郡 司 氏 の 準 備 書 面(5)

この準備書面は1999年8月30日の第7回公判で提出されたものです。


平成一〇年(ワ)第一八九八三号
  損害賠償請求事件

   一九九九年八月三〇日
                                     右原告訴訟代理人
                                     弁護士 弘中惇一郎
                                      同   喜多村洋一
                                      同   飯田 正剛
                                      同   坂井 眞
                                      同   加城 千波
  東京地方裁判所 民事第三六部合議係 御中

準備書面(五)

 原告は、本準備書面において、被告準備書面(五)に対する認否・反論をする。

第一 立看板の記載の被告主張の資料からの逸脱

  原告は、本件で問題とする立看板の記載については訴状請求の原因第三項の3において特定し、その記載内容が名誉毀損・侮辱にあたるものであることについては同第四項に述べたとおりである。これに対し、被告は、被告準備書面(一)の17〜19頁(非加熱製剤に関する部分)及び同準備書面(二)の15〜16頁(賄賂に関する部分)において、立看板の記載の問題点をまとめている。

  しかし、原告が問題としている内容と、被告がまとめている右内容とは必ずしも一致していない(例えば被告は原告の指摘する立看板の見出し部分については「意見ないし論評の表明である」などとしているし、その他の内容において原告の主張を簡略化している部分がある)。また、被告のように一部を分解して取り上げることによりその部分が前後の関係で意味している内容が不明確になるなどの問題がある。

  したがって、原告としては、被告のこのようなまとめ方をそのまま認め、これを前提に主張・立証していくことを認めるものではないが、立看板の内容に関する被告の主張の大枠に対する反論という趣旨において、以下、立看板の記載内容が被告の主張する「依拠した資料」から逸脱したものであることを指摘する。

 一 被告準備書面(五)第二項@について

  この部分については、立看板上は「郡司氏の薬害エイズ責任」なる表現が二回存在する。そして「薬害エイズ責任」を「隠蔽」して「郡司氏に教授を続けさせている」などする立看板の記載は、原告には「薬害エイズ責任」があり、それを理由に本来教授を辞めさせられるべき立場に原告がいると言う意味の記載であると言える。 ところが、被告がここで挙げる資料は、「違法な兼業」なるものについてのみであって、原告が「薬害エイズ責任」を負うべき行為を為し、それによって教授職を辞めさせられるべき立場にあることの裏付けとなる資料ではない。

 したがって、右の立看板の記載は、明らかに資料の内容を逸脱している。

 二 同Aについて

   この部分では、「八二年の暮れか八三年の極めて早い時期に」、原告が「非加熱濃縮製剤によるエイズ感染の危険性を十分承知していた」と言う記述について、立看板の一般的な読者がどのような意味内容として理解するかが問題となる。原告準備書面(四)の第三項1に記載したとおり、立看板を掲出した一九九七ないし一九九八年の段階で、何の説明もなく単純に右のような記載を立看板になすことは、一般の読者にとっては一九九七ないし一九九八年当時のエイズの原因・病態を前提とした「危険性」について、原告が「八二年の暮れか八三年の極めて早い時期に」、「非加熱濃縮製剤によるエイズ感染の危険性を十分承知していた」と理解されることになる。換言すれば、被告が掲出した立看板においては、掲出当時の知見を前提とした非加熱濃縮製剤の危険性について、原告が「八二年の暮れか八三年の極めて早い時期に」「十分承知していた」という意味になるのである。

  被告自身もそのような理解を前提としていたからこそ、立看板の他の部分において、「殺人政策」、「薬害エイズ死者四○○名に対し責任を取れ」、「一八○○人以上もの血友病患者を死に至らしめる道をあえて選択し執行した」などと言う記載が導かれるのである。

  しかし、一九八二ないし一九八三年の段階においては、日本には未だエイズ患者は発生しておらず、未だエイズの原因・病態については不明だったのであって、それを前提にすれば、右のような記載は不可能である。

   資料中の「所見」に記載されている摘示部分は、原告準備書面(四)一の第三項3(10頁)において既に主張したとおり、非加熱濃縮製剤についてどのような「危険性」を述べているかは明確でない。

   しかし、一九八二〜一九八三年当時、原告に対して「殺人政策の責任を取れ」であるとか「一八○○人以上もの血友病患者を死に至らしめる道をあえて選択し執行した」などと言い得るに足るだけの、非加熱製剤によるエイズ病原体への感染、さらにはそれによる死亡率に関する具体的な「危険性」が明らかにされていなかったことは歴史的事実である。したがって、所見に言う一九八二から一九八三年当時の「危険性」(但し所見中被告が摘示する部分には「危険性」なる言葉はない)が、被告が立看板に記載した「危険性」と同一の内容を有するものでないことは明白である。

   この点において、立看板の右記載は資料を逸脱している。

   資料中の「回答」に記載されているのは、「血液を介する感染症ではないか」と言うことに過ぎず、右1に述べた様な意味での立看板に記載された「危険性」と同一の内容を有するものでないことは明白である。

   この点において、立看板の右記載は資料を逸脱している。なお、「危機感をもっていた」ことと、立看板に記載された右のような意味での「エイズ感染の危険性を十分承知していた」こととは、全く意味が異なる(原告準備書面(二)第八項)。

 三 同Bについて

  立看板の記載は「終始一貫して、非加熱製剤の使用を推進した」と言うものである。

  ところが、ここに挙げられた資料には、原告が「非加熱製剤の使用を推進した」などと言う記載はどこにもない。

  立看板の右記載が資料を逸脱していることは明白である。

 四 同C及びDについて

  右の部分は、本件訴訟とは無関係である。

  なお、右二点に関しては、原告準備書面(二)第一の三及び四において、原告は既に主張済みである。

 五 同Eについて

  立看板の記載は、原告が主体である。

  これに対し、資料中の所見の記載は厚生省が主体である。その点で立看板の認載は、資料の記載を逸脱している。

  なお、原告はトラベノール社のエイズ汚染製剤輸入事件について、第一回エイズ研究班で公表している。そして、当該汚染製剤については直ちに回収されたので、輸入禁止措置を取る必要はなかったし、それ以外の血液製剤一般については、それがエイズ汚染血液製剤と考えるべき根拠がなかったので、輸入禁止措置を取ることはなかった(原告準備書面(二)第一の五)。

  ところで、この部分の立看板の記載は、被告のまとめ方においては前後関係と分断されているが、文脈上は、訴状八頁に記載のあるとおり、原告が「殺人政策」として、エイズ感染の危険性を十分承知して終始一貫して非加熱製剤の使用を推進し」、「エイズ感染を防ぐ方法があったにもかかわらず、当の血友病患者には危険性を一切知らせずに」、「輸入禁止措置を取らずに」、「一八○○人以上もの血友病患者を死に至らしめた」と言う流れの中において述べられているのである。しかし資料中の記載は、右のような意味において「輸入禁止措置」が取られなかったとしているのではないから、この意味においても立看板の記載は資料を逸脱している。

 六 同Fについて

  立看板の記載は、「原告がトラベノール社の加熱製剤を認可しなかった」と言うものであるが、摘示された資料のいずれにおいても、そのような記載はない。例えば「所見」では、厚生大臣が「有効な方策を講ずることがなかった」とされているに過ぎず、「回答」においても、立看板の記載に該当する内容などまったくない。したがって、右記載は資料を逸脱している。

  なお、この点については、既に原告準備書面(二)第一の六において主張しているところである。

 七 同Gについて

  この部分については、立看板の記載は、資料の内容から全く逸脱している。
  すなわち、
  a 原告が血液製剤の危険性を熟知していた
  b エイズの感染を防ぐ方法があった
  c 原告が血友病患者には危険性を一切知らせなかった
  d 原告が一八〇〇人以上もの血友病患者を死に至らしめる道をあえて選択した
  などと言う記載は、「所見」にも「回答」にも一切存在しない。

  被告は、具体的に立看板の記述の内容の根拠を示し得ないので、所見から長文を引用、摘示してごまかしているに過ぎない。しかしその内容を具体的に確認すれば、立看板の記載の裏付たる内容は、資料のどこにも存在しない。

  これらの資料にあるのは、せいぜい厚生大臣の、その権限を前堤とした薬害予防に関する一般的責務であるとか、エイズがウイルス感染症である可能性が高いとの前提で議論があったとか、血友病患者のエイズに関する限り血液又は血液製剤を介して伝播されるウイルスによるものと見るのが科学者の常識的見解になりつつあった(それが正しいかどうかはともかく)とか、そして、対策の遅れが我が国における血友病患者のエイズ感染という被害拡大につながったなどと言うものに過ぎず、立看板記載の右aないしdのような内容はどこにも存在していないのである。

 八 同H及びIについて

  本件とは何らの関係もない。

 九 同Jについて

  立看板の記載について、その根拠となるような資料は存在しない。乙第二一号証には、右記載の根拠となるような記述はない。立看板の右記載が資料を逸脱していることは明白である。なお、右に関連して、原告は原告準備書面(二)第一の一一において既に主張している。

 一〇 同KないしNについて

   本件とは何らの関係もない。

第二 真実性について

  原告は、
 @原告が、「殺人政策」を選択・執行し、その結果「一八○○人を死に至らしめた」などとされる前提足り得る、「非加熱製剤によるエイズ感染の危険性」を、一九八二年末から一九八三年の極めて早い時機に「十分承知していた」との事実
 A原告が「終始一貫して、非加熱製剤の使用を推進した」事実
 B原告が「エイズ汚染製剤が輸入された事実をあえて公表」しなかった事実
 C原告において非加熱製剤の「輸入禁止措置」を取り得たのに取らなかったとの事実
 D右当時、原告において「エイズの感染を防ぐ方法があった」との事実
 E右当時、原告において「血友病患者には危険性を一切知らせずに囲い込んだ」との事実
 F右当時、原告が「一八○○人以上もの血友病患者を死に至らしめる道を選択した」との事実
 G原告がユナム社からワイロを収受したとの事実
のいずれについてもその真実性を争う。

以上


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