国立大学の独立行政法人化

に関する「松尾レポート」(1)

資料の取りまとめにあたって(前文)

 本資料は、文部省および国大協の正式なスタンス、すなわち「法人化が先にありきではなく、大学審答申を承けた大学の自己改革が先ず行われるべきであり、法人化には反対」が不変であることを十分承知の上で作成したものである。

 すなわち、本資料の目的は、国立大学の独立行政法人化が財政界を中心に現実味を帯びつつある中、加えて6月開催の国大協理事会・総会を目前に控え、法人を「あくまで可能性のある設置形態の一つ」として捉え、万一の場合には遅滞なく適切に対応するための一助になることを願って、問題点を整理することにある。

 本年4月に、公的立場を離れて蓮見国大協会長から相談があり、この問題に関する早期検討の必要性を昨年度から強く感じていた松尾個人が引き受けたものである。松尾の個人的依頼により、複数の大学から各分野の専門家4名に加わってもらい、計5名で4回の会合とその間の文書による意見交換を行って、約1ヶ月半で集中的にまとめた。

 このように、本研究会自体が非公式の私的な集まりであり、また、検討にあたった者が国立99大学すべてを知悉しているわけではないので、自身の所属する大学を念頭に置いて作業を行ったことを予めお断りし、また、メンバー全員が、本文に掲げるように不明確な点の多い法人化を早急に進めることに対して強い危惧の念を抱きつつ検討を行ったことを申し添えておきたい。

 以上のような経過であるから、この「検討結果の取りまとめ」は、蓮見会長の手持ち資料としてお渡しするものである。したがって、以後のこの資料の取り扱いについては蓮見会長にお任せする。すなわち、個人として留め置かれるか、国大協会長として6月開催の理事会・総会における発言に参考とされるとか、また国大協において法人化問題に関して委員会等で正式検討を開始するような事態になった場合、検討の参考資料として利用されることもあり得る。いずれの場合にも、われわれにはなんらの異論もない。

 また、かかる状況を考慮し、後の利用のされ方を拘束しないために、この「前文」を除き、あえて成文化せず、項目別に検討内容を列挙するにとどめた。

 なお、研究会の進め方としては、国立大学を取りまく状況の変化やのその在るべき姿を明らかにした上で、設置形態が独立行政法人に移行した場合に予想される問題を抽出し、併せてその解決策についても若干の検討を加えた。

 いつの時代にあっても、大学は社会の動向を鋭敏にとらえ、その求めるところに即応する努力を怠ってはいけない。しかしまた、目前の利益を追求するあまり、大学が教育研究の長期的展望を欠くことになれば、真に知の創造の場であり続けることはとうてい不可能であろう。

 わが国の大学は幾度かの変革を経て今日に至っている。とりわけ、現在議論に上っている独立行政法人化は、明治の学制施行、戦後の学校制度改革にも匹敵する国立大学のきわめて重要な問題だと認識しなければならない。戦後の最重点課題は国民が等しく高等教育を享受できる機会を提供することであったが、その後も社会経済的な状況に即応して、各大学が自主・自律の精神にもとづき、組織改編・カリキュラムの体系化・大学院拡充・社会人受け入れなど、種々の教育改革を推進してきた。国立大学は、その過程でつねに先導的・中核的役割を担っており、現在も、大学審答申を承けて教育改革に一層の努力を重ねているところである。

 従来、国立大学の場合、種々の規制によってその円滑な運営が妨げられることもなかったわけではないが、規制が緩和されるならば問題の解決が容易になり、教育改革の実効をさらに高めることができると考えられ、この観点に立つならば、現在の設置形態を変える必要性を積極的に見出すことはできない。とは言え、国立大学の現状を直視すれば、問い直す必要のある問題が少なくないことも事実である。

 しかしながら、昨今の行政改革の急速な動きの中で、設置形態をも含めて国立大学の在り方が見直されている現実をもはや無視できない。提起されている独立行政法人化については、その目的が国家公務員の定数削減による職務達成の効率化にあり、その意味で教育研究機関としての大学にはきわめてなじみにくいものである上、通則法とともに制定される個別法の如何によっては大学の教育研究機関を著しく損なうとの懸念も少なくない。

 大学と現実社会との強い相互関係について認識が深まった現在、臨教審答申以来の「弾力化・個性化・多様化」を単なる名目に終わらせることのないよう、大学が真剣に検討すべき段階にあることは言うまでもない。

 そこで、教育改革と行政改革の双方を視野に収めつつ、国立大学が自ら現状に照らしてその在り方を再検討し、設置形態の如何を問わずに大学に保障されるべき条件を明らかにすることが急務である。特に、法人化される場合には、その備えるべき要件の充足が重要である。以下の「本文」は、そのような考えにもとづいて作成されたものである。

 

検討結果の取りまとめ(本文)

T.国立大学をめぐる現状

 1.社会的状況の変化と大学

  ・高等教育が大衆化し、大学への社会的期待も多様化している

  ・国立大学は、伝統に支えられつつ種々の改革を遂行することによって、わが国の大学の教育研究水準の向上を図ってきた

  ・規制が緩和されるならば、国立大学の抱える諸問題を解決して教育改革の実効を高めるとともに円滑な教育研究活動の場を確保することができると考えられる

  ・全国に配置された多数の国立大学がすべて同種類の役割を担うことが適当であるかなど、問い直す必要のある問題も少なくない。

 2.新たな状況への対応
  ・国大協として、教育改革と行政改革の双方を視野に収めつつ、設置形態のいかんを問わず、大学に保障されるべき条件を明らかにしておくことが必要だと考える。

 

U.国立大学の在るべき姿

 1.大学の理念
  ・知の生産が継続的に成り立つのが大学であり、その条件を満たすのはおそらく大学をおいて他にないだろう。

  ・大学は社会の動向を鋭敏に捉え、その求めるところに即応する努力を常に怠ってはならない

  ・目前の利益を追求するあまり、大学が教育研究の長期的展望を欠くことになれば、真に知の創造の場であり続けることは不可能である

  ・大学が教育研究を通じて社会貢献をする方途として、各大学はそれぞれの設置の基本理念を明確にし、どのような姿の大学を試行するのかを検討する必要がある。

 2.社会貢献・国際貢献

  ・国はその教育研究を質量ともに国際的な評価に耐えうる高い水準に維持するという責務を負う

  ・21世紀が求める指導的人材の養成を通じて成熟社会を実現するとともに、諸外国の高等教育研究機関との連携協力によって国際貢献を可能にしなければならない

  ・大学は国際的公共財であり、単に一国家の利益追求に資するものではない。

 3.運営の自主・自律

  ・大学は自らの意思にもとづいてそれぞれの教育研究を最適化して、初めてその成果を最大化できる。大学には自由かつ自律的な意思決定機能が保障されていなければならない。

  ・国立大学は、戦後の歴史の中で、設置者かつ財政的支持者である国との関係において、「自治」というスタンスを学び取ってきたと言える。設置形態の如何を問わず、この果実を大切に守り育てていくことが重要である

  ・大学における自主・自律こそが豊かな知の展開と相互接触を可能にする。

 4.教育研究 

  ・大学が立案する中期的・短期的計画の立案は、教育研究の長期的展望を踏まえたものでなければならない。それなくしては、わが国高等教育の方向性が見失われ、取り返しのつかない事態を招くおそれがある

  ・教育研究の効果、とりわけ教育のそれは一般に後発的であるので、短期的に評価されるべきではない

  ・教育研究の受益者は、教育を受ける「個人」にとどまらず、それによって知的豊かさを享受する「社会」である。この認識を社会全体が共有することが重要である

  ・大学は、基礎領域の研究、とりわけ人文・社会科学系分野の研究を含め、諸学の調和的発展の必要性を積極的に示して、その「支持者」の認識を高めるよう努めることが必要である。

 5.経営

  ・同じく社会貢献をめざす場合であっても、大学における教育研究活動は、私的企業における生産活動とは目的が大きく異なり、一般の企業理念の対局とも言うべき個性化・弾力化・多様化・持続性など独自の理念にもとづいて遂行されるべきであり、単なる効率化を目的とすればその弱体化・貧困化を招くことは必至である。

  ・個別にそれぞれの中期目標の達成を図り、しかも中期目標が外部評価機関による評価の対象となるとすれば、近視眼的かつ現実対応的な教育研究活動に陥る危険性を免れない

  ・大学自身の組織について必要な改善を加えつつ、財務会計や人事管理などの局面において運営の自主性を維持することが必要である。

 

V.独立行政法人化にともなう問題点

 1.基本的理念に関する問題点

  ・国立大学の任務や業務様態は、国の行政機関のなかでかなり特殊なものである

  ・現在進められている独立行政法人制度をそのままの形で大学に適用することはきわめて困難であり、多くの問題を生じかねない。

  ・独立行政法人制度の構想においては、主として本省が政策の企画立案機能、外局・独立行政法人が実施機能を担当し、両者を組織的に分離してそれぞれの機能の効率化を図るものである。

  ・企画立案と実施の機能分離によって達成の高度化・効率化を図るという考え方は大学にはまったくなじまない。大学は、その両者を兼ね備えるべき特殊な機関である

  ・中期目標は長期的展望に立つアカデミック・プランの中に位置づけられるべきものであり、長期目標なくして大学の発展はありえない。大学は主体的に長期目標を設定するべきである。

 2.法制上の問題

  ・独立行政法人化されるとすれば、通則法の一般原則とは別に、個別法によって大学の特殊性が活かされるように、通則法の例外も含む独自の規定を設ける必要が生じる。このことが立法過程における重要な課題となろう。

  ・公私立大学との比較において独立行政法人の存在意義を明確にし、特に国の高等教育政策に則った大学の理念について明文化する必要がある

  ・大学が担うべき役割の重要性に鑑み、各大学がそれぞれの教育研究の長期方針を定めて経営の基本とする仕組みを設け、国の学術政策におけるその位置づけを法律上明確化することも必要になる

  ・独立行政法人の職員は、人事の流動化や待遇の均等化などの観点から、国家公務員型であることが望ましい。教育職員については、現行の教育公務員特例法によって保障されている職務遂行上の自由度が確保されなければならない。

  ・各大学の重点課題の達成に対する制約がさらに強まることが懸念される

  ・立法過程において以下の点に留意すべきである。

  ・主務大臣の関与は、実質的な統制・監督となりうる。

  ・評価機関の権限が、組織運営・人事・中期計画・経営に関する審議や改善要求に及び、各大学が独自性をのばす上に支障を来しかねない

  ・最高意志決定機関の位置づけが不明確になる危険性もある。評議会・教授会について見直しが行われたところであり、その方向性を混乱させるべきではない。

3.組織上の問題

  ・国立大学を独立行政法人化するとして、その態様として次のような選択肢がありうる。

  ・現在の99国立大学を単一の法人とする。

  ・地域ごとに複数の大学を一法人とする。

  ・大学の性格に応じて複数の大学を一法人とする。

  ・各大学を単位として法人化する。

  ・大学の部局を単位として法人化する。なお、一部の大学が現在の設置形態を維持する可能性も残されるが、その検討は省いた。上記のいずれを採るかは、各大学が主体的に検討すべき課題である。

  ・個別大学を超えたレベルで、わが国の高等教育の基本方針や将来構想について検討し、各大学の自主自律を基本としつつ必要な大学間の連帯協力を行うための制度や組織が必要となる。

 4.財政の問題

  ・これまで国が関わってきた国立大学への財政的投入に相当するものは存続されなければならない

  ・「非私立」大学に特別の財政的措置を講じるべきだとする根拠を明確にしておく必要がある。例えば、民間の発意に期待しがたい基礎領域の継承や新領域の開拓に必要な条件の確保、高度教育研究機能の地域的偏在化の是正、国際水準の学術交流・教育支援の促進などがそれである

  ・資金運用の自由度が高くなる点は有利であるが、経営の合理化として生じた余剰金によって次期配分額の削減が正当化されることになるという懸念も生じる。各大学の自助努力が報いられないという事態が生じることのないようにすべきである。

  ・法人化にあたっての基本財産がどのように定められるか、新たな事業展開を可能にする財政的基盤はどのようにして保障されるのか、授業料収入はどう扱われるのか、など不明確な問題が少なくない。

  ・産学協同は今後ますます盛んになると思われるが、大学の本来維持すべき機能が損なわれることのないように、資金運用が適切に行われるべきである。

  ・外部資金の導入が容易には期待されない学問分野の継承発展に支障を来すことが予想されるので、その危険を回避するための措置を講じる必要がある。

 5.経営上の問題

  ・大学には自由かつ自律的な意思決定機能が保障されていなければならない

  ・国立大学では、私立大学における理事会と教授会とが学部自治の下で一体化されている。経営と教学を分離させると多大な弊害が生じかねないので、基本的には現行の運営体制を維持することが望ましい

  ・大学の運営方針は各大学の主体性において形成され、また見直されていくべきである
  ・主務大臣による中期目標の設定や計画の認可などの方式は、経営の自主性を損なうものであってはならない。

  ・大学の経営責任を負う者(学長等)が大学内部の意志に基づいて選考されることが必要であり、現行の教育公務員特例法の原則が維持されるべきである。

 6.教育研究上の問題

  ・定員削減と経費節減が最重点謀題となる結果、教官の負担がさらに増大し、教育研究の質的低下を招きかねない

  ・教育研究支援体制の充実や職務従事者の処遇の改善については検討が必要となる

  ・近年の大学院重点化や学部改組の実効を高めるためには、人員や施設の整備が早急に必要となる

  ・国際的に高く評価される水準の知的生産力を維持・向上させるためには、技官などの教育研究支援体制の充実をめざすべきである。

 7.評価の問題

  ・大学は、公開の上で行われる自己点検と外部評価に基づいて、より高度の教育研究の実現に向けて不断の努力を続けなければならない

  ・法人の場合、基本的に経費(運営費および経費)が国庫から交付されるが、その配分額は、経費の効率的運用による目標達成の評価に基づいて評価されることになる

  ・研究の目標達成度については、既に当該分野の学界において評価が行われており、問題は少ないが、目標それ自体について評価することや中期目標を数値的に示すことについては多大の困難が予想され、一面的で適性を欠く評価がなされる危険が少なくない

  ・教育の成果は時間を経て発現することが多いので、その短期的な評価は信頼性に欠け、好ましくない影響を及ぼすことも危惧される

  ・評価は単なる結果(アウトプット)でなく過程をも顧慮に入れてなされるべきであり、評価の結果が以後の改善に資するものでなければならない

  ・十分に権威ある評価機関によって多様な基準や方法に基づく評価が行われるべきであり、過度の画一化・数値化のために誤った序列化が行われることがないようにしなければならない。

  ・評価が既存の組織にゆだねられる場合、異なる観点に照らして複数の組織がそれに関与する形で実施されることが望ましい。また、評価組織自体が改善・発展するシステムでなければならない

  ・所管省庁の統制が強化される危険性についても慎重に対処する必要がある。

 

V.課題解決策の提言

 前項に問題を指摘するとともにその解決策についてもふれたが、それを補足するためにさらに付言しておきたい。

 l.法制に関する提言

  ・「通則法」は大学を前提にしているとは思われないので、教育公務員特例法を設けている現行制度に類する形で「大学独立行政法人特例法」とも呼ぶべき法を定めて、個別法を大学に適したものとするべきである

  ・独立行政法人の職員は国家公務員型であることが望ましい

  ・大学が長期的展望の下で、必要な定員を維持するために必要な措置が講じられるべきである。ただし、大学が、教育研究の充実・発展をめざしつつ、効率的な経営につとめるべきであることは言うまでもない。

 2.組織に関する提言

  ・原則として、大学の経営・自治の基本単位は、附属病院・附置研究所などを含めた現在の各大学とするのが現実的であり、望ましいと思われる

  ・各大学が中期・短期自標の達成を図るあまり現実対応的な活動に終始することなく、大局的見地からわが国高等教育のあるべき姿について検討できるような制度や組織を設けるべきである

  ・また、複数の大学が、それぞれの自主自律を基本としつつ、必要な連携協力を行う仕組みが保障されなければならない。その場合、現在の国公立大学全体を単一グループとする、地域、各大学の性格などに応じた複数のグループを設けるなどの選択肢がある

  ・以上の点を考慮すれば、次のような3種のモデルが考えられる。

 <モデル1>国立大学をそれぞれ一法人とし、他方それら相互の連携協力のために、別に連合組織の実質をもつ独立行政法人(いわば組合法人)を、一つまたは大学法人グループごとに設立する。組合法人は、現在の国大協に類する役割を担うほか、たとえば事務職員の人事交流(あるいは一元的人事運営)などの役割を担う。

 <モデル2>国立大学をそれぞれ一法人とし、それらの連携協力のための組織として、主務省(現在では文部省)のもとに、形式上は国の機関であるが各大学法人の連合組織の実質を持つ特別の機関を、本省組織とは分離して設置する。その連合組織の役割はモデルlにおける組合法人と同じである。

 <モデル3>国立大学を一つまたは複数にまとめた法人(いわば連合大学法人)とし、各大学を連合大学法人のもとに設置する。この形は、単一の学校法人が複数の私立学校を置く場合に相当する。しかし、大学経営・大学自治の基本単位は個別の大学であり、連合大学法人は、その連合組織として、モデルlの組合法人、モデル2の連合機関と同様の役割を担う。

 3.経営

  ・財政に関する提言・経営に限ってアドヴァイザリ・ボードを設けるにとどめ、経営と教学を一体化した現行体制を維持する

  ・財政的基盤が保障されなければならない。少なくとも現行の国立大学への財政的投入の実質が維持されることが必要である

  ・人事選考および教育については、各大学の主体性・自律性が保障されるべきである。

 4.評価に関する提言

  ・大学自身の自己点検とともに運営諮問会議・第三者評価機関など複数の評価者による多様な基準・方法にもとづく評価がなされるべきである

  ・運営諮問会議や第三者評価機関の権限を助言・勧告に留めるべきである。


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