国立大の独立行政法人化
大学教育の理念示せ

競争、淘汰招くおそれ
学費維持に懸念も

1999年9月23日 朝日新聞朝刊(主張・解説)より

 国立大学を国の直轄から切り離し、独立した行政法人にする 。一昨年来政府内で検討されてきた案が、実施に向けて動き出すことになった。反対してきた文部省が容認する考えに転じたためだ。政府には、2010年度までに国家公務員の25%を国の機関から削減するという公約がある。12万5千人がいる国立大の教職員は、一般の国家公務員全体の15%弱を占める。公約達成には、もはや「聖域」ではなくなったというのが構図だ。しかし、大学関係者には「理念抜きで数合わせに終始している」という反発が強く、問題は山積している。

 20日午前、東京・代々木の会議場。有馬朗人文相は、全国の国立大学長らを前に、こう述べた。「国立大学が自主性と自律性を高め、責任を全うするには、自らの権限と責任で運営に当たることが望ましい。独立した法人格を持たせることが適当だ」

 会議の後の昼食会で、多くの学長から異論が噴出した。「学問の危機だ」「将来を担う学生を育てていけるのか」。国立大学協会の幹部の学長が「流れには逆らえない。『護送船団方式』は通用しない世の中になった」と、抑えるように発言する場面もあった。

 国大協会長の蓮實重彦・東大学長は「全部の国立大が法人化するという(政府や文部省の)考え方はばかげている」と話した。

 ● 明と暗

 文部省は、法人化受け入れの「前提条件」として、大学の事情を踏まえた特例を設ける案を示している。

 学風が守れるよう、一大学を一法人とする。学長は学内での選考を原則とする。予算配分の基礎資料になる研究や教育活動に対する評価については、各大学の自己点検結果を活用するなど実施方法に配慮する−などだ。

 独立行政法人は国費でまかなわれ、職員の身分は国家公務員を維持できるとされる。「国立大学」の名称も残す方向で、外形上は変わりないように見えるが、実際には運営に大きな変革をもたらしそうだ。

 国の直轄ではないため、交付金は使途を特定されることなく使える。企業からの受託研究費や寄付金は直接各大学の収入にできる。給与を弾力化し、好条件でスター教授をスカウトすることも可能だ。学科や専攻を、大学だけの判断で設置できるようになる。意欲のある大学にはチャンスがあるように見える。

 しかし、「暗」の部分も少なくない。例えば、学費だ。現在、昼間学部の年間授業料は文・理系を問わず47万8干8百円。一般的な私立大に比べると低く抑えられているが、国から離れれば、省令で一律に定めることは難しくなる。

 文部省は、「国立大の使命として現在の学費水準は死守したい」といい、財政面での配慮を会計当局に働きかける考えだ。しかし、関係者には「政治力がある私学と違い、国立大の行く末を心配してくれる政治家は少ない。文部省の主張が受け入れられる保障はない」という悲観論もある。

 「淘汰」への不安も強い。派手さのない地方大学や、教員養成、基礎研究といった分野は予算で冷遇される、という見方だ。地方大学長の一人は、こう話す。「駅弁大学などと言われてきたが、地域で果たした役割は大きい。東大が無くなっても東京はびくともしないが、地方で国立大が立ちゆかなくなれば、地域全体の衰退につながる」

 ● 百年の計

 文部省の幹部は「苦しい選択だった」としつつ、こうも言う。「国立大が立場に安住して改革を怠ってきた、との批判は強い。それが法人化を招いたという要素もある。この先も改善を怠れば、今度は『民営化』を求める動きも出るだろう」

 確かに、研究成果を上げていない研究者の存在は指摘されてきたし、きめ細かな教育や就職の支援など、学生へのケアも十分だったとは言い難い。法人化で競争的な環境が生まれれば改革につながる、という意見には一定の説得力がある。

 しかし、今回の動きにはもっぱら政治的に設定された人員削減の目標達成を目的とする「いかがわしさ」がある。個々の学問分野をどう発展させるか。どんな人材を育て、地域社会にどう貢献していくか。そのための財政措置はどうしなければならないか−。大学教育への理念を示すのが先ではないか。明治以来、日本の学問を主導してきた国立大について、次の「百年の計」を抜きに議論を進めることはできない。

 結論を急ぐことなく、識者を集めた検討機関を政府内に置くことが考えられてしかるべきだ。人材と技術力に頼る日本が、ここで方向を誤れば、取り返しがつかない状況を招くことを、開係者は銘記すべきだ。

村上 宣雄(社会部)
 

 国立大学法人化への経緯

 独立行政法人は、公益性が高い特定の任務をもった行政機関を独立させ、民営化の手法を採り入れるなどして運営する方式。即座に職員合理化につながるわけではないが、運営内容全般が効率化されると考えられている。文部省は「大学運営は効率性になじまない」と一貫して反対してきたが、直轄機関人員の削減を掲げる政府・与党から、圧力が強まった。文部省は押し切られる形で容認に転じた。  


ホームページに戻る     最近のできごとと話題1999 に戻る