一橋、東工大、東京外語、東京医科歯科、芸大

国立5大学連合結成へ

共同で教養教育 相互に編入学

1999年11月4日 日本経済新聞朝刊 1面

 一橋、東京工業、東京外国語、黄京医科歯科、東京芸術の有力5国立大学の学長は3日までに、教養教育の共向実施や編入学の相互受け入れなどを柱とする「5大学連合」の実現を目指すことで一致した。9日にも5大学長と文部省首脳が会合を開くなど、具体化へ向けた学内外での本格協議に乗り出す。各大学が独立したまま教育・研究内容に応じて連携し、総合大学的な機能を共有するのが狙いで、教養教育の共同実施などまで踏み込んだ国立大学間の幅広い連合は例がない。(関連記事を社会面に)

9日にも文部省と協議

 5大学はいずれも東京に本部を置き、それぞれに特色ある学部学科を持つ。中には東京大や京都大にもない学部もある。5大学の学生総数は東大、京大にほぼ匹敵し、予算規模も単純計算では京大並みになる。各大学の学長らによると、「5大学連合」の基本埋念は、異分野の学問を専攻する学生間の交流を活発化させるとともに、個々の字習目的にかなった柔軟な教育プログラムを提供すること。具体的には、@共通の教養教育の実施 A編入学、学士入学の5大学特別枠設置 B授業の履修を認め合う単位互換制度の導入 C教養教育のための共通キャンパスの創設−などの事業案が浮上している。

 事業の開始時期は今後の協議で詰める。実施に際しては、事業内容のコーディネートや大学間の連絡調整を担う連合事務局の設置も検討するとみられる。

 また金融工学や生命科学、地域研究など旧来の縦割り型の学問では対応できない学際的な研究領域が増える中、国際競争力を持つ各大学の専門性を生かした共同研究の可能性も探る。各学長は「構想は学長レベルで検討している段階。今後、各学内で合意を得る必要がある」としているが、「早ければ2001年度から事業をスタートさせたい」との意見もある。

 日本の大学は国際競争の激化や18歳人口の滅少による「大学全入時代」を目前にして根本的な改革を迫られている。各分野で国内トップレベルの教育・研究水準を誇る5大学の連合構想が実現すれば本格的な大学合従連衡時代の幕開けを告げるものとなりそうだ。

 大学の連合組織としては、米国のカリフォルニア大学バークレー校など同州内の9校が連携するカリフォルニア大学などがある。国内でも単位互換制度の導入などの連携に乗り出す大学が増えているが、国立大で共通の教養教育の実施や編入学の相互受け入れなどまで踏み込んだ取り組みをしているケースはない。

 

大学再編時代 幕開け

1999年11月4日 日本経済新聞朝刊 39面

国立5校連合構想

 異なる学問分野で国内トップレベルの国立5大学の連合構想が3日、明らかになった。大学間の連携は単位互換を中心に近年増加。大学が個々に編入学や学土入学制度を導入する動きも目立つが、今回の構想は教養教育や進路変更を含めた専門教育に関する学生の多様なニーズに共同でこたえようとするもので、従来の連携の枠を大きく超えている。学内外での本格協議はこれからだが、各学長は「これまでの大学には無いものを生み出したい」と語っており、生き残り競争が本格化する中、私立なども含め他の大学にも大きな影響を与えそうだ。(1面参照)

学生に広い選択肢
生き残リヘ危機感

 大学連携の取り組みとしては、同志社大や立命館大などが参加している「大学コンソーシアム京都」が94年度から単位互換制度をスタート。今年度の参加校数は37大学・短大に上る。このほか、広島県内の19大学・短大も今年度から単位互換を実施するなど、各地で同制度を中心とした連携が増えている。

 個々に編入学の定員枠を設ける大学も年々増え、文部省によると、今年度は224校に上っている。医学部を持つ大学では学力偏重型入試により目的意識のあいまいな学生の存在が問題化、豊かな教養と人間性を備えた医師を育成する観点から他学部卒業者の学士編入学を認めるところも目立ち始め、国立大では大阪大など3校が同制度を導入している。

 「連合」を目指す5大学の学長は、幅広い教養教育の実施など、これまで各大学だけでは十分に対応できなかった教育課題への共同取り組みを事業の柱と位置づけている。

 今後、学内外での論議を通して具体的な事業内客を詰めていくが、ある学長は「各大学の教官が共同で教養教育の講義を担当する『連合講義』を行ったり、5大学の学生が共に学ぶ場所も設けたい」と、構想の一端を語る。

 また、「5大学間で相互に編入枠を設けることが認められれば、人文科学を専攻する学生が医学部に進路変更するにも、現状より柔軟に対応できるだろう」と話す学長もいる。さらに別の学長ば「オペラを専攻する東京芸大の学生が東京外大でイタリア語を学ぶなど、学生の専攻に合わせた多様な教育カリキュラムが提供できる」と話している。一方、共同研究については「メディカル・エコノミクスなど社会的関心の高い学際的な領域の研究に臨機応変に取り組めるほか、可能であれば、5大学共同での外部資金の導入も検討したい」との声もある。

学長コメント 新しい大学像を 足りぬ部分を補完

 石弘光・一橋大学長
 
各大学の独自性を残しながら、足りない部分を補完し合う関係を模索しているが、今後、学内合意を得なければならない

 内藤喜之・東京工業大学長
 専攻分野の異なる他大学の学生同士が交流し、将来につながる交友関係も築ける環境は必要と思うが、学長だけで進められる話ではない

 中嶋嶺雄・東京外国語大学長
 各学内での合意が前提だが、特徴的な学部を持つ5大学は、既存の総合大学には無い新しいイメージの大学像を打ち出せるのではないかと考えている

 鈴木章夫・東京医科歯科大学長
 学生の進踏変更に融通性を与えるとともに、学際的な研究分野で協力し、各大学の競争力を高めねばならないが、学内外の本格協議はこれからだ

 澄川喜一・東京芸術大学長
 学内論議を踏まえ、他大学との連携を検討したい。芸大は学部が特殊で、連携分野は限られるが、教養教育では協力できるかもしれない

 

「学長の夢」出発点

学内合意など課題

1999年11月4日 日本経済新聞朝刊 38面

 「学長同士が個人的に夢を語り合っているうちに、共通認識が生まれた。だが、実現までには様々なハードルが残っている」。5大学の学長の1人がこう語るように、連合構想の行く手には多くの課題が山積している。国立太学は民間企業のように学長のトップダウンで動く組織ではないだけに、各大学で学内合意をどのように取り付けていくかは当然のこと、設置者である国の支援も欠かせない。論議の行方によっては法改正が必要な事項も生まれるだろう。

 とはいえ、この構想は閉そく状況にある日本の国立大学の将来に大きなインパクトを与える可能性を秘めている。独立行政法人化問題を筆頭に、18歳人口の減少、学生の学力低下、教養教育弱体化、国際競争力の欠如、新たな「知」の創造−等々、国立大学は未曽有(みぞう)の難題を抱え21世紀を迎えようとしている。

 確かに各大学は過去10年ほど、改革に次ぐ改革を進めてきた。しかし、一連の改革がどの程度の成果を上げられたのか、疑問視する声は少なくない。その最大の理由は、改革の多くが文部省の政策誘導による「上からの改革」だったことだろう。

 これに対し、5大学連合構想の最大の特徴は、「学長間の個人的な議論が出発点」であることだ。現場のトップである学長の強い問題意識が大学の垣根を超えた大胆な改革につながれば、それは日本の国立大学にとって初めての体験になる。

 5大学はいずれも東京に拠点を置く伝統ある大学で、学生の質も高く、単科大学の色彩が強いためお互いに重複する学部学科はほとんどない。5大学の学生総数は約2万5干人で、東京大学(2万7干人)、京都大学(2万千人)にほぼ匹敵、予算規模も計約千億円(98年度)と京大(1012億円)並みになり、各大学の校風を守りながら、相互補完することで、総合大学的な機能を取り入れることも可能になる組み合わせだ。

 少子化という冬の時代を迎え、大学は国公私立を問わず、「生き残り」という競争にいや応なしにさらされ、統廃合も現実味を帯びてくる。「現場からの大学改革」への挑戦は、新しい大学改革のモデルを模索する壮大な実験でもある。(編集委員 横山晋一郎)


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