破綻大学学生のための
受け皿機関構想
銀行の次は大学
週刊朝日 1999年12月24日号
定員割れの私大が続出するなど私大の経営が厳しくなっているが、私大が経営破綻したときに備え、学生の受け皿構想について文部省が具体的な検討に入っていることが明らかになった。すでに経営難に陥っている私大もあるといわれ、早急な受け皿づくりが望まれている。
「文部省が、経営破綻した私大の学生をどうするかについて検討を始めたらしい」
こんな噂が私大関係者の間に流れ始めたのは、昨年夏ごろからだった。これに拍車をかけたのが、昨年10月、文部省の大学審議会が出した答申だった。その中では、
「今後、18歳人口の減少に伴い、入学者数は減少していくと予測され、大学によっては定員の充足が困難になるなど厳しい経営状況を迎えることも予想される」
と前置きしたうえで、
「大学等が廃止される場合の学生の取り扱いについて適切な方策を講じることなど……の取り組み等を一層推進していく必要がある」
と述べていたのだ。
私大関係者の間では、この問題について文部省の考えを探ろうとする動きも盛んだが、これまで文部省は私大が破綻した場合の処理策を検討していることを認めてこなかった。
関西の有力私大の学長は、
「定員割れしている大学で経営状況を聞いていると、いつ倒産しても不思議はない感じがします。大学の廃止に関して、具体的な基準や手順を整備しなければならない段階にきていると思います。ところが、そうした破綻処理について文部省に聞いても、具体的な話はまったく出てきません。なぜなら、そういう話が公式に出て、一部の学生の間でパニックが起きることを恐れているからです」
と話す。
ある私学団体の幹部も、
「文部省が私大の破綻に備えて研究を始めているという話は昨年から流れているのですが、その内容についてはいっこうに伝わってこないし、文部省に聞いても『そんな話は知らない』と言うだけでラチがあかないのです」
と話す。
本誌では、さっそく文部省の私学行政課を訪ねて根掘り葉掘り聞いてみた。担当者は初めは「難しい話ですねえ」などとはぐらかしていたが、本誌の追及にやがて、
「私立学校なので、学生の取り扱いについてはあくまで各学校法人が方策を講じるべきだというのが基本ですが、文部省としても、学生の転学のあっせんぐらいは行うのが望ましいのではないか、という議論が省内で出ています」
と答えた。つまり、破綻した私大の学生の転学あっせんなどについて省内で検討していることを認めたのだ。
具体的な検討内容を問うと、別の担当者が出てきて、「学生の受け入れ先といっても、その大学がどの地域にあるのか、大都市部か地方都市か、また、総合大学か単科大か、男女共学か女子大か、偏差値はどのくらいかなど、その大学の置かれた状況によって求められる対策は千差万別です。たとえば、学生数が多すぎて周辺大学だけでは吸収できないとか、受け入れ先が見つからない学生をどうするかなど問題は多岐に分かれており、あらゆるケースに備えて受け皿をつくっておくのは難しいと思います」
と説明し、
「受け入れ先の大学が見つからない場合でも、その学生の学習する権利を保護するような何らかの仕組みは必要だと考えています。たとえば、放送大学を利用するなどの方法も考えられます」
と語った。
「このままでは私大は持ちこたえられない」という認織は文部省内でも広がっている。ある幹部は、こう話す。
「文部省として考えているのは、いかにして私大を安楽死させられるか、です。破綻した銀行を引き継ぐプリッジバンクと同様、破綻した大学の学生を一時引き継いで保護する仕組みを考えなければならない。つまり、『プリッジユニバーシティ』ですよ」
とはいえ、実際には難しい作業になりそうだ。教育ジャーナリストの山岸駿介さんは、「学生を受け入れるにしても、偏差値が同程度でないとダメと言う大学もあるだろうし、地方の単科大学が破綻して周辺に同じ学問分野を持つ私大がない場合、その学生は東京か大阪に行くしかない、という深刻な問題になる」
と指摘する。
教育コンサルタント会社「ベガ」の亀井信明社長は、「経済的な理由で地元の大学に行く学生の場合、大学が破綻したら、遠くの大学に転学できるように、生活費などを支援する仕組みが必要ではないでしょうか。各私大が拠出して基金をつくることも検討すべきです」
と話し、リクルートの大学経営誌「カレッジマネジメント」の中津井泉編集長は、
「放送大学や通信教育などで、学生の足りない単位を補って、学位授与機構が学位を認定するような方法も考えられるのではないか」
と提案する。
学生を受け入れる私大側にも事情がある。首都圏の大手私大関係者は言う。
「この時代、どの私大も、学生はのどから手が出るほど欲しいのです。しかし、つぶれた大学の学生を受け入れると言うと、『学生ほしさにレベルを下げている』と言われ、次の年の入試で偏差値が落ちてしまう。学生受け入れをめぐっては、本音と建前が絡み合った各私大の思惑をどう調整するかが大変だと思う」
日本私立学校振興・共済事業団の西井泰彦・主任研究調査員は、私大の経営破綻のシナリオについて、「学生数の減少や人件費の増大による収支悪化」→「預金など金融資産の枯渇」→「借金(負債)の増大」→「資金繰りの破綻」というプロセスを予想しており、経営悪化の度合いをみる指標として「総負債比率」(資産総額に対する負債総額の割合)を挙げる。
「私大全体の総負債比率の平均は、19%前後です。これが50%を超えると要警戒。70%を超すと危険水域。100%以上は債務超過で実質的に破綻状態といえます」
同事業団の調べでは、総負債比率70%以上の大学が、1997年度決算段階で、すでに2校あった。50%以上となると9校ある。
今春、4年制の私大の2割が定員割れになるなど、ここ1、2年、状況がさらに悪化していることを考えると、「破綻予備軍」の大学はもっと増えていると想像される。
前出の亀井さんは、「文部省は、一刻も早く私大破綻後の処理策を立てて、きちんと公表すべきです。さもないと、『定員割れの大学は危ない』という認識が受験生に広まり、ますます学生が集まらなくなって、破綻を加速させるという、銀行の取り付け騒ぎのような連鎖反応が起きかねないと思います」
と懸念する。