「東京大学の経営に関する懇談会」が中間報告

東京大学新聞(1999年6月29日)より
 (1面)

  全学の教育・研究・経営体制 抜本見直し進む
  「経営に関する懇談会」が中間報告
  独立行政法人化 数値日標は大学に不相応 「改めうる」前提で検討

 全学の教育・研究・経営体制について、抜本的な見直しを進めている「東京大学の経営に関する懇談会」(座長・青山善充副学長)は6月8日、中間報告を評議会に提出した。報告は、教育カリキュラムについて教養学部と専門学部との間で話し合うための連絡協議機関や、部局を横断したネットワーク型教育研究の必要性を指摘したほか、総長室機能の整備・強化を提言するなど、個別部局を超えた大学経営を求める内容となっている。また、国立大学の独立行政法人化問題については、独立行政法人通則法で定められているような数値的な中期目標の設定やそれに基づく中期計画の認可、成果の評価などを「研究・教育という大学組織の目標や評価基準としてなじみにくい」と問題視しているが、一方で「大学の組織体制にふさわしくない点を改めうるならばとの前提のもとで、組織体制の一つのあり方としては検討に値する」ともみている。(編集部・西健太郎、2面に青山副学長のインタビュー)

総長室機能強化も

 懇談会は昨年10月の大学審議会答申を受ける形で、11月17日に評議会の下に発足。部局長や総長補佐ら30人以上で構成され、教育・研究・経営の三つのワーキンクグループに分かれて検討を進めている。今秋までに最終報告をまとめる方針という。

 中間報告では、学部前期課程と後期課程の教育の整合性を図るために、カリキュラムや教育方法について教養学部と専門学部との間で話し合う連絡協議機関の設置を提言している。また、学生定員については「長期的な大学院と学部の教育負担のバランスを考慮すると、学部学生定員を一部削滅すべき時期にきている」 としたが、結論には達していないという。入試に関しては前期日程試験を高く評価した一方で後期日程試験の効果を疑問視し、改革の必要性を指摘した。

 研究体制については、部局を超えたネットワーク型研究組織を提案したのに加え、研究の国際展開を図るためのシステムや、「開かれた大学」を実現するため の方策についても提案している。

 経営体制では、職務が集中している総長・副学長の補佐体制の整備を柱とした総長室機能の整備・強化を提言。同時に広報体制や国際交流体制の強化や、全学委員会の整理・統合も求めた。

 独立行政法人化問題については、数値的な中期目標を主務大臣が設定するとされている点などを「そのままでは大学の組織体制としてふさわしくない」と問題視している。ただ、独立行政法人化には、予算や人事などの規制緩和を可能にする側面もあることを指摘、「大学の組織体制にふさわしくない点を改めうるとの前提のもとで、東京大学の直面する制約を克服する組織体制の一つのあり方としては検討に値する」ともみている。

 青山副学長は「総長室の機能強化や全学委員会の統合、教養学部と専門学部の協議機関設置など、懇談会の提言にはすぐ実現できるものもある。最終報告を出す前にも、一部は実行に移したい」としている。


 (2面) 

  東京大学の経営に関する懇談会 中間報告 青山善充座長に聞く

 東京大学の経営に関する懇談会の中間報告は、全学の教育・研究・経営体制の全般に及ぶものとなっている。懇談会設置の背景には、昨秋に大学審議会が大学改革を促す答申を出したことに加え、来年にも結論を出すことを迫られている独立行政法人化問題への危機感があるようだ。懇談会の検討状況について青山善充副学長に聞いた。(1面参照)

 青山善充副学長 あおやま・よしみつ 大学院法学政治学研究科・法学部教授(民事訴訟法)。今年4月より副学長、東京大学の経営に関する懇談会座長

 昨年10月26日に大学審議会が答申を発表し、様々な問題提起をしましたので、それを受ける形で、11月17日の評議会で、「東京大学の経営に関する懇談会」を立ち上げることを決め、答申で触れられている問題のみならず、東京大学の抱えている研究・教育・経営体制について抜本的に検討し、改善すべきところは改善しよう、ということになりました。

● 教育体制 学部定員削減検討の時期 「第3の入試」も視野に

 教育については、まず大学院重点化後の体制について総点検しましたが、大学院生の数が増えたことによって院生の質が多様化しており、教官の教育負担も増えています。また、留学生の増加に伴う問題もあるし、建物などのインフラストラクチャーは極めて貧弱です。

 懇談会ではこれらの問題を指摘した上で、@学部の前期課程および後期課程教育の充実をどう図るか、A学部学生定員の適正化、B大学における点検評価のあり方、C入試方法−の四点について審議しました。

 学部教育の充実については、学生の学力が低下していると言われていることについて、「学生の潜在的資質に問題があるのではなく、学問に対するモチベーションや問題意識の欠如が問題であり、現在危惧されている変質は教育システムの充実・改善で修復可能である」という認識のもとに提案を考えました。

 具体的には、大人数クうスを解消し、教官学生間の双方向の対話を可能にすることや、習得度・理解度に関する厳格な成績評価のほか、レポート・小論文の複数回の提出や演習を繰り返すなど学生個人への適切なガイダンスが必要と提言しています。さらに、前期謀程と後期課程の整合性を図るためにカリキュラムや教育方法の検討が必要であると指摘し、教養学部と専門学部との連絡協議機関をつくることを提案しました。

 また、後期課程については、学部の授業と大学院の授業の整合性を図っていない部局があることが問題とされたほか、専門学部で必要になるような科目を高枝で履修せずに入学してくる学生がいるので、導入教育などの対策が必要と指摘しています。

 学部学生の定員に関しては、中間報告では「長期的な大学院と学部の教育負担のバランスを考慮すると、学部学生定員の一部削減を検討すべき時期にきている」としていますが、まだ結論はでていません。

 また、大学における点検評価については、自己点検や外部評価を積極的に受けるべきと提言し、大学にふさわしい評価組織がどうあるべきかということも検討しました。

 入試方法は、前期日程試験については入試としてよくできていると評価が高い。しかし、後期日程は、受験機会の複数化という点では目的を達成しているものの、追跡調査などをしてみると必ずしも成功しているとはいえません。前期とは違う異能・異才を採りたいということで導入したのですが、実際には前期日程の敗者復活的な性格が強い。そこで、選抜方法を改善するか、あるいは第三の入試方法を考えるか、何らかの改善が必要と提案していますが、具体的な結論を得るまでには至っていません。

 国立大学協会で検討されている入試情報の開示の問題もあります。東京大学としては受験者数・合格者数・入学辞退者数・入試問題など請求がなくても提供する情報、情報公開法にもとづく請求への対応、受験生本人への個人情報の開示の三点に分けて検討しています。三番目の本人開示については、素点を教えるのはおそらく難しいのではないか、受験者を得点で何段階かのランクに分けて個々の受験者がどの位置にいるのかを教えることは可能だろうか、といったことを話し合っています。

● 研究体制 院と附置研の「壁」打破へネットワーク研究を提案

 @大学院研究科と附置研究所の関係、A教育研究の国際的ネットワークの構築方法、B部局を超えたネットワーク型教育研究の推進方法、という三点を扱っています。

 大学における基本的な研究組織として学部と研究科、附置研究所、センターがありますが、この四者の役割や関係をどうするか、ということが問われています。特に、大学院重点化後は学部と研究科との縦割りが進み、その分だけ研究科と研究所との間の壁が厚くなってしまっており、それを解消するために、縦割りを打破したネットワーク型の研究をやったらどうかということが提案されています。

 さらに、研究の国際的な展開を図っていくためにはどのようなシステムをどう構築していくか、開かれた大学を実現するためにはどうしたことを考えたらよいか、ということを検討しました。

● 経営体制 法人化 来年までに結論 全学委員会の整理統合も

 @総長室と企画立案・広報機能の強化、A大学としての資源構築と再活用の方法、B大学にふさわしい組織体制、の三点について議論しています。

 総長室の機能については、現在、副学長の職務が非常に多くなっているという問題があります。総長が国大協の会長を務め、外国での会議も多いので、学内の問題の多くは二人の副学長で分担しているのですが、かなり仕事量が多い。そこで大学の将来をもう少しゆっくり考えられるように、ルーチンワークを少なくして権限を分散できないかを検討しました。具体的には、国際交流・学部教育・大学院教育といった項目ごとに担当の補佐を決め、上がってくる情報のうち必要でないものは、補佐か副学長で処理してしまう。さらに、副学長は二人でなくてもよいのではないか、もう少し多くてもよいのではないか、ということを合めて総長室の機能を整備・強化することを提言しました。

 同時に、広報体制や国際交流体制の強化方法を検討しました。また、70以上ある全学委員会を整理統合したらどうかということも提案しています。

 二点目の資源の構築・再活用の方法を検討している背景には、これまでは大学が新しいことを計画し、そのためのポストを文部省に要求すれば純増で認められてきましたが、現在の財政事情ではそれは難しくなっている、ということがあります。大学が既に持っているポストや資金、建物や設備などの有形資産、知的財産などの無形資産を有効活用して、望ましい教育研究を実現することが大切になっているわけです。ただ、いかに資源を再配分するかについてはまだ検討の緒についたばかりで、中間報告では食い足りないものにとどまっています。最終報告ではもっと充実したものとなるよう、外国の大学での経営方法の調査や、同窓会組織の活用方法なども合めて検討していきたいと思っています。

 組織体制のあり方については、今国立大学は大変厳しい状況におかれており、改革の必要性が強く求められています。今年1月に決まった「中央省庁等改革に係る大綱」では、「国立大学の独立行政法人化については、大学の自主性を尊重しつつ、大学改革の一環として検討し、平成15年までに結論を得る」とされています。これはだいぶ先のことのように思えるかもしれませんが、予算要求との関係で来年の夏ごろまでにと大学としての態度を決めざるをえない。独立行政法人になるかどうかを検討するのにもう1年ほどしか猶予がないわけです。

 独立行政法人通則法などによると、独立行政法人は、数値的な中期目標を定め、それに基づく中期計画を立て、計画を達成できたかどうかを主務大臣に報告して評価を受けなければならないとされています。ただ、大学の教育研究はそのような数値で評価できるものではありません。設置形態について、現段階では結論がでていませんが、通則法に示されたような形のままでは大学の組織体制にふさわしくない、というのが中間報告の基本的な考え方です。

 しかし、独立行政法人は大学の設置形態として全く検討にも値しないというわけでもありません。今は国立である以上、人事や予算で文部省の制約のもとにおかれていますが、大学ではそのような制約をもう少し自由化した方がいい、と考える人も多い。独立行政法人化にはそういう自由を与えられるという側面もあります。懇談会では、数値的な中期目標の設定や中期計画の認可、成果の評価など大学の組織体制にふさわしくない点を改めうるならばとの前提のもとで、東京大学の直面する制約を克服する組織体制の一つのあり方としては検討に値する、と考えています。ただ、検討するためには大学がその資源をどう活用するかが前提として問われるのではないかと思います。(聞き手=編集部・西健太郎)

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