実用研究傾斜争点に
総合科技会議が予算配分方針
「基礎にも配慮を」異論噴出
科学技術予算編成をめぐり、基礎研究と実用研究のいずれを優先するかが争点として浮上してきた。総合科学技術会議(議長・小泉純一郎首相)がまとめた来年度の予算配分方針に対し、科学者の間から「実用研究に偏っている」との不満が噴出。大学での研究の在り方についても産業連携の主導権を握ろうとする経済産業省が文部科学省とのさや当てを強めている。
国立遺伝学研究所や国立天文台など11の大学共同利用機関の所長らは11日、総合科学技術会議議長である小泉首相あてに「基礎的研究の推進に十分に配慮してほしい」との要望書を提出した。
要望書は、同日決まった予算配分方針が生命科学、情報通信、環境、ナノテクノロジー(超微細技術)・材料を重点4分野としたうえで、再生医療や高速情報通信などを主要な研究テーマに挙げたことに対し「目標設定が短期的過ぎる」と批判した。
総合科学技術会議内にも予算編成が「実益型」に傾斜することへの異論が噴出。6月中旬に開いた同会議議員と尾身幸次科学技術担当相との定例会議で、黒田玲子議員(東大教授)は基礎研究の重要性を熱心に主張。こうした声をいれ、予算配分方針には当初なかった「研究者の自由な発想に基づき、幅広く」基礎研究を実施するとの文言が加わった。
政府は今年度からの第2期科学技術基本計画で5年間に24兆円の研究開発投資を実施する。中でも大学などを舞台にした公募型の競争的研究資金は、現在の年間3000億円から6000億円を目標に大幅に増やす方針だ。同資金は現在8割強を文科省が握る。産業界と関係が深い経産省や総務省は「拡充分は政策目標達成型にあてるべきだ」と主張。基礎研究を重視する文科省と、実用研究を拡充したい経産省や総務省が対立する構図になっている。
経産省は大学の研究成果を活用してベンチャー企業1000社の設立を目指す「平沼プラン」を発表。これに対して大学を所管する文科省は、全国のトップ30大学に予算を重点的に配分することなどを柱にした「遠山プラン」をまとめ、主導権を確保しようとしている。
基礎研究と実用研究は研究開発の両輪だが、産業界には、第1期科学技術基本計画(1996―2000年度)で基礎研究を重視したことについて、「経済成長に結びついていない」(大星公二NTTドコモ会長)との不満が強い。政府部内には産業競争力の強化につながる具体的な目的を持った研究を重視すべきだとの意見が強まりつつある。
純粋科学、別ルールで対応望む
日本テキサス・インスツルメンツ生駒俊明社長に聞く。
大学教授から半導体企業トップに転じた日本テキサス・インスツルメンツの生駒俊明社長に国の研究予算の在り方などを聞いた。
――政府の配分方針が実益型研究に傾斜、基礎研究の現場からは強い反発が出ています。
「よく基礎研究と応用研究という分け方をするが、宇宙論や脳研究といった純粋科学と、シリコンに代わる半導体材料を見つける工学・技術にかかわる研究を同列に論じるのはナンセンスだ。純粋科学の目的は新たな発見であり、役に立つかどうかでない。テーマの新規性を基準に研究者やプロジェクトを評価すれば良く、研究資金を別ルールで配分すべきだ」
「一方、工学や技術は、探索的、基礎、応用、実用化の4段階に分けて的確に対応すべきだ。中でも大切なのが探索的研究で10年、20年先の社会にとって非常に重要である半面、リスクも大きい。この分野はきちんと大学が担うべきだ」
――総合科学技術会議の戦略づくりをどう評価しますか。
「重点化戦略と称して生命科学、情報通信、環境、ナノテク・材料という4分野を列挙しているようではだめだ。重点化とは何を切り捨てるかを決めることであり、分野を一つに絞り込んでこそ戦略だ。研究開発庁のような組織で研究開発資金の分配比率を前もって決め、予算を一元管理する必要がある。(大まかな分配方針だけを担い)予算権限のない総合科学技術会議では中途半端だ」
――大学発ベンチャー1000社構想など産学連携で新産業創出を狙う政策が次々と打ち出されています。
「大学での教育の中身が大きく変わる必要がある。大学に民間が求める人材を育てるカリキュラムを作り、実験テーマも企業が提案する。共同研究の土壌を育成することで技術移転やベンチャー創出にも結びつく」