第2ステージ迎えた成果主義
役割と目標を明確に
ヘイ・コンサルティング・グループ 田中滋社長に聞く
2001年5月18日 日経産業新聞
大手企業が人事賃金制度の改革の目玉として、ここ数年こぞって導入してきた成果主義を相次ぎ見直し始めた。成果主義は日本企業になじまないのか、成果主義の効果を引き出すにはどうすべきか。米大手人事コンサルティング会社の日本法人、ヘイ・コンサルティング・グループ(東京・港)の田中滋社長に聞いた。
――日本企業の経営に成果主義は合わないのか。
「企業は利潤を生み出さなければ、存続できない組織体。企業を構成する個人についても利潤を生む成果が評価の基準になるのは当然のことだ。日本企業はバブル経済の崩壊までは一人一人がちゃんと仕事をしてるかをみなくても済んだが、今は個人にきちんと成果を出してもらわないと会社が立ち行かない」
「経済がソフト化する時代には成果主義を導入する必然性がある。優れたソフトはかけた時間とはあまり相関関係がなく、優秀な開発者はそうでない人の数十倍の成果を出すことも不思議ではない。その点では富士通が日本企業の中でいち早く成果主義を取り入れたのは間違いではなかった」 ――なぜ日本ではうまくいっていないのか。
「成果主義では個人の成果を評価し、処遇する客観的な仕組みは不可欠。それがうまくいくには明確な基準をつくり、評価する側もされる側も対等の関係でそれを受け入れなければならない。個人が会社と一対一で向き合って交わした契約をもとに評価をするという経験を日本企業はこれまで積んでこなかった」
「企業の評価のモノサシは期待した目標を個人が達成したかどうかではなく、会社という集団の仲間として一緒にやっていけるかどうかに重きを置いていた。雇用も流動化していないため、社員が評価に納得できなくても別の会社を選びにくいことも会社と対等になることを難しくしていた」
――成果主義を生かすためにどう見直すべきか。
「まず会社が売上高や利益など重視すべき経営目標を明確にし、それに基づいて個人の役割や目標をはっきりさせることが必要。そこをしっかりやらないと成果主義がノルマ主義にすり替わってしまったり、個人が達成しやすい目標を設定するようになってしまう恐れがある」
「全社に一律的に単純な成果主義の綱をかけてしまうのも問題だ。成果主義がうまくあてはまる仕事もあるが、会社の長期的な戦略の立案や世界最高レベルの技術開発などの仕事に短期的な成果主義を導入するのには無理がある。イノベーション(技術革新)と短期の目標管理は相いれないことが多い」
――成果主義を推し進めるだけではうまくいかないということか。
「企業が生き抜くためには成果主義は必要だが、常に評価にさらされる個人にとってはやっぱり疲れる。また米国では90年代に入って成果主義の徹底によって雇用流動化が進み、会社の隅々までよく理解し、良い仕事ができる貴重な人材を失ったという反省が起こっている」
「成果主義という市場原理の導入と長期的に会社にかかわる“コア人材”の育成は経営にとってクルマの両輪のようなもので、片方だけではなりたたない。市場原理で効率やスピードを高めることが不可欠になっている一方、その組織でなければ生み出せない内部経営資源を磨くことの重要性も見直すべきだ」
(聞き手は田中博文)
富士通、評価方法を抜本改革
低い目標 許さない!
2001年5月18日 日経産業新聞
富士通が4月に発表した成果主義に基づく人事・賃金制度の見直しに、産業界の関心が集まっている。富士通は他社に先駆けて98年に年功型から能力型の賃金制度に移行した。今回の見直しで成果重視の旗を下ろしたわけではないが、単純で明快な評価基準だった目標達成度だけで処遇を決定する方式を抜本的に改定。業務プロセスや行動様式など評価基準を多面的にした。先頭ランナーの悩みを追った。
(代慶達也)
挑戦の過程も評価
「自己中心型」増殖の芽摘む
「最近の社員はチャレンジ精神に欠けている。評価方法に問題があるのではないか」(営業部門の部長)。富士通は年2回、5月と10月に上司と部下が面談して半期の業務目標を設定、その目標を達成した社員には高い評価が与えられ、昇進・昇給につながった。
しかし、昨秋ごろから中堅幹部の間でこの評価方法に対して不満の声が漏れ始めていた。
現実的な若手社員
目標達成を優先するあまり、現実的な低い目標設定にとどめる若手社員が増えたためだ。
ある30代半ばのシステムエンジニアは「無理に高い目標を掲げて努力しても、未達となれば何の弁解の余地もなく、ダメ評価となる。保守的な目標設定にならざる得ない」という。
富士通の一般社員の給料は基本給と諸手当で構成される。基本給はべースとなる安定的な本給と、成果を反映して個人の評価に応じて上下する職責給に分かれる。賞与はべースとなる基本給反映部分と評価に応じて変動する成果分で構成され、目標達成度によって個人格差がつく。
評価は昇格スピードにも表れる。高い評価が続けば、30歳代前半で課長、後半に部長と昇格年次は従来よりも4,5年若くなる場合もある。
富士通の人事評価はSA、A、B、Cの順で4段階に分かれるが、昇進・昇給のためにはA以上の評価が必要。98年に同評価制度を導入したが、最高のSAの社員比率は10%から5%に減少した半面、Aは20%から50%に急増、Bは50%から40%、Cは20%から5%にそれぞれ下がった。
社員全体の業績が上がったという見方もあるが、SAの社員比率が減少したところからも分かるように、「現実的な目標設定にとどめ、効率良くポイントを稼ぐちゃっかり社員が増えた」(アナリスト)という見方もできる。
管理能力も低下
一方で、役員陣から「今の中堅幹部は部下のことをしっかりと把握していない。管理能力が低下しているのではないか」という指摘も出ていた。半年に一度の目標達成度一本で部下を評価しているため、部下の日常業務の監視を怠る上司が増えたためだ。「目標をクリアすれば、普段は何をしていてもいいというムードがある」という社員もいる。
個人の目標達成度一本の評価方法では、自身のパフォーマンスばかり考えて、チームワークを軽視する社員も増加するという指摘もある。それでなくても「今の20代の社員は自己中心的な人間が多い」(富士通幹部)という。
人事担当の岡田恭彦取締役は「業務自体には実害は出ていないが、問題の芽を摘む必要がある」と評価方法を見直しを決めた。
富士通が今年4月から新たに導入した人事・処遇制度の評価方法では目標達成度のみでの評価を改め、多角的評価方法に移行した。高いレベルの目標への挑戦を促すため、期間中に目標に達成しなくても、将来的に会社の業績のプラスになると判断された場合は高い評価を与える。
また、業務遂行時のプロセスやチームワークなど行動様式も評価項目に追加。「目標達成度=成果と考えていたが、今後は総合評価で成果を計り、社員のやる気を引き出していく」(人事担当の岡田取締役)という。

評価の透明性に懸念
ただ、新制度に懐疑的な社員もいる。「これまでの目標達成度一本の評価方法は上司の主観が入らず、デジタル的でわかりやすかった。プロセス重視など多面的な評価となれば、評価過程が再びブラックボックスなりかねない」と懸念する声もある。
富士通を皮切りに日本の大手企業は次々年功型の賃金制度から成果重視の賃金制度に移行している。しかし、当初からもっとも難しいと言われたのが個人の評価方法だ。
富士通は上司の主観が入らず、客観的な評価を下すため、目標達成度一本の評価方法を採用したわけだが、「この方法が社員のチャレンジ精神を弱めることにつながるとは全く予想しなかった」(同社幹部)という。
秋草直之社長は「成果主義の人事・処遇制度の基本路線に変更はない。ただ、評価方法は必要に応じて見直す」という。社員の能力を引き出しながら、組織全体の競争力を高める成果主義の最適の解を見つけるには試行錯誤が続きそうだ。