東京大学総長
蓮實 重彦 殿
「東京大学の経営に関する懇談会」(以下、本懇談会という)は、大学審議会の答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について−競争的環境の中で個性が輝く大学−」(平成10年10月26日)による問題提起を受けて、東京大学の教育研究の一層の充実と高度化のために短期的、中期的、長期的な諸課題を検討し、東京大学にふさわしい方針・方策を策定することを目的として、平成10年11月17日の評議会において、その下に設置された。
爾来、本懇談会は、教育体制、研究体制、経営体制につきそれぞれワーキング・グループを設け、各グループごとに緊急の課題、中期的課題、長期的展望に立った課題を明らかにし、緊急性の高い課題から検討を加え東京大学にふさわしい方針・方策を策定すべく精力的に作業を進めてきた。設置から本年3月までの審議状況については、すでに本年3月16日の評議会にその「審議経過報告」を提出したところである。
このほど、本懇談会は、その後の検討を踏まえて、これまでの審議の中間的な結論をとりまとめるに至ったので、ここに「中間報告」として評議会に提出することにした。なお、本懇談会は、この「中間報告」に対して寄せられるであろう全学の意見を参考にさらに審議を継続し、本年秋頃には「最終報告」を提出する予定である。
教育体制WG報告書
研究体制WG報告書
経営体制WG報告書
1999年6月
目 次
1) 大学院学生の量的質的変化
東京大学において平成3年度に開始し9年度に完了した大学院重点化の大学改革は、すべての研究科について、研究の著しい活性化と同時に研究分野の多様化・広域化に大きく貢献した。とくに、平成11年度の新領域創成科学研究科の発足は、東京大学における先端的研究分野の多様な発展に今後大きく貢献すると期待される。これら重点化の施策は、大学改革に相応しい大規模な量的変化と質的変化をもたらしたが、その一方で多くの問題点も指摘されている。
大学院重点化後の問題点については、すでに、平成8年11月、大学院問題懇談会から出された報告書「東京大学における大学院の充実強化について」に詳細に検討されており、そこで指摘された問題点は、その多くが、今日なお、重要な課題として残されている。本教育体制WGでは、その後の大学院の状況を概観したのち、さらに、顕在化しつつある問題点を指摘したい。
まず、学生数の増加については、図T−1に大学院学生数および学部後期課程学生数の総計をそれぞれ示す。平成3年以降に修士および博士課程学生が急激に増加し、平成7年には学部後期課程学生数を上回ることになり、平成9年には大学院学生数が10,000人を越えている。これは、同時に、学位取得者数の著しい増加をもたらした。平成9年度の修士課程修了者数は、昭和60年の2倍に、また課程博士では、2.4倍に増加している(図T−2)。この状況は、最近の15年間に東京大学の教育が大きく大学院に移ったことを意味している。これらの学生数の研究科別、学部別受け入れ定員と実数を、表T−1に示す。文系の4研究科を除いて、ほとんどの研究科で学部入学者数と修士課程入学者数がほぼ同程度になっている。図T−3に大学院在学者数の学部後期課程在学者数に対する比率を示す。法学政治学および経済学の2研究科を除いて、1倍程度か、1倍を大きく越えている(これら2研究科は、むしろ学部学生数が多いことにより、比率が小さくなっていると考えることができる)。教官の総数がここ20年間殆ど増加していないことを考慮すると、この大学院生の増加による教官の教育負担が極めて大きくなっていることが分かる。
このような大学院生の急激な増加は、それぞれの研究科において、他大学から多くの卒業者を受け入れる結果となり、学生の多様化をもたらした(表T−2)。この大学院生の多様化は、将来における学問の再編と創造に大きく貢献するものと期待される。そして、このヘテロな集団を計画的に育成するための戦略の構築が求められている。学問の多様化と新たな学問分野の創成に向けて大学院生を育成することが最も有効であろう。そのような試みとして、現行制度でも認められている「副専攻」を、研究科にまたがって適用できるようにすることも一案である。
これらの多様化は、一方で、バックグラウンドの異なる学生を受け入れることを意味しており、基礎学カの低下など軽視できない問題が生じていることも事実である。修士課程における学部科目の履修や「学部−修士共通講義」などにより基礎教育を行う必要がある。学部から大学院に進学する際の流動性を増加させることも、東京大学における大学院教育の活性化を促すものと考えられる。東京大学における教育・研究の特質を明確化することによって、他大学出身者の大学院入試への応募を増加させていく必要があろう。これには、積極的に欧米系を含む留学生を増加させるための広報活動の展開も含まれる。この点で、大学院生のうち東京大学出身者が大多数を占めている現状を変えるべく、各研究科も一層の努力を行うべきであろう。
大学院重点化後、大学院学生の多様化に対応し、社会人院生コースが設置されてきた。この社会人院生は大きく二つに区別され、一つは、修士課程修了を目標に、高度な専門教育を受け社会人としての活動に資することを期すもの、他は、研究機関等に在籍し、博士の学位取得をめざし、場合によっては大学等、現在の職場以外に職を得ることを目標とするものである。まずこの二つを明確に区分し、それぞれの性格を明らかにしたうえで、教育体制を考えていくべきである。前者については、夜間授業の開講、後者については、論文博士との関係の明確化がとくに重要である。そして、社会的ニーズに対応したプロフェッショナル・コースなどの教育コースの設置も、今後検討すべきであろう。
2) 教官の教育負担の拡大と若手教官の減少
教官の教育負担の拡大は、最近の事務官・技官の定員削減、新研究科、新センター等の創設に伴う教官定員の振り替えによる各研究室の実質定員減によって、一層顕著なものとなっている。こうした事態を根本的に解消するためには、教官の教育活動を支援する、国立研究機関、政府系研究機関、民間研究機関等からの連携併任教官、客員教官、非常勤職員、TA等の一層の充実が図られる必要がある。このほか、個々の教官の負担を軽減するために、集団的な基礎教育体制を確立する必要がある。これまでのような、専攻を中心とした大学院カリキュラムを見直し、研究科全体で、また基礎部分については共通性の高い複数の研究科にまたがる大学院カリキュラムの検討が望まれる。そのためには、全学的な視野から大学院総合カリキュラムを検討する組織の設置が必要であろう。
一方、大学院重点化に関連して生じた助手定員の減少は、大学院修了者、とくに博士課程修了者の進路にも大きな影響を及ぼしている。日本学術振興会特別研究員等のポスドク制度は充実しつつあるが、大学研究者としての将来が明確でないことから、大学における優秀な人材の確保という点で今後の大きな問題になると考えられる。新領域創成科学研究科ですでに実施されている教官の時限付き任用制度を、他の研究科にも導入し、教官の流動性を高め、現在の硬直状況を打破することを検討すべきであろう。
3) 留学生の問題
東京大学における留学生の数は、近年急激に増加し、平成10年には約1,500人に達し、その内大学院生の数は約1,300人になっている。この数は本学の大学院生総数の約13%にあたり、これら大学院留学生の大学における寄与は非常に大きくなっている(図T−4)。問題点としては、極めて優れた学生がいる一方で、基礎学カなどバックグラウンドに問題のある学生が増加し、教官側の教育負担が増加していることである。入学選抜時における基礎学カの評価の観点から言えば、現在の国費留学生の約80%が大使館推薦による選抜方式によっているが、大学推薦による選抜の比率をもっと上げる努カが必要であると思われる。また、現在は来日後に大学院の入試を課しているが、来日前に現地で直接面接し試験を課すことも有効であろう。これを個々の研究科で実施するのは効率が悪く、全学的な立場から東京大学の海外交流拠点等を利用して行う方法を検討すべきであろう。
留学生の教育については、日本語に対する要求が研究科によって異なっており、日本語という言語の修得難易性と、文系を中心とした日本における学術の固有性とを勘案しながら、どの程度留学生に日本語を課すべきかを検討する必要がある。一方で、教官側が、どの言語で留学生と対応し、どの言語で講義を行っていくかという問題を整理する必要がある。現在は、工学系研究科等一部を除いて英語による専門教育は、系統的には行われていない。東京大学が真の国際化をめざし、留学生の増加をめざす政策に応えるためには一層の工夫が必要である。
4) 建物などのインフラストラクチャー
東京大学は大学院重点化以前からの大きな課題として、建物の老朽・狭隘の問題があり、重点化による大学院生増で状況は一層深刻化している。国立大学における建物の面積については、文部省が、教官および大学院生1人当たり必要な面積を設定しており、この積算を基準面積としている。現在の東京大学の全保有面積は、121万uであるが、このうち全研究科の保有面積は47万uであり、文部省基準面積64万u(研究科附属センター、大型施設等を含まない。)の73%に過ぎない(表T−3)。また、全保有面積のうち約46%は建築後30年以上を経ており、老朽建物の割合は他の国立学校のそれ(27%)と比較してもかなり高い(表T−4)。東京大学の建物の状況は貧困であると言わざるを得ず、早急に改善されるべきであろう。
1) 教養教育と専門教育のバランス
大学における学部での基礎教育の重要性は、大学院重点化後も変わることはない。現在の東京大学における学部教育は、前期課程の教養教育と後期の専門課程の教育から成っているが、前期課程におけるリベラルアーツの重要性は、東京大学全学部の共通認識となっていると考えられる(前期課程教育外部評価報告書、平成10年12月参照)。同時に、学部における専門基礎教育は、各学問分野における基礎概念の獲得および方法論の修得、基礎的技法のトレーニング等、専門教育の根幹をなすものであり、学生がなるべく若い時期に教育され、後年の学問に対するフィロソフィを決定づける極めて重要な教育課程であるとして位置づけられる。この専門基礎教育は、一般に教育がそうであるように、人間の成長の過程で学習に最も適切な時期があることを考えると、各学生の学部の前期および後期になされることが最も肝要である。
最近、入学者の基礎学カの低下が種々の観点から指摘されているが、本教育体制WGでは、教養教育と専門基礎教育のバランスとして現在の基本構造は維持すべきであると認識した。たとえば、これら学力の低い学生に教育水準を合わせ、高等学校で修得すべき教科を前期課程における基本的カリキュラムとすることは、学カのさらなる低下に導き、現実的方策ではない。むしろ、学部4年間で基礎的専門教育を完了できるシステムを維持する努カをすべきである。これは、一部の学生に対し高校で履修しなかった基礎科目の教育などのケアをすることを否定するものではない。本教育体制WGの基本的認識は、学生の潜在的資質に問題があるのではなく、彼らの学問に対するモチベーションや問題意識の欠如が問題であり、現在危倶されている変質は、教育システムの充実・改善で修復可能であるとの立場に立つものである。
2) 教育の質の向上
昨年、教養学部は、前期課程教育に対する大規模で組織的な自己評価および外部評価を行い、平成5年度に行ったカリキュラム改革の総括を行った。これらの報告書では、リベラルアーツ教育の意義が全学的に評価されている一方、それが指導性、倫理性、国際性、批判的思考などを備えた優れた人材養成にどれほど役だっているかを吟味する必要性が指摘され、また後期課程の専門教育との関連を文系・理系のそれぞれに検討すべき問題点があることが指摘されている(前期課程教育外部評価報告書、平成10年12月)。さらに、教育カリキュラムについての問題点と同時に、教育体制のあり方についても言及されている。この前期・後期教育課程の整合性の検討については、後述する教養学部−専門学部間の協議機関の設置を提案したい。
この報告書では、主として、前期課程における教育カリキュラムの問題が議論されているが、本教育体制WGでは、前期・後期にわたるシステムの教育効果や学生側からみた修得度・理解度、満足度が十分であるかどうか、さらに、最近の学生の勉学意欲の低下、動機や問題意識の欠如、自立性や成熟度の未発達、一方で進学振り分けに見られる過度の点数主義などの問題点が指摘された。前期課程での学問に対するモチベーションの低下については、2年次に専門関連科目の教育の可能性も議論したが、その効果と負担等については今後十分に検討する必要がある。これらの問題点に対する方策について、今後、教養学部および各専門学部で十分な議論を行い、質の高い教育を目指す必要がある。学生に対しては、大人数クラスの解消や、教官と学生間に双方向の対話が可能な教育体制を検討すると同時に、修得度・理解度に関する厳格な成績評価と学生個人への適正なガイダンス、たとえば、レポート、小論文の複数回の提出または演習を繰り返すといった工夫が必要であろう。また、各学生が少なくとも一つの小人数セミナーに参加できる体制や、担任制度の活性化、大人数クラスヘのTAの導入など、教育体制の整備が望まれる。従来、大学における勉学は学生自身の関心に従って主体的になされるべきであるとの認識が学生と教官に共通していたが、最近は、学生側に教官からのガイドを必要としているケースが生じつつあること、また、学生数(とくに大学院生)の増加によって学部学生と教官とのコミュニケーションが著しく希薄になっている現状を認識し、その改善の方策を検討すべきである。
一方、教官側には、学生による授業評価や授業方法に対する外部評価などによって、授業方法の改善への指針が教官にフィードバックされるシステムを考える時期に来ている。各学部レベルで、そのような評価の実施と、よりよい教育方向を検討することが強く望まれる。
3) 教養学部と専門学部との協議機関の設置
上述したように、東京大学が学部で専門基礎教育を完結する方針を維持するには、今後、学部4年間を見渡した教育カリキュラムについて総合的な検討をすべきであろう。前に述べた前期課程教育外部評価報告書にも指摘されているように、前期課程での専門教育の位置づけやりベラルアーツ教育との調和については、今後、教養学部と専門学部との間に、カリキュラムおよび教育システムに関する密接で十分な連絡・議論を行う定常的な協議機関を設置することが必要である。現在、双方の代表から構成された教養学部連絡委員会が設置されており、主として進学振り分けに関する協議の場として運営されている。しかし、教育カリキュラムと教育方法に関して各専門分野の教育に関わるきめ細い検討作業を行う必要があり、各分野での議論が可能な常設の学部教育検討機関の設置が望まれる。
4) 専門教育課程
後期課程における専門教育については、専門学部が主体的に責任をもって運営するものであるが、大学院重点化後、学部と修士課程におけるカリキュラムを総合的に見直し、整理統合する必要がある。近年、学部教育の役割は、より基礎的かつ広域な分野の教育にシフトしており、従来の学科編成では対応できなくなってきている。すでに、見直しが行われた学部・大学院もあるが、細分化された学科を再編し学生に広いバックグラウンドを与える教育プログラムや、新しい学問領域のカリキュラムを提供することが必要である。学部−修士間の整合したカリキュラムの整備と同時に、多様な学生に対応するため、学部−修士間のカリキュラムの相互乗り入れ制度を活用することも考慮されるべきであろう。
5) 導入教育
現在、教養学部に入学する学生の中には、専門課程で必要とする教科を履修せずに入学し、専門課程での修学が困難になる学生が生じてきている。すでに一部の科類については東京大学入学者選抜要項に、特定の教科は「高校での履修を前提とした講義がなされる」との記述がされているが、入学時の受験科目を指定しないまでも、高校での履修を要請することなど検討することが必要であろう。しかし、一方で、前期課程におけるレート・スペシャリゼーションの観点から、専門課程で必要とする教科については、高等学校で未履修の者に対するケアも必要とされるであろう。とくに、高等学校での教育課程に新しい学習指導要領(案)が導入される2003年度以降は、卒業に必要な総単位数および必須科目の単位数の削減がなされる予定であり、未履修者が増加することで、重要な問題となるおそれがある。
6) 教職課程
本教育体制WGでは、学部学生の教育負担に関連して、東京大学における教職課程教育の意義と負担に関する議論を行い、システム全体の早急な見直しをすべき時期にあるとの結論に達した。現在、本学では、中学および高校教員免許取得のためのカリキュラムが全学部学生を対象に提供されているが、教育職員免許法の改正にともない、平成12年度入学者より免許取得のための履修科目および単位数が大幅に増加することになる。新しい修得単位数(教育実習等を含む)は、中学および高校免許で67単位となり、とくに中学免許については5週間余の教育・介護実習が課せられることになる。これは、大学卒業に必要な単位数の49%に及ぶもので、大学側はもとより、学生に大きな負担を強いるものである。一方、実際に教員に採用された者は、修士課程修了者を加えても、最近8年間での平均が、全学で年間約15名である。これは、前期課程での教職科目の履修者数約450名の3%、4年次おける教育実習の履修者約150名の10%であり、直接的効率は極めて小さいと言わざるを得ない。本教育体制WGでは、教職科目の一般教育上の効果と有用性についての議論を通じ、現在のシステムを維持するための方策として、たとえば、他大学との教職科目授業の単位互換制度等を検討した。しかし、互恵協定の問題点、実際の時間割り構成の困難さ、実習校・介護実習校の著しい負担増など、教育する側の負担も大きいうえ、学生自身の負担が過重であり、東京大学の主要な使命が、中等教 育の教員養成ではない以上、本制度は早急にその見直しを検討すべきである。たとえば、高校教員免許に絞る等の具体策を検討するとともに、とりあえず毎年の入学者に、履修上の制約・負担の大きさと教員採用者数の現状について説明し、十分なガイダンスを行うことが必要であろう。
大学院重点化に伴い、東京大学では修士および博士課程を含む大学院学生数は多くの研究科で後期学部学生数の1〜2.5倍に増加しており(図I−3)、研究上の著しい活性化が図られた一方、教育の負担は極めて大きくなっている。この教育負担の量的増加は、教育の質的変化を招いている可能性があり、教官の総数が限られている以上、現在の学部学生定員が適正であるかどうかについて、十分に検討する必要がある。一方、全国的レベルの問題として、18才人口の減少および少子化の問題があり、大学審議会答申書(平成10年10月)にも、学部学生定員の削減が論じられている。
適正な学部学生定員は一体いくらでなければならないかという議論は、学生定員が歴史的、社会的要因および学問分野の発展の状況から決まってきたことを考えると、大学独自の論理で一義的にきめられるものではない。ここでは、東京大学における学部教育の意義と、現状が変化しうるかどうかの可能性を議論した。
学部教育の役割は、大学院重点化後も、専門分野の基礎教育の場として極めて重要であり、大学院における高度な研究の前段階として重要な課程である、というのが東京大学のこれまでの基本的認識である。東京大学は、従来から、それぞれの学問分野について、学部での専門教育としての標準カリキュラムを設定し、その教育内容や基礎的技法を規定したうえで教育を実行してきたものであり、これらの教育基盤の保障をせず学部を全廃することは、大学の空洞化と大学院の衰退に繋がることは明らかであろう。多くの先進諸国の優れた大学院大学でも、学部教育を重視しており、東京大学も共通の状況にあると考えられる。
本教育体制WGは、各分野について学部学生定員に関する予備的な調査をしたが、一部に増加および減少を希望する部局があるものの、大学全体として、おおむねバランスがとれており、今後の学生定員について明確な方向を得るには至らなかった。しかし、長期的な大学院と学部の教育負担のバランスを考慮すると、学部学生定員の一部削減を検討すべき時期に来ていると考えられる。もし定員減を考慮する場合には、上に述べた教育効果や教育の質の向上が担保されなければならない。教官の定員については、現在、大学院学生定員に基礎を置いており、明らかに大学院の規模が学部を凌いでいる状況にある以上、従来のような学部学生定員に連動するとする考えはまったく現実的ではないことを確認した。
1) 問題のありか
大学における点検・評価のあり方が厳しく問われるにいたったのは、大学の社会的アカウンタビリティについての要請もさることながら、とりわけ昨今の情勢と関連がある。ことに大学審議会の答申(平成10年10月)が、従前にもまして自己評価および第三者評価の必要を強調したことである。さらに、国立大学の設置形態をめぐる議論が、大学の自己改革や外部からの評価を問題とし、大学自体もまたこれを放置しえない状況がうまれてきた。ここにあって、東京大学も独自の見解や対応策を確立する必要に迫られている。
2) 学内・外の既往例
東京大学では、点検・評価はすでに広く各部局で行われている状況にある(第2次東大白書)。大学院重点化などの諸改革を契機に点検・評価が広まるなかで、その性格は、単に評価を目的とした量的な段階から、研究・教育の活性化のための評価という質的な段階へと進んできたと言える。その過程では、自己による評価から外部による評価ヘ、また評価対象については、研究中心から教育など外部や学生による授業評価の導入への拡大ヘ、という変化が認められる。
東京大学における点検・評価の特徴は、その多様性・重層性にあると思われる。評価単位は、全学・各部局・各学科・各教職員と多次元であり、評価主体も自己のみでなく外部や学生まで多様である。さらに評価対象も、教育・研究・事業・管理など多岐にわたっている。
国内の他大学における点検・評価についても、東京大学におけるそれと同様の傾向を認めることができる。なかには、毎年評価対象の重点を移しながら、継続的に現状改善の達成を評価するという作業を積み上げるシステムを実施している大学もみられる。このようなより質の高い評価システムの構築が課題となってきていると言よう。
こうした学内・外における点検・評価の動向や大学審議会の答申からは,点検・評価を目的ではなく手段としてとらえ、評価基準が多様であることを前提として、研究・教育の効率化と社会的貢献の拡大のために、重層的・多元的な評価システムを早期に確立することが求められているという現状を読みとることができる。
3) 外国における状況
アメリカにおいて、大学評価の基盤をなしているのは、大学としてふさわしい機関であることを認定するアクレディテーションと呼ばれる制度である。
これは、大学間の自主組織からなるいくつかの団体によって実施されており、審査の頻度は、学長の任期と対応している場合が多い。また、医学、工学など、職業資格と結びつくものについては、専門家によって、大学の教育プログラムについてのアクレディテーションが行われている。工学の分野では、国際的なアクレディテーションの動きもある。このようなアクレディテーションは1970年代以降、政府の奨学金プログラムを受けるためにも必要になっている。また、州立大学においては、卒業者数、統一学力試験の結果などをもとに、パフォーマンス指数を算出し、予算配分に反映させるという試みがなされている。
アメリカのほとんどの大学では、教官は講義について学生による評価を受けている。また、多くの大学で教官の新規採用や昇任の際に候補者の教師としての能力に関する包括的な調査報告が必要とされる。
イギリスにおいては、1980年代のサッチャー政権のもとで、大学評価をもとにした学部改廃が行われた。また、最近の動向として、学科レベルでの評価を補助金とリンクさせることも試みられている。
4) 大学評価の機能・目的についての整理と提言
a.大学のアクティビティの評価について、まずはじめに前提とされるべきことは、当事者の自治原則に基づく自己による点検と評価である。東京大学がこれまで行ってきた自己評価作業は、さらに高い密度で続行されるべきである。
b.大学にたいして行われている他者による評価には、3種のものを列挙できる。第1には、知的サービスを受けるユーザーサイド、つまり学生やその父母、また卒業生を受け入れる企業などによる評価。第2には、ピア(等格者)によるもの、つまり教育や研究において等しい資格で競合・並行する者による評価。第3には、受験産業・マスコミなどによる格付け(ランキング)評価である。
c.他者による評価を分析しつつ、そのなかから有効な「第三者」評価のありかたを模索する必要がある。第三者とは、当事者でも、また設置者でもなく、その両者から独立しながらも、大学のあり方について利益や見解を有する善意の関係者である。他者による評価のうち、こうした「第三者」によるものを有効に活用し、組織することが要請される。
d.第三者による評価は、大学のアクティビティの全体にわたって悉皆的に実施することは不可能である。現実性があるのは、大学自体による自己評価の信頼性や徹底性を点検する作業である。さらには、大学がみずから点検と評価に基づいて策定した改善計画の妥当性や努カ成果についての評価も可能である。これらは、自己評価と改善計画を二重の前提とした「評価の評価」、つまりメタ評価とよぶことができる。
e.大学評価は総合的なものでなければならないが、実際の作業は対象分野を区分してそれぞれの自己および第三者によって実施されうる。その区分は、教育・研究・事業・管理である。この区分に従って、第三者を特定すれば次のようになる。
教育分野については、受講生たる学生にとどまらず、企業、地域社会、あるいは中等教育関係者などによる実際的な評価が導入されうる。また、授業現場に精通したピアによる評価が、教育改善にことに有効である。研究分野については、学協会などのピア評価がすでに試行されており、さらなる精査が求められる。ここでは、学問の分野によって研究成果のあり方が異なり、それに応じて評価方式も多様であることがとくに強調されよう。
事業については、それぞれのミッションに応じたユーザーからの第三者評価が、系統的に整理されて、改善への指針として利用される。
管理については、意思決定手続の適切さや構成員の倫理性、財務構造の健全さなど、大学の組織運営に固有の主題の応じて、ことにピア(同僚大学)からの専門的な評価が期待される。
f.評価の方法については、それが自己によるものであれ、第三者によるものであれ、いくつかの重要な点に留意すべきである。第1に、評価にあたっては定量的方法には一定の妥当性があるものの、これと並んで定性的方法をも開発すべきであり、それぞれの学問分野において、固有の課題として取り組まれるよう期待される。第2に、評価についてはすでに国際基準の設定が進められている分野もあり、たんに国内基準のみに限定するのは狭きにすぎるといわざるをえない。第3に、評価には多様な基準と形態とがあるべきであり、大学組織の各部署において、重層的・多元的な実施が必要である。ただし、評価作業はコストや労カを念頭において現実性を保持しなければ、永続しえないことも銘記しておきたい。第4に、評価における時間性に留意することである。大学の諸活動には、さまざまな時間性が付随しており、ごく短期的に達成できるものから、中長期的に蓄積と成熟を期するものまで、大きな幅がある。個別の時間性に対応した適切な評価法が発案されるべきである。このことは、いわゆる国立大学の独立行政法人化問題とも、密接に関連する。
5) 評価組織についての提言
a.大学における自己評価および第三者評価のためには、これを専管する評価組織が必須である。この組織は、自治の権限を有する部局を単位とし、かつ全学の統括組織にいたるまで重層的に組織される必要がある。この組織は、第三者を不可欠の一部とするところから、大学審議会答申にいう「大学運営協議会」(仮称)との関連を念頭におかざるをえない。
b.第三者による評価がメタ評価の性格をもつとすれば、その前提として大学やその部局自体の理念や目的・計画を明確に規定する必要がある。それなしにはメタ評価は達成しえない。その理念や計画は、明瞭な輪郭をもって明示され、かつ公開されており、だれにもアクセスできるものであるとともに、それについての評価もおなじく公的に開示されるべきである。
c.自己評価と第三者評価の結果は、社会的に開示されるとともに、当該の組織において資源の内部配分において、重要な判断基準として反映されるべきであろう。人員・施設・予算などの資源の一部は、これに準じて配分されてしかるべきである。このことは同時に、配分者に対して公正な配分のための配慮を求めるものでもある。
d.大学審議会の答申に基づいて設置が予定される大学評価機関のあり方については、目下のところ予断を許さないが、これとの密接な連携関係を図る必要が生ずるかもしれず、今後の留意が求められる。
1)基本的考え方
a.大学改革の要請
大学審議会答申(平成10年10月)では入試改革に直接言及はしていないものの、昨今の新聞等においては、大学改革の一環として入試改革は不可欠との論調が目立つ。
また実際、すでに中央教育審議会においてもこの点の検討が進められており、「中央教育審議会第二次答申」(平成9年6月)では「大学入学者の選抜の改善」にかなりの紙幅が割かれているほか、中央教育審議会への諮問文「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」(平成10年11月、有馬文部大臣)においても大学入学者選抜に触れられている。とくに前者においては、「学カ試験の偏重を改め、選抜方法・尺度の多様化を推進」することが強調されている。
さらには東京大学内においても、平成4年12月『東京大学:現状と課題1(1990−1991)』において、「…以上の点から、本学は現行の入試をここ数年間は維持することになろう」とする一方、「入学制度の抜本的改正があるとすれば、18歳人口の減少に伴う大学入学試験制度全般の見直しが予想され、さらに新学習指導要領により高等学校の卒業生が受験する、平成9年度以降の入試からになるであろう」と記されている。また「入試に関する連絡会報告書」(入試に関する連絡会、平成10年12月)にも、「中・長期的対策」として、「高校生の学習意欲の多様化などに対応するため、たとえば推薦入試のような選抜方法の可能性も検討すべきである」と記されている。
このような動きを考慮に入れるならば、東大入試の改革の可能性についても本格的な検討が急がれよう。
b.見直しの基本前提
東大入試の改革の可能性を検討するにあたっては、その歴史と現状の再確認と評価が出発点になるべきであることは言うまでもない。この点に関して言うならば、まず前期日程入試に対する評価はきわめて高い。他方、後期日程入試に関しては、「受験機会の複数化」に対する肯定的評価を除けば、積極的な評価は少ない。このような事情を考慮するならば、当面は、前期日程入試には変更を加えないこと、またそれと密接な関係にある現行の科類ならびに前期課程教育にも変更を加えないことが、まずは基本前提となろう。もっとも、将来、「東京大学が求める学生像」に基本的な変更が加えられ、学部教育等に大きな変化が生じたような場合には、前期課程入試を含めた東大入試全体の根本的再検討も必要となってこよう。
ちなみに、大学入試センター試験との関係についてもここで一言記しておくならば、この試験の成績を複数年有効とすることによって受験者の負担を少しでも軽減することは、十分に考えられよう。
さて、こうした基本前提に基づくならば、目下の段階での選択肢は、@後期日程入試を廃止し全体を前期日程に移す、A後期日程入試に関して何らかの変更を加える、Bあるいは新たな「第三の入試」を導入する、といった3点に絞られるものと思われる。しかし、@は、前期日程入試が東京大学のいわば個性として高い評価を得ていることはたしかであるにしても、ひとたび与えられた「受験機会の複数化」を受験者から奪うことになる以上、国立大学協会、さらには世論との関係から見て、将来的にはともかく、現状ではかなり難しいであろう。したがって、実際に検討すべきは、AとBということになる。
また、入試全般に関わる問題としては、これまで再三再四指摘されている点、すなわち入試に割かれてきている莫大なエネルギー、とりわけ特定の学部・学科の教官の多大な負担の軽減も、この際併せて検討に付されるべきであろう。
2)見直しの内容と今後の方向
a.前期日程入試と後期日程入試の関係
現行の後期日程入試は、すでに述べたように「受験機会の複数化」という点では歓迎する向きがある一方、所期の目的である「学生の資質の多様化」がどこまで達成されたかとなると必ずしも定かではない。「入試に関する連絡会報告」においても、後期日程入試に関し、「一部で入試成績と入学後の成績にマイナスの相関があること、一般に前期日程試験の入学者と比べて、大学での満足度が低いことなどが明らかになっている。後期日程試験の所期の目的からすればむしろ逆の結果が生じていることになる」と記されている。また、「追跡調査の結果が十分に利用されるべきだが、現状ではほとんどそうした努力が行われていない」とも記されており、後期日程入試の効果やアフターケアに疑間を投げかけている。
こうした状況下で後期日程入試を現状のまま残すとすれば、積極的な理由は、「受験機会の複数化」以外にはないと言えよう。もっとも、前期日程入試とは異なるタイプの入試問題を受けて入ってくるという事実自体に、一定の評価を与える者もいないわけではない。しかしその場合も、その結果が必ずしも「異能・異才」型の増加に結びついているわけではないならば、むしろ入試に割くエネルギーをふやすだけに終わっていることになろう。
現行の後期日程入試のこのような欠点を補うものとして、あるいは新たな「第三の入試」として、面接試験、推薦入試など、アドミッション・オフィスが中心となって実施する入試等が考えられよう。本教育体制WGのうち入試方法の検討を担当する者が、これらについても多面的に検討を行ったが、具体的な結論を得るまでには至らなかった。
b.入試監理体制
「入試に関する連絡会報告書」では、「入試全体の監理体制が不明確」、「実施に当たっての危機監理能カが低い」、「入試全体の見直し、自己点検を行う場が設定されていない」、「実施機関としては現行の委員会体制は機動的でなく、責任体制も明確でない」等の問題点が挙げられるとともに、改善案もいくつか出されている。しかしそこでも、全体の責任者を誰にするか、また「入試監理室」(仮称)をおいた場合の入試業務総括教官の人選・処遇などの問題は未解決のまま残されている。
また、同報告書では、試験問題の出題および採点に関しての問題点も指摘されており、出題・採点に関するノウハウの年度間の継続性(とりわけ後期日程入試)、一部の出題・採点委員の士気・規律、一部教官への負担の集中などが問題視されている。またこれに対する改善案とともに、それに伴う負担のますますの偏り、情報漏洩の危険性等が挙げられている。この点でも、今後は「入試監理室」やアドミッション・オフィスの可能性を含めた議論が求められよう。また、負担の問題と関連して、「科目当たりの出題数を削減し、問題全体のスリム化を図る」という案も出されている。この点では、前期日程入試の一部科目の外注なども考えられよう。
さらには、教科によって平均得点、分散に高低があること、選択科目によって不公平が生じていることも指摘されている。この点についても改善策が添えられてはいるが、直ちに具体化できるまでには至っていない。
こうした諸問題の背景には、入試というきわめて機密度の高い性格のものをどこまでマニュアル化できるかという難題がある。
c.入試情報の開示
情報公開法の成立に伴い、入試情報に関しても開示要求が相次ぐことが予想され、対応策の作成が急がれる。この問題に関しては、国立大学協会の「大学入試情報開示に関する検討小委員会」でも検討が進められているが、東京大学としても独自に、かつ早急に対応策を練ることが必要であろう。
おそらく入試情報に関してはこれまでに公開されてきた部分はきわめて少ないものと思われるが、@開示要求の有無にかかわらずあらかじめ見聞可能なかたちにできる部分(情報提供)、A開示要求に基づき公開できる部分(情報公開)、B公開不可能な部分といった3分類を行うとともに、とくに@の部分の作業(文書化、インターネット化)の推進によって今後の事務負担を少しでも軽減しておくことが不可欠である。また、A、Bに関してはとりわけ試験問題の正解や採点・評価基準の開示がどこまで可能か(とくに東京大学のような論述式中心の場合)が最大の問題となろう。
d.初等中等教育との関係
現行の学習指導要領の導入後、初等中等教育にあっては基礎学力の低下が認められる。このことはきわめて遺憾なことであり、またそのような傾向に対して東大入試を合わせることは高校生のレベルの一層の低下を招きかねない。東京大学としては、高校との連続性の重視をこのようなかたちで求めるべきではなく、日本全体の将来を見据え、初等中等教育の学カ維持・向上に寄与すべきであろう。その点では入試問題も、これまでの前期日程入試同様、基礎学カの確実な修得を前提としたものであらねばなるまい。
また、新学習指導要領が高校に対しては平成15年度より学年進行で施行される予定であるが、対象者の大学受験が平成18年度より始まることを念頭においた場合、遅くとも平成16年度には東大入試の方針を公表する必要があろう。
ただし、「初等中等教育との関係」といった問題は、入試だけに関わる問題ではなく、大学教育そのものに密接に関わるものである。というより、むしろ後者の点を明確にしてはじめて、入試との関係が問題とされるべき性格のものであろう。
1) 大学における研究の現状と課題
大学における研究については自治の原則により自由が保障されているとはいえ、社会動向にも注目しつつ研究体制を検討する必要がある。大学を取り巻く社会動向の潮流としては、以下のように考えることができよう。
第1に、現代社会では、科学技術が作り上げてきた人工環境は(地球環境を含めて)人類社会との不可分な関係を強くしており、高度知識・情報化時代あるいは地球環境時代における社会の進展のためには、大学における研究教育が不可欠の存在となってきている。起業的シーズ研究が大学に求められている状況は、この一つの現れということができよう。このことを研究体制に関する課題として換言すれば、「大学が自治の原点に立ちつつも、自治の具体的発現である研究教育を介して社会への貢献をより一層高めるための研究体制は如何にあるべきか」ということになろう。
第2に、資源・環境問題を典型として、個々の学術がその固有領域に立脚しながらもそれらの共同作業が不可欠となってきており、また今世紀の学術を支えてきた要素還元論などへの強い懐疑が情報系や生命系学術を典型として生まれてきていることに現れているように、(文・理系学術の協同融合を含めて)希求される新学術パラダイムの構築へ向けた異領域の学術的共同作業が重要になってきていることであろう。すなわち、研究体制に関する課題として換言すれば、「基幹学術に関する研究教育を遂行しながら、新しい学術パラダイムを生み出すダイナミクスや総合性をも具現する研究体制は如何にあるべきか」ということになろう。
第3に、冷戦構造が崩壊し南北問題が顕在化する一方で情報・輸送革命等により国々が国境を超えて国際的に相互作用を及ぼし合う地球化時代を迎えており、こうした中で社会構造的あるいは産業的キャッチアップを達成し地球化時代における東アジアあるいは環太平洋諸国の一翼を担う国際的リーダーとしての先進国の仲間入りをしたわが国は、いわば“受信する時代”から“発信する時代”ヘと真に学術研究の国際化を図るべき時期にきていることであろう。再び課題として換言すれば、「わが国の大学が国際的により一層評価され得る研究教育を行うための研究体制は如何にあるべきか」ということになろう。
2) 本学における研究体制検討の要点
さて、本学における研究体制を議論する上では、上述した潮流に加えて、以下の3点を考慮する必要がある。
第1点は、上の第一の潮流とも関連するが、国の行政や財政に関する構造改革の一環として、大学における学術経営の効率化が求められているとともに、概算要求による純増としての部局新設や教官定員増が困難となってきていることである。この問題に関しては、大学を取り巻く社会動向の潮流に関する認識をもとに大学での研究が社会において果たすべき役割を明確にしつつ、社会文化への貢献を図るために各大学・各学内組織の個性化を図るとともに、単なる組織膨張に帰結しないよう、学内の人的資源の有効活用を図る方途を探ることが肝要である。こうした観点からは、学部、研究科、附置研究所といった学内部局あるいは学内センターや附属施設等の位置づけや相互関係を再度明確にしつつ、それらの有機的連携を図るシステムを構築することが必要である。また、学内の人的資源は教官だけではないのは無論のことであり、研究員やRA等を含む研究者構成の問題と、事務および共同利用施設等の研究教育支援体制の問題を十分に検討すべきである。
第2点は、本学では、平成9年度に全学的な大学院重点化を完了したことである。大学院重点化大学への移行は、総合的研究教育大学としての一層の発展を目指したものである。しかし、大学院重点化以前の研究科では学部教官と附置研究所教官とが定員を持ちより平等の立場から比較的柔軟な教育を行っていたが、大学院重点化により“研究科”が専任教官集団の研究組織となり“平等の立場”に変更が生じたこと、また、教育プログラム(カリキュラム等)について、大学院重点化が(基礎教育であるがゆえに長期的展望のもとに計画されるべき)学部教育と(専門教育であるがゆえに当時代性を加味して計画されるべき)大学院教育とを連結させた形での縦割り構造を持ちこむ可能性があることなど、大学院重点化の負の面を指摘する意見も出てきている。研究科を中心とした大学運営が大学院重点化のベクトルの唯一の解ではなく、このベクトルを一層具体的に展開するためにこうした危惧を乗り越えるべく、他の解をもさらに模索・検討すべきであろう。その前提として、まず、学部、研究科、附置研究所、センターなどの学内部局の役割を明確にすべきであろう。
この点に関して付記しておきたいことは、学部附属施設の一部は、未だに大学院附属施設として重点化されていないということである。大学院重点化によって、大学院学生が量的に増加したこと、また研究内容についても一層高度化が予想されることから、附属施設もそれに見合う内容をともなった大学院附属施設に発展させ、さらにそれらの連携により東京大学の全学的資産としての意義を高めていく必要がある。
第3点は、本学のキャンパスプランの骨格とも言える3極構想との関係である。3極構想では、伝統的学術領域を軸としたディシプリン追及の場として本郷キャンパスを、異なる学問的課題の隣接配置による融合領域形成(空間的融合)の場として駒場キヤンパスを、成熟度の異なる学問範型の配置による新領域創生(時間的融合)過程の明示の場として柏キャンパスをそれぞれ位置づけており、3極構想は総合的研究教育大学としての本学が目指すアカデミックプランに基づくキャンパスプランである。本学における研究体制は、この3極構想を具体的に展開する観点から検討されるべきである。
以上の観点から見れば、本学における研究体制については、
@研究科、附置研究所、センターなど、部局等の組織編成に関する基本的研究組織の問題、
A研究員やRA等を含む研究者構成の問題と、事務および共同利用施設等の研究支援体制の問題、
B総合的研究教育大学としての‘総合性”を生かすためのシステムの問題、
C研究の国際的展開を図るためのシステムの問題
前述した大学を取り巻く社会動向の潮流を視野に入れつつ、まず現在の本学を構成している基本的研究組織について検討する。
1) 大学における研究の特質
様々な社会インフラストラクチャーなどの人工環境をはじめとして、科学技術が社会の進展と密接な関係を持つようになった現在、研究に対する社会的要請は強くかつ幅広くなってきており、大学を含めて研究機関・施設には、基礎研究(新しい学術パラダイムを切り開く超域的基礎研究や基幹科学の基礎研究あるいは新しい価値を生み出す創生的基礎研究)、基盤研究(基礎学術を展開する上での要素研究)あるいは応用研究(要素研究の具体的展開)など広範囲なレベルの研究が期待されるようになってきている。こうした状況の中で、大学における研究組織を検討するためには、まず大学に期待される、あるいは大学が担うべき研究の特質を再度論じておく必要があろう。
さて、人類の知的発展の歴史を検証すると、人類社会を大きく展開させるような発見・創造は、個々の学者、研究者の自由な発想を基にした自主的な研究の成果から生まれてきたものである。このことは、多くの戦略プロジェクト研究において結果的に大学研究者の成果が基本となっていることを見ても明らかであろう。大学はこのような研究者の独創性、自主性を保障する研究組織として、そして人類の知的蓄積の継承、成熟、発展の場として、社会的にもその有用性が認められてきた。すなわち、大学は、その時々のあらゆる権力からの干渉を受けることのない「学問の自由」が保障される中で、研究者の自主研究を奨励し、人類社会への真の貢献を果たす組織として機能してきた。換言すれば、大学における研究の特質は、『教官個人の自由と独創性とに基づく(次世代に継承する知的価値のある論理性・倫理性をもった)学術的各個研究』であり、人類社会の進展に資する観点から(一見非効率とも見える)そうした学問の自由を社会が保障する場が大学そのものであると言っても過言ではない。
こうした側面から考えると、大学以外の研究施設の多くが具体的な達成目標を掲げてその効率的展開を図ることを目指す(ここでは“トップダウン研究”と呼んでおく)のに対して、大学においては研究者個人の課題設定の自由と独創性を生かした“ボトムアップ研究”が核となることで、研究体制等に関しても根本的な思想を異にしていると言えよう。
2) 基本的研究組織に関する本学の現状
上述のように大学における研究の特質は、教官個人の自由と独創性に基づく学術的各個研究である。しかし、そうした各個研究を基本として大学が自主的に研究者の組織化を図り、より総合的あるいは創造的な研究を展開することも極めて重要である。
本学は、これに関して、1の2)で述べたように大学院重点化と3極構想によるキャンパス計画等とにより組織化を目指してきた。まず、大学院重点化は、基幹学問体系に基づく研究科に学部教官組織の重点を移行し、基幹学術体系における教育の高度化と研究の組織化を志向したものと言える。また、基幹学問体系の継承と発展に加えて、学問領域の融合・創生自体を図る重点的な場として、3極構想により駒場キャンパスと柏キャンパスとを位章づけ、学術の総合的展開を図ることを目指している。
こうした試みは、無論本学の研究教育の高度化に資するところが大きかったが、一方では、大学院重点化後の課題として、1の2)で述べた事情を背景として、学部、研究科、附置研究所およびセンターといった部局等から構成される本学の組織的再検討を行う必要性も生じている。
a.学部
学部については、大学院重点化以前は教育組織であるとともに学部教官の研究組織であったが、学部教官が研究科に本務を移し研究科専任教官として位置づけられた大学院重点化後の現時点では、教養・基礎教育を担う“教育組織”として位置づけられよう。但し、大学院重点化により、学部が学科目制となり、学部教育に対する責任体制が不明確となったとの意見もあることにも注意を払う必要がある。
一方、学部附属施設は、大学設置基準等により、学部教育の実験・実習の場として設置されてきた。現在では、一部が大学院附属施設となっているものの、一部は学部附属施設のままとなっている。言うまでもなく附属施設は、学部と同時に大学院教育の実験・実習の場であり、さらにフィールドを活用した実証的・応用的研究の場でもある。つまり、附属施設は”教育組織”であると同時に”研究組織”であり、とくに総合的フィールド研究の推進という観点からは、これまで以上に大学院教育や実証的・応用的研究の推進母体としての意義が重視されるようになってきている。こうした要請に応えるべく、附属施設の合理的な利用方策が検討されているところであるが、大学院学生の増加等にともなう施設の狭隘化や、先端研究に対応した施設の更新は、十分行われていないのが現状である。一方、東京大学の貴重な資産として附属施設を一層活用するためには、附属施設の部局をまたぐ利用、附属施設間の連携による附属施設ネットワークの構築、日本の各地に点在する附属施設の地域連携研究のノードとしての機能強化等、全学的な視野から検討を進めていく必要がある。
b.研究科
研究科は、学部とは逆に、大学院重点化以前は学部教官と附置研究所教官とが大学院学生定員を持ち寄り協同して運営する“教育組織”であった。この意味で、大学院重点化以前から附置研究所教官は大学院教育に主体的に参画してきたことを忘れてはならない。しかし、研究科は、大学院重点化後は研究科専任教官(すなわち旧学部教官)の“研究組織”であるとともに、研究科専任教官と附置研究所教官との協力による“教育組織”であるといった二面性を持つことになった(研究組織を論ずる限りにおいて、以下では“研究科“を研究科専任教官の研究組織として使用する)。さらに、独立研究科という、学部教育にウェイトを置かない組織も出現してきた。これらにより、学部教育と(学部教育を支える)基幹学術研究を行う旧学部組織と、学部教育を免除され研究と大学院教育に責任を持つ附置研究所組織といった比較的平易な区別ができなくなるとともに、研究科委員会(教育的事項に関する運営)と研究科教授会(研究科専任教官の研究的事項に関する運営)の関係といった学内運営等に関しても、“研究科”と附置研究所との組織的位置づけに関する再検討が求められるようになっている。
独立研究科以外の“研究科”が旧学部教官を中心とする組織であることを考えれば、現状の“研究科”は、学部・研究科教育に関する適切な枠組み単位(ディシプリン)により組織され、単位教育体系を支える基幹学術群の研究を行う組織と位置づけられよう。
c.附置研究所
附置研究所については、“研究科”や国立研究所あるいは共同利用機関等との関係から議論が多いので、やや詳細に述べておきたい。すでに述べたように、大学における研究教育の特質は、教官あるいは研究者個々人の自由と独創性に基づく学術的各個研究である。しかも、教育の枠組み単位にとらわれることなく、そうした各個研究を基本として大学が自主的に教官あるいは研究者の組織化を図り、より重点的あるいは総合的な研究教育を展開することは極めて重要である。とくに、大学院重点化が学部と研究科とが直接に連結した縦割り構造につながる危惧が存在することを考えると、研究体制を重視した組織化は新たな意味で重要性を帯びてくる。本学における附置研究所は、その移管あるいは設置の経緯が如実に示すように、大学におけるそうした研究主体の自主的組織化の典型と言うことができる。すなわち、附置研究所は、(ビッグサイエンスにおける特殊研究施設・設備や、資料・史料などの蓄積・情報創生などの)特殊研究基盤の整備と関連研究者の組織化により重点的に進めるべき分野、複数部局の学術的共同事業をへテロな教官コミュニティが協同して行うべき分野、あるいは大学における学術研究を社会へ還元する触媒機能が不可欠な分野等について、各個研究を基本として大学が自主的にリサーチ・アクティブ・スタッフの組織化を図り、既存教育体系にとらわれることなく重点的あるいは総合的な研究教育をグループとして展開するネットワークの要となる組織と位置づけられるが、後述する研究センターに比べて中・長期的研究を遂行する組織であることから、組織としての個性を維持するコア教官組織を持つべき組織であると定義できる。
附置研究所についても、学部や“研究科”と同様に、その使命の当時代性あるいは学内における有機的連携のあり方については常に大学における自己点検が行われるべきことは当然である。とくに1の2)で述べたように、本学が全学的に大学院重点化を完了したこと、また“学内資源の有機的連携を一層効果的に図ることにより研究教育体制の高度化を目指す必要性がある”状況にあること、さらに3極構想を今後具体化していかなければならないことなどを勘案すると、学内におけるこうした自己点検の意義は一層重要となってきていると言えよう。近年、横型専攻や独立専攻あるいは独立研究科が組織されるに及び、こうした研究科組織としての再組織化を検討する価値のある附置研究所もあり得ることを付言しておきたい。
一方、とくに共同利用を旨としている附置研究所については、学外に置くことにより一層の効果的運営が図られるという意見があり、本学はすでに附置研究所を独立した研究所として世に送り出した実績もある。今後も附置研究所の発展段階に応じて、そうした研究所が出現することは十分予想される。しかし、当然のことながら、このことは、附置研究所がアプリオリに学外に置かれるべきであることを意味せず、ある附置研究所がある方向に特化した結果として自発的に起こるべきものである。研究経費と人員の安易な削減のみを目指して附置研究所を大学から分離しても十分には機能するはずはなく、結果的には研究の重点化・先鋭化を目指す学内組織を再構築する必要に迫られると思われる。
d.センター
センターについては、“研究教育を全学的に支援するセンター”と“機動的ないしは流動的な研究センター”とに大別されるが、後者については研究科や附置研究所との関係からさらに付言しておく必要があろう。研究センターの第1の目的は、学内で芽生えた各個研究に基づき、比較的短期的な時限内に比較的少数の研究者集団で達成すべきと大学が自主的に判断した特定研究課題を遂行することである(ここでは、教官の奉職年数を30年とし、この年限に比べて短い10年程度を短期的と表現した)。第2の目的は、学内サバティカルに近い待遇を与えることにより、各部局で芽生えた各個研究を開花・発展させることであり、その組織的特徴は流動性を重んずることであり、研究課題については組織自体としての個性を特には要求しない。こうした研究センターについては、比較的中長期的運営方針に基づく研究科や附置研究所に対する組織概念上の相違を意識して運営されるべきであろう。
3) 基本的研究体制に関する課題
学内の人的資源の有機的連携を図り、大学院重点化大学としてより相応しい研究体制を構築するためには、基本的研究体制について、以下のような事項について検討する必要があろう。
a.組織運営に責任を持ち得る研究体制への再編
大学における研究は『教官個人の自由と独創性に基づく学術的各個研究』に基本があることは繰り返し述べてきたが、一方、大学はそうした個々人の単なる集合ではなく、部局組織の集合でもある。こうした部局組織の集合として大学が運営されるべき基本は、『研究教育の遂行に関する責任の単位としての部局』にあると言えよう。研究に関して言えば、この責任は組織目標の個性化と人事といっても過言ではなかろう。こうした個性化と人事とに責任を持つためには、自ずから研究組織には組織目標に照らした組織固有の適正規模(小規模部局を否定するものではない)が存在すると考えられる。たとえば、大学における研究では長期的評価を要するものが多く存在し得るが、そうした研究に責任を持つ基本単位は部局であり、部局が適正規模であってこそそうした責任を持ち得ると考えられる。こうした部局の適正規模化は、学内における適度な競争原理により部局運営の一層の個性化をもたらし、本学の研究教育に新たなダイナミズムとインテグレーションとをもたらす原動カとなると考えられる。
一方、部局の適正規模化は、一部の領域では学部教育を含めて細分化をもたらす可能性がある。部局の適正規模化を図るとすればこの観点を忘れてはならない。こうした適性規模化と細分化防止とを両立させる方途として、本学の構成を、“教育組織“(すなわち学生組織単位)と”研究組織“(すなわち教官組織単位)を一対一に対応させず、柔軟化する方法が考えられる。こうした方式は、すでに九州大学において大学院重点化を構想した時期に『研究院構想』として検討されているが、適正規模化による責任体制の明確化、ダイナミズムとインテグレーションの確保、大学院重点化後の縦割り構造化の抑制、教官の複数研究科兼担の実現、さらには研究科委員会と研究科教授会との二重構造の解消などを原点として、本学方式として今後検討する価値があると考えられる。
b.附置研究所等の一層の高度化を目指した措置
附置研究所、センターおよび附属施設を先述のように位置づければ、組織概念としての附置研究所は、本学における重点的あるいは総合的研究教育の展開を図る上で重要な組織であり、附置研究所をさらに高度化し大学における学術研究の象徴とするには、本学としての全学的な支援も必要である。そのためには、まず、@人員の流動性の確保が重要である。すなわち、附置研究所は部局としてのアイデンティティを維持するためにコア組織を有する必要があるが、その使命に適したリサーチ・アクティブ・スタッフが適切な時期に集えるよう流動性を具現する必要がある。流動性については、学外との流動性を確保すべきことは大学全体におけると同様に必要であるが、とくに“研究科”との人事交流が適切に行われる必要がある。また、A附置研究所における研究を支える研究スタッフ等への措置も必要である。たとえば、客員教授や研究員あるいはRA等の研究スタッフを重点的に充実するなど、附置研究所を学術研究遂行のための魅力ある場とするよう一層の措置を講ずることが必要であろう。さらに、B大学院教育をより充実させるには、大学院教育に対して附置研究所教官が主体的かつ研究科専任教官と異なる立場から関与できるシステムの構築が必要である。この点については、附置研究所を中心とした研究科の設置や前項で記した“教育組織”と“研究組織”との分離方式が検討に値すると判断される。
一方、独立研究科や独立専攻が可能となった現在、これらへの再編等の可能性をも念頭におき、本学全体として各“研究科”および各附置研究所の研究組織としての位置づけを常に自己点検するメカニズムが必要である。その際、各“研究科”および各附置研究所は前項の観点から自らその使命について個性化を図り、たとえば基幹学問領域の発展と学術研究における挑戦的共同事業との相補的関係、あるいは附置研究所を大学院内部組織として位置づけることにより組織的相補関係を確立するなど、相互の有機的連携を維持・発展させることが不可欠である。
また、既存の附属施設は大学院重点化以前に設置・設立されたものであり、学部教官が大学院に移行したことにより齟齬を来しているのは前述の通りである。具体的には、@大学院教育に対し附属施設教官が主体的に関与できるシステムの構築が必要である。このためには、大学院教育研究に見合う内容を伴った研究科附属施設への重点化が望まれる。また、A附属施設における研究を支える研究スタッフ等への措置も必要である。
c.研究員やRA等を含む研究者構成および研究支接体制の問題
本学が総合研究大学としての特性を発揮しながら新しい知の創造をめざす前提としては、“研究科”、附置研究所、センターそれぞれにおける研究体制の充実が必要となる。しかし、国の行財政改革の方針から一方で技官・事務官の定員削減が進み、また一方で部局の新設や専任教官定員の純増がきわめて困難な状況下にあって、教授・助教授・助手といった教官を中心とした従来のままの研究組織のあり方では、いずれ限界を迎えることとなろう。
現段階で教授・助教授・助手以外の研究者構成として考えられるのは、客員教官、非常勤講師、研究員、RA、TA等の研究教育スタッフである。とくに後述するネットワーク型で流動的な研究組織では、多くの客員教官、非常勤講師などを擁して海外や民間を含めた学外人材を組織化することが、積極的に求められる。研究員も、学内各部局や学外諸機関にわたる多様な領域の研究者を機動的に研究グループに動員する際に必要であろう。
RA、TAについては、研究教育の効率化を図るとともに助手の減員やオーバードクター対策などの意味をも込めて、その急速な増員が実現しつつある。このRA、TAの有効な活用が、今後の研究・教育組織の活性化には必須であり、そのためにはRA、TAに関する制度的な整備・拡充がさらに求められよう。RAについては、オーバードクター、大学院生に対する奨学金などとの違いを明確にしながら、「プロジェクト推進の補助」とされる業務の具体的な明確化が必要である。とくに、“研究科”におけるRAには教育面でのTA的な機能も当然果たすことが期待されることの位置づけも必要である。附置研究所等の大学院教育への貢献は今後一層重要となり、附置研究所等においてもRA、TAの境界が揺らぐことになるだろう。さらに、RA、TAが本来の機能を十分に果たすためには、RA、TA独自の研究教育環境としての空間・場が保障されなければならない(TAの場合、指導する学生たちと触れ合える場も必要であろう)。研究・教育において、このような官職・世代・専門分野を超えた共同の研究教育の空間・場が、新鮮で創造的な研究・教育を産み出す上で欠かせないのではなかろうか。こうした、客員教官、非常勤講師、研究員、RA、TA等の研究教育スタッフの拡充とその十全な機能発揮が、今後の研究体制の高度な活性化のための前提となると言えよう。
また、流動的で時にバーチャルな研究組織による機動的な研究がめざされる中では、大学共同利用機関にみられるような、特定研究課題に関する共同研究員の制度を大学に導入することも検討されるべきであろう。多様な交流・連携・共同にわたる研究の場として、“研究科”・附置研究所・センターそれぞれの組織的特性に配慮しつつ、一体として機能するネットワーク型研究教育システムをめざす過程において、大幅な組織改革を伴わない、学内の人的資源を最大限に有効に活用する方法を検討することも、合わせて行う必要がある。
一方、研究支援事務体制においてもより高度な効率化が求められており、進められつつある部局間の事務合同を機に、研究支援事務組織のさらなる効率化努力に踏み込むことが求められている。当面導入される見通しのある再任用制度の活用方法も、研究支援事務組織の充実とリンクさせて考えることもできるのではないか。また、大きな予算を伴う大規模な研究プロジェクト(C.○.E.など)が採択された際の研究支援事務は、既存の事務組織との有機的な連関を図りつつ効率的運用をめざすべきである。さらに、大学における研究が社会的な要請を負っている範囲で、研究支援事務組織に、場合によって外部資金導入による支援を考える必要があろう。
以上のように、学部、“研究科”、附置研究所およびセンター等を位置づけると、研究体制の観点から次に問題とすべきは、各研究組織の有機的連携を図る方途であろう。ここで、教官定員(あるいは学生定員)を保有する第一義的組織である“研究科”や附置研究所等の各研究組織により構成される組織群を“部局ディレクトリ”と呼び、部局ディレクトリ内の各研究組織の有機的連携を図り、分野横断的研究教育への挑戦を促進し本学の総合性を発現するための概念として、“ネットワーク組織ディレクトリ“(仮称)を導入することを中心とした“ネットワーク型研究教育システム”を提案する。なお、ここで述べるネットワーク型研究教育システムは、附属施設のネットワーク化構想にも援用できるものである。
1) ネットワーク型研究教育システムの必要性
本学はわが国の近代化を学術の面から支えてきた歴史を持つが、すでに述べたような潮流の中で、新世紀を目前にして、本学がいかなる学術を今後創生できるかが問われていると言えよう。とりわけ重要であることは、1の1)で述べたように、“受信する時代”から‘発信する時代”ヘの変貌期に当たり、日本発の新しい学術成果を世界に発信するという先導的姿勢へと大きく方向転換することである。たとえば、情報、生命、環境等といった研究教育領域を考えると、これらの領域は理系・文系部局を含めて各既存学問領域において研究の対象となりつつある。こうした広領域性を有する領域における研究教育は、総合性を志向しつつも具体性を失うことなく進められるべきであり、このためにはまず部局ディレクトリを構成する研究組織において具体的対象を想定しながら進められる必要がある。
さて、本学の研究教育を支える教官団と研究施設は、分野・領域の特性に応じて、様々な組織・運営形態をとっている。それぞれは、固有の機能の最適化とともに、社会との接点をも含む意味において、最も活動しやすい形態として設計され発展してきたものであり、結果として生まれた多様性は、総合的研究教育大学としての文化の深度を表象するものと言えよう。一方で、このような大学の資産を総合的に活用し、上述のように来世紀に向かって萌芽せんとする新たな学問領域に挑戦するアクティビティを機動的に組織し運営しようとするとき、個々の部局の組織・運営形態の多様性に起因する障害があるならば、それを低減するシステムを構築することが、大学の学術経営の観点から必要である。いわゆる”ダイナミック・ディシプリン”の機動的な生成、再編、進化を可能とする運営機構は、世界の最先端を自認する本学の研究・教育体制にとって一つの生命線ということができよう。限られた研究教育資源の中で、部局の枠をさらに超えた分野横断的共同研究を推進することにより新たな研究領域の創成を可能ならしめる必要があり、このために学内研究体制の整備・改善を検討することが求められている。ここで構想する“ネットワーク型研究教育システム”は、異なる部局に所属する教官がダイナミックに編成することができる運営上の機構であり、既存部局を横断する「ディレクトリ」の役割を果たすものである。学際的・萌芽的研究分野を構成しようとする場合に必要となる組織・運営の制度的な整合化、運営の合理化、全学的な支援などを可能とするシステムとして提案する。
2) ネットワーク型研究教育システムの具体的内容
学術研究における協同体制については、一般にその密度の相違により、交流、連携、共同といった様式があり得る。領域の広域性や協同体制の様式に応じて、さらに柔軟な組織化を許容するシステム構築を検討し、研究体制の重層化を図るべきであろう。こうした観点から、ネットワーク組織デイレクトリをさらに内部的に検討してみる。
a.交流ネットワーク機構(仮称、ENS=Exchange Network System)
弱結合のネットワークとして、“交流ネットワーク機構”の構築を提案する。ENSは、多部局にわたり研究が行われている広域的研究領域について、その総合性を高めるために分野横断的に研究者相互の情報交換を促進するシステムである。
b.連携ネットワーク機構(仮称、JNS=Joint Network System)
主としてボトムアップ的な分野横断型大型研究プロジェクトを支援するための部局間ネットワークシステムとして、“連携ネットワーク機構“を提案する。JNSを構成する組み合わせとしては、研究科間、附置研究所間、研究科・附置研究所間など様々な組み合わせが考えられるが、すでに示したような附置研究所の使命を勘案すると、附置研究所がその使命と個性とを通じて有機的連携ネットワークのノードとして機能することが期待される。
c.共同ネットワーク機構(仮称、CNS=Cooperating Network System)
とくに、部局ディレクトリにおける研究教育組織として一元化することが適当でないと考えられる情報、生命、環境など、将来の重要な学術領域としての(文系・理系を含めて)広域性および長期性を有する領域を念頭に置き、具体的課題について文・理系学術の協同あるいは融合に関する方法論を含めて研究教育領域を開拓するネットワーク型研究教育システムとして、基幹定員を有する“研究ネットワークセンター”(仮称)をコアとして、大規模の客員定員、部局からの時限的定員振替(転換)により準備される“部局流動定員”(仮称)と全学定員の運用により準備される“全学流動定員”(仮称)(合わせて“流動定員”)とにより構成される“共同ネットワーク機構”を提案する(図U−2参照)。CNSで行うベき研究教育領域では、すでに述べたように各基幹学問領域における具体的研究と平行して総合的研究教育が行われるべきであるので、研究ネットワークセンター教官は各部局を併任(あるいは重担)することとし、CNSが特定研究科あるいは特定専攻と強い関係を有することは望ましくないと考えられる。ただし、CNS関連教官を指導教官とする大学院生への学位授与については、CNSにおいて実質的審議を行い、指導教官の所属する研究科において承認する措置が望まれる。なお、CNSの萌芽として、流動定員と客員定員とのみによる運営(“萌芽CNS“、仮称)も考えられる。
d.東京大学ネットワーク型研究教育機構
上に3種を例示したネットワーク型研究教育システムを効果的に運営し、部局ディレクトリにおける人的資源や研究成果を有機的に総合するためには、これらを統括しその運営に当たる“東京大学ネットワーク型研究教育機構”(仮称、図U−3参照)を設けることが望ましい。この研究教育機構は、CNSを中心とし、ネットワーク運営委員会において運営に関する助言を得ることが望ましい。
この研究教育機構は、たとえば以下の役目を担うことが考えられる。ENSに対しては、その設立および運営を支援するために、幹事研究者に対して、リーダシップ経費等により運営費の援助を行う。JNSに対しては、JNSプロジェクトの立案・調整を図るとともに、予算獲得の支援を行う。また、JNSの実行場所として、本郷、駒場、柏の3キャンパスにそれぞれオープンラボラトリーを設置(駒場Uには既設)することも考えられる。
また、一部の文科系など、英語等による情報発信による国際化が今後期待される分野に対して、ENSやJNSなどの機構を適用し、活動を支援することは極めて重要である。
CNSの一つの形態として、学内の約20センターが幾つかのグループとして連携するネットワークを考えることもできる。先鋭的な研究をミッションとするセンター間のネットワークという考え方は、ダイナミック・ディシプリンの検討において自然な文脈として期待されるものである。特定のミッションをもつ研究組織をネットワークで結ぶという構想の理念に関して言えば、アナロジーとして、研究に主眼を置くならば岡崎研究機構、教育に主眼を置くならば総合研究大学院大学を想起することができる。しかし、組織論的な観点からは、CNSとして本学内に設置されるネットワークは、教育研究のネットワークという「緩やかな結合」として構想されるものである。
1) 国際的展開に関する前提
海外からわが国を見る視点にはニュアンスの異なるいくつかの方向性がある。第1は、創造的な発信のできる国としての欧米先進国からの評価と期待であり、2国間・多国間の協同研究を本質的に平等な立場で実行し、多様性を生みだすプロジェクトの推進が求められる。この場合には応分の負担の実行、計画を立案する企画カ、それを推進するリーダーシップなど、広義のマネージメントを行える組織と人的リソースが日本サイドに必要とされる。第2は、韓国・中国・台湾・香港・シンガポールなどの先進準備国へのアジア圏先進国としての役割による協力の期待であり、わが国のプロジェクトなどに注視している各国の実情を考慮した相互の負担が求められる。第3は、多くのAAA諸国とくに、東南アジア・インド・イスラム諸国との国際協同研究であり、特色ある学術ネットワークの構築、それぞれの国情に応じた技術移転とその考え方が問われる国際展開となる。いずれの方向性にも共通しているのは、学生やpost-doctoralの交換を中心とした研究活性化であり、研究の国際的展開ではオン・ザ・リサーチ・エデュケーションを含めた大学院大学としての教育プログラムのあり方が問われる。
このように、我が国への多様な要求は、大学へのさまざまな形での提案要請、対応などとなってくるため、本学が日本人のみのための「日本」にとどまる大学とするのか、国際大学としての飛躍をするのかを含め、明確なストラテジーをもち、長期的なビジョンを示すことが、多様な要求に応える出発点となる。その上で、個別な対応から全学さらに学術ネットワークでの対応までさまざまな手法での、ヴァリエーションある展開がはじめて可能となる。現状における国際的な先導性への疑問あるいは国際的な情報発信の不足などは、本質的な大学像変革なしには解消されず、また“国際大学としての東京大学“ヘの脱皮を前提としなければ、アジアの先導的大学への道も見つけにくい。
一方、資金援助・借款など経済支援のみによる国際協力のあり方は終焉を迎えつつある。我が国は、学術のもつ自由な発想・未来の開拓カ、文化のもつ息吹・人間の歩みの発見など、学術・文化およびそれを担う人間の魅力性に基づく協カを、ODAに代わる方法として育てる必要がある。すでにヨーロツパ先進国では、British-Councilなどをキーステーションにした「文化プログラム」が従来の経済援助に代わる戦術として採用されており、アジア諸国における留学先が日本からオーストラリアなどを経由して欧州に戻りつつあるという成果に結びつきつつある。
本学がもつ総合性は、知的吸引力を育むには最適とも考えられるシステムであり、少なくとも研究教育の国際展開を図る上では、120年の歴史の中で分化・統合してきた各組織単位を、目的に応じて総合化する組織化・学術ネットワーク化が不可欠となる。たとえば、工学系で試行しているTJTTP(Thailand-Japan Technology Transfer Project)に代表されるプロジェクトは、工学の枠を越えた国際協カであり、タイの国情に応じた学術の展開が図られている。今後の本学が行う国際交流プロジェクトでは、我が国の英知の代表としての東京大学の総和が問われている。
ここで、現状の本学における国際交流、留学生教育などを垣間見ると、@「定員外」としての留学生の受け入れ、A日本語教育に重点をおいた「留学生教育」、B奨学金に関する不充分な施策、C多様性の欠如などの問題があり、今後の国際的展開を図るには、総長室でのリーダーシップの下に全学が協力してこれらの解決に向けて推進していく体制が不可欠である。
以上から、東京大学の国際展開の本格的な議論は、大学内外から要請された最重要課題の一つであり、この問題に関して明確なストラテジーを提示することが東京大学の今後の経営を論じる際の試金石となる。
2) 多様な要請に対応するスペクトルの広い方法論
国際的大学としての一歩を本学が踏み出すためには、「長続きする」「息の長い」「無理のない」施策を、外からの要請に応じた多様なスペクトルの中で実現することを考えねばならない。
a.海外拠点あるいはリエゾンの構築
すでに教官が複数あるいは時期を変えて複数回訪問している大学が世界中に点在しており、たとえば米国MlTなどは必ず1名以上の教官が短期あるいは中長期に滞在しているため、まずは本学からの情報伝達あるいは本学への情報流通などを骨子とした情報ネットワークのノードとして、外国滞在中の個々の研究者を機能させることが考えられる。最初は、自主努力として、固有の海外拠点あるいは海外リエゾンを発進させることが必要であろう。
b.国際化とアウトソーシング
本学の周辺には財団などが支援する多くの留学生援助プログラムおよびその予備軍が数多く存在し、大学サイドからの発信方法によっては、大使館推薦などの政府間での奨学生枠に加えて、多くの奨学生枠を用意することができる。とくに、大学人の有する個別ネットワークは、多くの企業・法人の経済・社会活動の指針を与えるものとなることに加え、国内の産学協同を発展途上国を場として展開するなど、産と学との巧みな連携もポイントとなる。すべてを大学人がカバーするのではなく、適切なアウト・リソーシングを行いながら、人的連携・組織連携をとっていく過程も重要となる。その意味で、まず国内における東京大学国際化事業を支援する役割が必要である。
すでに文学系におけるイタリア・フィレンツエ・リエゾン室、農学系におけるインドネシア・ボゴール農科大学リエゾン室など積極的に海外拠点を設置していこうとする動きがあるが、大学人のみで活動をカバーすることになれば、現状維持さえも大きな課題となってくる。まずは、複数の部局で行っている国際交流ネットワークのノードで互いに活用できるものから全学的な海外拠点に育てていく工夫が必要である。次に、財政・人的リソースともに適切なアウト・リソーシングを行いながら、人的連携・組織連携をとっていくことが必要である。今後の国際化戦略を大きく変更せざるを得ない我が国にとっては、海外における大使館・JlCAなどと提携し、本学の英知を生かした海外拠点の設営、運営を考えるべきである。
c.東京大学国際同窓会
とくに帰国留学生には、この海外拠点を積極的に利用してもらい、各国での組織化に加え、今後の研究ネットワークの核として活躍できるように支援しなければならない。各種の国際交流を目的とした助成機関においても、大学の指導教官と帰国した留学生との国際協カを推進し、次の世代の学生交流を行っていこうとする動きもあり、帰国留学生の組織化にあたっては、息の長い、互いの信頼関係の上に樹立した交流を考える必要がある。まずは優秀な留学生が多数東京大学で学んできている東南アジアを中心として、交流拠点となっている大学に東京大学国際同窓会支部を設置し、その支部をネットワーク化することで東京大学が国際的な学術研究展開を図っていくことが肝要であろう。そのためには全学協カ資金などによる経費援助を行うことも視野にいれるべきであろう。
国際大学としての本学の展開に伴って、現在をはるかに越える留学生(というより外国籍学生)が増大し、少なくとも大学院教育の英語化・宿泊施設整備など、これまで日本人対象に行ってきた大学院教育研究のあり方を変革する必要がある。これらについては学内でのりーダーシップを必要とすることから、「東京大学・国際化事業」担当副学長あるいは担当特別補佐の設置も期待される。
1) 公開大学
知的資源の宝庫としての大学が、市民社会に対して開かれていることは、単に学術文化の発展のみならず、生涯学習の推進や、大学が説明責任を果たすうえできわめて重要であると考えられる。とくに東京大学は、日本の学術をリードする国立大学として、その知的資源を社会に還元する大きな責務を負っている。もちろん東京大学は、これまでも教官個人の努カや、全学および各部局の公開講座、公開シンポジウムなどを通じて、大学と市民との直接対話の場をつくり、大きな成果を得てきた。しかし、大学をとりまく社会状況が大きく変化している今日、これまでの市民との交流の積み重ねを飛躍的に発展させるような「公開大学」とも言うべき新たな交流基盤の構築が求められる。大学における貴重な人的資源を浪費することなく、グローバルに開かれた東京大学を目指すことがいま求められている。
情報公開はいまや大きな時代の流れである。東京大学がいかなる経営体制のもとに、いかなる研究教育が実践され、その結果いかなる成果が生まれているかを、日本国民のみならず、世界に向けて広く情報発信していくことは、焦眉の課題である。情報公開制度に的確に対応するためには、情報公開制度の精神を先取りし、自ら積極的に情報公開の促進に努めるべきである。そのために、全学的な立場から情報公開が円滑に行われるような組織体制の見直しと、全学の広報機能の強化が求められる。このことに関しては、東大白書の刊行、各部局の自己点検の推進、東京大学ホームページの充実などの対策がとられてきた。しかし、それらは研究教育の面での情報公開にとどまっており、それらの充実を一層図ることはもちろんであるが、今後は、予算執行や教官倫理の問題に対しても十分な説明責任を果たしていく必要がある。また、東京大学が発信する情報は日本語が中心であるが、東京大学が世界に開かれた大学であるためには、英文による情報発信について、より積極的な対応を図っていく必要がある。
2) デジタル・ユニバーシティ
一方、こうしたシンポジウムに加えて、東京大学の知的成果を広く市民社会に公開していくことが必要である。東京大学120周年記念事業において試みられた大学公開の取り組みの成果を継承し、わかりやすい形で開かれた大学づくりに取り組んでいく必要がある。その一つの方策が、インターネット上にデジタル・ユニバーシティを設置・展開することである。総合研究博物館のデジタル・ミュージアムを基礎に、画像、文字、音声情報を高次に統合し、デザインした情報の発信を行うことが考えられる。同時に、話題性に富む情報を加工し、一般図書としても刊行する。この点に関しては、東京大学出版会との連携強化が求められる。これらについても、従来は英文による発信力が弱いので、英訳の外注化を行うことによって、日英間の情報の格差解消につとめる必要がある。
また、束京大学は、現在、駒場、本郷、柏の3キャンパスを核とした3極構造の構築を行いつつある。こうした地区ごとの東京大学の機能分担と連携は今後とも推進すべきであるが、同時に、それぞれの地区をとりまく地域社会との連携を忘れてはならない。地域レベルにおいて市民、企業、自治体等と大学が連携することは、今後の大学が目指すべき方向であるとの認識のもと、研究教育のみならず、啓蒙普及という面でも一層の地域連携を推進する必要があろう。とくに近年は、生涯学習、社会人教育等の面から大学の果たすべき役割は増大しているにもかかわらず、地域連携の基盤となる仕組み作りが十分検討されているとは言い難い。たとえば、それぞれの地区のキャンパスに隣接して交流基盤を整備し、自治体や企業と大学の共同所管による情報発信・生涯学習基地を設けることが考えられる。ここでは、東京大学の講義をケーブルテレビで公開するなどの仕組みが考えられよう。もし、講義がこのようにして公開の対象になれば、教授法の改善にもつながるであろう。また地域社会そのものを研究活動のフィールドとすることによって、大学における学術の成果が目に見えるものとなるという効果も期待される。こうした講義は、日本全国に点在する本学附属施設や、近年その整備が進みつつある海外学術交流拠点においても可能であろう。附属施設、交流拠点の設置目的にかかわらず、地域の要請に応じて全学的視野から出張講義を行い、それぞれの地域にかかわる学術の成果等について広く公開する場とすることが望まれる。
3) 附属中・高等学校との交流と速携
本学には教育学部附属中・高等学校があり、中高一貫教育の実験的研究の場として重要な役割を果たしてきたが、従来、各部局との交流はそれほど盛んには行われてこなかった。しかし、本年度、文部省が学校教育法を改正し、中高一貫教育を行う中等教育学校の設置を認めたこともあり、中高一貫校への関心は全国的に高まっている。また、近年は、いじめ、不登校、学級崩壊など、学校をめぐる問題は社会的に大きなインパクトを与えてきている。また、学力低下問題も大きく、中高等学校との大学教育との連携が重要となってきている。
一方、本学にはきわめて豊かな知的資源があり、研究科、附置研究所では最先端の知の探求が日夜繰り広げられいる。このような本学全体の知的資源を附属学校の教材開発、教育方法開発などに生かして、生徒たちが本物の知の探求の一端に触れる機会をもち、附属学校と各部局との連携と交流を高めることが重要であると考える。そのためには、本学の教官が附属学校で出張講義をしたり、興味深い実験やデモンストレーションを行ったり、あるいは、中高生が研究所や研究科の実験室等を訪問して知の探求の現場を見て、なんらかの知的探求の体験をするなどのことが組織的に行われる制度が必要と思われる。また、附属学校の教官との連携で最先端の科学・技術を生かした教材開発や新しい教育方法(たとえばマルチメディア利用など)の開発を行うため、附属学校の教官が短期的に研究科や研究所の研究員となって、自由に研究室や実験室に出入りし指導教官のもとに開発研究に従事できるような制度の確立も望まれる。
このような附属学校との連携と協力のもとに、最先端の知識や技術を教育現場に活かそうとすることや新しい教材や教育技術の開発を行おうとすることは、大学院生や若手研究者の研究者としての誇りを自覚させ、研究意欲の向上にも大いに役立つものと考えられる。
参考: 具体化が急がれる提案
[1] AGS等のENSへの認知と一層の支援
[2] 日本・アジア研究“、“総合情報学”、“自然史・文化史百科全知“あるいは次代科学総合研究機構等によるJNSやCNSの創立
わが国における学術研究、高等教育の高度化・拡充が一層求められている今日、東京大学に与えられた使命は、それに相応しい研究・教育体制を整え、その主要な担い手としての役割を果たすことであろう。本報告書の教育体制WG、研究体制WG担当部分で述べられているように、その使命を果たすためには、多面における研究・教育環境の整備・充実とシステムの改革が必要である。
しかし他方において、そのために必要な諸資源の調達はきわめて困難な状況にある。国家財政の逼迫から、また現在国立大学の置かれている制度的制約から、現在の体制のまま必要とされる体制を創り上げていくことは不可能といっても過言ではない。
したがって、与えられた使命を果たし、研究・教育の充実を図っていくためには、東京大学の経営体制を見直し、現状において可能な改革に取り組むとともに、大学の組織体制のあり方についても再検討し、必要な改革を実施していかなければならないと考える。
経営体制WGでは、このような認識に基づいて、現行の制度の下で可能な経営体制強化のための方策を提案するとともに、必要とされる制度改革の方向、そしてさらに大学の組織体制のあり方についても検討を行った。ただし、最後の組織体制については、現在行政改革の一環として大学の設置形態が論議されている最中でもあり、問題点の指摘にとどめ、基本的に政府における改革の推移を見守ることとした。
以下、まず2で現状において東京大学の経営体制を強化するために必要と考えられる、総長室を中心とするトップマネジメントの改革について検討し、3では、必要な資源構築および活用の方法について論じた。そして4で、大学に相応しい組織体制について触れている。
1) 現状と課題
上述のように、東京大学を取り巻く環境はきわめて厳しい状況にあり、その中にあって東京大学が限られた資源を有効に使い、研究・教育の充実を図っていくためには、東京大学総体として一体的、機動的な経営を行うことが不可欠である。そしてそのためには、組織としての東京大学が的確な情報処理と意思決定を行うことが必要であり、それには総長、副学長等のトップマネジメントのあり方がきわめて重要である。
トップマネジメントのあり方を改善するためには、総長、副学長のルーティン・ワークに向けられている事務処理の負担を軽減し、限られた時間資源を真に重要な事項に集中できる体制を作ることが必要である。同時に、教官および事務官の時間の劣化を防止するために、全学の管理運営体制に係わる既存の委員会体制を見直すことも必要であると考える。
2) 総長室の整備・強化
a.基本的方向
部局の自治に委ねることのできる事項は極力部局に移譲するとともに、総長、副学長が出席しなければならない会議の数を減らし、会議出席に伴う負担を軽減するとともに、総長の職務を補佐する補佐体制を整備・強化するべきである。同時に総長、副学長に必要な情報が確実に伝達されるように、重要な情報を選択し報告するフィルター機能をもった担当者を設置する必要がある。その者は、担当事項について状況を把握し、課題を処理し、権限の範囲内で判断・決定を行い、全学的に重要な情報を総長ないし担当副学長の耳に確実に入れるものとする。
具体的には、副学長と同レベル、または副学長の下に、担当者(総長補佐等)を置き、その者が特定事項(情報公開、柏キャンパス、国際交流、職員組合対応等)について主査(責任者)を担当する。また、その主査が単独ではすべての事態に対応できないと思われるので、その下にさらに1、2名の補佐(副主査)を配置し、彼らがチームとして遺漏なく担当事項を処理できるような仕組を作ることが必要であろう。
これに加えて、トップマネジメントの機動性を高めるためには、まず各部局へ分権化できるものは分権化するとともに、全学的な調整を要する事項については、それに適した柔軟な仕組みを作るとともに、入学試験、国際交流等、全学的に機動的な対応を必要とする事項については、総長(本部)の下に決定権限を集中させることが望ましい。
b.機能分担の例示
総長室の編成は総長の裁量に属する事項であることはいうまでもないが、上記の観点からは、総長室を総長を頂点とするディレクトリー構造に編成することが望ましいと思われる。
その場合、副学長等が担当する分野は、たとえば学部教育、大学院教育、組織・規則等を担当する「学内経営」担当と、学外との交流、資源調達、国際交流、プロジェクト企画等を担当する「渉外」担当、そして広報、情報公開、メディア対応等を担当する「広報」担当等に区分するのも一案であろう。
3) 広報体制の整備・強化
a.基本的方向
上記のような大学を取り巻く厳しい環境に加え、情報公開が強く要請されるようになっている状況の下で、東京大学も、正確かつ十分な情報を積極的に発信することにより,本学における教育研究活動の実情についてのより良い理解と様々な改革・向上の試みに対するより広範で強カな支援を獲得できるよう努める必要が大きくなっている。
ところが、現在の本学の広報体制は、その中心を担う広報委員会が、各部局選出の委員により構成される合議体であるうえ、一定期間ごとに委員が入れ替わるため、統一性・機動性に欠けるところがあるなど、その要請に十分応え得るものとはなっていないように思われるので、それにふさわしい広報体制を再整備する必要がある。
そのため、大学全体としての広報活動は、委員会方式ではなく、総長のリーダーシップの下に、専従の機関(名称は、例えば、「東京大学広報企画室」)を設け、そこで企画、推進することを考えるべきである。
b.整備案
現在の広報委員会委員長の職に替えて、総長の下に広報担当の職(名称は、例えば、「広報企画室長」あるいは「広報官」)を設け、上記専従機関の補助を得て、大学全体の情報公開にかかわる事項を含む、広報活動を統括させる。
また、その専従機関は、室長である上記担当官のほか、その職務を代行する権限を持つ補佐2名(うち1名は総長補佐が兼務)、総長が適当と認める教官若干名、及び事務局の関連職員で構成する。室長補佐のうち総長補佐兼務者は、総長室との連絡に当たるほか、上記担当官の代理として諸会議に出席する。もう1名の室長補佐は、学内広報及び対外広報誌の企画・編集、東京大学ホームページの管理等の常務を掌理するものとする。
4) 国際交流体制の整備・強化
a. 現状の問題点
近年の外国との交流の増加は、東京大学に新たな可能性を付与するとともに、従来なかった課題も作り出している。一層の研究・教育の発展に資する国際交流の体制を作るために、現行の体制を以下のような観点から、整備・強化することが必要であると考える。
研究における国際的展開を図るための具体的な方策については、研究体制WGの報告書において指摘されているところであるが、組織体制の面からみたとき、現在の国際交流の課題は、第1に、交流の窓口が多元化し、東京大学全体としてそれを把握、調整できないことであり、第2に、大学内部局間の国際協定や研究協力のレベルから、留学生への対応、海外の卒業生等のネットワーク化などいわゆる国際交流のレベルも多元化していることである。
b.整備案
したがって、国際交流体制の強化を図るためには、まずその多元的な構造の下においてそれぞれの担当者間の情報交換を円滑化し、調整の仕組みを整備することが必要であろう。
それには、大学間協定や研究協カに関しては、それを審議する委員会の活性化も重要であるが、それ以上に、それを専任で担当する、できれば副学長レベルの担当者と彼をサポートするチームを設置すべきである。
留学生については、本年3月に出された留学生政策懇談会の報告書「知的国際貢献の発展と新たな留学生政策の展開をめざして−ポスト2,000年の留学生政策−」においても触れられているように、留学生の処遇に関する全学的なルールを整備し、基準を明確化するとともに、それぞれの部局および担当部門における状況について情報を共有し、調整を図る全学的なマネジメント体制を確立すべきである。
なお、国際交流を促進し、東京大学の国際的活動を支援するために、海外にいる卒業生等の組織化を行うことも、国際交流体制の整備・強化を図るために早急に取り組むべきことと考える。
5) 全学委員会の再編
a.基本的な方針
東京大学には70以上に上る全学委員会が存在する(評議会に設置される懇談会を除く)。総長室の機能を見直すことと、この委員会体制の見直しとは深く関係しているが、同時に委員会体制の見直しは教官及び事務官の負担軽減の観点から避けて通ることができない。本WGは、東京大学の経営体制問題の一環として、別紙のような思いきった再編プランを示すことにした。
再編に際しては次のような基本的な方針を念頭に置いた。
(1) 総長室のリーダーシップの下に統一的に機能するのが適当と思われる委員会等については、総長室の機能強化という形で吸収すると共に思い切った見直しを行うこと(2)、3)、4)に対応)
(2) 類似した機能を有する委員会を統合し、委員はそれなりに広い見地から当該領域の課題に取り組むようにすること
(3) 委員会と教官及び部局との関わり方について多様性を認めること
また、今後、委員会数の増大に歯止めをかけるためにサンセット方式を採用し、評議会が定期的にチェックすることを提案したい。
b.再編案 別紙の通り
(この別紙の表に掲げた再編案は、既存のほとんどすべての委員会の統廃合の案を示したものであるが、抜本的な体制の改革が必要と考えられる、前述の広報、国際交流に関する委員会は含まれていない。)
1) 検討の背景および課題
大学として果たすべき研究教育の使命を達成するには、大学が取得・保有する貴重な資源、具体的には、人材(教職員、研究員等)、資金(校費、外部資金等)、有形資産(建物、設備等)および無形資産(知的所有権等)の構築と活用が不可欠であることは言うまでもない。
しかし、今日、特に留意すべきは、基幹的研究教育経費(校費)の抑制や厳しい定員削減が図られる反面、大学院教育の大幅な拡充や国際的な研究水準の確保が強く要請されていることから、平成10年10月に出された大学審議会の答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について−競争的環境のなかで個性が輝く大学−」で強調されているように、国立大学にそうした資源の構築と活用に向けた革新的な「経営」姿勢の転換、すなわち、資源の量的拡大から再配置・有効利用への転換、そして、個別部局から横断的・全学的主体への経営主体の転換が求められていることである。
本報告は、こうした大学の資源経営に関する新たな方向を念頭におきつつ、本学の資源経営の現状と問題点、次いで、当面本学の裁量で取りうる資源構築・活用の方法を取り上げ、最後に、新たな大学資源の経営方法を模索する上で、必要な課題を指摘する。
2) 資源経営の現状と問題点
基幹的研究教育経費(校費)の抑制と事務職員の継続的な定員削減が続く状況下で、本学では新たな研究教育課題の追求、文系・理系の学融合、国際交流事業の拡大といった要請に対応するため、これまで全学レベルまたは部局横断レベルでの資源経営の種々の試みがなされ、新領域創成科学研究科の創設、各種学内共同利用センターの新設、全学協カ基金の導入等、一定の成果を上げてきたが、それらは、多くの場合、学内合意の形成に多大の時間とエネルギーを費やさざるをえなかった。
それには多くの原因が考えられるが、もっとも重要な原因として、全学または部局横断型の資源経営を求める側と、経営資源の拠出を求められる側、双方において説明責任と情報開示が不十分であった点を指摘しておきたい。
経営資源を第一次的に取得・保有・運用する部局には、部局の特性に基づいた固有の内部的資源経営の方法があり、それは基本的には尊重されるべきものであるが、部局内の種々の事情から内部的経営の主体的な改善努カが十分なされていたとは言い難い。他方、全学または部局横断型の資源経営を推進する側には、多種多様な部局と資源移転についての合意を形成する際、各部局の経営資源の実情を的確に把握・評価するとともに、部局固有の資源経営方法を基本的に尊重するという姿勢が十分とは言えなかった。
3) 当面の資源構築・活用の可能性
国立大学において経営資源の構築や活用を図るには、多くの場合、予算・定員等の組織再編がともなうため概算要求が必要となるが、大学独自の判断で、あるいは、部局や教職員の努カで貴重な経営資源の構築とより有効な活用を図る余地もないわけではない。
たとえば、本学でも具体化に向け着手された国内・国際卒業生組織を活用した寄付金の受入れがその一つである。
また、近年、競争的研究環境の整備という目的で拡充されつつある外部資金(科学研究費、未来開拓研究事業、寄付講座・研究助成等委任経理金等)の獲得にさらなる努カを払うとともに、いわゆるオーバーヘツド制度の確立を早急に図り、優秀なる研究者の招聘と基幹的研究教育費の補充に向けてインセンティブを強めることである。
あるいは、研究教育の将来的課題を見通した萌芽的な共同研究や総合的教育の進展を促すには、貴重な経営資源の制度的な再配置をともなわずに学内で自発的に組織される多数の部局横断ネットワーク型の研究教育プロジェクトを積極的に育成すべきである。 ただ、そうした新たな研究教育プロジェクトを全学的に推進するには、時限付センターなど既存の組織を所定の時限でスクラツプする方式(サンセット方式)を定常化することが肝要である。
4) 資源経営の今後の課題
国際的な競合関係で研究教育を進める必要性が認識されるにつれ、最近、本学の内外から学術研究の高度化・横断化(総合化)・国際化・学際化・流動化、あるいは、高度専門職業人養成等をキーワードに研究教育体制のさまざまな改革が迫られており、大学の貴重な資源を全学的・横断的観点からいかに適切に構築し、活用するかがますます重要な課題となっている。
当面、本学では裁量権限の範囲内でなしうる努カを積み重ねる必要はあるが、たとえ全学の合意がえられたとしても、実現できることには限界がある。
組織の再編等、概算要求によって資源構築・活用を図る場合になると、対内的には全学または横断的レベルの資源経営と部局内部の資源経営との容易ならざる調整、そして、対外的には現行の財政・定員制度等の硬直的な仕組みという制約条件が一層厳しくなる。これに対して、前述の大学審議会答申は、学長および部局長のリーダーシップの強化と大学の行財政制度の弾力化という方向を打ち出しているが、双方ともその具体的内容が審かではなく、実効性も未知数である。 したがって、やや迂遠な方法ではあるが、研究教育パフォーマンスに国際的に高い評価をえている海外の有力な大学や部局を選んで早急にその経営資源の構築・運用状況および資源経営の意思決定方法を調査研究し、その成果に基づいて、本学の研究教育体制の将来計画を円滑に設計・実現できる資源経営体制のあり方を主体的に構想すべきである。
その際、それらの海外の大学や部局の置かれている制度的条件の、わが国の国立大学のそれとの相違を明らかにし、海外の大学の経営面における制度的制約や自律性・弾力性についての比較を通して有効な資源構築・活用のための条件を探るとともに、自律的な経営を行っている海外の大学の管理運営のあり方についても調査を行うべきである。それによって、本学の将来の組織体制のあり方と必要とされる経営能力の水準を主体的に構想できるようになると考える。
1) 現行制度の限界と改革の必要性
これまで述べてきたように、東京大学の置かれている状況は厳しい。一方で、今後ますます高度化していく研究・教育を実施していくための体制が必要となっていくとともに、他方では、定員削減、予算の頭打ちによる大学の活動資源の制約が一層強化されつつある。さらには、情報公開法の施行や大学評価制度の導入等による説明責任、そして国際化への対応等、今後、果たすべき役割と責任は急速に増大しつつある。
このような状況を改善し、研究と教育の活力を生みだしていくためには、大学経営及び組織体制における大胆な改革が真摯に検討されるべきである。その際、社会の建設的な批判に真摯に耳を傾けることは当然の前提である。
現実に、国立大学の改革の必要性は、すでに広く認識されているといってよい。前述の大学審議会答申では、「大学が、教育研究上の要請、あるいは社会的な要請にこたえて、自律的かつ機動的に運営されるためには、大学の教育研究組織の柔軟な設計、行財政の弾力性の向上などを進め、大学自らが定めた教育研究目標を自らの主体的な取組によって実現し得る道を拡大することが重要である。」と述べられている。
さらに、平成11年1月の「中央省庁等改革に係る大綱」では、施設機関等の見直しの一環として、国立大学は「事務機構の簡素化、合理化及び専門化を図る等の観点から、その組織及び運営体制の整備等必要な改革を推進する。」と述べられるとともに、「国立大学の独立行政法人化については、大学の自主性を尊重しつつ、大学改革の一環として検討し、平成15年までに結論を得る。」と明記されている。
2) 改革の方向
このような状況において、今後、国立大学の組織体制はいかにあるべきか、組織設計の柔軟性、人事、行財政の弾力性を具体的にどのような形で実現すべきか、等が早急に検討される必要がある。
現在国会で審議中の独立行政法人の通則法案に示された典型的な同法人の形態は、たとえばその法人の活動について可能な限り数値で定めた中期目標の主務大臣による設定、中期目標に基づく中期計画の主務大臣による認可、中期計画に照らした計画期間後の成果の評価など、研究・教育という大学組織の目標や評価基準としてなじみにくい基準を採用している点、および主務大臣の任命する長と彼が任命する役員とに広範な管理運営に関する裁量権を与えられることから、部局という自律的な教官組織を基礎とする大学経営の仕組みとしては適さない点等、そのままでは、大学の組織体制としては相応しくない点が多々見られる。
しかし、これまで述べてきたように、今後、大学の組織等に対する規制を緩和し、人事管理、財務管理を大幅に弾力化することによって大学自身による自律的な経営の余地を拡大する方向での制度改革の必要性は異論のないところであろう。そして、そのような自律的な大学の新たな組織体制としては、多様なものを構想することができよう。
その際、人事管理、財務管理をはじめとして組織および管理を自由化し、その活動の成果を事後的な評価に委ねる仕組みである点で、独立行政法人制度も、新たな組織体制を考える上で多くの示唆を与えてくれるものであり、先に触れた数値的な中期目標の設定、中期計画の認可、成果の評価など大学の組織体制に相応しくない点を改め得るとの前提のもとで、これまで述べてきた東京大学の直面する制約を克服する組織体制の一つのあり方としては検討に値するものと考える。ただし、組織体制を考えるに際しては、経営面における弾力性、柔軟性を取り入れることが重要であることはいうまでもないが、弾カ的な経営を行うに当たって求められる自律性、すなわち経営能力の重要性も忘れてはならないであろう。
上述の「大綱」が述べているように、国立大学の組織体制について、最終的な結論を出すまでの時間的余裕はそれほどない。国会審議を見守りつつ、また他の行政改革の推移をも観察しつつ、21世紀の東京大学に相応しい組織体制を、経営能力の醸成ともども、早急に探求していく必要がある。
| 平成10年 | 12月24日 | 第1回WG |
| 平成11年 | 1月18日 | 第2回WG |
| 1月28日 | 第3回WG | |
| 2月 8日 | 第4回WG | |
| 2月19日 | 第5回WG | |
| 3月 5日 | 第6回WQ | |
| 4月15日 | 第7回WG | |
| 5月 6日 | 第8回WG |
| 平成10年 | 12月24日 | 第1回WG |
| 平成11年 | 1月18日 | 第2回WG |
| 1月28日 | 第3回WG | |
| 2月 8日 | 第4回WG | |
| 2月19日 | 第5回WG | |
| 3月 5日 | 第6回WG | |
| 4月15日 | 第7回WG | |
| 5月 6日 | 第8回WG |
| 平成10年 | 12月22日 | 第1回WG |
| 平成11年 | 1月19日 | 第2回WG |
| 2月 9日 | 第3回WG | |
| 3月 2日 | 第4回WG | |
| 3月19日 | 第5回WG | |
| 5月18日 | 第6回WG | |
| 5月25日 | 第7回WG |
| (* 現委員) | |||||
| 人文社会系研究科 | 副学長 | 青 柳 正 規 | 10.11.17-11.3.31 | ||
| 総合文化研究科 | 副学長 | 市 村 宗 武 | 10.11.17-11.3.31 | ||
| * | 法学政治学研究科 | 副学長 | 青 山 善 充 | 11. 4.1- | |
| * | 農学生命科学研究科 | 副学長 | 小 林 正 彦 | 10.11.17- | |
| * | 法学政治学研究科 | 研究科長 | 佐々木 毅 | 10.11.17- | |
| 医学系研究科 | 研究科長 | 石 川 隆 俊 | 10.11.17-11.3.31 | ||
| * | 医学系研究科 | 研究科長 | 桐 野 高 明 | 11. 4. 1- | |
| * | 工学系研究科 | 研究科長 | 中 島 尚 正 | 10.ll.17- | |
| 人文社会系研究科 | 研究科長 | 樺 山 紘 一 | 10.11.17-11. 3.31 | ||
| * | 人文社会系研究科 | 研究科長 | 田 村 毅 | 11. 4. 1- | |
| 理学系研究科 | 研究科長 | 壽榮松 宏 仁 | 10.11.17-11. 3.31 | ||
| * | 理学系研究科 | 研究科長 | 小 間 篤 | 11. 4. 1- | |
| * | 農学生命科学研究科 | 研究科長 | 林 良 博 | 11. 4. 1- | |
| * | 経済学研究科 | 研究科長 | 宮 島 洋 | 10.11.17- | |
| 総合文化研究科 | 研究科長 | 大 森 彌 | 10.11.17-11. 2.15 | ||
| * | 総合文化研究科 | 研究科長 | 浅 野 攝 郎 | 11. 2.16- | |
| * | 教育学研究科 | 研究科長 | 佐 伯 胖 | 10.11.17- | |
| 薬学系研究科 | 研究科長 | 井 上 圭 三 | 10.11.17-11. 3.31 | ||
| * | 薬学系研究科 | 研究科長 | 今 井 一 洋 | 11. 4. 1- | |
| * | 数理科学研究科 | 研究科長 | 岡 本 和 夫 | 10.11.27- | |
| * | 新領域創成科学研究科 | 研究科長 | 似田貝 香 門 | 11. 4. 1- | |
| * | 医科学研究所 | 所長 | 新 井 賢 一 | 10.11.17- | |
| * | 東洋文化研究所 | 所長 | 原 洋之介 | 10.11.17- | |
| * | 社会科学研究所 | 所長 | 廣 渡 清 吾 | 10.11.17- | |
| * | 生産技術研究所 | 所長 | 坂 内 正 夫 | 10.11.17- | |
| 法学政治学研究科 | 広報委員長 | 井 上 正 仁 | 10.11.17-11. 3.31 | ||
| * | 医学系研究科 | 広報委員長 | 大 塚 柳太郎 | 11. 4. 1- | |
| 事務局 | 局長 | 中 西 釦 治 | 10.11.17-11. 3.31 | ||
| * | 事務局 | 局長 | 板 橋 一 太 | 11. 4. 1- | |
| 事務局 | 企画調整官 | 高 橋 誠 記 | 10.11.17-11. 3.31 | ||
| * | 事務局 | 企画調整官 | 及 川 雅 勝 | 11. 4. 1- | |
| * | 大学総合教育研究センター | センター長 | 金 子 元 久 | 10.11.17- | |
| * | 法学政治学研究科 | 教授 | 森 田 朗 | 10.11.17- | 総長補佐 |
| * | 工学系研究科 | 教授 | 相 澤 龍 彦 | 10.11.17- | 総長補佐 |
| * | 理学系研究科 | 教授 | 山 内 薫 | 10.11.17- | 総長補佐 |
| * | 理学系研究科 | 助教授 | 真行寺 千佳子 | 11. 4. 1- | 総長補佐 |
| * | 農学生命科学研究科 | 教授 | 武 内 和 彦 | 10.11.17- | 総長補佐 |
| 総合文化研究科 | 教授 | 桑 野 隆 | 10.11.17-11. 3.31 | 総長補佐 | |
| * | 総合文化研究科 | 教授 | 永 田 敬 | 11. 4. 1- | 総長補佐 |
| * | 生産技術研究所 | 教授 | 西 尾 茂 文 | 10.11.17- | 総長補佐 |
| * | 東洋文化研究所 | 教授 | 羽 田 正 | 11. 4. 1- | 総長補佐 |
| 教育体制WG | |||
| 主査 | 壽榮松(理) | ||
| 部局長 等 | 樺山(文)、小林(農)、浅野(教養)、岡本(数理)、新井(医科研)、金子(大総センター) | ||
| 総長補佐 | 森田(法)、玉置(医)、相澤(工)、佐藤(文)、山内(理)、武内(農)、矢島(経)、桑野(教養)、平野(教育)、長野(薬)、河野(数理) | ||
| 検討課題 | 1)大学院重点化後の教育体制総点検 | 主担当:小林 | 補佐:武内、矢島 |
| 2)教育研究評価法・東大方式 | 主担当:樺山 | 補佐:佐藤、河野 | |
| 3)導入・教養・基礎教育の充実 | 主担当:壽榮松 | 補佐:山内 | |
| 4)学部学生定員の適正化 | 主担当:壽榮松 | 補佐:山内 | |
| 5)入試方法 | 主担当:浅野 | 補佐:桑野 | |
| 研究体制WG | |||
| 主査 | 坂内(生研) | ||
| 部局長 | 中島(工)、佐伯(教育)、井上(薬)、原(東文研) | ||
| 総長補佐 | 相澤(工)、佐藤(文)、武内(農)、河野(数理)、西尾(生研)、保谷(史料)、吉田(新領域) | ||
| 検討課題 | 6)研究科と研究所の位置づけ | 主担当:坂内 | 補佐:西尾、河野 |
| 7)教育研究の国際ネットワーク構築 | 主担当:中島 | 補佐:相澤、佐藤、吉田 | |
| 8)ネットワーク型教育研究推進機構等 | 主担当:原 | 補佐:保谷、武内 | |
| 経営体制WG | |||
| 主査 | 佐々木(法) | ||
| 部局長等 | 石川(医)、官島(経)、廣渡(社研)、井上(広報) | ||
| 総長補佐 | 森田(法)、玉置(医)、相澤(工)、矢島(経)、宮島(分生研) | ||
| 検討課題 | 9)総長室と企画立案・広報機能の強化 | 主担当:佐々木 | 補佐:森田、相澤 |
| 10)大学としての資源構築・活用方法 | 主担当:宮島 | 補佐:矢島 | |
| 11)大学に相応しい組織体制 | 主担当:佐々木 | 補佐:森田、宮島 | |