文部省、国立大の法人化検討
公務員削減 「聖域」から転換

 1999年8月9日 朝日新聞 朝刊より

  文部省は、全国の国立大学について、国の直轄をやめて独立した行政法人とすることを視野に、設置形態の見直しを始めた。約12万5千人の教職員をもつ国立大は、行政改革の一環として国から切り離す案が政府内で打ち出されたが、文部省や国立大学が「研究や教育は効率性の観点になじまない」と反対し、問題が先送りになっていた。しかし、公務員の大規模な削減計画がある中で、政府・与党内に協力を求める声が強まり、文部省は「聖域化できなくなった」と判断したという。国立大学協会と調整し、遅くとも来年夏までには結論を出す方針だ。

来年夏までに結論

  文部省は、識者を集めた懇談会を10日にスタートさせ、参考意見を求める考えだ。政府全体の行革の動きを見ながら慎重に検討を進めるとみられるが、省内には「すべての国立大が現状のままで残るのは困難な状況だ」という声も上がっている。

  独立行政法人は、「公益性の高い特定の任務をもった行政機関を独立させ、民間の経営手法を取り入れて効率的に運営する方式」とされる。国立大の独立行政法人化は政府の中央省庁等改革推進本部の中で強く示されたが、調整の中で、「大学改革の一環として検討し、2003年度までに結論を得る」(今年4月の閣議決定)とトーンが弱まっていた。

  他方、政府は行革の目玉として、2010年度までに、独立行政法人への移行分も含め、国家公務員を25%削減する方針を打ち出している。国立大の人員数は郵政事業に次いで突出しており、メスを入れなければ目標達成が困難な状況だ。各省庁とも具体的な削減策を来夏の概算要求までに求められており、文部省も来夏を期限に国立大のあり方の本格的な検討を迫られることになった。

  文部省は@国から切り離すことで研究や教育の質を維持、発展させられるかA独立行政法人という枠組みがなじむか、郵政公社のように別の法人制度は考えられないかB独立行政法人に移行する場合、特殊事情を考慮した新たな法律をつくる必要はないか−などについて検討を進める。

「傷を浅く・・・」のぞく思惑

  [解説] 本当は現状のままがいいが、状況が許さないなら、少しでも「傷」が浅い方がいいのではないか−。

  文部省が、従来の姿勢から転じて国立大の設置形態の見直しを本格化させた背景には、そんな思惑がある。

  政府は大規模な公務員の削滅方針を掲げているが、いったん独立行政法人に移行した機関については、当面、人員削滅は問わないことにしている。また、予算は引き続き国費でまかない、職員も公務員の身分を維持できるとされる。対象となる機関の反発を考慮したもので、「組織が即座にスリム化するわけではないが、独立機関になることで主体性が生まれ、運営の向上が見込める」と考えられている。

  こうした中で、文部省内には「かたくなに『国立』にこだわらなくてもいいのではないか」「国の機関として残れば、教職員の大量削滅をまともに受けなければならなくなる」という考え方が出てきた。国立大学自体にも、「絶対反対」という主張は弱まっている。

  しかし、短期的な損得で議論が進めば、大きな問題が生じる。大学関係者には「国の機関でなくなれば、企業のような効率性が求められる。将来的には予算を減らされるだろう」という懸念が根強い。

  さらに「理科系を中心に学費の値上げを招く」「地味な基礎研究の分野が打撃を受ける」「都市の大規模大学と地方大学の格差が広がる」といった関係者の指摘には現実味がある。

  一方で、「国から離れれば文部省の管理が弱まり、独自性が出せる」「予算が弾力的に便える」といった期待感もある。国民共有の財産である国立大を生かすには、何が最良の方法か。文部省や国立大学協会には、検討状況を逐一開示し、広く一般の声を取り入れて議論を尽くすことが求められる。

  (社会部・村上宣雄)  
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