経済再生へ忍耐と改革

不良債権処理を最優先

新規失業 10−20万人予測

『骨太の方針』正式決定

2001年6月22日 東京新聞 朝刊


 政府の経済財政諮問会議(議長・小泉純一郎首相)は21日夕、経済財政運営の基本方針(骨太の方針)を正式決定した。日本経済の再生への処方箋(せん)として「聖域なき構造改革」を掲げ、特殊法人改革や財政構造改革を含む7大改革の推進を表明し、不良債権の最終処理を優先課題に掲げた。今後2−3年を日本経済の「集中調整期間」として低成長を容認、老人医療費の抑制など「構造改革に伴う痛み」も提示し、国民に忍耐も求めた。7月の参院選後には2002年度予算編成などが始まり、「小泉改革」は実行段階に移る。

経済構造改革の姿
景  気 ◆2〜3年は構造改革の集中期間で低成長を甘受する
◆不良債権処理の新たな指標を設け2〜3年で抜本解決
雇  用 ◆不良債権の最終処理で雇用への影響は不可避
◆サービス分野で5年間に530万人の新規雇用創出
◆失業期間中の住宅ローン、教育費負担への支援拡充
◆保育所待機児童ゼロ作戦で女性の労働参加を支援
社会保障 ◆高齢者医療費に目標を設定し伸び率を抑制
◆患者、国民にも医療の適切な自己負担を求める
◆社会保障の負担と給付が分かる社会保障個人会計を導入
◆高齢者にも経済力に応じた社会保障負担を求める
社会資本 ◆総額630兆円の公共投資基本計画や道路、港湾などの長期計画は存続を含め見直す
◆財政の硬直化を招く道路などの特定財源を見直す
◆公共投資の対GDP比は主要先進国を参考に引き下げる
◆整備は環境、高齢化対策などに重点
地  方 ◆「均衡ある発展」から『個性ある地域の発展」に理念転換
◆市町村の再編を速やかに進める
◆国から地方への税源移譲を含め税源の再配分を検討
◆国庫補助負担金を整理合理化し、地方交付税制度も見直す

 基本方針は、不良債権の最終処理を「経済再生の第一歩」と位置付けた。不良債権の状況を示す新指標で改善状況を監視し、今後2−3年間での処理を目指すとした。

 7大改革では、(1)郵政三事業民営化の検討 (2)国から地方への地方交付税見直し (3)道路特定財源の見直しや公共事業削減−など、歴代自民党政権が改革をタブー視した分野に切り込む姿勢を示した。2002年度予算の国債発行額を30兆円以下にする考えも明記した。

 社会保障では、給付と負担を明確化するための新制度創設を提唱し、米国では納税者番号としても使われている社会保障番号制や、社会保障個人会計の導入を盛り込んだ。老人医療費の伸びを抑制するための医療制度改革を行う。

 竹中平蔵経済財政担当相は、基本方針とは別に談話を発表し、不良債権処理に伴う企業倒産などで10万−20万人の新規失業者が出ると予測。本年度の実質成長率は0%近くとの見通しを表明した。ただ改革が実行されれば、「数年後には潜在成長能力は2%台半ばから3%程度に高められる」と将来の経済回復を強調した。

 基本方針は26日に閣議決定。首相が30日の日米首脳会談でブッシュ大統領に説明する。参院選後には各省が基本方針に沿った実行計画を策定し、8月10日には基本方針に沿って2002年度予算案の概算要求基準を決定する。しかし、自民党内には既得権益喪失を恐れる族議員に不満が根強くあるなど、改革実行に当たって曲折が続くのは必至だ。

官リストラ 民主導めざす

骨太の方針

『平等社会』から転換

安全網の充実課題に

 政府の経済財政諮問会議が21日に正式決定した経済財政運営の基本方針(骨太の方針)は、長期低迷を続ける日本経済の再生策として、肥大化した政府のスリム化を迫った。官のリストラにより中央集権的体質を改め、埋もれている民間や地域の活力を引き出そうという狙いだ。小さな政府を模索することで財政構造改革にも着手することとなるが、具体化に向けて今後、小泉内閣の指導力が試されることとなる。

(池田実)

 基本方針では、日本経済再生の処方せんとして不良債権の抜本処理が必要なことを強調、バブル崩壊以降、日本経済の“病根”となっている部分を摘出しない限り、健康体とはならないことを示した。7つの改革プログラムは日本経済の体質改善を目指すものだ。

 それは、一言でいえば小さな政府に改めることだ。官の関与を最小限にとどめ、民間や地域間の競争を促し、日本の活性化を図る。背景には戦後の高度成長をけん引してきた中央集権的な官僚システムが、今や経済発展を阻害しているとの問題意識がある。

 政府は「基本的考えは完全に貫き通した」(福田康夫官房長官)としているが、基本方針策定に当たっては、各省庁や自民党などの反発が相次ぎ、素案段階に比べて後退した部分もある。改革は今後肉付け作業に移るが、内容が具体的になるほど抵抗が増すことが想定される。

 同時に諮問会議が示した「改革によって知恵を出し、努力したものが報われる社会をつくる」という思想は、戦後の日本が共有した「平等社会」「国土の均衡ある発展」との考えを転換させるものともいえる。個人や地域間の格差を拡大させることともなりかねず、「強者の論理」で競争を促進するだけでなく、セーフティー・ネット(安全網)をいかに充実させるかも問われることとなりそうだ。

経済財政運営の基本方針の素案からの主な変更点
素案(6月11日) 最終決定(6月21日)
不良債権処理 経済再生の第一歩としての不良債権問題の解決 ・経済再生の第一歩としての不良債権問題の抜本的解決
・銀行の処理状況の目安となる新指標導入
・整理回収機構(RCC)の機能強化
地方財政 国と地方の税源配分の見直し 税源移譲を含め見直し
法人事業税の外形標準課税 早期の導入を図ることが必要 中小法人の取り扱い等を踏まえつつさらに検討を深め導入を図る
社会資本整備 道路等の「特定財源」のあり方を見直す (変更なし)
社会保障制度 社会保障個人会計(仮称)システムの構築に向けて検討 (変更なし)

不良債権の最終処理

中小企業への打撃必至

激しい『痛み』も

小泉政権正念場

 不良債権の抜本処理は、金融システムの安定化とともに、非効率な借り手企業の再編やリストラを促し、生産性の高い産業構造へと進める狙いがある。半面、競争力の弱い中小企業などが切り捨てられて、倒産や失業者の急増が懸念される。こうした激しい「痛み」に直面したとき、小泉政権が手綱を緩めずに改革を進められるかが焦点だ。

 経済産業省によると、不良債権のうち中小企業向けは約65%を占めており、最終処理を進めた場合の直接的な影響が大きい。中小企業の経営自体が健全な場合でも、取引先企業が事業縮小や倒産するとしわ寄せが起き、連鎖的な経営悪化が予想される。

 基本方針では、経済停滞を不良債権の新規発生要因と指摘。一方で、構造改革に伴う短期的な低成長が続くとしており、今後、中小企業の多い製造業などを中心に、不況型の不良債権が大量発生する可能性も高い。

 このため基本方針は、信託方式による不良債権引き受けなど、整理回収機構(RCC)の機能拡充を打ち出すと同時に、RCCがリーダーシップを発揮して経営不振企業の再建支援に当たることで、最終処理に伴う「痛み」を和らげる役割も持たせる方針を示した。

 ただ、債権買い取りと回収に特化していたRCCに対し、「企業再建支援策をまとめたり、信託経営するノウハウがない」として機能拡充を疑問視する意見が与党内にもある。短期間に体制整備できるかどうか、実現には課題が多い。 (近藤歩)


基本方針の項目別検証

 経済財政諮問会議が21日に決定した経済財政運営の基本方針は、小泉内閣が目指す構造改革の青写真となる。改革を強く訴えた公共事業や地方税制問題などのほか、改革の痛みとなる雇用や税制など基本方針の個別項目を点検した。

労働市場:民間参入で雇用流動化

 労働市場の改革は、産業の構造変化に対応できない分野から、成長分野に雇用を円滑に移すことを目的としている。これまでは、勤続年数に応じた退職金への優遇税制など、同じ会社での長期雇用を前提にした制度が多かった。改革により日本の慣行とされていた終身雇用や年功賃金制の変化を促し、個人の能力が一段と問われる時代になる可能性が大きい。

 しかし、改革の前提となっているのは雇用の受け皿となる新産業の創出だ。基本方針は「サービス部門で今後5年間で530万人の雇用創出を期待」と明記したが、「現実性に乏しい」との批判もある。今後、高齢化の進展などに伴い成長が目される医療、介護などの分野で民間参入をいかに進めるかがカギだ。

 また、国立大学研究者の発明に対し、年間600万円を上限とする報酬規制を撤廃するなどベンチャー企業を立ち上げやすい環境づくりを進め、新規雇用のすそ野を広げる。

 短期的には不良債権処理に伴う失業者の増大は避けられないだけに、セーフティーネットとして雇用保険など従来制度の幅広い活用などの支援策を検討していく。(三宅真)

税制 :『痛み』の具体像先送リ

 税制改革では、改革に伴う「痛み」について抽象的な表現にとどまり、だれがどれだけの痛みを負担するのか、明らかにしなかった。しかし、「方針」は税制全般について「できるだけ広い課税ベースの確保」の必要性を明記するなど、低所得層への課税強化を連想させる表現もあり、「強者の論理」(与党幹部)が透けて見える。

 国の税収の3割強を占める所得税の場合、課税べースの拡大は、配偶者控除や生命保険料控除など各種控除の縮減により課税所得を大きくすることだ。各種控除を縮減すると、現行制度では夫婦と子ども2人のサラリーマン家庭では384万円となる課税最低限も引き下げられ、より所得水準の低い人にも課税対象が広げられる。

 ただ「参院選を控えており具体的な議論に踏み込めば混乱する」(相沢英之自民党税制調査会会長)という事情から、今回は具体論は先送りされた。政府も「改革は歳出削減を優先するので税制改正は2−3年後」(村上誠一郎財務副大臣)と説明している。構造改革のしわ寄せが弱者に集中しないよう十分注視する必要がある。(大島宇一郎)

地方財政:『移譲』も『配分』も盛る

 財務省と総務省が対立し、基本方針の最大の焦点ともなった地方財源問題は、「税源移譲を含め国と地方の税源配分について根本から見直す」という「文学的な、哲学的な深みのある言葉」(塩川正十 郎財務相)で決着した。

 基本方針では、道路や空港、田畑の整備といった公共事業から社会保障、教育に至るまで、補助金や地方交付税を通して国が地方に関与している現状を「地方が独自に地域発展に取り組む意欲を弱め、国の非効率が地方の非効率につながる」などと指摘した。

 このため諮問会議では、国と地方が関与・依存し合う仕組みを改めようと、地方交付税や補助金の削減を模索したが、財源問題について片山虎之助総務相が「交付税削減に当たっては税源移譲を」と強く主張。一方で財務省は地方行政の効率化を訴え、国の歳入減につながる移譲には反対し、「配分」と表現するよう求めた。

 結局、「移譲」も「配分」も盛る玉虫色の表現で決着した。これにより、地方財源問題は2002年度予算編成で仕切り直しの議論が交わされることとなった。(池田実)

公共事業:地域間格差が懸念材料

 公共事業について、無駄な歳出削減など、徹底した改革方針を打ち出した。道路整備などの長期計画や特定財源の使途などを抜本的に見直し、事業量の削減にとどまらず、仕組みも変える。通行量が極めて少ない道路など、投資に見合わない非効率な事業を排し、都市再生や科学技術の振興、高齢化対策など、必要な社会資本整備に軸足を移すことが狙いだ。

 公共事業対象の区分を見直すことにより、これまで非公共事業に分類されていた病院や学校を公共事業関係費で建設することが可能になる。また使途を限定する特定財源の見直しは初めて打ち出した。

 ただ、公共事業費の抑制によってゼネコン(総合建設会社)の淘汰(とうた)が進むことは必至。「地方では3割の会社が倒産して失業率が10%台に上昇する」(野呂田芳成・前自民党道路調査会長)との声も出ており、都市部と地方との地域間格差が広がるとの懸念も出はじめている。

 一般会計の約2割を占める公共事業関係費の見直しは、国土交通省や族議員からの反発が根強い。具体化に向けて、難しい調整を迫られることになる。(横光竜二)

実るか「米百俵の精神」

骨太の方針

 経済財政諮問会議(議長・小泉純一郎首相)が21日まとめた基本方針は、無駄が多い公共事業の体質打破から不良債権問題の解決、地方の自立まで、国のかたちを大きく変える可能性を秘めた内容を盛り込んだ。ただ「郵政民営化」の一点突破だった小泉首相が、急きょ構造改革の大風呂敷を広げた感は否めない。景気が一段と悪化する可能性も強まっており、首相が所信表明で示した「今の痛みに耐えて明日を良くしようとする『米百俵の精神』」に対する信認が、いよいよ問われることになる。(経済部・松井 学)

歴代改革 重なる処方せん

 カギは国民支持

 ★一点突破

 21日夕、首相官邸で開かれた経済財政諮問会議。小泉首相は、上気した表情で「基本方針決定で聖域なき構造改革に臨む姿が明らかになった」と語った。

 「改革」は歴代の首相が決まって掲げてきた旗印だ。勢い、とん挫した改革への提言は「在庫の山」(内閣府幹部)となって積み上がっている。竹中平蔵経済財政担当相がメンバーとして参加した小渕内閣時代の経済戦略会議の最終報告(1999年2月)も例に漏れず、表紙は変わっても今回の基本方針と重なる提言がやたらと目につく。

 「行政のすべてを聖域なく検討していただく」−。1981年3月に鈴木善幸首相の要請で始まった第2次臨時行政調査会(第2次臨調)は「増税なき財政再建」を掲げ地方で「一日臨調」を実施するなど、国民の支持を得るため巧みなメディア戦略を展開した。小泉改革の原型ともいえる。

 “土光臨調”として有名な第2次臨調は「道路その他の特定財源の検討、公共事業関係費の抑制、特殊法人の整理合理化」を盛り込んだうえで、国鉄をはじめとした3公社民営化の一点突破を狙った。

 小泉首相は、自民党批判の突風を逆手にとり、聖域なき改革を掲げて党内の主導権を握ったが、歴代首相に比べると党内基盤が極めて弱い。早急な不良債権処理を突破口に、一点突破の照準をどこに合わせるかが「小泉改革」の本筋を見極める大きなポイントになる。

行政改革の改革提言 主な歴史
1981年
設置
第2次臨調 土光敏夫会長 鈴木、中曽根内閣 増税なき財政再建の推進
国鉄、電電公社、専売公社の民営化を提言
1990年 第3次行革審 鈴木永二会長 海部内閣 規制改革、特殊法人の統廃合、地方分権の推進、消費者重視
1996年 行政改革会議 橋本龍太郎会長 橋本内閣 中央省庁再編で1府12省庁、郵政3事業の国営化維持

共通項が目立つ「改革」メニュー
経済財政諮問会議(小泉内閣)の基本方針 経済戦略会議(小渕内閣)報告=99年2月
今後2,3年を日本経済の集中調整期間 今後2年間をバブル経済の集中清算期間
2001,02年度は低い経済成長 01年度に2%程度の潜在成長に復帰
(最も可能性の高いシナリオ)
02年度予算で国際発行30兆円以下に
マクロ経済に注意しつつ財政収支を黒字転換 基礎的財政収支の均衡を10年ほど先に実現
地方への税源移譲を含め税源配分見直し 地方の財源は地方税で
租税特別措置見直し、連結納税制度を検討 租税特別措置見直し、所得税の課税最低限引き下げ
5年間で530万人の新たな雇用機会創造 個人の転職能力を高め、雇用の安心を保障する安全網
不良債権を2,3年で最終処理 不良債権の実質処理促進のためのスキーム構築


景気後退下で規制改革

 雇用短期化の不安も

 ★「改革」の痛み

 基本方針は、サービス分野を中心に5年間で530万人の雇用創出を図れるとそろばんをはじいた。試算した島田晴雄慶応大教授は「雇用の流動化を促す規制改革を進められれば、十分達成の可能性がある数字」と話す。裏返せば、今後はパートやアルバイトなど雇用の短期化が一層進んで、生活の不安定さが増すことを意味する。

 竹中経済相は、日本再生の第一歩と位置づけた不良債権処理がもたらす影響について「新規失業が10万−20万人増える」との試算を明らかにした。現在、4・8%の完全失業率が、初めて5%の大台に乗る可能性が現実味を帯びてきた。

 公共事業の見直しも、雇用者の1割弱、約700万人が従事する建設業に影響を及ぼすことが避けられない。塩川正十郎財務相は「公共事業の単価を抑え、量は確保する」との方針を打ち出しているが、日本の建設業の多くが「民間工事の採算はとんとんで、公共事業で利益を上げる」(岐阜県内の建設会社)体質を引きずっているだけに、単価見直しが経営に与える打撃は無視できない。

 ★ゼロ成長

 竹中経済相は21日「本年度はゼロ%台低めの低成長」との試算を明らかにした。構造改革による国民生活への影響を数字で示すべきだという学者らしい判断だ。

 ただ、実際には米国経済の低迷や設備投資の減少など、景気後退色が濃くなる中で、民間には「本年度はマイナス0.6%成長」(住友生命総研)などと、マイナスへの転落を予測するシンクタンクが少なくない。

 構造改革は、短期的に景気回復の妨げになる。基本方針の決定を受け、小泉首相は「無駄な歳出の削減は決して緊縮路線ではなく、景気に悪影響は与えない」と強気の姿勢に終始したが、景気と構造改革の二兎(にと)を追うかじ取りは一段と難しくなり、首相に重圧として覆いかぶさろうとしている。


民間主導経済へ改革

経済諮問会議が基本方針決定

不良債権 2、3年で処理

2001年6月22日 日本経済新聞 朝刊


 政府の経済財政諮問会議(議長・小泉純一郎首相)は21日、経済・財政運営の基本方針を正式決定した。今後2-3年間を日本経済の集中調整期間と位置付けて、不良債権の直接償却など最終処理を確実に実現すると公約した。同時に公共事業、社会保障、地方財政などあらゆる分野で構造改革を推進し、民需主導による日本経済の再生を目指す。7月の参院選後に本格化する2002年度予算編成に向けて、首相が掲げる「聖域なき構造改革」は構想から実行の段階に入る。

経財相「当面0−1%成長」

 竹中平蔵経済財政担当相は会合終了後の記者会見で、調整期間中の実質経済成長率は平均で年0-1%程度、不良債権処理に伴う失業者数は10万―20万人程度になるとの試算を発表。特に2001年度はゼロ成長に近い水準まで落ち込む見通しを示すとともに、世界経済の動向次第でマイナス成長に転落する可能性を否定しなかった。

 首相は首相官邸で記者団に「改革なくして成長なし。ある程度の痛みには耐えないと、明るい展望は開けない」と述べ、当面は低成長を恐れず構造改革を断行する姿勢を改めて強調した。

 政府は26日に基本方針を閣議決定し、各省庁は来年度予算編成作業に入る。諮問会議は次の会合で概算要求基準を議論するなど、今後の予算編成過程に深く関与するとともに、各省庁の検討状況も随時点検しながら構造改革の確実な実行を目指す。

 基本方針では日本経済再生の第一歩として、不良債権問題の抜本的解決を急ぐ必要性を指摘。整理回収機構の機能強化などを通じて、主要行が抱える破たん懸念先以下の約11兆7000億円の不良債権の最終処理を確実に実現する決意を示した。

 それに伴う企業倒産や失業増に対応するため、規制緩和を通じて新規雇用を創出するとともに、失業期間中の住宅ローンや教育費支援を検討する方針も示した。

 これと同時に特殊法人の民営化や徹底した規制改革の推進、地方交付税や道路特定財源の見直しなど7つの構造改革プログラムを推進。生産性の低い分野から成長部門への人材や資金の移動を促して、民需主導で年2-3%程度の経済成長を回復する「躍動の10年」を目指す再生シナリオを描いた。

 2002年度予算では国債発行額を30兆円以下に抑える目標を設定。公共事業や地方財政、特殊法人への歳出を縮減する一方、情報技術(IT)など成長が見込める分野に重点投資するなど予算配分を弾力化する。日銀には機動的な量的緩和政策を求める。

 与党からは景気失速を避けるために補正予算の編成など財政出動への余地を残すべきだとの意見も根強いが、首相は記者団に「無駄で不必要な歳出の削減は決して緊縮路線ではないし、景気に悪影響を与えない」と強調し、財政健全化に強い決意を示した。


小泉改革で暮らし・企業はこう変わる
官から民へ 特殊法人を民営化 税金で補助する5.3兆円の一部が減らせる
低金利の住宅融資など公的融資が減る
郵政3事業の民営化 競争が進みサービスが向上する
過疎地などで郵便局が減り、不便になる
国立大に民間的経営 海外と肩を並べる高水準の教育が受けられる
挑戦者支援 放送と通信が一体に 超高速インターネットで多様な番組が見られる
預金から投資優遇に 株式など多様な金融商品を利用したい意欲が増す
ベンチャー後押し 個人が独立して新しい事業を興しやすくなる
保険機能を強化 社会保障の個人会計 医療や年金などで自分の給付と負担の関係が分かりやすくなる
医療費の伸びを抑制 企業や個人の保険料負担が抑えられる
必要な医療が受けられなくなる恐れも
医療の株式会社化 新規参入などが増え、競争でサービスが向上する
生活様式を変える 多機能高層都市の開発 職場と住まいが近くな効率が上がる
女性と高齢者の社会参加を拡大 税や年金の見直しが実現すれば働く意欲のある人が仕事と家庭を両立しやすくなる
税の控除見直しなどがあれば負担増も
保育所の待機児童をゼロに 育児で働きに出られない人が減り、保育サービスの質が上がる
知的資産を倍増 奨学金の充実 意欲のある学生が学費を調達しやすくなる
ITやバイオの強化 雇用の受け皿が増え、生活もより高度に
地方の自立 地方交付税制度の見直し 国税がより公平に配られ、地方自治体の無駄遣いも減る効果が期待できる
財政基盤の弱い自治体ではサービス低下も
金融システムの強化 破たん懸念先以下の不良債権を3年で処理 ベンチャー企業など有望分野が資金をより調達しやすくなる
銀行の支援が得にくくなり、金利引き上げなどの動きも
雇用などの安全網確立 失業中の住宅ローンや教育費負担が軽減される例も
財政を立て直す 特定財源見直し 必要性が乏しい道路をつくるなどの無駄遣いがなくなる
地方の道路整備などが遅れる例も
国債発行額を抑える 将来、財政が行き詰まり金利が急上昇するのを防ぐ
急速すぎると景気が腰折れし給与や売り上げが減る恐れも
所得、消費、資産の税制で課税ベースを広げる 税率がなだらかになれば、成功して富を得ても重い税負担に悩む例が減る
所得控除が減り、全体的に税負担額が増える
連結納税制度を導入 企業が経営方針に応じ、組織の形をより自由に変えられるようにできる

実現へ各論に課題

 幅広い改革の枠組みを示した経済財政諮問会議の基本方針だが、実現の道は平たんではない。各分野はどんな課題を抱えるのか。今後の見通しを含め検証した。

 不良債権最終処理

 整理回収機構(RCC)を不良債権の受け皿とし、企業再建を支援する枠組みが盛り込まれた。不良債権の最終処理に伴う経済への悪影響を和らげるのが狙いだ。

 ただ、銀行が親密な取引先の債権を売却できるのか。銀行によって資産査定が異なる場合、回収機構を活用するかなど、制度を機能させるには詰めなければならない点が多い。不良債権の最終処理を求めた政府方針には法的な強制力がないだけに、銀行がどこまで本気で不良債権問題に取り組むかに成否はかかる。

 不良債権予備軍といえる要注意先企業への対応も残された課題だ。政府の基本方針は「破たん懸念先」以下の不良債権を対象としており、要注意先企業の経営を支援し、不良債権の新規発生を防止する努力は銀行にゆだねた格好だ。

 政府が不良債権処理促進のために導入する新指標が混乱を招くとの指摘がある。「与信費用比率」(貸し出しに占める不良債権処理損失の比率)は積極的に不良債権処理を進めた銀行ほど数値が大きくなる。銀行健全化には積極処理が必要だが、市場では数値の大きい銀行は不良債権を多く抱えた悪い銀行と見られかねないとの懸念もある。

 【社会保障】

 社会保障では医療制度改革が待ったなしだ。今のままでは高齢者が使う分を中心に医療費が増える一方で、2002年度に一部の医療保険制度が破たんしかねないためだ。基本方針を受けて厚生労働省は医療費の伸びに上限を設ける具体策のほか、高齢患者の負担増、医師に支払う診療報酬の抑制などを検討する。

 来年度から改革を実施するため、厚労省では秋にも検討結果をまとめて公表する。ただ、医療費の抑制には日本医師会が反対、自民党など与党の中にも慎重論が根強い。今夏の参院選の結果によっては改革の勢いが弱まる可能性もある。秋の改革案に高齢者や医療関係者にも痛みを伴う政策を明確に盛り込むことができるかが焦点だ。

 個々の国民が社会保障全体でどの程度の給付と負担になっているかを示す「社会保障個人会計」については、厚労省が消極的で、膨大なシステム整備も必要になるため、実現には時間がかかりそうだ。年金、介護制度も大改革は来年度以降になる見通し。

 【証券市場改革】

 個人の資金を市場に呼び込み、新産業の育成や経済の活性化につなげるには、証券税制を中心とする制度改革が欠かせない。

 与党内では確定申告で納税する株式譲渡益の申告分離課税の税率を現行の26%から10%に下げる案が出ているが、議論を進める自民党税制調査会では「税制を猫の目のように変えるべきではない」との慎重論が根強い。これまで党税調が担ってきた税制改正論議に、内閣主導の色彩をどう強めるかがカギとなる。

 厚みのある個人の投資家層を育成するためには、証券市場への信頼の回復も不可欠。株価操縦など不正取引に対するルールを明確化するとともに、罰則を強化するなど透明性のある市場を築く必要がある。

 銀行の株式保有を規制し、株価変動に左右されない金融システムを構築することも急務。金融庁は銀行の保有株を買い取る「銀行保有株式取得機構」(仮称)の来年1月の発足をめざす。銀行界も前向きな姿勢だが、機構設立のための銀行界の拠出金の規模、機構が保有する間に株価下落で出た損失の官民の負担割合など難しい調整も残る。

 【郵政改革】

 自民党総務部会などには郵政事業が利潤を追求する民間企業となれば、過疎地にある赤字の郵便局が廃止され、郵政サービスが低下するとの声が出ている。しかし、郵政事業が民営化されたドイツでも郵便局全体の数は減ったが、過疎地の多くの郵便局は維持、サービスに支障は出ていない。

 民営化に向けての課題は郵便貯金・簡易保険が引き受けている国債や地方債の扱い。民営化で運用が自由化されれば、より高い運用益を目指し国債以外への投資を拡大する可能性が高い。その場合、国債相場が急落する恐れがある。

 郵貯の民営化の仕方もポイントになる。郵便貯金はほとんどの都道府県で預貯金のシェアが首位。このため簡易保険や郵便事業との完全な分離など民間金融機関との公正な競争条件の整備が必要になる。民営化問題を検討する首相の私的懇談会は、こうした論点を整理して、今年度末までに民営化の具体的な手法や時期などを取りまとめる見通し。

 【公共事業改革】

 基本方針は使途を道路整備に限った道路特定財源や、予算硬直化の原因とされる長期計画の見直しに踏み込む姿勢を鮮明にした。しかし原案には盛り込んでいた空港や道路など個別分野の事業削減は、国土交通省など所管官庁の激しい抵抗で削除を余儀なくされた。官庁側の抵抗を排し、どこまで個別事業に切り込めるかが今後の課題となる。

 基本方針が打ち出した来年度予算での公共事業の「縮減」に向け、各論になればなるほど地方自治体や関連議員の反発が強まるのは必至。公共事業予算全体の上限を抑える「数値目標」を設定しない限り、基本方針が掲げた目標の達成は難しいとの指摘も多い。


我慢訴え低成長宣言

経済財政諮問会議の基本方針
 予算編成が山場に 

2001年6月21日 朝日新聞 朝刊

 政府の経済財政諮問会議(議長・小泉純一郎首相)の「経済・財政運営の基本方針」が20日、政府・与党政策懇談会で了承された。小手先の景気対策と決別し、競争原理に基づく民主導の経済の実現を目指している。聖域なき構造改革を掲げる小泉内閣の「バイブル」といえるが、社会的な痛みと低成長を容認する姿勢には政府・与党内にも反発がある。参院選後に始まる来年度予算の編成作業が試金石になる。

最終案で示された経済・財政運営の基本方針
  中期的課題 02年度予算
 経済の姿  我が国の経済がもつ潜在力が開花し、民需主導の経済成長が実現 02年度に景気は徐々に回復するが、不良債権最終処理の2,3年は低成長を甘受
 財政運営  プライマリーバランス(基礎的収支)黒字化に向けた財政改革の推進 国債発行30兆円以下。経済活力に寄与しない予算の思い切った削減
 社会資本整備  道路など特定財源を見直し、公共事業のGDP比を主要国並みに引き下げ 公共投資予算の縮減。道路特定財源や公共事業長期計画の見直し
 社会保障制度  社会保障個人会計の検討、医療サービス効率化、保育所待機児童ゼロなどを推進 老人医療費の伸びを抑制する新たな枠組みの構築。介’護サービスの整備
 国と地方の関係  地方への国の関与を減らし、税源移譲を含め国、地方の税源配分を見直し 補助金や地方交付税を再検試し、地方財政計画ρ歳出を徹底的に見直し
 雇用対策  能力開発を支援し、サービス分野を中心に5年で530万人の新規雇用を期待 雇用機会の創出や雇用流動化に対応した制度改革、離職・転職責への支援強化
 特殊法人改革  郵政事業民営化の具体的検討、公的金融の抜本見直しなどで民営化を推進 專務事業を抜本的に見直し、国の財政支出を整理・縮減

 基本方針は冒頭で、「短期的には低い経済成長を甘受しなければならない」と述べる。竹中平蔵経済財政担当相は政府・与党政策懇談会で、「マイナス成長は想定していない」と説明したが、景気にマイナス要因となる政策を政府が押し立てるのは異例だ。

 バブル崩壊後の90年代を「停滞の10年」と総括。先送りを続けた不良債権問題の解決を目指す今後2〜3年を「集中調整期間」として国民に我慢を強いる。竹中担当相は、「基礎体力があるうちに構造改革をするしかない」と繰り返す。

 竹中担当相は「アンブレラ(傘)」と「イニシアチブ(主導権)」という言葉を使う。基本方針という大きな傘のもと、経済産業相、総務相、厚生労働相ら各閣僚がそれぞれの領域で改革への取り組みを競い合ってもらう構図だ。

 「低成長宣言」だけではない。給付と負担の関係を明確化する「社会保障個人会計(仮称)」の導入、道路族などの既得権者に切り込む特定財源の見直しなど、これまでタブー視された政策を列記。過去の微温的な政策の惰性を断ち切る構えだ。

 しかし、それには痛みが伴う。例えば社会保障制度の見直し。医療費の伸びを抑制するため、高齢者にも経済力に応じた負担を求めている。「働く女性にやさしい社会の構築」は半面、配偶者特別控除などで優遇されてきたとされる専業主婦には厳しい側面を持つ。

 不良債権処理が本格化すれば倒産や失業が増えるのは避けられず、所得などの経済格差を広げる圧力となる。

 構造改革は、戦後日本の高度成長を支え、「1億総中流」という平等神話を成立させた従来のルールにメスを入れる大がかりな外科手術だ。

 今のところ与党内の族議員らが表だった反対の動きを控えている背景には、「守旧派」のレッテルを張られては7月の参院選を戦えないという打算もかいま見える。

 国債発行を30兆円以下に抑え、公共事業を大幅に削減することを掲げる来年度予算の編成作業は8月から具体化する。構造改革の本当の厳しさは、選挙後に明らかになってくる。


不良債権2−3年で処理

構造改革へ「基本方針」決定

諮問会議、低成長も甘受

2001年6月22日 読売新聞 朝刊


 政府の経済財政諮問会議(議長・小泉首相)は21日、小泉政権が掲げている構造改革の指針となる「経済財政運営の基本方針」を正式に決定した。基本方針は、今後2―3年を「日本経済の集中調整期間」と位置付け、経済再生の第一歩として不良債権の最終処理を実現する決意を明記した。特殊法人の民営化や地方交付税見直しなど「7つの改革プログラム」も同時に進め、「短期的には低い経済成長を甘受」しながら、民需主導による中長期的な成長を目指すことを狙っている。

 政府は26日に基本方針を閣議決定し、今後の経済運営や来年度以降の予算編成に反映する。小泉首相は6月末の日米首脳会談で説明して理解を求める。

 小泉首相は諮問会議後、記者団に「経済再生のシナリオ、聖域なき構造改革の姿を明らかにした。改革なくして成長なし。断固として改革に取り組む」と決意を強調した。基本方針は、「停滞の10年」から「躍動の10年」に移行する将来展望を描いた。竹中経済財政担当相は「10万―20万人の失業者が発生し、2―3年間は0―1%程度の低成長に陥るが、構造改革が進めば潜在的な成長能力は2%台半ばから3%程度に高まる」と述べた。

 基本方針はまず、最大の懸案である不良債権処理を「経済再生の第一歩」と位置付け、2―3年以内の解決を目指すと明記した。

 構造改革のための7つの改革プログラムは、経済活性化などを狙った民営化・規制改革などが柱で、基本方針には来年度予算編成の基本的考えも明示された。

 それによると、財政改革は、2002年度予算で国債発行を30兆円以下に抑え、中期的にはプライマリー・バランス(国債関係収支を除いた基本的収支)の黒字化を目標に掲げた。

 来年度予算編成では、環境問題への対応、少子・高齢化対策、都市再生、IT(情報技術)国家の実現などの重点分野に予算配分を進める方針を示した。

 このほか、国と地方の関係では、「税源移譲を含め税源配分を根本的に見直す」として補助金や地方交付税の縮小を明記。ガソリン税などの道路特定財源を見直し、道路整備以外の用途への転用も検討するとした。また、民営化など特殊法人の見直し、歳出の効率化も明記した。


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