小泉改革「基本方針」への注文 1
千葉商科大学長 加藤 寛 氏
2001年6月26日 日本経済新聞 朝刊
経済財政諮問会議(議長・小泉純一郎首相)が日本経済の再生に向けた青写真となる経済・財政運営の基本方針をまとめた。景気が後退色を強める厳しい状況下で動き出す「小泉改革」に欠かせない視点は何か。予算編成、行政改革、不良債権処理などの懸案に対して、改革をどのようなぺースでどう具体化するか。識者に改革への注文を聞いた。
根っこの病気を治せ
――諮問会議の基本方針をどう評価しますか。
「小泉首相の構造改革の考え方がすべて盛り込まれており、評価できる。これまで郵便貯金の民営化や公共事業、地方交付税制度の見直しなどは皆がばらばらに必要だと考えながらも、景気回復にはつながらないと思っていた。それは誤解だ。構造改革とは単に財政赤字というケガの出血を止めることではなく、根っこにある病気を治すことだ」
――病気とは。
「三つある。1つ目は中央集権、官僚主導を背景とする財政の硬直化だ。財政改革を進めるための処方せんが地方分権であり、郵貯や特殊法人の民営化、道路特定財源の見直しに代表される公共事業の見直しだ。
2つ目が間接金融主体の経済構造だ。それを直接金融中心に変える。株式投資を優遇し、ベンチャー企業を育成して景気回復につなげる。
3つ自が輸出依存の体質だ。徹底した規制緩和や自由化で国際競争力を高める必要がある」
――実現にどう取り組むべきでしよう。
「経済活性化には民営化推進が欠かせない。郵貯や簡易保険が民間資金を大量に吸い上げ特殊法人を通じて貸し出す間接金融主体の経済構造は行き詰まっている。直接金融主体に構造転換するには、郵貯資金の出口である特殊法人を民営化して無駄な投資をなくし、株式市場に資金が回るようにする必要がある。市場への資金流入で株価が上がれば銀行の不良債権処理の余力も増し、景気も上向く。そのうえで予算編成で大きく歳出構造を 変えていけばいい」
401kで株市場に資金
――竹中平蔵経済財政担当相は今後2−3年を集中調整期間として成長率をゼ口%−1%と予測しています。
「マイナス成長を回避するためにも、株価を意識した政策を実行し、不安を解消する必要がある。確定拠出年金(日本版401k)法が成立し、株式市場に資金が流入するきっかけはある。1400兆円の個人金融資産の1%でも14兆円にのぼり、株価を押し上げるには十分だ」
――注文はありますか。
「株式投資を優遇するための証券税制の早急な見直しだ。なぜ見直しが進まないのか理解できない。外国から日本への投資を増やすよう株式譲渡益の申告分離課税の税率を下げたり、譲渡損の繰り越しを認めたりする法改正を秋の臨時国会で実現すべきだ」
――景気が悪化した場合の政策対応は。
「公共事業の積み増しに頼ってはだめだ。効率的に資金を配分する必要がある。例えば、介護施設などの数は十分とは言えない。こうした『公共事業』に含まれていない施設整備に資金を回せば、個人の老後への不安も薄れる。改革がうまくいけば低成長期間は1−2年で終わるだろう」
道路財源見直し必要
――来年度予算編成で欠かせない改革は。
「道路特定財源を手始めとする公共事業の見直しだ。道路整備に使い道を限る法的根拠のない自動車重量税の使途の拡大は反対も少ないだろう。一般財源化を含めた見直しの第2段階では、揮発油税などで道路整備に使途を限ることを条件に本来より高くしている暫定税率をどう扱うかという問題もあり、環境税導入の議論を見極めながら決めていく必要がある」
――改革の具体化には強い反発も予想されます。
「7月の参議院選挙が終われば与党内の反対論も強まるだろう。政府はそうした反対論にさらに反論し、論点を明確にする必要がある。いよいよ抵抗が強まったら最後は国民に信を問えばいい。特殊法人の民営化では、例えば住宅金融公庫の保有債権なら民間銀行への売却も円滑に進むだろう。日本道路公団、新東京国際空港公団なども民営化すべきで、77の特殊法人は50程度に減るとみている」
<取材メモ> 市場活性化の停滞に危機感
加藤寛氏は小泉純一郎首相や竹中平蔵経済財政担当相と頻繁に意見交換する間柄。その加藤氏も証券税制の見直しがなかなか進まないことには不満げだ。自ら会長を務めていた政府税制調査会や自民党税調に対し「臨時国会で成案を」とあえて迫ったのは、証券市場活性化の遅れに対する加藤氏の危機感を示す材料として注目される。
7月下旬の参院選後には、与党内の「反改革」勢力が動き始めると予想される。金融資産を間接金融から直接金融に移すとの主張には理があるものの、特殊法人民営化や特定財源改革など各論での抵抗は根深い。加藤氏が描くような順調な改革の展開はやや楽観的すぎるかも知れない。