構造改革、海外の事例
雇用面重視のオランダ
競争力重視のイギリス
2001年8月21日 朝日新聞 朝刊
《グラフ》 各国の構造改革後の失業率の推移
構造改革の「痛み」をどう和らげるのか――政府は、雇用対策など7分野に来年度予算の重点配分を進めるとしているが、80年代以降に改革に取り組んだ国々も同様の悩みを抱え、独自のセーフティーネット(安全網)を構築してきた。財務省も「日本型モデル構築の参考にしたい」と注目している。各国の仕組みが失業率の改善や景気回復にどのような影響を与えたのか探った。
●市場型改革
財務省の財務総合政策研究所がまとめた主要10カ国・地域の構造改革に関するリポートによると、サッチャー政権のイギリスでは、規制緩和と民営化、外資導入による大胆な市場型改革を進めた結果、企業の淘汰(とうた)が進んで失業率が上昇を続け、ピークを打ったのは改革から7年後だ。同様の改革を進めたニュージーランドでも、失業率が下がったのは改革に着手してから9年目だった。
構造不況の一因となった企業の国際競争力の回復に主眼を置いたためで、リストラを進めやすくするため解雇規制の緩和などを労働施策の中心に据えたことが影響した。一方、企業の生産性は大きく向上し国際競争力が回復、1人あたりのGDP(国内総生産)も徐々に上昇するなどの成果を見せた。
●分かち合い
これに対してオランダは、雇用面を重視。労働側が賃金抑制・労働時間の短縮を受け入れるとともに、経営側は通常の労働者と同等な労働条件をもつパートタイム労働を促進。政府がこうした「豊かさの分かち合い」を支援する政策を相次いで打ち出したことから、上昇していた失業率は改革に取り組んでから3年後から低下し始めた。雇用増で世帯所得が増えたことが消費を刺激した。ただ、改革後もGDPに大きな落ち込みはなかった半面、市場型改革のような生産性の向上は見られなかった、としている。
●日本型は?
海外の事例が日本の構造改革にそのまま合うわけではないが、リポートは日本では「オランダのような政労使の合意形成が得られやすい」と指摘。すでに失業率は6月も4.9%と過去最悪水準に張り付いているが、安定雇用が続いた日本だけに、長期にわたって雇用環境が悪化すれば、構造改革への期待が失望感に変わる懸念があるためだ。しかし、労働側に非正社員化に対するアレルギーが根強いこともあり、新しい労使関係を模索しきれていない。
内閣府の試算では、代表的なケースとして構造改革で54万人の離職者が出るとしているが、政府の進める不良債権処理で拍車をかけると見られることが、セーフティーネットに関する論議を複雑にしている。
輸出主導の日本経済では、国際競争力の確保は重要課題だが、雇用流動化の支援にとどまらない日本型の枠組みをどう構築するか。海外の成功や失敗の事例を教訓とした知恵が問われている。