一橋大・東工大・医科歯科・東外大・芸大

「5大学連合」が東大を圧倒する


大学もメガ統合

金融工学・医療経済・美学解剖


週刊読売 1999年11月21日号


 教育界に世紀をまたぐ大ニュースが沸き起こった。在京の有力5大学が連合するというのだ。少子化、独立行政法人化という流れのなか、国立大学自身が変革に踏み切り、東大をしのぐような新タイプの“メガ大学”を目指すという。このところ、大銀行の統合、合併話が相次いでいるが、大学にも大再編の波が押し寄せてきたようだ。

 このままでは欧米に対抗できない

 若者でも夢を語らなくなった昨今だが、この60歳代の男性5氏は集まるたびに「夢」を話し合った。旧知の間柄だったわけではないが、将来の大学のあり方になると意気投合。メンバーの内1人が下戸なので、会合はたいてい昼に行われ、熱い議論が交わされたという。

 5氏とは、いずれも在京の国立大学長。一橋大の石弘之氏、東工大の内藤喜之氏、東京外大の中嶋嶺雄氏、東京医科歯科大の鈴木章夫氏、東京芸大の澄川喜一氏である。

 石学長が話す。

 「そもそも、われわれ5人は性格的にもウマがあったんですよ。それが今年の5月、学長たちが集まる会議のあとに私的な懇親会を持つ機会があり、その席でだれとはなく、『5大学が協力し合えば、もっと素晴らしい大学になるのではないか』というアイデアが出てきたんです。その後も数回会合が開かれ、あれもできる、これも可能だという具合に次から次に発展していったんですよ」

 その席では「オペラを専攻する東京芸大の学生が、東京外大でイタリア語の勉強だってできる」という話も飛びだしたという。

 なかでも、真剣に議論されたのは、学際的研究についてだった。

 「学際的研究に関しては、日本は欧米に比べ、圧倒的に後れを取っているのが現状なんです。典型的なのが金融工学。この分野は、アメリカでは、たとえばスタンフォード大学とハイテク産業が提携するなど、産学協同が進んでいて、日本はまったくかなわない。しかし、5大学が連合し、一橋と東工大が手を組んだら、対抗できるのではないかという議論が出ました。

  そのほか、東京医科歯科大と一橋が共同すれば、『医療経済』の分野を発展させるであろうし、一橋では対応しきれない地域研究の分野を東京外大に補ってもらうこともできる。さらに、東京芸大で彫刻を専攻する学生にとっては、医科歯科大の解剖学の講義をたやすく聴講できる道も開ける。このように、5大学が連合することによって、いまのタコ壺のような閉鎖的な学問の壁を打ち破り世界に通用する大学ができるはずです」

 石学長が強調するのは、大学もグローバル化の波にのみ込まれており、金融機関と同様に、連携、連合し体質を強化していかなければ、新時代に対応できないということだ。

 具体的には、5大学は独立したまま、共通の教養教育を実施。そのほか授業の履修を認め合う単位互換制度を導入したり、5大学間での編入学・学士入学の特別枠を設置することが検討されている。教養教育のための共通キャンパス創設の案も挙がっているという。

 「私のゼミ(財政学)の出身者でも、卒業後、医学部に入り直した学生がいます。また、一橋を卒業して音大に入り音楽家になった学生も多い。経済を勉強しようと思って入学しても、自分には向いていないと感じている学生もたくさんいるわけで、そういう人には途中で他大学に転入する機会が増える。学生にとっては悪くない制度だと思います」


芸大の加入で魅力は倍加

 一橋大キャンパスを歩くと「いままで、一橋になかった学部学科がほぼ補完されることになる。一刻も早く実現してほしいですね」(商学部3年生)など、学生たちから歓迎の声が上がっている。

 これに対し、石学長も、「まだ夢の段階で、これから評議会や教授会をクリアしなければなりませんが、早ければ2001年度から事業をスタートさせたいという意見も出ています」と、早期実現に向けて、熱い情熱をのぞかせている。

 一方、理系の核となる東工大の反応はどうか。

 同大のある教官はこう話す。「東工大は社会学と工学の融和を目指すということで3年前に、社会理工学研究工学研究科を大学院に設置しています。一足先に学際的研究を始めており、システムは最先端を行っていますが、コンテンツはまだ十分とはいえません。その点、社会科学系の一橋と連合するのは心強い。
 また、学生の交流という点でも意義がある。東工大は、いわゆる学究肌の学生が多いが、連合が実現すれば、女子学生やいろいろなタイプの学生との交流が可能になり、良い刺激になると思いますね」

 実は、一橋大と東工大を軸とした合併話は、かなり以前からあったという。40歳代の東工大の教授はこう証言する。「私がまだ東工大の学生だったころ、後に文相になった永井道雄先生が、『連合大学』のアイデアを授業中に話していました。そのほか、何度も両校の合併のウワサは耳にしましたが、実際に明らかになったのは、今回が初めて。学内でもみな驚いています」

 一橋大出身の石原慎太郎都知事も、以前この合併構想を支持したことがあるそうだ。駿台教育研究所の山口博伸事務長はこういう。「『理文』大合同によって東大、京大に対抗できる大学にしようというのは、関係者の悲願だったのです。そして今回は、この両校に3大学が加わったことで、さらに大きなインパクトが生じた。文科、理科、語学、医学、芸術とまさにうまくミックスし、学生に対するアピール度は抜群。とくに、芸大というユニークな大学が加わり、魅力が倍加したと思います。連合5大学には、芸術、特殊外国語、歯学部と、東大にない学部学科が備わることになります」

連合キヤンパスはどこに

 5大学の学生数は、東大、京大にほぼ匹敵し(表参照)、予算規模も単純に計算すれば京大並み。まさに新“メガ大学”の誕生となる。

5大学連合    995億円
             24,828人

一橋大学 東京工業大学 東京外国語大学 東京医科歯科大学 東京芸術大学

東京都
国立市

東京都
目黒区

東京都
北 区

東京都
文京区

東京都
台東区

94億円

354億円

88億円

347億円

112億円

5,937人

9,835人

4,228人

2,002人

2,826人

商学部

理学部

外国語学部

医学部

美術学部 

経済学部

工学部

 

歯学部

音楽学部

法学部

生命理工学部

     

社会学部

       

 そうなれば、東大、京大に対する対抗意識も、いままで以上に強まるのは確か。

 前出の石学長は「そもそも、5大学とも、専門分野の学問レベルだったら、東大、京大には決して負けてはいない」と語るが、はたして、この大学連合は、東大、京大をしのぐことができるのか。

 前出・山口事務長の話。「最近、理科系では、優秀な学生が国公立医学部に流れ、東大の理一、理二(主に理工学部進級コース)の人気が落ちています。一方の東大の文系も、官僚や金融スキャンダルでイメージが悪化している。こういうタイミングに、うまく大学連合が立ち上がれば、かなりの人気を呼ぶことは確かでしょうね。
 それに東大には、3年に進級する際に進学振り分けという制度があります。希望学部学科に進級するためには、受験時のようなハードな勉強が必要となる。その点、大学連合の編入制度がうまく機能すれば、学生にとって非常に魅力的なものになる。従来、東大、京大を受験した層をも、かなり取り込めるでしょう」

 他大学に対する影響も大きい。大学の経営問題に詳しい中村忠一・新潟産業大学名誉教授はこう指摘する。「今回の5大学は強者連合ですが、今後は2番手、3番手の私立大学も生き残りをかけて連合する方向性が出てくるでしょう。また、関西圏の国立大学も大きく変動することが予想される。たとえば、大阪大、大阪外大の連合も考えられます。とにかく、これを機に、大学の再編成や淘汰が、一気に加速するのは間違いありません」

 とはいうものの、“死角”がないわけではない。

 経営評論家の江坂彰さんは「法学部の力は東大の方が強い。地位は低下しているとはいえ、官僚を押さえている分だけ、実業界では、東大の優位は当面続くことが予想されます。ただ、金融ビッグバン同様、教育界においても明日は何が起こるか、だれも予想できませんが」という見方をしている。

 それに、現在のところ、歴然としているのが予算の規模だ。東大の予算は、5大学連合の2倍以上となっている(表参照)。東大はそんな潤沢な予算を使い、千葉県柏市に大学院用の新キャンパスを建設中である。そこに、先端生命科学、基盤情報学、環境学などの学際的研究所を網羅した新領域創成科学研究科が移転される予定だ。  

東京大学

京都大学

東京都
文京区

京都市
左京区

2,101億円

1,175億円

26,469人

21,171人

法学部

総合人間学部

医学部

文学部

工学部

教育学部

文学部

法学部

理学部

経済学部

農学部

理学部

経済学部

医学部

教養学部

薬学部

教育学部

工学部

薬学部

農学部

 代々木ゼミナール進学情報指導部の坂口幸世本部長は話す。「インターネットなど通信環境がどんなに整備されても、結局は顔をつきあわさないと、出来ない学際的な研究もあります。東大が柏にキャンパスを作ったのはまさにそのためです。5大学連合もこの分野に力を結集したいのであれば、やはりまとまったキャンパスが必要でしょう。それも都心がいい。郊外か、都心かでは学生の人気が全く変わってきますから」

 そういえば、石原都知事が、お台場(東京・港区)にカジノを作るという構想をブチ上げたことがあった。それよりは、この新大学連合を誘致するというのはいかがであろうか。


世界に通用する大学を
今回の5大学連合で、中心的な“仕掛け人”とされるのが東京外大の中嶋嶺雄学長。
その構想の狙いを聞いてみた。

※    ※     ※

 これからの日本の大学は、国内で偏差値を競ったり、受験生を獲得し合うのではなく、国際的な競争にさらされていくのは間違いありません。いままでは、優秀な高校生は、何の疑問もなく、日本の大学に進んだのですが、ごく最近は、日本の大学に合格しても海外の大学に進学するケースが出ています。今後、日本の大学に十分な魅力が備わっていかなければ、優秀な学生がどんどん海外に流れてしまう恐れもあるのです。

 また、21世紀の日本は世界に対し、知的な国際貢献をしていかなければなりません。しかし、その際、はたして日本の大学がその役割を十分果たすことができるか、となると大いに疑問です。東大でさえ、世界の大学ランクの50位にも入らないというデータもあるぐらいです。国立大学の教職員の語学力や最先端分野の研究内容などをみると、このままではグローバルな競争に、勝ち抜くのは難しい状況だと思います。

 本学(東京外大)においても、狭い語学教育のカラの中に閉じこもっていてはならないのです。単に文法や会話を習うなら、町の語学学校の方が手っ取り早い。しかし、それだけでは外国語を本当に理解したことにはなりません。その点では、たとえば、東工大の情報工学分野と共同研究をしたり、一橋大とリンクして経営学的な視点で語学を学ぶことが有効だと思うのです。

われわれ大学のイニシアチブで

 次の100年を考えると、いま大学は抜本的な改革が必要な時期にさしかかっているのは確かです。つまり、大学は、もっと社会や世界に開かれるべきなのです。しかし、日本の国立大学の現状を考えると、予算や人員配置をとってみても、東大を頂点とする旧帝大優先の秩序が相変わらず残っている。

 たとえば、定員数に関しては、東大の工学部のほうが東工大全体の定員より多いし、予算に至っては、東京外大は東大のわずか30分の1程度。そのようなアンシャンレジーム(旧体制)を是正していかなくてはなりません。

 そういった共通認識に立った5大学の学長が、これまで非公式会合を繰り返し、さらに意見の一致をみた結果が、今回の5大学の連合構想だといえます。従来の国立大学は、ほとんどが文部省の方針にしたがって動いてきたことは否めませんが、今回はわれわれのイニシアチブによって行動を起こしているのです。

 日本の大学は、企業の合併などと違ってトップダウンでは決まりません。今後、各大学が、評議会や教授会の合意を取り付けなければなりませんし、文部省とも折衝をしなければならない。しかし、この夢は机上のプランのままで終わらせず、ぜひ実現したいと思っています。


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