乳がんの温存療法

組織の直径3センチ以下が目安

2001年7月10日 日本経済新聞 夕刊


 30―60歳代の女性を中心に、年間約9千人の命を奪っている乳がん。近年は治療後の患者のQOL(生活の質)を考えて乳房を残す温存手術が広がっているが、癌研究会付属病院乳腺外科の霞富士雄部長は「がんの広がりをきちんと調べた上で、温存がよいのか切除がよいのか判断すべきだ」と指摘する。

――乳房温存手術(療法)はどれくらい実施されているのでしょうか。

 「日本乳癌学会の調査によると、温存手術は1987年ころから始まって増加し、2000年には40.8%になっています。残りは切除手術ですが、現在では大小胸筋をともに残してあばら骨が浮き出るようなことのない胸筋温存乳房切除が全体の52%強です。かつて多かった、胸筋も含めて取るハルステッド手術はわずかの進行がんにしか実施されていません。乳がんの外科治療は乳房温存か縮小手術が主流です」

 「切除手術は少人数でできるのに対して、温存療法は放射線照射や切除したがん組織の病理検査などスタッフもたくさん必要です。その意味では、医療機関が真剣に温存療法に取り組むかどうかが安全な普及を左右します。スタッフや設備などの関係で、できない病院もあるでしょう」

若い人の成績に課題

――温存療法は乳房切除に比べ治療成績はよいですか。

 「温存療法が広がるとともに、切除手術に比べて必ずしもよいとは言えないという結果が出始めています。特に若い人で少々悪い。むしろ若い人ほど乳房の温存が必要なのですが……。治療成績がよくない理由は乳房内の局所で再発があるからです。若い人では分化型の腺がんが多く、乳管内に入り込んでいるがんを手術で取り残してしまいやすいのです。たとえ、放射線を照射してもがんは乳房内に再発します」

 「患者のQOLを考えると、乳房温存療法がよい。適用の一つの目安はがんの大きさ(直径)が3センチ以下であるものでしょう。しかし、再発などを考えると一概に温存がよいとは言えません。がん組織の広がり具合やタイプ、乳房の大きさなどを調べて、どの治療法がよいのかを選ぶことが肝心です。医師もきちんと説明しなければいけませんし、患者も冷静に判断することが必要です」

自己検診をしっかり

――縮小手術の一環として、わきの下のリンパ節の郭清(除去すること)をしないことも考えられていますね。

 「わきの下のリンパ節郭清は、転移や再発の危険を防ぐためですが、腕のむくみやわきの下の知覚の低下などの副作用もあります。顕微鏡で組織を調べてみると、乳がんの手術を受けた人の60%ではリンパ節への転移がない。となると、現状では転移がある40%弱の人のために、必要のない人までも郭清していることになります」

 「リンパ節への転移の有無は触診や超音波、MRI(磁気共鳴画像装置)などによって診断できますが、これで判断できないこともあります。そのために転移の有無を知るための“センチネル(歩哨)リンパ節”と呼ばれるものを検査する方法が開発されつつあります。これによってリンパ節郭清が必要かどうかもかなり正しく判断できます」

――家族に乳がんの人がいると、他の人もその危険性は高まりますか。

 「例えば、近親者に2人以上乳がんの手術を受けた人がいたら危険率は高いと考えられます。ただおびえる必要はなく、検査をこまめに行い、もし発症しているなら早期に発見することが大切です。また、未婚や晩婚、高齢出産などの人はより注意が必要でしょう」

――乳がんは素人でも発見できるがんとされます。

 「乳がんは見たり、触ったりすることで発見できます。これは経験がなくても可能です。初期に症状が見つかる80%以上は、自分でしこりに触れることです。乳がん撲滅の第一歩は、自己検診をしっかりやることにあります」

(聞き手は編集委員 中村雅美)

 自己検診と並んで乳がんの早期発見に有効なものにマンモグラフィーがある。これは乳房検査専用のエックス線撮影装置で、触診などで発見できない乳房の小さなしこりを見つけることができる。

 年間4万5千人もの女性が乳がんで亡くなっている米国では、10数年前から市民団体や患者団体などがマンモグラフィー検査の普及活動を進め、乳がん死の減少を目指している。

 検査装置の導入などに費用がかかるが、日本でもマンモグラフィーによる検査が普及することが望まれている。


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