症します。圧倒的に男性が多いのですが、スキルス胃がんと呼ばれるものは、女性で目立ちます」

女性ホルモンで拡大

――スキルス胃がんはどのようながんですか。

 「胃がん全体の約10%を占め、30代、40代の女性に多くみられます。女性ホルモンで大きくなるといわれており、妊娠・出産の時期に重なっていると、がんが急激に悪化します」

 「普通の進行胃がんはがんの病巣が火山の噴火口のように盛り上がっていることが多いのに対し、スキルス胃がんは胃全体に横に広がる。隆起部がないため、見つけにくいのが特徴で、毎年、集団検診でバリウムを飲んで検査していても見つからず、見つかった時には手遅れということが珍しくありません。非常にたちが悪いがんです」

拡大手術で成績向上

――どのような治療法があるのでしょうか。

 「通常は胃を全部摘出して、脾(ひ)臓とすい臓の一部を切除する手術を標準的に行っています。ただ、がんを取り切れたと思っても、目に見えないところにがんが潜んでいることが多く、すぐに再発します。このため、5年後の生存率は手術を受けた患者の20%程度しかありません」

 「そこで、切除する臓器を胃の周辺にある横行結腸、胆のう、左副じんにまで広げる拡大手術が行われた結果、5年生存率は40%まで向上しました。最近では手術前に抗がん剤を投与して、患部の周辺に広がっているがんを殺してから、患部を切除する方法も研究として試みられています」

患部だけ摘出も

――スキルスがんを早期発見する方法はないのでしょうか。

 「胃の粘膜表面に異常がないので、内視鏡では見つけにくい。スキルスがんは胃全体が縮むので、毎年、レントゲンを撮って過去に撮った写真と比較すれば、早期発見できるチャンスはあると思います」

――通常の早期がんでも胃を摘出するのでしょうか。

 「これまでは早期がんでも胃を摘出する手術を実施してきましたが、低血糖や逆流性食道炎、胆石などの後遺症が出るので、患部だけを内視鏡で取り除く治療をするようになっています」

 「胃を切除するのは、がんがリンパ節に移って、再発するのを防ぐためです。胃の粘膜にがんがとどまっているようなごく初期のがんでは、リンパ節に転移する人の割合は100人中2、3人しかいない。そこで過去のデータから、リンパ節転移がまずないと考えられる人(かいようがなくて、がん組織が分化型で、2センチ以下の場合)には内視鏡的粘膜切除術(EMR)をしています」

 「ただ、EMRの対象は早期胃がんの10%と少ないので、胃の出口の部分である幽門部を残して、胃の3分の2以下を切除する“縮小手術”も10年前から施されています」

 「縮小手術をすると胆石は少なくなるのですが、胸のつかえなど新たな後遺症が現れます。そこで、我々は切除領域を最小限に抑える究極の縮小手術を考案しました。手術中にがんが最初に転移すると考えられるリンパ節を色素を使って探し出し、そのリンパ節にがんがあるか否かを調べ、転移していなければ患部だけを摘出する方法です」

(聞き手は編集委員 西山彰彦)

一般用治療ガイドも

 胃がんは早期発見すれば、ほとんど治るようになった。早期に見つけにくいスキルス胃がんの発見率を少しでも高めるには、年に1回、できれば、同じ病院でレントゲン写真を撮ることが大切だ。念のため医師に過去の写真と比較して、スキルス胃がんでないかどうか尋ねた方がよいだろう。

 日本胃癌学会は3月、がんの進行度ごとに標準的な治療法を示したガイドラインをまとめた。分かりやすく一般向けに解説した「胃癌治療ガイドライン」(金原出版)が10月にも販売される予定。患者が治療法を選択する際などに役立ちそうだ。


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